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第20回『木工ボンド 夕焼け もみあげ』
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YouTubeで行った
ライブ配信にて三題噺を即興で書きました 第20回『木工ボンド 夕焼け もみあげ』
の完成テキストです。
お題はガチャで決めました。
お題には傍点を振ってあります。
所要時間は約58分でした。
詳しくは動画もご覧いただけたら幸いです。↓
https://www.youtube.com/watch?v=u9xhhmjXv38
↓使用させていただいたサイト↓
ランダム単語ガチャ
https://tango-gacha.com/
~・~・~・~・~
そういえば午後からずっと家の中が静かだと思っていた。
スマホを見たり夕食の仕込みをしていたからあまり気付かなかったが、夫がいないのだ。
どうりでイラッと来ることもなく、自分のことに集中できていたはずだ。
今日はパタパタと目の前を横切られたり話しかけられて作業を中断させられることもなかった。
夫が見当たらないだけでこうも物事がスムーズに進むものなのか。
だったらこれからずっといてくれなくてもいいんじゃないか、とも言ってられないので私は庭をのぞいてみた。
いた。
夫は庭のコンクリ部分にキャンプで使う折りたたみ椅子を広げて座っていた。
「あきれた。ずっとここにいたの?」
私はもう1脚の折りたたみ椅子を夫の横に広げ、キャンプ用の椅子を我が家の狭い敷地で使うことに少しばかりの恥ずかしさを覚えながら座った。
うちには木でできたフクロウの置物があるのだが、いつだったか棚から落ちて台座からフクロウが取れてしまったのだ。
そのときは今度の休みに直そうと夫は言っていたのだが、直す日は延びに延びてとうとう何ヵ月か経った今日直すことを決めたらしい。
夫の横には木工ボンドがあり、夫はフクロウを台座ごと握りしめていた。
「直ったの?」
「今くっつけてるとこ。木工ボンドを接着するにはぐっと押し付けているとよくくっつくって書いてあったから。」
夫は午後フクロウを接着し、その後ずっとここにいたということなのか。
私は家の中が静かだったことに納得がいった。
「どれぐらい押し付けてるの?」
「1日くらい。」
私は絶句した。
「じゃああと半日以上そうしてるつもりなの?」
「さすがにしないよ。夜には重しをうまいこと乗せて押し付けるよ。」
夫は相変わらず空を見ながら答えた。
タバコを吸いながらとか音楽を聴きながらというならまだわかるが、置物を押し付けてるだけで他はなにもせずによくもまあ座っていられるなと私は思った。
「でもうちは幸い大きな怪我や病気もなくやってこれただろ。万が一その理由がこのフクロウのおかげかもしれないと思うと、直す作業もできるだけ手間をかけようと思ってね。」
夫は右手に持っていたフクロウを左手に持ち替えた。
握力が疲れたのだろう。
きっと午後の間何度も持ち替えたに違いない。
でも重しを使えば済む夫の無駄とも言える努力のおかげで次第次第に木工ボンドは木の繊維へと染み込み、硬化し、一体となり始めているのだろう。
空はすでに夕焼けとなっていて、夫も私も赤く色づいていった。
横顔を見る機会が多いので、夫のもみあげが伸びてきたことにすぐ気付きそろそろ床屋さんに行かせなきゃと思った。
私も夫も自分の時間を生きているが、私たちは一つ屋根の下で暮らしている。
私は立ち上がった。
「そろそろ家の中入りましょ。」
夫は私を見上げ、でもと言った。
「フクロウなら大丈夫よ。あなたが頑張って接着してくれたんだからもうどこへも行かないわよ。」
ライブ配信にて三題噺を即興で書きました 第20回『木工ボンド 夕焼け もみあげ』
の完成テキストです。
お題はガチャで決めました。
お題には傍点を振ってあります。
所要時間は約58分でした。
詳しくは動画もご覧いただけたら幸いです。↓
https://www.youtube.com/watch?v=u9xhhmjXv38
↓使用させていただいたサイト↓
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~・~・~・~・~
そういえば午後からずっと家の中が静かだと思っていた。
スマホを見たり夕食の仕込みをしていたからあまり気付かなかったが、夫がいないのだ。
どうりでイラッと来ることもなく、自分のことに集中できていたはずだ。
今日はパタパタと目の前を横切られたり話しかけられて作業を中断させられることもなかった。
夫が見当たらないだけでこうも物事がスムーズに進むものなのか。
だったらこれからずっといてくれなくてもいいんじゃないか、とも言ってられないので私は庭をのぞいてみた。
いた。
夫は庭のコンクリ部分にキャンプで使う折りたたみ椅子を広げて座っていた。
「あきれた。ずっとここにいたの?」
私はもう1脚の折りたたみ椅子を夫の横に広げ、キャンプ用の椅子を我が家の狭い敷地で使うことに少しばかりの恥ずかしさを覚えながら座った。
うちには木でできたフクロウの置物があるのだが、いつだったか棚から落ちて台座からフクロウが取れてしまったのだ。
そのときは今度の休みに直そうと夫は言っていたのだが、直す日は延びに延びてとうとう何ヵ月か経った今日直すことを決めたらしい。
夫の横には木工ボンドがあり、夫はフクロウを台座ごと握りしめていた。
「直ったの?」
「今くっつけてるとこ。木工ボンドを接着するにはぐっと押し付けているとよくくっつくって書いてあったから。」
夫は午後フクロウを接着し、その後ずっとここにいたということなのか。
私は家の中が静かだったことに納得がいった。
「どれぐらい押し付けてるの?」
「1日くらい。」
私は絶句した。
「じゃああと半日以上そうしてるつもりなの?」
「さすがにしないよ。夜には重しをうまいこと乗せて押し付けるよ。」
夫は相変わらず空を見ながら答えた。
タバコを吸いながらとか音楽を聴きながらというならまだわかるが、置物を押し付けてるだけで他はなにもせずによくもまあ座っていられるなと私は思った。
「でもうちは幸い大きな怪我や病気もなくやってこれただろ。万が一その理由がこのフクロウのおかげかもしれないと思うと、直す作業もできるだけ手間をかけようと思ってね。」
夫は右手に持っていたフクロウを左手に持ち替えた。
握力が疲れたのだろう。
きっと午後の間何度も持ち替えたに違いない。
でも重しを使えば済む夫の無駄とも言える努力のおかげで次第次第に木工ボンドは木の繊維へと染み込み、硬化し、一体となり始めているのだろう。
空はすでに夕焼けとなっていて、夫も私も赤く色づいていった。
横顔を見る機会が多いので、夫のもみあげが伸びてきたことにすぐ気付きそろそろ床屋さんに行かせなきゃと思った。
私も夫も自分の時間を生きているが、私たちは一つ屋根の下で暮らしている。
私は立ち上がった。
「そろそろ家の中入りましょ。」
夫は私を見上げ、でもと言った。
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