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#10・脆い心の一欠片
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※Rafaello side
NOAHには、年に2回、一般市民との交流をはかるためのイベント・NOAH祭がある。
普段は立ち入れないNOAH内に一般市民を招き、NOAH隊員の普段の練習風景などを見てもらうのだ。
「あの兄ちゃん、かっこいい!!」
そんなNOAH祭1日目・射撃場にて、子供達の視線は1人の男子学生に向けられていた。
男子学生は慣れた手付きで銃を構えると、数メートル先の的を撃ち抜いていく。
「なんかすごい子がいるね」
射撃場を任されたラファエロ、リヒトはわいわいと賑やかになっている群衆を眺めていた。
「あれって、リヒト達が通ってた軍学校の制服だよね?」
「あぁ」
「じゃあ、リヒトの後輩くんだ」
「まぁ、そうなるな」
手持ち無沙汰になったリヒトは、壁に背を預けると腕を組んだ。
「そういや、お前は軍学校出身じゃねぇんだよな?」
「ん?そうだよ。僕は父さんに色々教えてもらったから、ほぼ独学」
「……お前、本当すげぇよな。今更ながらに尊敬するわ」
リヒトはそう言うと、ラファエロに向けていた視線を再び、男子学生に向けた。
「あ、あの…!」
不意に1人の少女が声をかけた。
見ると、そこには学生同様、軍学校の制服を着た女子学生がいた。
「リヒト=ヴォーヴェライトさん……ですよね?」
「そうだが……」
「わ、私に銃の撃ち方、教えてもらえませんか……?」
頬を赤く染めた女子学生は、傍から見ても分かる程にリヒトに熱い視線を送っている。
――この子、リヒトに憧れてるんだ。
その視線は、ラファエロがアドリアーノに向ける視線に似ていた。
「はい、リヒト」
ラファエロは壁に掛かっている銃をリヒトに差し出した。
「ちょうど手持ち無沙汰になってたんだし、教えてあげたら?」
「……分かった。ラファエロ、任せたぞ」
「うん。任せといて」
「いってらっしゃい」っと手を振り、2人を見送ったラファエロは再び手持ち無沙汰になる。
――交代の時間までまだまだあるなぁ……。
「こんにちは」
「ん?あぁ、さっきの」
銃を撃ち終えたのか、男子学生がラファエロの前にやって来ていた。
人懐っこそうな笑みを浮かべている男子学生は、いかにも女性にモテそうな顔をしている。
「ルディ=アーデルベルトだよ。一応、リヒトさんの後輩」
「僕もリヒトの後輩だよ。同じチームにはいるけど」
「そうなんだ。えっと……」
「ラファエロ、だよ。ラファエロ=サヴァレーゼ」
ラファエロが名乗ると、男子学生ことルディは少し驚いたように目を見開いた。
名乗る度に同じような反応をされているラファエロは、それにあえて気付かないふりをする。
「……先輩は、撃たないの?」
ラファエロの微妙な表情の変化に目敏く気付いたらしいルディは、ラファエロの名前を呼ばずに先輩と呼んだ。
その気遣いにラファエロはルディの優しさを感じた。
「僕は子供達の監視役だから」
「なるほど」
ルディの視線が女子学生に銃の撃ち方を教えているリヒトに向けられる。
憧れの人に教えてもらっている女子学生は、緊張でガチガチになりながらも、必死にリヒトの話を聞いている。
「そういえば……、イグナシオさんは一緒じゃないんだ」
「研究者チームはラボで研究発表会やってるから、その手伝いで」
「へぇ〜。イグナシオさん、まだ研究してたんだ」
ルディの口調はどこか嬉しそうだ。
「……ねぇ、先輩。興味ない?」
「……?」
しかし、それは本当に一瞬の事で次の瞬間にはルディの顔には不敵な笑みが浮かんでいた。
