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第3章

日の射さない世界で

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夫婦は、西側を中心に、町中を探し回っていた。

手掛かりは、
「目出し帽を被った二人組」
というマリーの記憶だけだ。

その目出し帽を被っていた犯人たちも、今は被っていないかもしれない。そして、マリーを殴りつけた棒状の武器も、どこかへ捨てているかもしれない。

せめて、あの花束だけでも取り返せたら・・・。夫婦は、そんな思いでいっぱいだった。

しかし、今のままでは、情報が少なすぎる。その上、この世界の住人はみんな固まったままで、目撃証言を得ることができなかった。

もしかしたら、もう町の外へ出ていったのではないか? そんな不安を抱くほどに、町の中では、手掛かりが得られなかった。

フランソワは考えた。あの、神の啓示? が正しいなら、まだ花束は綺麗な状態で、取り戻せるはずだ。

今まで、犯人を捕まえることばかり考えていたが、当初の目的は、花束をこの手に取り戻すこと。そちらに、専念しよう!

 
マリーにそのことを話すと、すんなり賛同が得られた。それから夫婦は、どこかにあの花束がないか? 誰かが持っていないか? その2つの観点から、町中を捜索していた。

それでも、時が経つのは早いもので、もう、神の啓示から1時間半が経っていた。

仕方なく、夫婦は手分けして、町の中をマリー。そして町の外は、フランソワが担当することにした。

最初は、マリーも町の外に出たがったが、何せ殴られて、止血をしたあとだ。夫のフランソワはその理由を口には出さなかったが、妻への、最大限の配慮をしたつもりだった。

久方ぶりに、徒歩で町の外に出たフランソワは、街道に沿って、まっすぐ歩いて行った。時々、左右の畑や、草むらに注意を払いながら、ぐんぐんと街道を突っ切っていく。

「このままでは、隣の村まで行ってしまうな」

そう。この街道の終着点は、隣町ではなく、「隣の村」である。勿論、フランソワは、その村に何度も行っている。何故なら、村で花の苗を仕入れているからだ。
  
そして、勿論。この村もモノクロで、みんなマネキン人形になっているだろう。その覚悟は、できていた。

だが、いつまで歩いても、いつもの村は見えない。よく目を凝らしてみると、既に村の中に入っており、どの家も、焼かれて灰になっていた。あの犯人たちが放火したのか?

いや、ここでは、もっと大きな力が働いている。フランソワは、そう悟った。とても恐ろしかった。今すぐ、逃げたくなるような惨事。

また、神の啓示がないと動けないほどに、手足は震え、冷や汗が止まらなかった。

一方、その頃、マリーは座りこんでいた。

先ほどまで、必死になって花束を探していたが、どうにも見つけられない。

そのうちに、貧血で倒れ込んでしまったのだ。ごめんね、ライアン。そして、フランソワ。

思わず天を仰ぐと、そこには、今のマリーの心を映したかのような、灰色一色がどこまでも続いていて、思わず、頬を温かいものが伝った。

その頃、完全に頭の中が真っ白になっていたフランソワは、何故だか、そんなマリーの現在の様子を、じっと想像し続けていた。

しかし、ハッと我に返り、そんなはずは無いと、頭の中から振り払った。

まず、この状況で、自分にできることは何だろう? ふぅ、と深呼吸をして、努めて冷静に、これまでを振り返った。

今日は、ライアンの誕生日。妻のマリーは、誕生日プレゼントとして、挿し木から育てた、貴重な花束を作っていた。そして、自分は、他の町から花の苗を仕入れに行き、不在だった。

フランソワが店に戻ると、額から血を流したマリーが、気絶した状態で倒れており、止血をして起こすと、二人組の強盗に襲われた、と言った。

その二人は目出し帽を被っており、男か女かも、分からない。ただ、何かで頭を殴られ、そこからの意識はない。

その後、マリーと二人で店の中をチェックすると、取られたものは、なけなしの現金。そして、あの花束だった。
夫婦で絶望していると、神のお告げ? があり、犯人が西に逃げたこと。

そして、自分とマリーだけが動ける「この世界」を作ってくれた。

だが、町の中に犯人らしき人物はおらず、こうして、西隣の村に来てみると、全ての家が焼けて、壊滅状態になっていた。

フランソワにとって、生まれてからずっと、こんな凄惨なことはなかったのに、立て続けに2件。しかも、片方は、戦争でもあったのかというくらいにおぞましい事件が起きた。

思わず、絶望にとらわれ、フランソワもまた、空を見上げた。どこまでも続く灰色の空。気持ちまで、どんよりとしてくる。駄目だ! 諦めるわけにはいかない!

どうやら、町を壊滅させた軍団は、南へ向かったようだ。舗装がされていない砂利道に、幾重にも重なる足跡。そして、タイヤ痕が残っていた。フランソワは、勇気をもって、南へと歩を進めていった。

しかし、勤続疲労により、足取りは重く、足が棒になった様だった。そんな自分に苦笑しながら、ゆっくりと歩いていると、道端に誰か倒れている!

慌てて駆け寄ったが、二人とも、既に息絶えていた。

この二人、目出し帽を被っている! もしや、花屋を襲ったのは、この二人ではないか? 何故ここで死んでいるのか、全く事情は読めないが、持ち物を調べても、何も出てこなかった。

神のお告げである、強盗犯は見つけた。しかし、肝心の花束。そして、店の売上金は見つからないままだ。

正直なところ、理不尽ではあるが、捜索はもうやめようか? 殴られて気絶した妻の容態も気になる。フランソワは、心が折れて、花屋へとトボトボ帰っていった。

灰色の世界の中を、花屋まで戻ると、そこだけ明かりが漏れていた。それだけで、フランソワは、ホッとした。だが、店の中へ入ると、妻が臥せっていた。

「帰ったよ! マリー?」

呼びかけても、応答がない。やはり、失血が多すぎたか? 

しかし、今は医者を含めて、みんながマネキンだ。誰も治してくれる人がいない。妻の為にも、一刻も早く花束を見つけ、元の世界に帰らなければ。

フランソワは、再び自らを奮い立たせた。

30分後、体力を回復したフランソワは、意識を取り戻したマリーに見送られながら、再び店を飛び出した。

そして、西の村を過ぎ、再び南下していった。途中で、先ほどの強盗たちの遺体をわざと蹴飛ばし、謎の軍団のあとを追った。

途中で、フランソワは足を止めた。そこには、大きな橋が架かっており、下を川が流れていた。ここから先は、一度も行ったことのない土地だ。

小さい頃は、この川で遊んでいたが、この先には行かなかった。何故なら、昔から、両親に、
「橋を渡るな。この先は危険だ」
と釘を刺されていたからだ。

あの頃の忠告を思い出しながら、それでも、フランソワは覚悟を決めて、橋を渡った。
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