十年愛 〜私が愛した人はズルイ人でした。それでも愛するのを止められないのは私の罪ですか?〜

朔良

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葛藤5

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久堂は美咲の手を握った。その手はいつもより熱かった。

(こんな時、俺はずっと如月さんの側に居れない。どんなに心配でも・・。本当はわかってる、俺じゃ駄目だって事。それでも、如月さんを好きな気持ちに変わりはないし、側に居たい。それは、きっと俺のエゴなんだろうな。本当は、ちゃんとした独身の・・長嶺みたいな奴が相応しいんだろう・・。)

久堂は、心の中で葛藤していた。
美咲の事を思えば離れる事が一番良い。そして、ちゃんとした独身の男と付き合う事が美咲の幸せになるってわかってた。それでも、気持ちは簡単には割り切れなかった。

「ごめんね、如月さん・・。」

「う・・ん・・・。」

美咲が目を開けると、点滴の袋が目に入った。

「・・・・・。」

ボンヤリと眺めると、段々感覚が蘇ってくる。自分の手を握る存在にも気が付いた。
フッと視線を移すと久堂が居た。

「く・・どうさん?」

「如月さん?大丈夫?苦しいとか無い?」

「・・大丈夫ですよ・・。せんせぇ、来てくれたんですね?」

点滴のパックを見ながら久堂に聞いた。

「うん。やっぱりインフルエンザだって。とりあえず点滴と投薬で様子を見ようって事になったんだ。」

「・・、久堂さんごめんなさい・・。」

「どうして謝るの?」

まだ熱を持った頬に触れた。

「また、迷惑・・かけちゃって・・。」

久堂は首を横に振った。

「迷惑なんかじゃない!こんな時位周りに甘えて良いんだよ?」

「・・・・。」

部屋の時計を見ると既に夜の11時半だった。

「久堂さん・・、こんな時間まで・・。せんせぇが来てくれたし私は大丈夫なのでもう・・。」

「如月さん?」

「はい。」

美咲の言葉を遮った。

「俺はずっと君についていてあげられない。だからお願いだ、時間が許す限り側にいさせて欲しい。」

「でも・・。」

久堂は美咲が何を言いたいのか痛いほどわかった。心優しい美咲の事だ、「感染させはいけないし、久堂には帰る場所がある。」その事を気にしているんだろう。

「本当に、ごめんね?」

「どうして謝るんですか?感謝しているのは私の方なのに側に居てくれてありがとうございます・・。」

柔らかな笑顔を向けた。そんな美咲が健気で思わず涙が溢れそうになった。

「俺、水換えてくる。ちょっと待ってて?」

「はい・・。」

何とか堪えて美咲の側を離れた。
新しく氷と水を入れて戻る。

「美園先生、今は別の往診先にいってるんだ。だから、先生が帰ってくるまで側に居させて?」

「・・・、わかりました。ありがとうございます。」

「うん。」

美咲の前髪を払いながら額にタオルを乗せた。

「会社の方には俺から言っておく。だから、ちゃんと休んで?」

「解りました。」

「後、結城さんにも連絡入れておく?」

美咲は首を横に振った。

「大丈夫。この位で心配かけられないから。」

「でもっ・・。」

「久堂さん?ホントに大丈夫だから・・、お願いします。」

「・・・わかった。」

美咲は安心した様に笑った。
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