十年愛 〜私が愛した人はズルイ人でした。それでも愛するのを止められないのは私の罪ですか?〜

朔良

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変わりゆく関係4

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美咲は作成してきた見積書の説明をした。
一項目ずつ丁寧に。
全て説明が終わった時には結構時間が経っていた。
中田は見積書を穴が空くほど見つめていた。変な緊張感が美咲を襲った。

「何か、ご不明点ございましたか?」

すると、中田が一つずつ手数料を値引き出来ないかと聞いてきた。
確かに、手数料の部分はあるが殆どが税金や印紙代なのでサービスは出来ないと説明した。
すると、今度は自分の希望の色や装備の車はあるのか聞いてきた。
在庫の確認の為に事務所へ戻る。業務の人に在庫状況を聞くとちょうど希望通りの在庫が1台あった。
ショールームへ戻ると、また姿が見えなかった。

「すみません、お客様何処かに行きました?」

「ああ、さっき外出ていったよ?試乗車を見てたけど?」

急いで外に出て試乗車を見るが姿がない。おかしいなと思いながら工場の方まで行くと、今度は中垣が捕まっていた。
急いで中垣達のところに行くと中田をショールームへ案内した。

「中垣君ごめん。お客さんが・・。」

「いや、別に良いけど?・・・・、あのお客に売るのか?」

「えっ?まだわかんない今商談中だよ?どうして?」

「いや、あんまりタチが良くなさそうだなって思って。」

「・・やっぱり?」

「ああ、何となくだけどな。」

「わかった。ありがとね?」

「うん。」

ショールームへ戻ると、中田は席に座って見積書をまた見つめていた。

「中田様、工場は危険ですので気を付けて下さいね。」

「ああ、はい・・。それで?車はありましたか?」

「はい、現在ご希望のお車1台ありました。でも、他のお客様もご検討されているみたいなんです。」

「そうなんですか?その車が売れてしまったらもう無いんですか?」

「いえ、全国のディーラーの在庫を調べる事は出来ますが・・。そうなると、条件的に厳しくなりますが。」

「条件って、値引きのことですか?」

「ええ、そうです。」

そう言うとまた見積書に視線を移した。

「その、一台有るっていうのだったらもう少し安くなりますか?」

「そうですね、ただ他の営業もその車で商談してますから回答が早い方になってしまいますが・・。」

本当は、他の営業が商談してるっていうのは美咲が駆け引きのためについた嘘だった。
しかし、完全に嘘というわけではない。
在庫車は基本全国で情報が共有されているため、実際本当に他のディーラーで売れてしまえばどうすることも出来ないのだ。

「それは、今日決めれば大丈夫ってことですか?」

「ええ、そうなります。」

美咲がそう言うと中田は見積書を見つめて考え込んでしまった。
少し考える時間が必要かなと思い、中田のコーヒーを入れ直しに給湯室に行くと所長に呼び止められる。

「如月さん、まだ掛かりそう?」

「あ、はい。すみませんまだ時間かかりそうです。」

時計を見ると閉店時間の19時を回っていた。
事務所を見ると殆どの営業が自分の席でデスクワークをしていた。久堂も携帯で話をしていた。
美咲は急いでショールームに戻る。
中田に新しいコーヒーを出した。

「中田様?大丈夫ですか?」

「はい、あのこのローンの金額なんですけど違うのも出してもらえますか?」

詳細を聞いて新たに見積書を作り中田に渡した。
新しい見積書を手に持つとまた考え込んでしまった。チラリと腕時計を見ると既に20時を越えていた。ショールームには美咲と中田しか居ない。

「もし良ければお見積りをお持ち帰りしていただいてご自宅でゆっくりご検討していただいても大丈夫ですよ?」

美咲は遠回しに言ったが中田には伝わらなかったらしい。

「うーん。もうちょっと待って下さい。」

と言われてしまう。
条件も限界ギリギリの金額を提示していたので、後は買うか買わないかの判断だけだったがそれが長かった。
美咲は事務所に顔を出すと、所長と久堂が心配そうに声を掛けてきた。

「如月さん、大丈夫?」

「はい。すみません、遅くまで・・。」

「俺、同席しようか?」

「いえ、後はもう返事貰うだけなので。」

「そっか・・。俺達の事は、気にしなくていいからね。」

「ありがとうございます。」

事務所の時計は21時になろうとしていた。

「中田様?今日お返事頂かなくても大丈夫ですよ?車の方は私の名前で押さえてあるので明日か遅くても明後日にはお返事頂ければ大丈夫なので・・。」

「でも、他で決まっちゃったらこの条件ではなくなるんですよね?」

「先程上司に確認しましたら同じ条件でも大丈夫だと。但し、明後日までになります。」

「そうですか・・。わかりました、この条件で今日決めます。」

「えっ?本当に良いんですか?」

「はい。お願いします。」

「わかりました。それでは注文書や書類をご用意しますのでお待ち下さい。」

事務所に戻ると久堂しか居なかった。

「決まった?」

「はい。これから注文書作ります。」

「そう。良かったね。俺の事は気にしないで大丈夫だからね?」

「はい・・。ありがとうございます。」

美咲は注文書やローン用紙・登録関係の書類などを用意してショールームへ戻る。
丁寧に説明をしてショールームを閉めたのは22時をまわっていた。

「すみません、こんな時間まで・・。」

「大丈夫だよ。」

二人で会社を出たのが22時半頃だった。
翌日は月曜日で休みだったので気分的には楽になる筈だったが、何だか嫌な予感がした。
とてつもない人に販売してしまった気がして仕方なかった。
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