その笑みにラファエロの第六感的なものがざわつく。
「イグナシオさんが軍学校時代、何を研究してたか」
ルディの目がラファエロを試すかのように顔を覗き込んでくる。
その目にラファエロは蛇に睨まれたカエルみたいに固まってしまう。
――聞いてはダメだ……。
「先輩になら、教えてあげちゃうんだけど……」
「おい」
「っ……!!」
ハッと我に返ったラファエロが顔を上げる。
すると、そこには女子学生に銃の撃ち方を教えていたはずのリヒトが立っていた。
「リヒト……」
「大丈夫か?」
「相変わらず、鋭いなぁ……。リヒトさん」
ルディは舌打ちをした後、リヒトに目を向けた。
その視線には殺気にも似た、強い思いが宿っているように見えた。
「お前、誰だ」
「……さぁね。それは自分で思い出してよ」
「お、お兄ちゃん?」
不穏な空気に辺りにいた子供達が不安そうにラファエロ達を見上げる。
「じゃあね、先輩」
「おい!」
立ち去ろうとするルディをリヒトが捕まえようと手を伸ばしたが、その手は空を掴み、ルディは射撃場を後にした。
――――――――――――
「ルディ=アーデルベルト?聞いた事ねぇけど、誰だよ、そいつ」
交代の時間になり、射撃場を後にしたラファエロとリヒトはラボで科学喫茶なるものをしているイグナシオの元へとやって来ていた。
科学喫茶とは、科学実験を体験出来る喫茶店であり、出しているメニューは名前こそ風変わりだが、中身は普通の物ばかりだ。
「やっぱり知らないか……」
イグナシオの返答にラファエロは顎に手を当て、困ったと言わんばかりに唸る。
「忙しい時に悪かったな、イグナシオ」
「別に、忙しくねぇよ。ミレイユのドジが仕事増やしてるだけで」
「イグナシオ、ひどい……」
ウエイトレス姿のミレイユが涙目でイグナシオを睨みつける。その有様から、どれ程のドジをやらかしたかが伺える。
「ほら、いくよ」
そんなミレイユとは裏腹に子供相手に生き生きとした表情を浮かべているオズワルド。案外、子供受けはいいらしい。
「楽しそうだね、オズワルド」
「子供に質問されるのが嬉しいんじゃねぇの?ここであいつに構う奴とかほぼいなかったし」
――僕より嫌われてるんだね、オズワルド……。
「オズ兄ちゃん、すげぇ!!」
「魔法使いみたい!!」
ワイワイとオズワルドの周りに集まっていく子供達。その様はさながら、ハールメンの笛吹き男のようだ。
「この後、子供達攫わないよな?あいつ」
「あいつも一応はNOAH隊員だ。流石にそんな事しないだろう……たぶん」
「そこは自信持ってよ、リヒト」
犯罪者扱いされているとも知らずにオズワルドは、愉快そうにこちらに手を振っている。もちろん、振り返しているのはラファエロだけだ。
「そういえば、ゾラはいないんだね」
ふと思い出したと言わんばかりにラファエロが言った。すると、ミレイユが「ゾラはルイと受付係してるよ」と答えた。
「と言っても、ゾラは無愛想だから、主にルイがしてるみたいだけど」
「……だよね」
「ゾラがいたら、グチグチ言われてるぞ」
イグナシオと話していたリヒトがラファエロに声をかける。
「行くぞ、ラファエロ」
「うん。ミレイユ、イグナシオ、またね」
「おう」
ヒラヒラと2人に手を振り、ラファエロはリヒトと共にラボを後にした。
――ルディ=アーデルベルト……か。
「……ねぇ」
「ん?」
一般人で賑わう廊下を歩きながら、ラファエロはリヒトを見る。
「イグナシオって、軍学校時代に何を研究してたの?」
思い切って、リヒトに尋ねてみたラファエロは、すぐ様聞いた事を後悔した。いつもはあまり動揺しないはずのリヒトがあからさまにそれを表に出していたからだ。
「……誰から聞いた」
「えっ………」
「ルディって奴から、何言われた?」
