十年愛 〜私が愛した人はズルイ人でした。それでも愛するのを止められないのは私の罪ですか?〜

朔良

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悪意ある視線

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美咲と長嶺はお互いの家を行き来するといった交際を続けていた。
しかし、最近美咲を悩ませている事があった。
視線を感じるのだ。それも、悪意というか蔑む様な類いのもの。昔からそういった視線に晒されて来たせいか美咲は敏感に感じ取れる様になっていた。

『誰かに後をつけられたとか、見張られてる感じがするとかそういった事があったら言ってほしい。』

長嶺に以前言われた事を思い出す。

「・・・・・。気のせいじゃないよね?」

その視線のせいで気の休まる時がなかった。
会社でも自宅の近くでも感じるまとわりつくような視線が。

(長嶺さんに相談したほうが良いかな?でも、私の気にし過ぎって事もあるし。もう、8時か・・。そろそろ帰ろうかな。)

帰り支度をして会社を出た。駐車場までは少し歩く。信号を渡り反対側の路地を入った先に駐車場がある。
ちょうど路地に入った所で後から足音が聞こえた。まるで美咲の歩幅に合わせるようにだ。一瞬にして背筋が凍る。

(まさか・・。)

まだ8時といっても人気は少ない。運が悪く周りには誰も居なかった。
早足で駐車場を目指す。足音も同じ様に付いてくる。
もうすぐ駐車場という所で肩を掴まれた。

「いやっ!!」

その手を払い除けて自分の車まで走るがその手前で腕を取られた。

「如月?」

「えっ?」

振り返ると中垣がキョトンとした顔で立っていた。
中垣の顔を見ると安心からかその場にヘタリこんでしまう。

「なんだぁー。中垣君か、脅かさないでよ。」

「如月こそどうしたんだよ?顔真っ青だぞ?ほらとりあえず立って?」

「ありがとう。」

中垣の手を取ろうとした時自分の手が震えているのに気が付く。
咄嗟に手を引く

「・・・・。大丈夫だからありがと。」

自分で立ち上がろうとするが足に力が入らずその場に崩れ落ちそうになる。

「大丈夫か?」

中垣が支えてくれた。

「あはは。ごめん、今日は沢山歩いたから。やだなぁ。もう!」

「・・・・。俺の車に乗って?」

「えっ?大丈夫だよ!ごめんね?」

「いいから!乗れよ。」

「う、うん。」

中垣の車に乗るが何を話したらいいか困ってしまった。

「何かあったのか?」

「何もないよ?ほんと、ちょっとビックリしただけだから。」

「ちょっとって感じじゃなかったけどな?」

ポケットからタバコを取ると火を付ける。

「・・。私にも一本頂戴。」

「良いよ。」

何も聞かずにタバコを渡してくれた。

「ありがと。」

「如月さ、隣の営業の長嶺って奴と付き合ってるんだろ?そいつには相談はしたのか?」

「中垣君よく知ってるねー。」

「茶化すなよ?俺には話せなくてもそいつになら話せるだろ?」

「・・・・・。」

「はぁ。話す気・・無いって感じだな?」

灰皿でタバコを消すと車を出した。

「な、中垣君?」

「とりあえず、飯だ。お前ちゃんと食べてんのか?」

「たべてるよ?」

「そうかねえ?随分と痩せたんじゃないか?」

「・・・・・。」

「俺だって久堂さんだって、その長嶺って奴だってお前の力になりたいと思ってる。でも、肝心の如月が頼ってくれなきゃ何もしてやれないだろ?」

「そうだけど・・。頼るってどうしたら良いのかわかんない…。」

「・・。そのままだよ。助けて欲しかったら『助けて』って言えばいいんだ。」

「そんな事・・今更出来ないよ…。」

「だからって、自分で何とか出来ることなのか?」

「わかんない。」

消えてしまいそうな声だった。

「まっ、今はメシだメシ。腹が減ってたらいい考えも浮かばいだろ?」

以前同期の皆と来たレストランで食事を取った。
また、駐車場まで送ってくれる。

「とにかく絶対に誰かに相談しろよ?わかったな?!」

「うん。中垣君。ありがとうね。」

「別に。良いから早く車に乗れよ。」

「わかった。中垣君お疲れ様。」

「おう。」

美咲は自分の車に乗ると駐車場を出ていく。続いて中垣も帰路に着いた。
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