森にポイ捨てられた侯爵貴族の子は、魔導の知識を得る ~悪い転生者が世界にのさばっている?じゃあ、お掃除します!~

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1-15.【15話】都市の現状の事実

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 昼前に魔導書が目を覚まし、午後は遅めの朝食として一緒に部屋でご飯を食べることにした。
 下の階でご飯をもらい、食堂で食べず部屋を指定したのは、魔導書が食事を取るおかしさを隠すためである。


 食事の最中、魔導書はシアに鞄を渡した。

「これ、シアだけでも術がすぐ使えるように、シートを1枚ずつ入れておいたから」

「どうして、これを?」

「私になにかあったときのため。前にも言ったけど、転生者ってのは、得体のしれないスキルをたくさん持っているんだよね。この前話したスキルを消す転生者もいるし、そいつほどでなくても、収納スキルを妨害されたり、消されたりすると、シートが出せなくなるかもしれないから」

「そうなの? でもなんでいま?」

「それは……、シアが起きてるのに私が寝ちゃってたから、必要だな~って」

 シアはジトッとした目で魔導書を見た。

「……もしかして、うっかり寝てて、その危険に気づいたってこと?」

「うん、ごめん。でも、魔導書でも疲れると強烈に眠くなるみたいだし、いつ意識が落ちても戦えるようにってことだから、そんな目で見ないでよ」

「わかった。こっちもなんかごめんね」

「わかればいいよ。それで、今日から依頼を受けてこの都市の実態を調べるけど、まずは聞き込みできそうな仕事を受けるよ」

「それってどんな仕事なの?」

 魔導書はシアが食べた食器を片付けながら聞いた。

「掲載依頼の中でそれができそうなのは、歩道掃除だと思う」

「掃除……って、あの建物の隅に横たわってる人たちを熱線で掃除するの?」

「違うってば! 『掃除=転生者・人間の始末』って発想をまずは捨てて。それだとホームレスを抹殺する極悪人になっちゃうから」

 魔導書は何かを思い浮かべる仕草をして「あ~、昔日本でそんな事件あったな~」とか口走る。

「あの人たちってホームレスっていうの?」

「まあね、この世界だと結構多いみたいだし、珍しくないよ」

「じゃあ掃除って、普通の掃除ってこと?」

「その普通って、ちなみに?」

 魔導書は、認識が一致しているか確認した。

「掃除って、あれだよね? 食べ物を倉庫から一掃すること」

「それも違う! どんな家で生活してたらその発想になるの? 家で掃除したことない?」

「ない……」

「そっか」

 魔導書はそう言えばと思い出す。
 シアは、洞窟での生活でも掃除をしていなかった。
 まるで自分がお母さんになったような気分で、焚き火とか食べた後の後処理とか、掃除は全部、魔導書がしていた。
 まだ子供で、しかも術の検証の負担を毎日強いていたから、それくらいはと思って魔導書がこなしていた。それが仇になった形だ。

 シアは問う。

「じゃあどんなのが掃除?」

「え~と、ゴミを片付けたり、汚れを取ったり、洞窟で私がしていた清掃活動のこと」

「そっか。でも魔導書って洞窟で掃除してたっけ?」

 魔導書は顔を真赤にして怒った。

「してたよ! シアが腹いっぱい食べてゴロゴロしている間に。あなたのお母さんみたいにね。お母さんじゃないのに!」

 私だって本当はしたくないのに、とかぶつぶつ言っていた。
 シアは慰めるように声をかける。

「それはご苦労様でした。じゃあ、出発しよう」

「感謝が軽い……もういいや。いまさらだし、シアだもんね……」

 魔導書は諦めたように、ギルドに向かうのだった。


***


 都市の城門近くにある冒険者ギルドの扉を押し開けた。
 ギルド内は活気に満ち、冒険者たちが次々と依頼を受けたり、報告を行っていた。
 床は人々の足音で鳴り響き、壁に掛けられた掲示板にはさまざまな依頼書がびっしりと貼られている。
 シアは何の依頼を受けるかすでに決めているため、そちらには向かわず、まっすぐカウンターに向かった。
 カウンターには黒縁メガネをかけた大人の女性が立っており、冷静かつ落ち着いた表情で書類を整理していた。知的で落ち着いた雰囲気を醸し出している。その姿は、シアに安心感を与えた。

「こんにちは。今日はどの依頼を?」

 メガネの女性が顔を上げ、穏やかに微笑んだ。その落ち着いた声には配慮が感じとれる。
 シアは少し緊張しながらも頷いた。

「はい、初めてなので、簡単な依頼をお願いしたいんです。それで、歩道の掃除の仕事を」

 ギルド嬢はしばらくしてから一枚の紙を手渡してきた。

「ではこちら、都内の清掃依頼です」

 シアは依頼書を受け取り、目を通した。『ゴミ拾い』という内容は確かにシンプルだが、それでもこの平和な街を守るためには必要なことだ。依頼書には、指定された区域と報酬額、そして依頼主の名前が書かれている。

「これでお願いします」

 シアは少しの迷いもなく、その区域で依頼を受けることにした。
 ギルド員の女性は、メガネの奥の目でシアをしっかりと見つめながら、軽く頷いた。

「ありがとうございます。初めての依頼頑張って下さい」

「はい」

 シアは素直に答え、依頼書を手にカウンターを離れた。
 ギルドの中は再び冒険者たちの喧騒に包まれる。

「思ったよりも、しっかりした依頼だよね」

 横から魔導書が柔らかく声をかけてくる。
 ギルドを出る途中、手が包帯でぐるぐる巻になった男がいた。
 たぶん、シアが熱線で風穴開けた奴だ。
 さすがに2度目は襲ってこなかった。


