16 / 18
1-15.【15話】都市の現状の事実
しおりを挟む
昼前に魔導書が目を覚まし、午後は遅めの朝食として一緒に部屋でご飯を食べることにした。
下の階でご飯をもらい、食堂で食べず部屋を指定したのは、魔導書が食事を取るおかしさを隠すためである。
食事の最中、魔導書はシアに鞄を渡した。
「これ、シアだけでも術がすぐ使えるように、シートを1枚ずつ入れておいたから」
「どうして、これを?」
「私になにかあったときのため。前にも言ったけど、転生者ってのは、得体のしれないスキルをたくさん持っているんだよね。この前話したスキルを消す転生者もいるし、そいつほどでなくても、収納スキルを妨害されたり、消されたりすると、シートが出せなくなるかもしれないから」
「そうなの? でもなんでいま?」
「それは……、シアが起きてるのに私が寝ちゃってたから、必要だな~って」
シアはジトッとした目で魔導書を見た。
「……もしかして、うっかり寝てて、その危険に気づいたってこと?」
「うん、ごめん。でも、魔導書でも疲れると強烈に眠くなるみたいだし、いつ意識が落ちても戦えるようにってことだから、そんな目で見ないでよ」
「わかった。こっちもなんかごめんね」
「わかればいいよ。それで、今日から依頼を受けてこの都市の実態を調べるけど、まずは聞き込みできそうな仕事を受けるよ」
「それってどんな仕事なの?」
魔導書はシアが食べた食器を片付けながら聞いた。
「掲載依頼の中でそれができそうなのは、歩道掃除だと思う」
「掃除……って、あの建物の隅に横たわってる人たちを熱線で掃除するの?」
「違うってば! 『掃除=転生者・人間の始末』って発想をまずは捨てて。それだとホームレスを抹殺する極悪人になっちゃうから」
魔導書は何かを思い浮かべる仕草をして「あ~、昔日本でそんな事件あったな~」とか口走る。
「あの人たちってホームレスっていうの?」
「まあね、この世界だと結構多いみたいだし、珍しくないよ」
「じゃあ掃除って、普通の掃除ってこと?」
「その普通って、ちなみに?」
魔導書は、認識が一致しているか確認した。
「掃除って、あれだよね? 食べ物を倉庫から一掃すること」
「それも違う! どんな家で生活してたらその発想になるの? 家で掃除したことない?」
「ない……」
「そっか」
魔導書はそう言えばと思い出す。
シアは、洞窟での生活でも掃除をしていなかった。
まるで自分がお母さんになったような気分で、焚き火とか食べた後の後処理とか、掃除は全部、魔導書がしていた。
まだ子供で、しかも術の検証の負担を毎日強いていたから、それくらいはと思って魔導書がこなしていた。それが仇になった形だ。
シアは問う。
「じゃあどんなのが掃除?」
「え~と、ゴミを片付けたり、汚れを取ったり、洞窟で私がしていた清掃活動のこと」
「そっか。でも魔導書って洞窟で掃除してたっけ?」
魔導書は顔を真赤にして怒った。
「してたよ! シアが腹いっぱい食べてゴロゴロしている間に。あなたのお母さんみたいにね。お母さんじゃないのに!」
私だって本当はしたくないのに、とかぶつぶつ言っていた。
シアは慰めるように声をかける。
「それはご苦労様でした。じゃあ、出発しよう」
「感謝が軽い……もういいや。いまさらだし、シアだもんね……」
魔導書は諦めたように、ギルドに向かうのだった。
***
都市の城門近くにある冒険者ギルドの扉を押し開けた。
ギルド内は活気に満ち、冒険者たちが次々と依頼を受けたり、報告を行っていた。
床は人々の足音で鳴り響き、壁に掛けられた掲示板にはさまざまな依頼書がびっしりと貼られている。
シアは何の依頼を受けるかすでに決めているため、そちらには向かわず、まっすぐカウンターに向かった。
カウンターには黒縁メガネをかけた大人の女性が立っており、冷静かつ落ち着いた表情で書類を整理していた。知的で落ち着いた雰囲気を醸し出している。その姿は、シアに安心感を与えた。
