森にポイ捨てられた侯爵貴族の子は、魔導の知識を得る ~悪い転生者が世界にのさばっている?じゃあ、お掃除します!~

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1-10.【10話】ヤモリっぽい

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 その後、森を進んだシアたちは邪神の第三使徒まで遭遇する。
 いずれも撃破したが、2回目はシアもダメージを受けるほど強敵だった。
 3回目はいい加減慣れて、出てくる前に確殺した。
 黒い翡翠体の中から出てくる前に、熱線で集中砲火を浴びせたのである。


 シアが周囲を警戒しながら森を歩いていると、後ろからカサコソ音がした。
 さすがに邪神の使徒が出てくることはもうないだろうと考えていたが、一応警戒している。
 
「シア、気付いてる?」

「うん……」

 振り向くと、後ろからついてくるトカゲのような魔物がいた。
 サイズは両手に乗せると少しはみ出すくらいだろうか。小型の魔物だった。
 灰色に緑やオレンジの柄が混じっている。

「これって……?」

「名前は知らないけど、ヤモリに似てる」

「ヤモリ?」

「え~っと、トカゲみたいな爬虫類の生物なんだけど、それとよく似てる」

「へ~」

「なんか、襲ってこないみたいだけど」

「だよね、なんかずっと付いてきてるのに」

 シアはその魔物にゆっくり近づいてその魔物を観察した。
 そこに魔導書も近づく。

 目をぱちぱちと閉じたり開いたりしている。じーっとシアたちを観察しているのか、別の何かを見ているのかはわからない。

 そこで魔導書が言った。

「もしかすると、この魔物は襲う対象が人間じゃないのかもしれないね」

「人間じゃない?」

「ほら、ヤモリってあんまり強い生物じゃないから」

「そうなの?」

「そうそう、小型の虫……とか食べるけど、人間は食べれないのかもね」

 虫のところで微妙に言いよどむのは、魔導書が虫を嫌いだからだろう。

「そっか。ほらおいで……」

 シアは手招きするが、シアの挙動に反応しない。

「あ~、ヤモリって人に懐かないよね。この大きさだと『ザ・魔物の大ヤモリ』って感じだけど」

「そうなの?」

「ペットとして飼う人もいるみたいだけど」

「ペットか~。捧げ物のストックにと思ったけど、ペットにする?」

「……シアが世話するなら。食事とか」

 シアは、魔導書を見て、「そういえば虫を食べるんだった」と思い返す。

「じゃあ、私が飼う」

「まあ、いいんじゃない」

 シアが魔物大ヤモリに名前をつけるところから始めた。

「じゃあ、あなたは『ゲコ』ね」

「なんでゲコ?」

「なんかカエルみたいに、喉のところが膨らんだり、凹んだりしているのが似てるから」
「ふ~ん」

 シアがゲコに近づくと、それは足を止めたまま、シアを見上げた。
 じーと見つめたまま、シアの胸あたりに視線を止めて、消えた。

「え? きゃっ!」

 どかっ、とシアの胸にジャンプして、服の上にしがみついたのである。

 シアは、びっくりして両手を上に上げたまま、自分の胸元を凝視した。そこにくっつくゲコを見る。

「あ~、そういえば、ヤモリって飛ぶんだよね。移動にジャンプ使うらしくて、そのときだけ結構力強かったりするんだ」

「先に教えてよ! 驚いたな~もぅ。よしよし。飛べたんだ、ゲコ」

 魔導書はやれやれと首を振った。

「このサイズで飛んでしがみつくと、もはやタックルだね」

 そのままゲコは、シアの服を移動して背中に回り、そこで動きを停止した。
 舌をちろちろと出して、周囲を観察しているようだ。

「ねえ、背中どうなってる? 見えないんだけど」

 シアの声に魔導書が答える。

「いま背中で止まってる。動かないみたいだし、邪魔にならないならこのまま行こう」

「……わかった」

 シアたちは再び森の中を歩きだした。


***


 シアはヤモリに餌を与えながら、意思疎通を試みていたが、声や手の撫でにあまり反応しない。

「ねえ、ゲコって人を人って認識できないのかな?」

「なにその哲学みたいな質問は……。う~ん、わかんないんじゃない? この魔物はどうか知らないけど」

「呼びかけても反応ないし、ずっとキョロキョロしてるし。餌はたくさん食べるけど」

「なんかシアと似てるんじゃない? でも、肩からは降りてこないんだし、シアに懐いてるかな。もともとなぜか私達の後をつけてきたんだし」

「そうかな? そういえば、なんで付いてきたんだろう……」

 シアは首を傾げるのだった。
 ゲコが肩をもぞもぞすると、くすぐったそうに笑うシア。

 それを見て魔導書は疑問を浮かべる。

「どうしたの?」

「ゲコが動くとくすぐったくて」

「足の裏が張り付いているからだよ。ヤモリの足裏にはいっぱい毛が付いてて、たしか『分子間力』ってのでくっついてる」

「ぶんしかんりょく?」

「物と物をくっつける力のこと。足裏の細かい毛が物を捉えるから、それで動くときに引っ張られるんだよ。人間の素肌の部分を歩かせちゃうと痛いくらいだから、服の上でトドメておいたほうがいいよ。この大きさだし、皮膚が剥がれるかも」

「それはそれで恐いね……。足の裏が意外な人間への攻撃性だった!」

「まあそんなとこ。怒ると噛み付いたりするみたいだから、そこも気をつけて」

「うん、わかった……」

 シアは、ヤモリを乗せた状態で進み、ようやく森を抜けるのだった。
 それが邪神の使徒を倒した後にゲコを飼い始めて、1ヶ月ほどのことだ。
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