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1-8 フィルフリード視点
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サフバン領王国の王太子として育てられた彼ーーフィルフリードは、6歳のときに仮の婚約(婚約者候補)を決めた。
なかば、王の決めたことだったが、フィルフリードも本心と婚約者は分けて国のトップに立つ存在としてそれを受け入れた。
しかし、彼には幼い頃から侍女の世話係に助けられてきた若い女性の存在がいた。
年月を重ねてもその淡い愛情は消えることなく、10歳になる頃には、明確にそれを意識していたのだ。
仮の婚約者で王妃候補となったセレスに対しては、政治的な相手としか考えていたなかったため、目もくれずに平民の世話係に目を奪われていた。
これはフィルフリードという人物が現実の世界とキャラクターだった世界が交わって生み出された『一度愛すると思い込みが激しい王太子』という設定をそのまま現実にしたものだ。
それが不幸を呼び込み、彼は年上のしかも侍女の平民に恋して、周囲の意見を聞かない一種の恋愛モンスターになってしまったのである。
一番の問題は、彼が勝手に恋することをやめることがなく、一生結ばれない相手に恋をした場合に、その王子がどうなるのかである。
誰とも恋愛をせず、結婚もするなら他者と形式だけとなる。
だが、フィルフリードは内心では結婚したくないと感じ始めていた。
これは、彼の裏側の設定である独占欲の強さと身の潔白さを求めるという現実の方の彼の特徴が強く引っ張られたためである。
そうこうしているうちに、その事実が王宮内に知られることとなり、その侍女は王宮を離れることとなった。
フィルフリードはどこに言ったかもわからない相手に恋を抱き続けた。
しかし、そこに15歳のときに現れたロザリアが彼のその気持を大きく変えることになった。
まず、フィルフリードの好きな相手を聞き出してきて、その相手に合わせるというのである。
そのとき、侍女には恋人がいて、彼女らが抱き合って接吻する姿を目撃するはめになった。
それでもと思うフィルフリードに対し、ロザリアは、更に別の日に彼女に合わせて驚くべき事実を知らしめた。
侍女は全く別の男と同じことを別の場所でしていたのである。
恋人がいながらの浮気で、最初から裏切られていたのだとロザリアは言い切った。
王宮にいたのも、最初から愛人との関係を求めたからだと。しかし、王太子の噂が立って、その相手が見つかりにくくなり、王宮から去ったという事実があるのだと伝えた。
フィルフリードは涙し、それを優しく慰めたのがトザリアだった。
「私なら、決して浮気などはしませんし、お慕いしているのもフィルフリード様だけです。もし私のことを好きになってくれるのならば、あなたに一生ついていくつもりです」
「……本当か?」
「ええ、王太子様に嘘は申しません」
「では明日からなるべく一緒にいてくれ」
フィルフリードの気持ちが完全に切り替わった瞬間だった。
彼にはもう一つ設定があり、それは粘着に逆行するような恋愛の切り替えの速さだった。
好きな気持がある間は、それを勝手に切らすことはないが、それが作為や悪意によるものだとわかった途端に、相手のことを好きではなくなるという制御不能で厄介なものだ。
こうして、元婚約者候補のセレスに気持ちが移ることが一切ない状態で、ロザリアに心を奪われてしまったのである。
そして、事実が暴かれないままなら、彼が気持ちを失うこともなく、処刑されそうな状況でも信じ続けるという愚行を犯すことになるのだった。
***
時は流れて、フィルフリードが18歳になった時、婚約者を正式に決めることになった。
茶会では自分を支え続けたロザリアを指名し、セレスには気持ちを正確に伝えられたとともい込んでいた。
そこでセレスの蛮行に対し、身を挺してフィルフリードはロザリアをかばった。
まさか、セレスがロザリアの悪口や陰謀論を持ち出して、婚約に執着するとは思っていなかった。
その翌日、アンという少女が王の間に通されて、会見が行われた。周囲の話によると、監察のような役目を持つ人物が大国から送られてきたのだという。
このとき、最も様子がおかしかったのはロザリアだったが、大国の使者ということで緊張していたのだろうと考えた。
だが、その事件は目の前で起こった。
王が血を吐いて倒れたのである。
そして、ロザリアはアンが不審な動きをしたと指摘し、動揺するアンは捕まって地下牢に放り込まれたのである。
それを少しだけおかしく思ったフィルフリードだが、その心根でその違和感はスルーされた。
その後、アンの処遇について話し合うことになり、他国の暗殺者だったか、雇われた殺し屋という線で決着が突いたのだ。
そのことには明確におかしいと感じたフィルフリードは、状況から考えても毒を盛るような時間はなかったはずである。
そこで、フィルフリードは周囲には内緒でアンを外に逃がすことに決めたのである。
外で少し騒ぎを起こして、陽動を行い、そのうちに地下牢に忍び込んだのである。
アンと対面して、フィルフリードはやはり犯人ではないと考えた。
この事件はセレスがロザリアをナイフで刺そうとして、彼がやらかしてしまったあの茶会での出来事から続く、誰かの暗躍だったのではないかと。
ロザリアをかばうことを前提にして、ナイフで刺そうとすれば、かばうことが考えられるからだ。
おそらく、裏で糸を引いているものはセレスにナイフを渡した人間だと考えていた。
しかし、アンは、フィルフリードに真犯人がロザリアではないかというのである。
