上 下
9 / 25

同朋

しおりを挟む
「ニューヨーク市警に知り合いがいる。今、ジャッカルがどういう状態なのか聞いてみる。エリックに聞ければ良いんだけど・・。多分すぐには話してくれないと思うから。」

葵はスマホを取り出すとスピーカー通話にして電話を掛けた。

『アレク?葵よ。久しぶり。』

『アオイ?本当にアオイなのか?日本に行ったきり帰ってこないから心配してたんだ。元気でやってるのか?ニューヨークには帰ってこないのか?』

『ごめん。心配かけて。日本で元気にやってるよ。』

『そうか。良かった。・・・。俺に連絡してきたって事は何か厄介事か?』

『相変わらず察しが良くて助かるわ。ジャッカルの事を聞きたいの。』

『・・・。何があった?』

アレクの声のトーンが低くなった。

『うん・・。私に復讐しようとレインが動いてるみたい。』

『レイン・コックスか?まだ三年前の事を根に持ってるのか?あれは、ジャッカルの若者達を助ける為にアオイ達が動いてくれたんだろ?ニューヨーク市警の依頼で。』

『そうだけど。レインにとっては組織を潰されたんだから恨みに思うでしょ?』

『あの時は、自分だけさっさと逃げたのにな?』

『で?今ジャッカルはどうなってるの?』

『俺達も気に掛けてた。暫くニューヨークを離れてたが最近になって舞い戻って来たみたいだ。また、細々と活動してるみたいだがなかなか居場所が掴めなくてな。』

『そう・・・。わかったわ。ありがとう、助かった。』

『こっちでも調べてみるよ。アオイくれぐれも気を付けてくれ?レインは狡猾な奴だ。どんな手を使ってくるかわからない。』

『そうね・・。ありがとう。また、連絡するわ。』

電話を切ると葵は黙り込んだ。

「ニューヨーク市警の依頼で動いてたんだな?」

「うん。あの時、アレク達はジャッカルの若者達の事に心を痛めてた。でも、多忙を極めるアレク達にはどうする事も出来なかった。私とエリックは彼らの代わりに仕事をしただけ。」

