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1-6.【6話】雷とイノシシ

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 シアたちが釣った魚を食べ終わると、川の様子を見に行くことにした。
 
「あっちゃ~」

 魔導書は、嘆く声を上げ、シアを見た。
 シアも目の前の光景を凝視した。

「なんか……さっきと風景が違う」

 川周辺の木々は穴だらけになって、地面にも凸凹がいくつもできていた。
 そして水でぬかるんでいる。
 来る途中でも中くらいの大きさの魔物が雨で倒されて転がっていたのである。

「とりあえず、川はなんとかしないと」

 反乱しそうなほど水量が増えた上に、魚も何匹か浮いている。
 すると、魔導書がスキルを使用して、水を吸収し始め、さらにpH調整と言って、川の水質を変え始めた。

 シアはいろいろなことができる魔導書に目を見張った。
 もはや、やっていることは、魔導書のそれではない。
 
「終わった。さて、もう少し上流で魚を釣ってみようか?」

 その後、魚を釣りまくって、大きな生け簀に魚を移し、洞窟へと運んだ。

「これは?」

 透明で四角いものから白い煙が出ていた。

「ああ、これは冷やすやつね。さっき作ったけど上手く行ったから」

 魚の保存に使うのだとして、食べる前に腐らないようにするらしい。
 シアは、魚を洞窟に運び込んで再び魚を焼くのだった。

「う~ん、持ち運びをもう少し楽にするには……あ、これでいいのか。こうして入れて、保存できるなら……」

 魔導書は自分の持つスキルを新たに検討しているようだった。


***


 次の日、シアたちはもう少し強い魔物を単独で打倒できないか意見を出し合うことにした。

「問題は、2つあるね。1つは魔法陣の近くに来ないと魔物を倒せないこと。2つ、術によっては規模が大きすぎて私達も巻き込んじゃうから、大規模な術は使えない。どうしたらいいと思う?」

 魔導書はシアに問いかけた。
 具体的な考えをというよりも、シアの頭の中にある魔導知識を引き出そうと聞いた。

「う~ん、捧げ物の大きさで規模を下げられるってあるけど、具体的なことはわかんない」

「それも試してみるしかないね。もういっそ、魔法陣に直接魔物を取り込ませてもいいけど、そうすると魔物のお肉は食べられなくなって――」

「それはダメ!」

 シアは思わず大きな声を出した。
 あわてて両手で口をふさいだ。

「知ってる。確認しただけだよ」

「う、うん」

「やっぱそこは変わらないんだ……。というか同じだね」

「え?」

 シアは魔導書の言ったことに首を傾げた。

「なんでもない。もっとピンポイントで魔物に攻撃できそうなのはないの?」

「そうだなぁ。あ、特定の対象の命を奪うってのなら……藁人形にその対象の髪を入れて、釘を打ち付けたものを捧げ物にして――。対象は人間限定だけど」

「はい、もちろんダメです!」

「そうだよね……、魔物じゃないし。それに頭に火をつけたくないもんね」

 前儀式では、どうやら頭に火を付ける必要があるらしい。ろうそくにではあるが。
 もはや呪いのたぐいだった。

「他には?」

「光の十字架を矢のように射出するとか」

「で、倒せる魔物は何?」

「不死のゾンビやスケルトン?」

「それ倒して食べたい?」

 シアは首を振った。

「この森でアンデッドの心配はないと思うけど、一応、頭にはトドメておくことにしよう」

 魔導書は、いままで発動させた術を思い返せば、予想の10倍くらいの十字架の大きさになることは容易に想像できた。

「他には?」

「マグマ? ってのを噴出させる地殻変動? をさせて、魔物を溶かすってのが」

「うん、却下ね。森全体が崩壊するよ」

 マグマなど噴火させたら、本気で周囲の生き物が全部死ぬ。シアも含めて。

「あ、雨じゃなくて雷を降らせるってのがあった」

「雷かぁ……、ピンポイントならいいけど、範囲を狭められそう?」

「わかんない……」

「じゃあまずはどんな術か試してみようか。準備には何を?」

 シアはとりあえず、雷を試しに使うことにした。

「えっと、陣の中央にライ・イノシシの魔物を捧げるみたい。前儀式は、頭にイノシシの角を付けて、木に30回突進するんだって、それから4つ足で木の周りを回って、木の上から飛び降る?」

「また変な儀式が必要なんだね……よし、まずはその魔物を探そうか」

 とりあえず、周辺にその魔物がいなければ儀式はできない。


 魔導書は生息域を確認した。すると、疑問に満ちた声を上げる。

「変だ……」

「何が?」

「ライ・イノシシって、この森のあたりにたくさんいるみたい。というより、生息域で固まっていないというか、ばらばらに生息している」

「それって変なことなの?」

「うん、普通はね。魔物は生息域があって、そこから出ないようにしているんだよね。だから、他の魔物の生息域とは交わりにくい。魔導書がここに封印してあったことを考えると、魔導の術を使うのに、ちょうどよい魔物が近くにいてもおかしくないんだけど、これはさすがに変かも」