「こんにちは。今日はどの依頼を?」
メガネの女性が顔を上げ、穏やかに微笑んだ。その落ち着いた声には配慮が感じとれる。
シアは少し緊張しながらも頷いた。
「はい、初めてなので、簡単な依頼をお願いしたいんです。それで、歩道の掃除の仕事を」
ギルド嬢はしばらくしてから一枚の紙を手渡してきた。
「ではこちら、都内の清掃依頼です」
シアは依頼書を受け取り、目を通した。『ゴミ拾い』という内容は確かにシンプルだが、それでもこの平和な街を守るためには必要なことだ。依頼書には、指定された区域と報酬額、そして依頼主の名前が書かれている。
「これでお願いします」
シアは少しの迷いもなく、その区域で依頼を受けることにした。
ギルド員の女性は、メガネの奥の目でシアをしっかりと見つめながら、軽く頷いた。
「ありがとうございます。初めての依頼頑張って下さい」
「はい」
シアは素直に答え、依頼書を手にカウンターを離れた。
ギルドの中は再び冒険者たちの喧騒に包まれる。
「思ったよりも、しっかりした依頼だよね」
横から魔導書が柔らかく声をかけてくる。
ギルドを出る途中、手が包帯でぐるぐる巻になった男がいた。
たぶん、シアが熱線で風穴開けた奴だ。
さすがに2度目は襲ってこなかった。
***
シアはギルドを出ると、魔導書に言葉を返した。
「うん、まずは掃除を頑張る」
「いや、目的は調査だから。忘れてない?」
「あ、忘れてた。掃除も調査も頑張る!」
そう言って、シアは依頼書に書かれた指定の場所に向かった。
***
シアは、指定された区域に足を踏み入れた。
そこは、モルタの街でも比較的にぎやかなエリアで、道端には商店が並び、人々が行き交っていた。
日常の賑わいの中で、シアがふと足元を見渡すと、広場の隅や道端には小さなゴミがちらほらと散らばっているのが目に入る。紙屑、果物の皮、そして靴下のように捨てられた雑多な布切れもあった。
「よく見たら、意外と散らかってるね」
シアは軽く息を吐き、魔導書に話しかけた。
「じゃあ始めよっか」
「うん、それでゴミを拾ったらどこに入れるの? 魔導書の収納の中?」
「ちょっと待て! なぜ私の収納にゴミを入れようとするの?」
「違うの?」
「ゴミはゴミ袋……じゃなくて、ゴミ布やカゴに入れるんだって、ほら」
魔導書は依頼書の説明を見て、それからクリエイトスキルでゴミ布を作り出した。
それをシアに手渡す。
「じゃあ、ここに入れてくね」
「あ、それとこれゴミを拾うやつ」
魔導書は同じくクリエイトスキルで作った鉄の長細いトングを手渡した。
「あ、これで挟むんだ?」
「そうそう」
シアは魔導書をトングで挟んで、確認する。
「一応言っておくと、私はゴミじゃないからね?」
そんなこんなで、シアは掃除のためのゴミ拾いをまずは開始する。
だが、主な目的はゴミを拾うことではなく、住人に話を聞くことだ。
シアは、歩行者に話しかけようとするが、「がんばってるね」と声をかけられるだけで、じっくり話をさせてもらえなかった。
そこで魔導書がシアに言った。
「ねえ、この場所って話を聞くのに向いてないようだけど」
「そうみたい……」
「もう、ちゃんと区域の説明聞いてからにしないと。とりあえず、ちゃっちゃと終わらせよう」
「だね」
それから2時間後、結構な広さの歩道で、ゴミを拾い終わった。
「この集めたゴミはどうするの? 熱線で焼く? それともマグマを使う?」
「どっちもダメだから……。被害のほうが大きくなりそう。普通に火をおこして、燃やすのが一般的かな」
魔導書は、シアがゴミを一箇所に集めたところで、火を付けて燃やす。
「なんか変な匂いするけど」
「ゴミを燃やすと臭いがするから我慢して」
そうして、離れた場所で燃やしていると、
背後から足音が聞こえてきた。様子を見に来た住人に声をかけられる。
「お嬢さん、一人で掃除してくれてるのかい?」