たしかにおかしなところもあるかも知れないが、それでも彼にはロザリアを切り捨てて信じず行動することはできない。
その日は、そこでアンと別れて、暗躍するものを探す約束をした。
なかば、王の決めたことだったが、フィルフリードも本心と婚約者は分けて国のトップに立つ存在としてそれを受け入れた。
しかし、彼には幼い頃から侍女の世話係に助けられてきた若い女性の存在がいた。
年月を重ねてもその淡い愛情は消えることなく、10歳になる頃には、明確にそれを意識していたのだ。
仮の婚約者で王妃候補となったセレスに対しては、政治的な相手としか考えていたなかったため、目もくれずに平民の世話係に目を奪われていた。
これはフィルフリードという人物が現実の世界とキャラクターだった世界が交わって生み出された『一度愛すると思い込みが激しい王太子』という設定をそのまま現実にしたものだ。
それが不幸を呼び込み、彼は年上のしかも侍女の平民に恋して、周囲の意見を聞かない一種の恋愛モンスターになってしまったのである。
一番の問題は、彼が勝手に恋することをやめることがなく、一生結ばれない相手に恋をした場合に、その王子がどうなるのかである。
誰とも恋愛をせず、結婚もするなら他者と形式だけとなる。
だが、フィルフリードは内心では結婚したくないと感じ始めていた。
これは、彼の裏側の設定である独占欲の強さと身の潔白さを求めるという現実の方の彼の特徴が強く引っ張られたためである。
そうこうしているうちに、その事実が王宮内に知られることとなり、その侍女は王宮を離れることとなった。
フィルフリードはどこに言ったかもわからない相手に恋を抱き続けた。
しかし、そこに15歳のときに現れたロザリアが彼のその気持を大きく変えることになった。
まず、フィルフリードの好きな相手を聞き出してきて、その相手に合わせるというのである。
そのとき、侍女には恋人がいて、彼女らが抱き合って接吻する姿を目撃するはめになった。
それでもと思うフィルフリードに対し、ロザリアは、更に別の日に彼女に合わせて驚くべき事実を知らしめた。
侍女は全く別の男と同じことを別の場所でしていたのである。
恋人がいながらの浮気で、最初から裏切られていたのだとロザリアは言い切った。
王宮にいたのも、最初から愛人との関係を求めたからだと。しかし、王太子の噂が立って、その相手が見つかりにくくなり、王宮から去ったという事実があるのだと伝えた。
フィルフリードは涙し、それを優しく慰めたのがトザリアだった。
「私なら、決して浮気などはしませんし、お慕いしているのもフィルフリード様だけです。もし私のことを好きになってくれるのならば、あなたに一生ついていくつもりです」
「……本当か?」
「ええ、王太子様に嘘は申しません」
「では明日からなるべく一緒にいてくれ」
フィルフリードの気持ちが完全に切り替わった瞬間だった。
彼にはもう一つ設定があり、それは粘着に逆行するような恋愛の切り替えの速さだった。
好きな気持がある間は、それを勝手に切らすことはないが、それが作為や悪意によるものだとわかった途端に、相手のことを好きではなくなるという制御不能で厄介なものだ。
こうして、元婚約者候補のセレスに気持ちが移ることが一切ない状態で、ロザリアに心を奪われてしまったのである。
そして、事実が暴かれないままなら、彼が気持ちを失うこともなく、処刑されそうな状況でも信じ続けるという愚行を犯すことになるのだった。
***
時は流れて、フィルフリードが18歳になった時、婚約者を正式に決めることになった。
茶会では自分を支え続けたロザリアを指名し、セレスには気持ちを正確に伝えられたとともい込んでいた。
そこでセレスの蛮行に対し、身を挺してフィルフリードはロザリアをかばった。
まさか、セレスがロザリアの悪口や陰謀論を持ち出して、婚約に執着するとは思っていなかった。
その翌日、アンという少女が王の間に通されて、会見が行われた。周囲の話によると、監察のような役目を持つ人物が大国から送られてきたのだという。
このとき、最も様子がおかしかったのはロザリアだったが、大国の使者ということで緊張していたのだろうと考えた。
だが、その事件は目の前で起こった。
王が血を吐いて倒れたのである。
そして、ロザリアはアンが不審な動きをしたと指摘し、動揺するアンは捕まって地下牢に放り込まれたのである。
それを少しだけおかしく思ったフィルフリードだが、その心根でその違和感はスルーされた。
その後、アンの処遇について話し合うことになり、他国の暗殺者だったか、雇われた殺し屋という線で決着が突いたのだ。
そのことには明確におかしいと感じたフィルフリードは、状況から考えても毒を盛るような時間はなかったはずである。
そこで、フィルフリードは周囲には内緒でアンを外に逃がすことに決めたのである。
外で少し騒ぎを起こして、陽動を行い、そのうちに地下牢に忍び込んだのである。
アンと対面して、フィルフリードはやはり犯人ではないと考えた。
この事件はセレスがロザリアをナイフで刺そうとして、彼がやらかしてしまったあの茶会での出来事から続く、誰かの暗躍だったのではないかと。
ロザリアをかばうことを前提にして、ナイフで刺そうとすれば、かばうことが考えられるからだ。
おそらく、裏で糸を引いているものはセレスにナイフを渡した人間だと考えていた。
しかし、アンは、フィルフリードに真犯人がロザリアではないかというのである。
たしかにおかしなところもあるかも知れないが、それでも彼にはロザリアを切り捨てて信じず行動することはできない。
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