動揺から一変、声色の変わったリヒトにラファエロはビクリと肩を揺らす。触れてはいけない何かに触れてしまった事は明確だった。
「答えろ、ラファエロ!!」
「っ………!?」
突然の怒号に辺りにいた人達は、何事かとこちらに目をやる。普段のリヒトなら、決して出さないであろう迫力にラファエロは声を失ってしまう。
「ちょっ……、何やってるんですか!」
不意に聞き慣れた声がして、ラファエロがそちらに目をやると、焦った様子のゾラが走って来ていた。
「リヒトさん、落ち着いてください」
ゾラがリヒトとラファエロの間に割って入る。が、それでもリヒトの怒りは治まらないようで、刺さるような視線がラファエロを襲う。
「お前、リヒトさんに何言ったんだよ」
「僕は……」
「ッチ……、お前までそんなんかよ。おい、ルイ!ちょっとこっち来てくれ」
インカムでゾラがルイに応援を頼む。程なくして、現場に駆けつけたルイとゾラは何だ何だと群がり始めた野次馬から守るようにラファエロ達を移動させた。
――――――――――――――――――――
人の少ない庭園の一角、リヒトと離されたラファエロはベンチに座り、ガタガタと震えている肩を抱いていた。
「ったく………」
そんなラファエロの傍らには、どう対処していいか、分からないと言わんばかりのゾラがいた。
「……大丈夫だから」
恐る恐る、ラファエロの背中を優しく擦るゾラ。その手の体温が背中越しに伝わってきて、ラファエロの震えは徐々に治まっていく。
「……ごめん、ありがとう」
「らしくないな、2人して」
ゾラに言われ、ラファエロは苦笑いを浮かべる。
「何があった?」
「実は……」
ラファエロがゾラに先程の事を話すと、ゾラはあからさまに困ったというように眉を顰めた。どうやら、事情を知っているらしい。
「僕、聞いちゃいけない事、聞いちゃったかな……」
「だろうな。あの態度だと」
ゾラの言葉にラファエロは罪悪感で顔を伏せてしまう。好奇心は猫をも殺すとは、まさにこの事だ。
「俺も詳しくは知らないが、イグナシオさんはその研究で実技試験をパスして、合格したと聞いた事がある」
「それって、すごい研究なんじゃ………」
「けど、その内容は非公開にされてて、誰も知らないらしい」
ふとゾラが辺りをキョロキョロと見渡し始める。そして、意を決したと言った表情でラファエロを手招きした。
「噂なんだが、その研究、どうやら神威の人体実験及び軍事運用についての内容だったとか」
耳打ちされた話にラファエロは小さく声を漏らした。
NOAHには、年に2回、一般市民との交流をはかるためのイベント・NOAH祭がある。
普段は立ち入れないNOAH内に一般市民を招き、NOAH隊員の普段の練習風景などを見てもらうのだ。
「あの兄ちゃん、かっこいい!!」
そんなNOAH祭1日目・射撃場にて、子供達の視線は1人の男子学生に向けられていた。
男子学生は慣れた手付きで銃を構えると、数メートル先の的を撃ち抜いていく。
「なんかすごい子がいるね」
射撃場を任されたラファエロ、リヒトはわいわいと賑やかになっている群衆を眺めていた。
「あれって、リヒト達が通ってた軍学校の制服だよね?」
「あぁ」
「じゃあ、リヒトの後輩くんだ」
「まぁ、そうなるな」
手持ち無沙汰になったリヒトは、壁に背を預けると腕を組んだ。
「そういや、お前は軍学校出身じゃねぇんだよな?」
「ん?そうだよ。僕は父さんに色々教えてもらったから、ほぼ独学」
「……お前、本当すげぇよな。今更ながらに尊敬するわ」
リヒトはそう言うと、ラファエロに向けていた視線を再び、男子学生に向けた。
「あ、あの…!」
不意に1人の少女が声をかけた。
見ると、そこには学生同様、軍学校の制服を着た女子学生がいた。
「リヒト=ヴォーヴェライトさん……ですよね?」
「そうだが……」
「わ、私に銃の撃ち方、教えてもらえませんか……?」