振り向くと、そこには一人の住人らしき年配の男性が立っていた。短い白髪と日焼けした顔、そして質素な服装から、地元の農家か商人のように見える。彼はシアが燃やしているゴミをちらりと見て近づいてきた。
「はい、ギルドの依頼で」
シアは答えた。
男性はその様子に満足そうに頷き、焚き火の近くに腰を下ろした。
「ありがたいねぇ。最近、あちこちでゴミが増えて困ってたんだ。お嬢さんみたいな若い子がこうして頑張ってくれるなんて、街のためにも助かるよ」
シアは微笑んだ。
そこで目的の聞き込みを開始することにした。街の様子や、転生者の情報だ。
「最近、この街はどんな感じですか? 私は旅をしていて、ここに来たばかりなんですが、何か特別なことが起こっているとか、変わった話はありますか? 悪い事件が起こっているとか」
シアがストレートに質問すると、男性は少し首をかしげた。
「変わったことかい? う~ん、都市の中は平和といえば平和だが、外は緊迫しているみたいだね」
シアはその言葉に興味を引かれ、さらに質問を続ける。
「それって?」
男性は口元に手を当てて考え込んだ。
「お嬢さんは知らないのか。この国は今、外の国と戦争をしているんだ。そうは見えないかもしれないがね」
「戦争、ですか?」
シアは意外な事実を聞いて驚いた。
「そうだ。転生者というのを知っているかい?」
「はい」
「彼らは、この国の頂点に君臨しているんだが、別の国からの侵略に抵抗していると言えば良いのか。とにかく、この小さな国が安全で平和に暮らせるように、守ってくれているんだ」
「そうなんですね……」
お礼を言って、シアは離れていく男性の後ろ姿を見守った。
***
しばらくして魔導書が声をかけた。
「まさか戦争をしているなんて……気づかなかった」
「だよね……平和だと思ってた」
「どうも、この国を支配する転生者は、私の知る国の転生者と違うかもしれない。でも、もっと情報がほしい。もう少し掃除依頼で聞き込みして、その後、王都中央の依頼を探そう」
「わかった。じゃあ一度ギルドに報告に戻ろっか」
そうして、シアは掃除を繰り返し、転生者と国の戦争の話を聞き回った。
そして、最初に教えてくれた年配男性の言ったことがおおよそ正しいことが判明したのだ。
「こうなると、いよいよこの首都の中央で詳しい話を聞きたい。首都城付近の仕事を探してみよう」
「あるかな?」
「受けられそうなのがなければ、それっぽいのを受けて、王都中央の王城に潜入するしかないね」
シアは魔導書と話し合って、王都中央で情報収集するための算段を決定するのだった。
下の階でご飯をもらい、食堂で食べず部屋を指定したのは、魔導書が食事を取るおかしさを隠すためである。
食事の最中、魔導書はシアに鞄を渡した。
「これ、シアだけでも術がすぐ使えるように、シートを1枚ずつ入れておいたから」
「どうして、これを?」
「私になにかあったときのため。前にも言ったけど、転生者ってのは、得体のしれないスキルをたくさん持っているんだよね。この前話したスキルを消す転生者もいるし、そいつほどでなくても、収納スキルを妨害されたり、消されたりすると、シートが出せなくなるかもしれないから」
「そうなの? でもなんでいま?」
「それは……、シアが起きてるのに私が寝ちゃってたから、必要だな~って」
シアはジトッとした目で魔導書を見た。
「……もしかして、うっかり寝てて、その危険に気づいたってこと?」
「うん、ごめん。でも、魔導書でも疲れると強烈に眠くなるみたいだし、いつ意識が落ちても戦えるようにってことだから、そんな目で見ないでよ」
「わかった。こっちもなんかごめんね」
「わかればいいよ。それで、今日から依頼を受けてこの都市の実態を調べるけど、まずは聞き込みできそうな仕事を受けるよ」
「それってどんな仕事なの?」
魔導書はシアが食べた食器を片付けながら聞いた。
「掲載依頼の中でそれができそうなのは、歩道掃除だと思う」
