十年愛 〜私が愛した人はズルイ人でした。それでも愛するのを止められないのは私の罪ですか?〜

朔良

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忘却の楔22

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 それから週末までは特に何もなかった。週末は珍しく展示会等はなく穏やかな週末だった。
 日曜日も無事に終わり、20時頃会社を退社した。従業員駐車場へ向かうと見たことの有るリムジンが停まっていた。

(・・・・、嫌な予感がする・・。)

 そのまま車に近付くと助手席から男性が降りてきた。

「ご無沙汰しております如月様。」

「・・坂巻さん・・。」

「名前を覚えて頂いているなんて光栄ですね?」

「・・今回は誰の指示ですか?」

「・・・奥さまがお待ちです。」

 美咲は深いため息を吐く。

「わかりました。」

 坂巻に言われるがままリムジンに乗り込む。静かに車は走り出し以前も来たことのある長嶺邸へ着いた。

「如月様、ご案内致します。」

 逆巻の後に続く。いつ見ても重厚な造りに圧倒される。
 そのまま、坂巻に案内されたのは応接室だ。母親が不機嫌そうに紅茶を飲んでいた。

「奥様、如月様をお連れしました。」

 そう声を掛けた坂巻をジロリと睨んだ。場の雰囲気が一気に凍る。

「それで?また私に何の御用ですか?」

 逆巻にとっての助け舟を出す。今度は美咲のことを忌々しく睨んだ。

「あなた、もう二度と長嶺家に関わらないと言ったわね?でもなに、この間のパーティーでは譲にまで手を出してっ!ほんと、節操のない野良猫ねっ!!」

「・・・・・・。」

「何か言ったらどうなのっ!?手切れ金は渡したわよねっ!?」

 長嶺の母親は途中で部屋から出て行ってしまったので、小切手を破り捨てた事は知らなかった。

「・・・・。」

 何も言わない美咲にイライラが頂点に達した。なみなみとついである紅茶を美咲に向かってかける。
 着ていたスーツやシャツが紅茶色に染まる。

「っつ・・・。」

 何も言わずに睨み返した。
 その行動が更に怒りを買った。激昂した母親はツカツカと美咲に近付くと頬を思いっ切り叩いた。
 美咲は一瞬眼の前が白くなるが何とか堪えた。そんな美咲に追い討ちを掛けるようにもう一度頬を叩く。
 流石の美咲もその場に崩れ落ちた。口の中を切ったのか唇の端から血がパタパタと落ちた。そんな事は一切気にせずもう一度睨みをきかせる。

「くっ・・ドブネズミはドブネズミらしく下水道を這い回ってなさいよ!!」

 まだ、気の収まらない母親が美咲に暴言を吐く。

「奥様、これ以上は・・。どうか、お控えください。」

 二人の間に仲裁に入る。

「坂巻っ!!余計な事するんじゃないわよっ!!」

 いまだ、怒りの収まらない母親に口元の血を拭いながら美咲が立ち上がる。

「・・貴女は本当に息子さん達を愛してるんですか?私には到底そうは見えませんけど?」

「あなたっ・・!!」

 咄嗟に母親を止めた。応接室の扉が勢い良く開く。

「いい加減にしろよっ!!!恥ずかしい!!もう、子離れしてくれっ!?俺達の事は俺達自身で決める!!そこに貴女あなたに文句を言われたくないな!?」

「譲っ!?」

譲は美咲の側によると口元を見た。

「こんなになって・・、大丈夫?」

「はい・・。」

美咲の無事を確認するともう一度母親に向き直る。

「暫く、貴女とは距離を置きたい。勿論雅也もね?その間に改心するんだね!?」

そう言って美咲の肩を抱き応接室を出ていく。
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