十年愛 〜私が愛した人はズルイ人でした。それでも愛するのを止められないのは私の罪ですか?〜

朔良

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忘却の楔16

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「俺と君の関係って・・、ただの知り合いって訳じゃないよね?」

雅也が核心を付いてきた。

(もう、これ以上は無理ね・・。だったら・・。)

「はい。お付き合いしてました。でも、1年程で私達の関係は終わったんです・・。別れてからは、一切連絡は取っていません。ま・・長嶺さんは会社を辞めてニューヨークへ行ってしまいましたから。」

「1年・・。俺達が別れた理由はっ?一体何だったの?」

「・・・・、私には両親が居ません。5才の時事故で亡くしました。それから、私は養護施設で育ちました。自立する為に色んな仕事をしました・・。・・。」

「・・・・。」

「当然、私達の事は長嶺さんのご両親も知ることになります。でも、私の事情を知ったご両親が反対されたんです。」

「両親が?」

「仕方ないですよ、私と長嶺さんでは生きて来た方法が違います。貴方はご家族に囲まれて育ち、私には両親すら居ない。生きる為に何でもしてきました。当然、私達じゃ釣り合わなかったんです。」

「そんな・・、そんな言い方って!!」

「仕方ないです。本当の事ですから。そんな中、ご両親から手切れ金を払うから長嶺さんと別れてくれと言われました。」

「えっ・・?」

「私はご両親の提案を受け入れました。お金で貴方との関係を精算したんです。生きる為にはお金がかかりますからね?」

「ほんとうに?本当に金で俺と別れたの?」

雅也は縋るように美咲に聞いた。

「はい。女が一人生きていくのには充分な金額を頂きましたからね。」

「くっ・・・・。」

雅也は苦しそうに俯き手を握り締めた。

(ごめんなさい。これで、もう私との事は諦めて・・。お願い。)

「それに、私の事だけ記憶が無いのも長嶺さんの中でとっくに整理が出来ていたからじゃないですか?お互い、その程度の付き合いだったんですよ!!」

まくしたてるように、一気に言った。

「じゃあ・・、あの夢は?夢に出てきてたのは君だろ?」

「さぁ、別の女性じゃないですか?私はそんなに良い人間じゃないし。そもそも、お金の為になら何でもするような人間なんです。・・・・、きっともっと貴方を思ってくれる女性が現れますよ?」

「違うっ!君はそんな人間じゃない!!何でそんな嘘を付くんだ?どうして・・?」

「私の記憶は無いんですよね?どうしてそう言い切れるんですか?」

「だって・・、あの時君は泣いたじゃないか!?あんなに辛そうに。」

「ああ、ただの同情ですよ。女の涙なんて信用するものじゃないですよ?」

「・・・・。」

「納得していただけましたか?今の貴方は私にとっては迷惑な人でしかないんです。もう、ホテルまで送ります。」

「いや、結構だ!!」

「譲さんに貴方を送っていくと言ってあるんです。」

「タクシーを拾う!」

「そうですか?じゃあ、そうなさって下さい。子供じゃないんですから帰れますよね?」

「・・・・。失礼する!!」

雅也は荒々しくドアを開け去っていった。美咲は大きなため息をつく。雅也にバレないように後を追った。大通りに出た所でタクシーを停めているのを確認した。

(これで良いんだよね・・・・?)

自分自身に言い聞かせるようにタクシーを見送った。


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