「掃除……って、あの建物の隅に横たわってる人たちを熱線で掃除するの?」
「違うってば! 『掃除=転生者・人間の始末』って発想をまずは捨てて。それだとホームレスを抹殺する極悪人になっちゃうから」
魔導書は何かを思い浮かべる仕草をして「あ~、昔日本でそんな事件あったな~」とか口走る。
「あの人たちってホームレスっていうの?」
「まあね、この世界だと結構多いみたいだし、珍しくないよ」
「じゃあ掃除って、普通の掃除ってこと?」
「その普通って、ちなみに?」
魔導書は、認識が一致しているか確認した。
「掃除って、あれだよね? 食べ物を倉庫から一掃すること」
「それも違う! どんな家で生活してたらその発想になるの? 家で掃除したことない?」
「ない……」
「そっか」
魔導書はそう言えばと思い出す。
シアは、洞窟での生活でも掃除をしていなかった。
まるで自分がお母さんになったような気分で、焚き火とか食べた後の後処理とか、掃除は全部、魔導書がしていた。
まだ子供で、しかも術の検証の負担を毎日強いていたから、それくらいはと思って魔導書がこなしていた。それが仇になった形だ。
シアは問う。
「じゃあどんなのが掃除?」
「え~と、ゴミを片付けたり、汚れを取ったり、洞窟で私がしていた清掃活動のこと」
「そっか。でも魔導書って洞窟で掃除してたっけ?」
魔導書は顔を真赤にして怒った。
「してたよ! シアが腹いっぱい食べてゴロゴロしている間に。あなたのお母さんみたいにね。お母さんじゃないのに!」
私だって本当はしたくないのに、とかぶつぶつ言っていた。
シアは慰めるように声をかける。
「それはご苦労様でした。じゃあ、出発しよう」
「感謝が軽い……もういいや。いまさらだし、シアだもんね……」
魔導書は諦めたように、ギルドに向かうのだった。
***
都市の城門近くにある冒険者ギルドの扉を押し開けた。
ギルド内は活気に満ち、冒険者たちが次々と依頼を受けたり、報告を行っていた。
床は人々の足音で鳴り響き、壁に掛けられた掲示板にはさまざまな依頼書がびっしりと貼られている。
シアは何の依頼を受けるかすでに決めているため、そちらには向かわず、まっすぐカウンターに向かった。
カウンターには黒縁メガネをかけた大人の女性が立っており、冷静かつ落ち着いた表情で書類を整理していた。知的で落ち着いた雰囲気を醸し出している。その姿は、シアに安心感を与えた。
「こんにちは。今日はどの依頼を?」
メガネの女性が顔を上げ、穏やかに微笑んだ。その落ち着いた声には配慮が感じとれる。
シアは少し緊張しながらも頷いた。
「はい、初めてなので、簡単な依頼をお願いしたいんです。それで、歩道の掃除の仕事を」
ギルド嬢はしばらくしてから一枚の紙を手渡してきた。
「ではこちら、都内の清掃依頼です」
シアは依頼書を受け取り、目を通した。『ゴミ拾い』という内容は確かにシンプルだが、それでもこの平和な街を守るためには必要なことだ。依頼書には、指定された区域と報酬額、そして依頼主の名前が書かれている。
「これでお願いします」
シアは少しの迷いもなく、その区域で依頼を受けることにした。
ギルド員の女性は、メガネの奥の目でシアをしっかりと見つめながら、軽く頷いた。
「ありがとうございます。初めての依頼頑張って下さい」
「はい」
シアは素直に答え、依頼書を手にカウンターを離れた。
ギルドの中は再び冒険者たちの喧騒に包まれる。
「思ったよりも、しっかりした依頼だよね」
横から魔導書が柔らかく声をかけてくる。
ギルドを出る途中、手が包帯でぐるぐる巻になった男がいた。
たぶん、シアが熱線で風穴開けた奴だ。
さすがに2度目は襲ってこなかった。
***
シアはギルドを出ると、魔導書に言葉を返した。
「うん、まずは掃除を頑張る」
「いや、目的は調査だから。忘れてない?」
「あ、忘れてた。掃除も調査も頑張る!」
そう言って、シアは依頼書に書かれた指定の場所に向かった。
