十年愛 〜私が愛した人はズルイ人でした。それでも愛するのを止められないのは私の罪ですか?〜

朔良

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忘却の楔35

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帝都ホテルの駐車場に車を停める。一度目を瞑り大きく息を吐いた。

(よしっ!行こう。今の私の気持ちをちゃんと話すんだ!)

ロビーからエレベーターに乗り客室のドアの前まで来た。
チャイムを鳴らすと雅也がドアを開けてくれた。

「いらっしゃい。どうぞ?」

「お邪魔します。」

ソファーに腰掛けると向いに雅也が座った。譲の姿がなかった。

「あぁ、兄さんなら席を外してる。」

美咲の感情がわかっているかのように付け加えた。

「・・そうですか・・・・。」

「それで?話って?」

「私は・・雅也さんの元には戻れないです・・。」

「・・・・それは、どうしてか聞いても良い?」

「私達の関係は1年前に終わったんです・・。そして、お互いの道を歩き始めた。その間の時間を無しには出来ない。」

「他に好きな人でも出来た?」

「それは・・、今はそんな気持ちになれないです。」

「だったら!俺は長嶺の家も仕事も美咲のためなら捨てられる!あの時、美咲を信じられなかった償いをさせて欲しい。俺には君が必要なんだ!!」

「・・・・、ごめんなさい・・。」

美咲は誠心誠意頭を下げた。

「でも、駄目だよ?家からも仕事からも逃げちゃ。私が偉そうに言えた事ではないけど、それは違うと思う。」

「・・っつ・・・・。」

雅也は悔しそうに俯いてしまった。

「私は、雅也さんの事大好きで大切な人だった。だから、私のせいで自分が決めた事を違えないで欲しい。」

「・・だった・・か。美咲の中ではもう過去の事・・なんだな?俺との事は。」

「・・・・。」

「・・・・。」

二人の間に沈黙が落ちる。

「雅也さん?貴方には貴方のやるべき事が沢山あるじゃないですか?私はそんな雅也さんが好きです。いつも一生懸命で優しくて・・だから離れるんです。私の気持ち・・わかって下さい。」

「・・・・、わかった。美咲?ありがとう。俺は君に出会えて幸せだった。これからは、お互い信じた道を歩こう・・。」

「・・・・はい。」




一人になった部屋でため息をついた。

「雅也?」

戻って来た譲が雅也を気遣う様に声を掛けた。

「兄さん。俺、ニューヨークに戻るよ。美咲と約束したんだ自分の道を歩こうって。」

「・・・・。」

「兄さん?俺の為にありがとう。でも、俺本当にもう大丈夫だから一緒に帰ろう?」

「わかった。それが、お前たちの出した答えなら俺は何も言わない。」

「うん。」
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