十年愛 〜私が愛した人はズルイ人でした。それでも愛するのを止められないのは私の罪ですか?〜

朔良

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忘却の楔23

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「待ちなさいっ!譲っ!」

美咲は応接室の出口で振り返る。

「お金で何でも手に入るなんて思わない事ですね?人の心はそんなに簡単じゃない・・。特に大切な人は。だから皆悩んで迷うんじゃないですか?」

「な、何を偉そうにっ!」

「いい加減にしろっ!!如月さんの言う通りだ!」

二人で長嶺邸を出る。

「譲さん、私はここで大丈夫ですから。」

「駄目です、女性をそんな格好で帰せません!とにかく一緒に来てください!」

「でも・・。」

そんな話しをしていると車がスッと停まる。運転席を見ると雅也が居た。美咲の顔を見て車から降りてきた。

「如月さん?一体どうしたのっ?」

「大丈夫ですから・・。」

美咲は視線を彷徨わせた。

「兄さん一体何があったの?」

「理由は後で話す、とりあえず一旦ホテルに戻ろう。」

「あ、ああ。」




3人の乗った車がホテルにつく。

「俺は如月さんの着替えを買ってくるから2人は先に戻っていてくれ。」

美咲と雅也を入口で降ろすとそのまま出掛けてしまった。

「とりあえず部屋に行こうか?」

「・・はい。」

雅也に着いて客室に向かう。室内に入るとお互い気不味くて無言になってしまう。

「如月さん、そのままの格好で居られないでしょうからシャワー浴びて来てください。」

「・・はい。じゃお借りします。」

美咲がバスルームへ向かうのを見届けると大きな息をついた。

(コーヒーでも入れるか・・。)




美咲はシャワーを浴びてひとまずバスローブを着た。

「すみません、お待たせしました。」

「あぁ、大丈夫だ。」

雅也が美咲に近付くと口元にアザが出来ていた。
優しく触ると申し訳無さそうに呟いた。

「ごめん。母さんが酷いことして・・。」

「ふふっ、大丈夫ですよ?それに雅也さんが謝る事無いです。」

「でもっ!!」

「本当に大丈夫だから気にしないで?」

「・・・・。」

美咲の柔らかな笑顔に逆立っていた気持ちが穏やかになっていった。

「これ、飲んで?」

「ありがとうございます。」

淹れておいたコーヒーを出すとソファーに座る。

「俺達、来週末にニューヨークに帰ることになった。」

「・・そう・ですか・・。」

「うん、仕事の方も余り休んでいられないし。」

「・・・・。」

(これで、本当にもう二度と会うことは無くなりそうね・・。)

目を伏せてコーヒーカップを見つめる。

「色々迷惑をかけて申し訳なかったね。」

「迷惑だなんて・・。思ってない。」

「・・・・。」

「・・・・。」

お互い次の言葉が出て来なかった。その時客室のドアが開くと荷物を持った譲が帰ってきた。

「ごめん、待たせたね?如月さん、これ着替えです。多分サイズは合ってると思うけど?」

「あ、ありがとうございます。じゃあ、着替えてきますね?」

「うん。」

もう一度バスルームへ向う、荷物を開けると真新しいスーツが入っていた。

「・・・・。」

着替えを終わらせて客室に戻る。

「良かった、サイズ合ってたね?」

譲が優しい笑顔を浮かべた。

「あの、スーツのお金払います。おいくらですか
?」

「そんなの、受け取れないよ。」

「いや、でも・・。」

「母親のしたことだ、これ位はお詫びさせて?」

「・・・、わかりました。ありがとうございます。」

「うん。後これ。」

袋からサンドイッチやパンなどの軽食と飲み物を出した。

「時間も時間だから、良かったら食べていって?」

「・・はい。頂きます。」

3人でソファーに座った。


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