***
シアは、指定された区域に足を踏み入れた。
そこは、モルタの街でも比較的にぎやかなエリアで、道端には商店が並び、人々が行き交っていた。
日常の賑わいの中で、シアがふと足元を見渡すと、広場の隅や道端には小さなゴミがちらほらと散らばっているのが目に入る。紙屑、果物の皮、そして靴下のように捨てられた雑多な布切れもあった。
「よく見たら、意外と散らかってるね」
シアは軽く息を吐き、魔導書に話しかけた。
「じゃあ始めよっか」
「うん、それでゴミを拾ったらどこに入れるの? 魔導書の収納の中?」
「ちょっと待て! なぜ私の収納にゴミを入れようとするの?」
「違うの?」
「ゴミはゴミ袋……じゃなくて、ゴミ布やカゴに入れるんだって、ほら」
魔導書は依頼書の説明を見て、それからクリエイトスキルでゴミ布を作り出した。
それをシアに手渡す。
「じゃあ、ここに入れてくね」
「あ、それとこれゴミを拾うやつ」
魔導書は同じくクリエイトスキルで作った鉄の長細いトングを手渡した。
「あ、これで挟むんだ?」
「そうそう」
シアは魔導書をトングで挟んで、確認する。
「一応言っておくと、私はゴミじゃないからね?」
そんなこんなで、シアは掃除のためのゴミ拾いをまずは開始する。
だが、主な目的はゴミを拾うことではなく、住人に話を聞くことだ。
シアは、歩行者に話しかけようとするが、「がんばってるね」と声をかけられるだけで、じっくり話をさせてもらえなかった。
そこで魔導書がシアに言った。
「ねえ、この場所って話を聞くのに向いてないようだけど」
「そうみたい……」
「もう、ちゃんと区域の説明聞いてからにしないと。とりあえず、ちゃっちゃと終わらせよう」
「だね」
それから2時間後、結構な広さの歩道で、ゴミを拾い終わった。
「この集めたゴミはどうするの? 熱線で焼く? それともマグマを使う?」
「どっちもダメだから……。被害のほうが大きくなりそう。普通に火をおこして、燃やすのが一般的かな」
魔導書は、シアがゴミを一箇所に集めたところで、火を付けて燃やす。
「なんか変な匂いするけど」
「ゴミを燃やすと臭いがするから我慢して」
そうして、離れた場所で燃やしていると、
背後から足音が聞こえてきた。様子を見に来た住人に声をかけられる。
「お嬢さん、一人で掃除してくれてるのかい?」
振り向くと、そこには一人の住人らしき年配の男性が立っていた。短い白髪と日焼けした顔、そして質素な服装から、地元の農家か商人のように見える。彼はシアが燃やしているゴミをちらりと見て近づいてきた。
「はい、ギルドの依頼で」
シアは答えた。
男性はその様子に満足そうに頷き、焚き火の近くに腰を下ろした。
「ありがたいねぇ。最近、あちこちでゴミが増えて困ってたんだ。お嬢さんみたいな若い子がこうして頑張ってくれるなんて、街のためにも助かるよ」
シアは微笑んだ。
そこで目的の聞き込みを開始することにした。街の様子や、転生者の情報だ。
「最近、この街はどんな感じですか? 私は旅をしていて、ここに来たばかりなんですが、何か特別なことが起こっているとか、変わった話はありますか? 悪い事件が起こっているとか」
シアがストレートに質問すると、男性は少し首をかしげた。
「変わったことかい? う~ん、都市の中は平和といえば平和だが、外は緊迫しているみたいだね」
シアはその言葉に興味を引かれ、さらに質問を続ける。
「それって?」
男性は口元に手を当てて考え込んだ。
「お嬢さんは知らないのか。この国は今、外の国と戦争をしているんだ。そうは見えないかもしれないがね」
「戦争、ですか?」
シアは意外な事実を聞いて驚いた。
「そうだ。転生者というのを知っているかい?」
「はい」
「彼らは、この国の頂点に君臨しているんだが、別の国からの侵略に抵抗していると言えば良いのか。とにかく、この小さな国が安全で平和に暮らせるように、守ってくれているんだ」
「そうなんですね……」