葵は目を伏せて自分の両手を見た。

「だけど・・。あの時エリックを誘わなければこんな事にはならなかった。私一人でやるべきだった・・。」

司の大きな手が葵の手を包んだ。

「そんな事言うな。何でも一人で背負おうとしなくていいんだ。」

「司・・。」




********




翌朝。

「おはよー。司?」

欠伸をしながらリビングに顔を出す。

「・・・。」

テーブルの上には朝食が用意してある。

「まだ温かい・・?」




その頃、エリックの部屋のベルが鳴る。

「誰だよ、こんな朝早くに・・。」

ドアを開けると司が立っていた。

「昨日の今日で来るとはね?しかも一人で来るなんて・・。ツカサはある意味肝が据わってるのかな?」

「エリックに聞きたい事がある。」

「・・・。とりあえず入りなよ。」

室内に入ると、エリックはルームサービスを頼んでいた。

「それで?聞きたい事って?答えられる事と答えられない事があるけど?」

「葵から話は聞いた。仕事の報酬は金か?」

「・・・。違う。そんなもんじゃない。」

「だったら、何なんだ?どうしたら葵を諦めてくれるっ?葵は自分を責めてた。エリックを巻き込んでしまったって!一人で背負おうとしてる。」

「っ・・・。」

「何か有るんだったら言ってくれ?エリックの力になるからっ!だから・・葵を狙うのは諦めてくれ!?」

「ほんと、ツカサはお人好しだな?そんなんで、裏の世界で生きていけるのか?アオイのパートナーで居られるのか?世の中は不条理な事ばかりだ。」

「そんなの、俺が一番解ってるっ!だけど、この気持ちだけはどんな事があったって曲げられない!」

「・・・。」

エリックは悲しそうな瞳で司を見た。

「羨ましいよ。ツカサのその強さが・・。」

「エリック・・。」




ホテルを出ると葵が待っていた。

「ごめん。勝手なことして・・。」

「ううん。大丈夫。」

「結局、エリックからは何も聞けなかった。」

「そっか・・。」

俯く司の手を握った。葵の手は少し冷たかった。

「でも、司の気持ちは届いたと思うよ?」

「そうかな?」

「うん。」

繋いだ手を司が握り返してくれた。

「帰ろっか?」

「ああ。」

 そんな二人をエリックは客室から見つめていた。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

仲の良かったはずの婚約者に一年無視され続け、婚約解消を決意しましたが

ゆらゆらぎ
恋愛
エルヴィラ・ランヴァルドは第二王子アランの幼い頃からの婚約者である。仲睦まじいと評判だったふたりは、今では社交界でも有名な冷えきった仲となっていた。 定例であるはずの茶会もなく、婚約者の義務であるはずのファーストダンスも踊らない そんな日々が一年と続いたエルヴィラは遂に解消を決意するが──

王子妃教育に疲れたので幼馴染の王子との婚約解消をしました

さこの
恋愛
新年のパーティーで婚約破棄?の話が出る。 王子妃教育にも疲れてきていたので、婚約の解消を望むミレイユ 頑張っていても落第令嬢と呼ばれるのにも疲れた。 ゆるい設定です

幼い頃に魔境に捨てたくせに、今更戻れと言われて戻るはずがないでしょ!

克全
恋愛
「カクヨム」と「小説家になろう」にも投稿しています。 ニルラル公爵の令嬢カチュアは、僅か3才の時に大魔境に捨てられた。ニルラル公爵を誑かした悪女、ビエンナの仕業だった。普通なら獣に喰われて死にはずなのだが、カチュアは大陸一の強国ミルバル皇国の次期聖女で、聖獣に護られ生きていた。一方の皇国では、次期聖女を見つけることができず、当代の聖女も役目の負担で病み衰え、次期聖女発見に皇国の存亡がかかっていた。

麗しのラシェール

真弓りの
恋愛
「僕の麗しのラシェール、君は今日も綺麗だ」 わたくしの旦那様は今日も愛の言葉を投げかける。でも、その言葉は美しい姉に捧げられるものだと知っているの。 ねえ、わたくし、貴方の子供を授かったの。……喜んで、くれる? これは、誤解が元ですれ違った夫婦のお話です。 ………………………………………………………………………………………… 短いお話ですが、珍しく冒頭鬱展開ですので、読む方はお気をつけて。

不倫をしている私ですが、妻を愛しています。

ふまさ
恋愛
「──それをあなたが言うの?」

そんなに妹が好きなら死んであげます。

克全
恋愛
「アルファポリス」「カクヨム」「小説家になろう」に同時投稿しています。 『思い詰めて毒を飲んだら周りが動き出しました』 フィアル公爵家の長女オードリーは、父や母、弟や妹に苛め抜かれていた。 それどころか婚約者であるはずのジェイムズ第一王子や国王王妃にも邪魔者扱いにされていた。 そもそもオードリーはフィアル公爵家の娘ではない。 イルフランド王国を救った大恩人、大賢者ルーパスの娘だ。 異世界に逃げた大魔王を追って勇者と共にこの世界を去った大賢者ルーパス。 何の音沙汰もない勇者達が死んだと思った王達は……

政略結婚で結ばれた夫がメイドばかり優先するので、全部捨てさせてもらいます。

hana
恋愛
政略結婚で結ばれた夫は、いつも私ではなくメイドの彼女を優先する。 明らかに関係を持っているのに「彼女とは何もない」と言い張る夫。 メイドの方は私に「彼と別れて」と言いにくる始末。 もうこんな日々にはうんざりです、全部捨てさせてもらいます。

アルバートの屈辱

プラネットプラント
恋愛
妻の姉に恋をして妻を蔑ろにするアルバートとそんな夫を愛するのを諦めてしまった妻の話。 『詰んでる不憫系悪役令嬢はチャラ男騎士として生活しています』の10年ほど前の話ですが、ほぼ無関係なので単体で読めます。

処理中です...