青年A

宇佐川 昭俊

文字の大きさ
上 下
6 / 8
第5章

君と一緒に1

しおりを挟む
 朝日が部屋に差し込み、A君は目を覚ました。寝ている間、ずっとBさんの事を、夢見ていた。誰も、落とせない。そんな難攻不落なBさんに受け入れられ、イチャイチャする。夢だけど、幸せな時間だった。

「うしっ! 今日も頑張るか!」

 気合を入れて、ベッドから飛び起きた。両親に勘繰られるほど、てきぱきと支度をして、意気揚々と学校へと向かった。いつもより早く学校に着き、予習しよう! と、教科書を引っ張り出していると、登校してきたBさんと目が合った。いつもより輝いた目。そして、大きな声で、

「おはよう!」

と挨拶したA君だったが、Bさんはびっくりした様子で、

「あ・・・おはよう」

と返しただけだった。

 それも当然。A君は、今日だけ、ピカピカと輝いているのだ。いつもは、挨拶すらしない仲だったのに。

 授業中も、誰より真剣だった。何せ、国立大学への進学と、Bさんからのリスペクトが掛かっている。教科によって、得手不得手はあれど、常に、勉強においてはBさんに頼られたい。そんな自分が居た。

 男は、頼られたい生き物だ。そこから、Bさんとの距離を縮めていく。その目標が、A君にとって、一筋の光。希望となっていた。

 やはり、普段から勉強の成果が出ていても、維持するためには、血の滲むような努力をしている。そこには、モチベーションがなければ、長くは続かない。だからこそ、この光明の光は、A君には必要不可欠だった・・・例え、Bさんと結ばれなくても。

 そんな、淡い恋のために頑張っていたA君だったが、流石に勉強が難解になり、「塾に行きたい!」
と親に頼んだ。勿論、両親はOKを出した。

 それから、週末。A君は家族と共に、近所にある塾を一通り見学し、値段。雰囲気。合格実績などを確認しながら、慎重に塾選びを行った。家族3人で検討し、最終的にはA君が決めた。

 初日。案内されたクラスに行くと、まだ、人はまばら。半数近くが知らない顔だ。最前列では、既にカリカリと自習をしている人たちもいた。A君は、中ほどに座り、このクラスの雰囲気を観察していた。そうしていると、例によって、Bさんが現れた。

 お互いに、目と目が合い、軽く頭を下げた。そして、彼女は、いつものように女子グループへと向かっていった。ただ、会ったその一瞬。彼女はびっくりしていた。

 あとで、話しかけられるかな、と期待していたら、キャーキャーと騒ぎながら、女子グループを引き連れて、こちらへと、やってきた。

「真面目くん。今日、初日?」

「うん。そうだよ。流石に学校の授業だけじゃ、付いていけなくなったから」

「うそ! 真面目くんでも、そんなことがあるんだ!」

「えー、意外!」

 そう言うと、女子グループは、きゃはは、と笑いながら前列に戻っていった。そして、講師が入ってくると、立ち話をしていた生徒たちが、一斉に席へと向かった。

 いざ講義が始まると、高校とは違い、無駄なおしゃべりをする者は一人も居なかった。素晴らしい! ただただ講師の声と、シャーペンでノートにまとめる、カリカリという音が聞こえるだけ。

 みんな、本気の目でノートを取っており、A君も、その雰囲気に乗せられて、勉強がはかどった。

 塾って、良いなあ。帰り道。一人で、のほほんと、そんなことを考えていた。

「あ!」

 そう。よく考えたら、Bさん宅も、帰り道が途中まで一緒なんだっけ? 塾の初日は、色々と疲れて、いの一番に出てきたんだった。待っていれば、彼女は来るだろうか? それとも、友達とお茶でもしてから、帰るのだろうか? 

 ここまでの感触では、女友達を大切にする方だ。諦めて帰ろう。疲れたし。

 その日は、そのまま、トボトボと家路についた。

 翌日、目が覚めると、体が重かった。Bさんとの接点が得られなかったからではない。学校と塾の掛け持ちに、まだ、体が慣れていないためだ。それでも、これは、自分で言い始めたこと。それに、体はきつかったが、メンタルは折れていなかった。

 この生活に、どれくらいしたら慣れるだろう? そんなことを考えながら、今日も、登校していた。頭がボーっとしたまま、気が付くと、クラスの自分の席に座っていた。はあ。少し寝ようか。机に突っ伏すと、すぐに夢の中へと落ちていった。

 夕方の河川敷。Bさんと手をつなぎ、その綺麗な夕日を眺めながら歩き、日が沈んでいくのを、河原に座って二人で・・・。

 突然、体に衝撃が走った。体を揺さぶられていると分かるまでに、三秒要した。

「ふわ?」

 見上げると、Bさんがいた。少し、怒っているようにも見える。

「A君。もう、授業が始まるよ!」

 そう言って、彼女は席に戻っていった。ああ、「ありがとう」も、言えなかったな。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

小学生最後の夏休みに近所に住む2つ上のお姉さんとお風呂に入った話

矢木羽研
青春
「……もしよかったら先輩もご一緒に、どうですか?」 「あら、いいのかしら」 夕食を作りに来てくれた近所のお姉さんを冗談のつもりでお風呂に誘ったら……? 微笑ましくも甘酸っぱい、ひと夏の思い出。 ※性的なシーンはありませんが裸体描写があるのでR15にしています。 ※小説家になろうでも同内容で投稿しています。 ※2022年8月の「第5回ほっこり・じんわり大賞」にエントリーしていました。

飲みに誘った後輩は、今僕のベッドの上にいる

ヘロディア
恋愛
会社の後輩の女子と飲みに行った主人公。しかし、彼女は泥酔してしまう。 頼まれて仕方なく家に連れていったのだが、後輩はベッドの上に…

女子高生は卒業間近の先輩に告白する。全裸で。

矢木羽研
恋愛
図書委員の女子高生(小柄ちっぱい眼鏡)が、卒業間近の先輩男子に告白します。全裸で。 女の子が裸になるだけの話。それ以上の行為はありません。 取って付けたようなバレンタインネタあり。 カクヨムでも同内容で公開しています。

13歳女子は男友達のためヌードモデルになる

矢木羽研
青春
写真が趣味の男の子への「プレゼント」として、自らを被写体にする女の子の決意。「脱ぐ」までの過程の描写に力を入れました。裸体描写を含むのでR15にしましたが、性的な接触はありません。

結構な性欲で

ヘロディア
恋愛
美人の二十代の人妻である会社の先輩の一晩を独占することになった主人公。 執拗に責めまくるのであった。 彼女の喘ぎ声は官能的で…

初めてなら、本気で喘がせてあげる

ヘロディア
恋愛
美しい彼女の初めてを奪うことになった主人公。 初めての体験に喘いでいく彼女をみて興奮が抑えられず…

処理中です...