お礼を言って、シアは離れていく男性の後ろ姿を見守った。
***
しばらくして魔導書が声をかけた。
「まさか戦争をしているなんて……気づかなかった」
「だよね……平和だと思ってた」
「どうも、この国を支配する転生者は、私の知る国の転生者と違うかもしれない。でも、もっと情報がほしい。もう少し掃除依頼で聞き込みして、その後、王都中央の依頼を探そう」
「わかった。じゃあ一度ギルドに報告に戻ろっか」
そうして、シアは掃除を繰り返し、転生者と国の戦争の話を聞き回った。
そして、最初に教えてくれた年配男性の言ったことがおおよそ正しいことが判明したのだ。
「こうなると、いよいよこの首都の中央で詳しい話を聞きたい。首都城付近の仕事を探してみよう」
「あるかな?」
「受けられそうなのがなければ、それっぽいのを受けて、王都中央の王城に潜入するしかないね」
シアは魔導書と話し合って、王都中央で情報収集するための算段を決定するのだった。
0
お気に入りに追加
159
あなたにおすすめの小説

少し冷めた村人少年の冒険記
mizuno sei
ファンタジー
辺境の村に生まれた少年トーマ。実は日本でシステムエンジニアとして働き、過労死した三十前の男の生まれ変わりだった。
トーマの家は貧しい農家で、神から授かった能力も、村の人たちからは「はずれギフト」とさげすまれるわけの分からないものだった。
優しい家族のために、自分の食い扶持を減らそうと家を出る決心をしたトーマは、唯一無二の相棒、「心の声」である〈ナビ〉とともに、未知の世界へと旅立つのであった。
婚約破棄されて辺境へ追放されました。でもステータスがほぼMAXだったので平気です!スローライフを楽しむぞっ♪
naturalsoft
恋愛
シオン・スカーレット公爵令嬢は転生者であった。夢だった剣と魔法の世界に転生し、剣の鍛錬と魔法の鍛錬と勉強をずっとしており、攻略者の好感度を上げなかったため、婚約破棄されました。
「あれ?ここって乙女ゲーの世界だったの?」
まっ、いいかっ!
持ち前の能天気さとポジティブ思考で、辺境へ追放されても元気に頑張って生きてます!
離婚した彼女は死ぬことにした
まとば 蒼
恋愛
2日に1回更新(希望)です。
-----------------
事故で命を落とす瞬間、政略結婚で結ばれた夫のアルバートを愛していたことに気づいたエレノア。
もう一度彼との結婚生活をやり直したいと願うと、四年前に巻き戻っていた。
今度こそ彼に相応しい妻になりたいと、これまでの臆病な自分を脱ぎ捨て奮闘するエレノア。しかし、
「前にも言ったけど、君は妻としての役目を果たさなくていいんだよ」
返ってくるのは拒絶を含んだ鉄壁の笑みと、表面的で義務的な優しさ。
それでも夫に想いを捧げ続けていたある日のこと、アルバートの大事にしている弟妹が原因不明の体調不良に襲われた。
神官から、二人の体調不良はエレノアの体内に宿る瘴気が原因だと告げられる。
大切な人を守るために離婚して彼らから離れることをエレノアは決意するが──。
-----------------
とあるコンテストに応募するためにひっそり書いていた作品ですが、最近ダレてきたので公開してみることにしました。
まだまだ荒くて調整が必要な話ですが、どんなに些細な内容でも反応を頂けると大変励みになります。
書きながら色々修正していくので、読み返したら若干展開が変わってたりするかもしれません。
作風が好みじゃない場合は回れ右をして自衛をお願いいたします。

[完結] 邪魔をするなら潰すわよ?
シマ
ファンタジー
私はギルドが運営する治療院で働く治療師の一人、名前はルーシー。
クエストで大怪我したハンター達の治療に毎日、忙しい。そんなある日、騎士の格好をした一人の男が運び込まれた。
貴族のお偉いさんを魔物から護った騎士団の団長さんらしいけど、その場に置いていかれたの?でも、この傷は魔物にヤられたモノじゃないわよ?