「そうなんだ……」

 シアはとりあえず頷いた。
 魔導書は気付いていないが、これまで散々この森の中で災害を引き起こしたことが原因とは気付いていなかった。生息域が散らばったのである。
 
「で、問題はここからなんだけど、魔物を倒すための魔物を、自分で倒さないといけないってこと」

「なんか、ややこしいね。魔物を倒すためには、その前に魔物を捕まえる必要があって、先に魔物を捕獲する手段が必要なの?」

「そうそう。「魔物」って言葉ばっかりでわかりにくい会話だけど、そういうこと」

 そうなると、別の手段でまずはライ・イノシシを生きたまま捕獲する必要がある。
 それか、陣の上に歩いてくるのを見計らって発動するかであるが、その場合も角が先に必要だ。

 とりあえず、見つけた1匹を追って、シア立ちは陣を書きフルーツを置いた。近くには餌のどんぐりのような実を置く。
 
 そのニオイを嗅ぎつけて、トコトコと歩いてくる。
 そこで術を発動させた。
 黒いアメーバが出現すると地面の土が腐敗し、真下に穴が空く。近くを通ろうとしたイノシシが大きめの穴の中に落ちていった。
 
 シアたちは落とし穴を覗き込む。

 生命力が強いのか、落ちても暴れている。死んではいないようだが、このままだと暴れて引き上げることもできない。
 そこで、大きめの鈍器をクリエイトで生み出した魔導書が、それを落とすと、静かになった。そして、引き上げる。

「捕まえられたね?」

「まずはこの角を取って前儀式をしないと」

 そういって、シアは角を取ってかぶり、木にぶつけた。あらかた儀式をする。
 魔導書はそれを見ながらため首を振る。

 この前儀式、場所が限られる上に、どれも奇行に見えるんだなと。

「できた。じゃあ、発動するよ?」

 周囲に来たライ・イノシシを確認し、発動した。
 空が一時的に黒くなり、ゴロゴロと音がし出した。だが、今度は雨ではなく、雷が振ってくるはずだ。

 そして、シアたちの視界は、その瞬間、真っ白になった。
 莫大な轟音が響き、地面をえぐるように大量の雷が垂直に落ちたのである。それらは行き場を失って周囲に跳ね返り、生き物たちを雷撃が襲った。

 シアは目の前の光景に一瞬意識が飛び、ホワイトアウトから視界が戻るとすぐにシアは目の前の鋼鉄の壁を見つめた。
 魔導書が設置したのだろう。
 前の方には5重に設置した鋼鉄の壁がえぐれており、紙一重で1枚が残るのみだった。 壁の表面にはなにか別の物質が挟まっているようだ。電気の感電をこれが防いだのかもしれない。
 
「なにいまの……。びっくりした~!」

 落ち着いてきたシアは思わず声を漏らす。
 想像の100倍以上の規模で雷が振ってきたのである。感電しなかったのが不思議なくらいだ。

「私もびっくりした……ほんとに。一瞬遅かったら丸焦げだったかも」

 雷の規模が大きいかもとは予想していたため、今までの反省を踏まえて、対策は考えていた。しかし、雷は魔導書の思考を奪ってくるほど、目の前を真っ白にしたため、鋼鉄を出すのが少し遅れそうになったのである。


 周囲を確認し、雷の破壊の跡を見る。
 雷が凄まじいものであったことを物語っていた。
 どうやら、周囲のライ・イノシシは、黒焦げになって倒れていた。

 シアはぽつりといった。

「これって、なんかすごいことみたいだよ?」

「どういうこと?」

「ライ・イノシシは雷とか電気に強いんだって。だから、雷の技では簡単に傷も入らないって」

「その魔導書知識、かなり魔物の知識が偏ってるね……」

 魔物の知識についてシアはほとんど知らなかったはずだ。
 しかし、 ライ・イノシシのことだけやけに詳しいところを見ると、この魔導書の知識はライ・イノシシが重要な捧げものだとわかっていたようだ。

「そうかな?」

「でもそうなると、なぜ黒焦げに?」

「強すぎたとか?」

「まあそうなのかも」

 シアがナイフで切れ目を入れると、中は黒焦げになっていない。
 
「食べられそう……」

「ふふっ、やっぱそれが目的だったんだ……」

 わざわざ魔導書にナイフを作らせて確認したいことがあるというから見ていた。
 そこで、食べられるかどうか、仲間で黒焦げになっていないかを確認したかったようだ。
 とりあえず、その場で処理して持ち帰ることにした。
 魔導書は、空間の中に肉を入れられるといい出し、シアは黒い穴の中に放り込んだ。
 収納スキルとして本来の目的とは違う使い方をすることにしたというらしいが、シアにはよくわからなかった。
 



 洞窟で温め直して、シアが肉を口に入れると、とろける感触と、ピリッとした味があった。

「不思議な味がする」

「あ~パチパチ感あるね。この魔物はそういう肉の味なのかも?」

 辛いわけでもしょっぱいわけでもないのに、刺激があるところは炭酸みたいだが、肉の美味しさを高めていた。

 そんな事を言いながら、今日の成果を噛み締めて、肉をお腹いっぱいに食べるのだった。
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