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第129回『スランプ ひとつ残らず ケアレスミス』

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YouTubeで行った
ライブ配信にて三題噺を即興で書きました 第129回『スランプ ひとつ残らず ケアレスミス』
の完成テキストです。
お題はガチャで決めました。
お題には傍点を振ってあります。
所要時間は約時間分でした。
詳しくは動画もご覧いただけたら幸いです。↓
https://www.youtube.com/watch?v=cI8J1woLtBc

↓使用させていただいたサイト↓
ランダム単語ガチャ
https://tango-gacha.com/

~・~・~・~・~

毎朝会社に行くのが憂鬱で仕方なかった。
僕の神経はもうまいっていた。
というのも毎日上司に叱責されているからだ。
しかしパワハラだとか上司が陰湿だからというわけではない。
彼の名誉のためにも言っておくが、面倒見のいいとても尊敬のできる上司だ。
そしてまた彼はとてもよく仕事ができるので、部下の作成した報告書や資料はどんな小さな見つけ出すのだ。
彼に提出すればたちまち赤丸で修正されて帰ってきて、書き直さなければならない。
もちろんそれはありがたいことであり、仕事において必要なことだ。
僕を含めてみんな彼の注意力に感嘆し、お手本としている。

だが、僕はただでさえ子供のころからおっちょこちょいだった。
そのうえ最近は気味となり、思うように考えがまとまらず集中力もなかった。
苦労して書き上げ、自分で何度もチェックしてもやはり上司から大量の赤丸とともに突き返された。
いよいよ僕は何をやってもまともにできないんじゃないかと思い始め、肩を落とす毎日だった。

するとある日、上司から二人だけで飲みに誘われた。
僕の手元には相変わらず真っ赤になっている報告書があったが、せっかくのお誘いなので一緒に行かせてもらうことにした。
居酒屋で飲み始めると、上司はさっそく僕をいたわる一言を言った。
やはり上司は僕のことを気遣って今夜飲みに誘ってくれたようだ。
「はい……。元々不注意な性格だったことは認識していますが、最近はに入ってしまったようで、ちゃんとやろうとすればするほどひどくなってきています。」
僕はテーブルに並べられた小皿に目を落としながら、正直に告白した。
すると上司は会社では見たこともないようなにっかりとした笑顔を見せた。
「ちゃんとやろうだとかかなとかを気にしてるから、余計ミスをしてしまうんだ。とにかく目の前のことに集中する。そもそもミスだとかだとかなんて誰にでもあるんだから。」
「でも、上司にはないでしょう? いつもあんなに完璧なお仕事をなさってるのに。」
「お前、俺のことをロボットか何かだと思ってるのか?」
上司は笑いながら、ビールのジョッキを傾けた。
もちろん上司のことをロボットだとは思っていない。
そして上司にミスやがあるなんてことも思ってない。
僕を励ましてくれるために言ってくれたことはわかってる。

次の日から僕は吹っ切れた。
上司の言う通り、今まではミスしてはいけないと自分で自分を追い込んでしまっていたのかもしれない。
あえてミスのことなんか考えず、とにかく報告書の作成に全力を注いでみた。
資料を山と積み、顧客の動向を調べ、考えうることを多様な観点からデータとして見やすいようにまとめ上げた。
読むこと、考えること、書くこと、それだけを考えた。
その結果出来上がった報告書は、自分で読み直してみた限りミスは見当たらなかった。
内容も良いだけでなく、ミスばかりの頃より早く仕上げていた。
僕は成長を実感した。
むろん僕が成長できたのは上司のおかげだ。
部下を育てることが出来るこの上司に会うことができて本当に良かったと思った。
もう憂鬱な気持ちなど風の如く消え去った。
僕は揚々として報告書を提出した。
あまりにも早く提出されたことに上司は驚いていたようだが、僕の表情に自信があふれていたのだろう、全てを察してうれしそうに受け取ってくれた。

その日の夜、満足な仕事ができた僕は居酒屋に行った。
あの日上司から励ましの言葉をもらえたあの居酒屋だ。
ここで僕は変わることができたのだ。
入店すると、ガヤガヤと騒がしい中に聞き覚えのある声が聞こえた。
店の奥に目をやると、上司と彼の部下がいた。
挨拶をしなければと思い近寄ると、上司が目頭を押さえながら話す声が聞こえた。
「俺はに入ったかもしれない。あいつからの報告書なのに、が一つも見つからないんだ。」

~・~・~・~・~

~感想~
最近は変則的な話が多かった気がしたので、そろそろショートショートらしい話を書かねばと思っていました。
それで意識的に起承転結を作りました。
それにしてもこのお題はものすごく作りやすいですね。
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