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真実

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「座ったら?」

葵は司の隣に座り直した。

「ああ。」

葵が座っていた所に座ると、司がコーヒーを淹れてくれた。

「・・・。」

「エリック、もう全て話して?貴方の力になりたいの。」

葵はエリックの瞳を見据えて言った。
ため息を吐いてエリックが語り始めた。

「始まりは、三ヶ月前だ。ジャッカルのレインから突然連絡が来たんだ。アオイを殺せと。当然俺は断ったよ。それで、話しは終わったと思ってた。でも、急にそんな事を言ってきたのが気になってジャッカルの事を調べた。そうしたらレイン達はニューヨークに舞い戻って来ている事を知ったんだ。細々と活動していたらしい。レインを含めてたったの四人でな。昔の様にスラム街の子供達を仲間に引き入れるんじゃないかって俺はレイン達を気に掛けるようになった。」

「・・・。それで?」

「一ヶ月は音沙汰無かったんだが、二ヶ月前にまたレインがら連絡が入った。向こうも俺の事を調べたんだろう?アオイを殺さなければ俺の大切な人間を殺すと言ってきた。」

「・・・。」

「俺が施設で育ったのは知ってるだろ?」

「ええ。」

「その施設で一緒だった女の子が俺になついててな。俺はもともと施設の前に赤ん坊の頃に捨てられてたんだ。その女の子は親から虐待を受けてて施設に来た。俺はその子の事を妹みたいに可愛がったし、その子は俺を慕ってくれた。二人で寄り添って生きてたんだ。二人の間に愛情が芽生えるのは簡単だった。俺にとってソフィアが世界で一番大切な人になるのに時間は掛からなかった。だけどっ・・ソフィアは俺の裏の顔は知らない。バイオリニストのエリック・ブライトしか知らないんだっ!なのに、俺のせいで命を狙われる事になった。アオイを殺さなければソフィアを殺すと言われたよ。だから俺は・・、おれはっ!でも!アオイを殺すなんて出来なかった。だから、俺が死ねばソフィアもアオイも助かるっ!」

「もういいよ、エリック。私のせいでごめんね。辛い思いをさせたね?でも、エリックが死ぬ必要なんてない!もちろんソフィアさんもね?」

「・・・。日本に来る前にソフィアとは別れた。あいつは本当に純粋な優しい娘なんだ。俺なんかと一緒に居るべき人間じゃないっ。そもそも、俺達みたいな人間が大切な人を作るべきじゃないんだ。その人間を危険にさらす事になるんだからな。アオイとツカサだってそうだ。アオイはツカサを危険にさらして平気なのかっ?」

「それは・・・。私も沢山悩んだよ?でも、私は司と生きていくって決めたの。司の事はどんなことをしても守るし、私も死ぬ気はないよ?」

「綺麗事だな?そんな甘い考えではいつか二人とも命を落とすぞ?」

「わかってる。綺麗事だってことも。だけど、私の心が司と一緒に居たいって言ってるの。」

「葵・・。俺だって葵と一緒に居たい。この気持ちは曲げられない。」

「アオイは本当に変わったよ・・。強くなった。それはツカサが居るからなんだろうな?」

「・・・。レインは日本に来てるのよね?滞在先は知らないの?」

「ああ。でも、一度だけ電話があった。ホテルに。」

「そこから割り出せないかな?」

「樹に頼んでみるよ。」

「ありがとう。エリック。レインはその電話で何て言ってきたの?」

「アオイを始末する日を教えろって言ってきた。多分自分の目で確認するためだろうな?」

「・・・。そう。じゃあ、最悪その時にレインは近くに来るって訳だ?」

「ああ、そうだと思う。」

葵は何かを考え込んだ。形のいい唇の口角を上げて言った。

「じゃあ、お望み通りエリックと私の対決にご招待しましょうか?」

葵の提案に、エリックも司も目を瞬かせた。

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