十年愛 〜私が愛した人はズルイ人でした。それでも愛するのを止められないのは私の罪ですか?〜

朔良

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忘却の楔12

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美咲が家に帰ってきたのは6時前だった。
部屋の電気をつけると何時もの部屋だった。必要な物しかない殺風景な部屋・・。
ため息を吐いて部屋の中に入る。美咲の心の中は、この部屋みたいに空っぽだった。
自分のせいで雅也を苦しめている。その事実に押し潰されそうだった。
荷物を置くと、ベランダに出る。新鮮な空気を吸い込み自分に気合を入れた。
室内に入ると、熱いシャワーを浴びて出勤の準備をした。




8時前。
何時もの様に出勤すると、久堂が何時もの様にデスクワークをしていた。

「・・おはようございます。」

「あっ、如月さんおはよう。・・・・。」

挨拶を交わすと久堂がまじまじと美咲の顔を見た。

「あ、あの・・久堂さん?どうかしましたか?」

何故か久堂の視線に耐えられずに目を逸らした。

「・・・・、如月さん今日はどんな予定?」

「今日ですか?・・・今日は特にアポはないので既納先に挨拶回りをしようかなって思ってますけど?」

「そっか。じゃあ、今日は1日俺と同行してくれる?」

「同行・・ですか?それはかまいませんが。」

「うん、じゃまた後でね?」

そう言うと、サービスフロントに行くと何やら話をし始めた。

「・・?」

美咲は少し不思議に思ったが、何かあるんだろうと思い朝の掃除を始めた。
それから、全体朝礼に各部の朝礼が終わる。
美咲はノートパソコンでメールチェックをする。何件かのメールに返事をした。時計を見るとまだ9時半だ。
給湯室で、少し濃い目のコーヒーを淹れて一口飲む。

「はぁ。」

ため息を吐いて、ボンヤリしていると中垣が給湯室に入ってきた。

「あ、中垣君おはよ。飲み物?何が良いの?私いれるよ?」

「あぁ、如月?どうした?ボーっとして?」

「ううん、何でも無いよ?コーヒーいれようか?」

「・・・・うん、頼む。」

手際良くコーヒーを淹れて中垣に渡した。

「熱いから火傷しないでね?」

「ありがと。・・・・。」

「・・・・。」

何となく会話がなくて気不味い雰囲気になる。

「あー。じゃあ、席に戻るね?」

「あぁ。」

中垣の脇をすり抜け自分の席に座る。
その後は、展示会の案内を作ったり、来電の対応をしたりしていた。

「如月さん?あとちょっとで出れるから、ごめんね?」

「いえ、やることはあるので大丈夫ですよ?」

「そっか、ありがとう。」

そんな話しをしていても、久堂の携帯が鳴る。

「ごめん。」

美咲に頭を下げて携帯に出る。

(相変わらず、忙しそうだな。)

それから、20分後位に久堂に声を掛けられて一緒に駐車場へ向かった。

「じゃあ、俺の車に乗って?」

「あ、はい。」

助手席に乗り込むと、営業カバンを足元に置く。

「じゃ、悪いけど今日は俺に付き合ってもらうねぇ。」

そう言うと静かに車を出した。
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