***


 シアはギルドを出ると、魔導書に言葉を返した。

「うん、まずは掃除を頑張る」

「いや、目的は調査だから。忘れてない?」

「あ、忘れてた。掃除も調査も頑張る!」

 そう言って、シアは依頼書に書かれた指定の場所に向かった。


***


 シアは、指定された区域に足を踏み入れた。
 そこは、モルタの街でも比較的にぎやかなエリアで、道端には商店が並び、人々が行き交っていた。
 日常の賑わいの中で、シアがふと足元を見渡すと、広場の隅や道端には小さなゴミがちらほらと散らばっているのが目に入る。紙屑、果物の皮、そして靴下のように捨てられた雑多な布切れもあった。

「よく見たら、意外と散らかってるね」

 シアは軽く息を吐き、魔導書に話しかけた。

「じゃあ始めよっか」

「うん、それでゴミを拾ったらどこに入れるの? 魔導書の収納の中?」

「ちょっと待て! なぜ私の収納にゴミを入れようとするの?」

「違うの?」

「ゴミはゴミ袋……じゃなくて、ゴミ布やカゴに入れるんだって、ほら」

 魔導書は依頼書の説明を見て、それからクリエイトスキルでゴミ布を作り出した。
 それをシアに手渡す。

「じゃあ、ここに入れてくね」

「あ、それとこれゴミを拾うやつ」

 魔導書は同じくクリエイトスキルで作った鉄の長細いトングを手渡した。

「あ、これで挟むんだ?」

「そうそう」

 シアは魔導書をトングで挟んで、確認する。

「一応言っておくと、私はゴミじゃないからね?」

 そんなこんなで、シアは掃除のためのゴミ拾いをまずは開始する。
 だが、主な目的はゴミを拾うことではなく、住人に話を聞くことだ。

 シアは、歩行者に話しかけようとするが、「がんばってるね」と声をかけられるだけで、じっくり話をさせてもらえなかった。

 そこで魔導書がシアに言った。

「ねえ、この場所って話を聞くのに向いてないようだけど」

「そうみたい……」

「もう、ちゃんと区域の説明聞いてからにしないと。とりあえず、ちゃっちゃと終わらせよう」

「だね」




 それから2時間後、結構な広さの歩道で、ゴミを拾い終わった。

「この集めたゴミはどうするの? 熱線で焼く? それともマグマを使う?」

「どっちもダメだから……。被害のほうが大きくなりそう。普通に火をおこして、燃やすのが一般的かな」

 魔導書は、シアがゴミを一箇所に集めたところで、火を付けて燃やす。

「なんか変な匂いするけど」

「ゴミを燃やすと臭いがするから我慢して」

 そうして、離れた場所で燃やしていると、
 背後から足音が聞こえてきた。様子を見に来た住人に声をかけられる。

「お嬢さん、一人で掃除してくれてるのかい?」

 振り向くと、そこには一人の住人らしき年配の男性が立っていた。短い白髪と日焼けした顔、そして質素な服装から、地元の農家か商人のように見える。彼はシアが燃やしているゴミをちらりと見て近づいてきた。

「はい、ギルドの依頼で」

 シアは答えた。
 男性はその様子に満足そうに頷き、焚き火の近くに腰を下ろした。

「ありがたいねぇ。最近、あちこちでゴミが増えて困ってたんだ。お嬢さんみたいな若い子がこうして頑張ってくれるなんて、街のためにも助かるよ」

 シアは微笑んだ。
 そこで目的の聞き込みを開始することにした。街の様子や、転生者の情報だ。

「最近、この街はどんな感じですか? 私は旅をしていて、ここに来たばかりなんですが、何か特別なことが起こっているとか、変わった話はありますか? 悪い事件が起こっているとか」

 シアがストレートに質問すると、男性は少し首をかしげた。

「変わったことかい? う~ん、都市の中は平和といえば平和だが、外は緊迫しているみたいだね」

 シアはその言葉に興味を引かれ、さらに質問を続ける。

「それって?」

 男性は口元に手を当てて考え込んだ。

「お嬢さんは知らないのか。この国は今、外の国と戦争をしているんだ。そうは見えないかもしれないがね」

「戦争、ですか?」

 シアは意外な事実を聞いて驚いた。

「そうだ。転生者というのを知っているかい?」

「はい」

「彼らは、この国の頂点に君臨しているんだが、別の国からの侵略に抵抗していると言えば良いのか。とにかく、この小さな国が安全で平和に暮らせるように、守ってくれているんだ」

「そうなんですね……」

 お礼を言って、シアは離れていく男性の後ろ姿を見守った。


***


 しばらくして魔導書が声をかけた。

「まさか戦争をしているなんて……気づかなかった」

「だよね……平和だと思ってた」

「どうも、この国を支配する転生者は、私の知る国の転生者と違うかもしれない。でも、もっと情報がほしい。もう少し掃除依頼で聞き込みして、その後、王都中央の依頼を探そう」

「わかった。じゃあ一度ギルドに報告に戻ろっか」

 そうして、シアは掃除を繰り返し、転生者と国の戦争の話を聞き回った。
 そして、最初に教えてくれた年配男性の言ったことがおおよそ正しいことが判明したのだ。

「こうなると、いよいよこの首都の中央で詳しい話を聞きたい。首都城付近の仕事を探してみよう」

「あるかな?」

「受けられそうなのがなければ、それっぽいのを受けて、王都中央の王城に潜入するしかないね」

 シアは魔導書と話し合って、王都中央で情報収集するための算段を決定するのだった。
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