魔法のある世界で亡くなった両親の代わりに兄妹を育てるルーシー。彼女は兄妹と静かに暮らしたいけど何やら回りが放ってくれない。
ルーシーが気になる団長さんに振り回されたり振り回したり。
私の生活を邪魔をするなら潰すわよ?
1月5日 誤字脱字修正 54話
★━戦闘シーンや猟奇的発言あり
流血シーンあり。
魔法・魔物あり。
ざぁま薄め。
恋愛要素あり。
あなたは異世界に行ったら何をします?~良いことしてポイント稼いで気ままに生きていこう~
深楽朱夜
ファンタジー
13人の神がいる異世界《アタラクシア》にこの世界を治癒する為の魔術、異界人召喚によって呼ばれた主人公
じゃ、この世界を治せばいいの?そうじゃない、この魔法そのものが治療なので後は好きに生きていって下さい
…この世界でも生きていける術は用意している
責任はとります、《アタラクシア》に来てくれてありがとう
という訳で異世界暮らし始めちゃいます?
※誤字 脱字 矛盾 作者承知の上です 寛容な心で読んで頂けると幸いです
※表紙イラストはAIイラスト自動作成で作っています

プラス的 異世界の過ごし方
seo
ファンタジー
日本で普通に働いていたわたしは、気がつくと異世界のもうすぐ5歳の幼女だった。田舎の山小屋みたいなところに引っ越してきた。そこがおさめる領地らしい。伯爵令嬢らしいのだが、わたしの多少の知識で知る貴族とはかなり違う。あれ、ひょっとして、うちって貧乏なの? まあ、家族が仲良しみたいだし、楽しければいっか。
呑気で細かいことは気にしない、めんどくさがりズボラ女子が、神様から授けられるギフト「+」に助けられながら、楽しんで生活していきます。
乙女ゲーの脇役家族ということには気づかずに……。
#不定期更新 #物語の進み具合のんびり
#カクヨムさんでも掲載しています

【完結】神スキル拡大解釈で底辺パーティから成り上がります!
まにゅまにゅ
ファンタジー
平均レベルの低い底辺パーティ『龍炎光牙《りゅうえんこうが》』はオーク一匹倒すのにも命懸けで注目もされていないどこにでもでもいる冒険者たちのチームだった。
そんなある日ようやく資金も貯まり、神殿でお金を払って恩恵《ギフト》を授かるとその恩恵《ギフト》スキルは『拡大解釈』というもの。
その効果は魔法やスキルの内容を拡大解釈し、別の効果を引き起こせる、という神スキルだった。その拡大解釈により色んなものを回復《ヒール》で治したり強化《ブースト》で獲得経験値を増やしたりととんでもない効果を発揮する!
底辺パーティ『龍炎光牙』の大躍進が始まる!
第16回ファンタジー大賞奨励賞受賞作です。
元Sランクパーティーのサポーターは引退後に英雄学園の講師に就職した。〜教え子達は見た目は美少女だが、能力は残念な子達だった。〜
アノマロカリス
ファンタジー
主人公のテルパは、Sランク冒険者パーティーの有能なサポーターだった。
だが、そんな彼は…?
Sランクパーティーから役立たずとして追い出された…訳ではなく、災害級の魔獣にパーティーが挑み…
パーティーの半数に多大なる被害が出て、活動が出来なくなった。
その後パーティーリーダーが解散を言い渡し、メンバー達はそれぞれの道を進む事になった。
テルパは有能なサポーターで、中級までの攻撃魔法や回復魔法に補助魔法が使えていた。
いざという時の為に攻撃する手段も兼ね揃えていた。
そんな有能なテルパなら、他の冒険者から引っ張りだこになるかと思いきや?
ギルドマスターからの依頼で、魔王を討伐する為の養成学園の新人講師に選ばれたのだった。
そんなテルパの受け持つ生徒達だが…?
サポーターという仕事を馬鹿にして舐め切っていた。
態度やプライドばかり高くて、手に余る5人のアブノーマルな女の子達だった。
テルパは果たして、教え子達と打ち解けてから、立派に育つのだろうか?
【題名通りの女の子達は、第二章から登場します。】
今回もHOTランキングは、最高6位でした。
皆様、有り難う御座います。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる