十年愛 〜私が愛した人はズルイ人でした。それでも愛するのを止められないのは私の罪ですか?〜

朔良

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忘却の楔

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『暫くは、帝都ホテルに滞在しています。無理を言っているのは十々承知してます、それでも雅也を・・助けて頂きたい。』

「・・・・っつ。」

気が付けば外は白々と明るくなってきていた。いつの間にかに朝になっていた。ベランダに出ると早朝の瑞々しい空気を吸い込んだ。
部屋に戻ると、バスルームへ向かい熱いシャワーを浴びた。
濃い目のコーヒーを飲む。

「・・・・。よしっ!」

そう言って自分自身を鼓舞した。




「雅也?朝食でも食べに行こうか?」

「兄さん・・。」

「そんな顔するな?久々の日本だ、和食でも食べに行くか?」

「・・・・。」

「どうした?」

譲が雅也の顔を覗き込んだ。

「何だか変な気分なんだ。このホテルに来てから、益々思い出さないといけない気がする。心がソワソワするんだ。」

「・・もしかしたら、ここはお前にとって大切な場所だったのかもな。」

「でも、何も思いだせない。」

「焦る必要はない。ドクターも言ってただろ?」

「そうだけど・・。」

「1年間殆ど休み無しだったんだ、良い休養だと思えば良い。」

二人で部屋を出てホテル近くを歩く。通勤のサラリーマン達をぬって歩くと感じの良い定食屋があった。そこへ二人で入り注文をした。
暫くすると、2人分の朝食が運ばれて来た。
ご飯に味噌汁、鮭の塩焼きに納豆、漬物や小鉢も付いていた。

「おっ、これぞ朝食って感じだな?」

「あ、あぁ。」

雅也は、眼の前に並べられた朝食を見ると頭がズキリと痛む。思わず頭に手を当てる。その瞬間、過去の映像なのか一人の女性が雅也の前に今並んでいるような朝食を並べてくれた。
必死にその女性の顔を思い出そうとするが、靄が掛かったように朧気だった。

『まさやさん?こんな朝食しか無いですけど・・。』

そう言った女性を優しく抱きしめた。

『こういうの好きだよ?ありがとう。〇〇。』

最後の名前が聞き取れなかった。

「・・や?雅也!?」

譲の声で現実に引き戻された。

「大丈夫か?体調良くないなら帰ろうか?」

「いや、大丈夫だよ。それに折角作ってくれたんだちゃんと食べないと失礼だろ?」

「あ、あぁ。そうだな・・。」

二人で朝食をとる。何となく、ホテルに帰る気にならなかった。

「兄さん?ちょっと歩かない?」

「いいよ。食後の散歩でもするか。」

宛先もなくただブラブラと歩いていると公園があった。その公園に入ると中央に池がある。水鳥達が気持ちよさそうに浮いている。
少し視線をそらすと、2羽の鴨が仲良く並んでいた。

「・・・・。」

何となくその番の鴨を見つめた。
譲は雅也の気がすむまで側に居た。

「ごめん、兄さん。そろそろホテルに戻ろうか?」

「あぁ、そうだな。」

2人連れ立ってホテルへ戻った。
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