頬を赤く染めた女子学生は、傍から見ても分かる程にリヒトに熱い視線を送っている。
――この子、リヒトに憧れてるんだ。
その視線は、ラファエロがアドリアーノに向ける視線に似ていた。
「はい、リヒト」
ラファエロは壁に掛かっている銃をリヒトに差し出した。
「ちょうど手持ち無沙汰になってたんだし、教えてあげたら?」
「……分かった。ラファエロ、任せたぞ」
「うん。任せといて」
「いってらっしゃい」っと手を振り、2人を見送ったラファエロは再び手持ち無沙汰になる。
――交代の時間までまだまだあるなぁ……。
「こんにちは」
「ん?あぁ、さっきの」
銃を撃ち終えたのか、男子学生がラファエロの前にやって来ていた。
人懐っこそうな笑みを浮かべている男子学生は、いかにも女性にモテそうな顔をしている。
「ルディ=アーデルベルトだよ。一応、リヒトさんの後輩」
「僕もリヒトの後輩だよ。同じチームにはいるけど」
「そうなんだ。えっと……」
「ラファエロ、だよ。ラファエロ=サヴァレーゼ」
ラファエロが名乗ると、男子学生ことルディは少し驚いたように目を見開いた。
名乗る度に同じような反応をされているラファエロは、それにあえて気付かないふりをする。
「……先輩は、撃たないの?」
ラファエロの微妙な表情の変化に目敏く気付いたらしいルディは、ラファエロの名前を呼ばずに先輩と呼んだ。
その気遣いにラファエロはルディの優しさを感じた。
「僕は子供達の監視役だから」
「なるほど」
ルディの視線が女子学生に銃の撃ち方を教えているリヒトに向けられる。
憧れの人に教えてもらっている女子学生は、緊張でガチガチになりながらも、必死にリヒトの話を聞いている。
「そういえば……、イグナシオさんは一緒じゃないんだ」
「研究者チームはラボで研究発表会やってるから、その手伝いで」
「へぇ〜。イグナシオさん、まだ研究してたんだ」
ルディの口調はどこか嬉しそうだ。
「……ねぇ、先輩。興味ない?」
「……?」
しかし、それは本当に一瞬の事で次の瞬間にはルディの顔には不敵な笑みが浮かんでいた。
その笑みにラファエロの第六感的なものがざわつく。
「イグナシオさんが軍学校時代、何を研究してたか」
ルディの目がラファエロを試すかのように顔を覗き込んでくる。
その目にラファエロは蛇に睨まれたカエルみたいに固まってしまう。
――聞いてはダメだ……。
「先輩になら、教えてあげちゃうんだけど……」
「おい」
「っ……!!」
ハッと我に返ったラファエロが顔を上げる。
すると、そこには女子学生に銃の撃ち方を教えていたはずのリヒトが立っていた。
「リヒト……」
「大丈夫か?」
「相変わらず、鋭いなぁ……。リヒトさん」
ルディは舌打ちをした後、リヒトに目を向けた。
その視線には殺気にも似た、強い思いが宿っているように見えた。
「お前、誰だ」
「……さぁね。それは自分で思い出してよ」
「お、お兄ちゃん?」
不穏な空気に辺りにいた子供達が不安そうにラファエロ達を見上げる。
「じゃあね、先輩」
「おい!」
立ち去ろうとするルディをリヒトが捕まえようと手を伸ばしたが、その手は空を掴み、ルディは射撃場を後にした。
――――――――――――
「ルディ=アーデルベルト?聞いた事ねぇけど、誰だよ、そいつ」
交代の時間になり、射撃場を後にしたラファエロとリヒトはラボで科学喫茶なるものをしているイグナシオの元へとやって来ていた。
科学喫茶とは、科学実験を体験出来る喫茶店であり、出しているメニューは名前こそ風変わりだが、中身は普通の物ばかりだ。
「やっぱり知らないか……」
イグナシオの返答にラファエロは顎に手を当て、困ったと言わんばかりに唸る。
「忙しい時に悪かったな、イグナシオ」
「別に、忙しくねぇよ。ミレイユのドジが仕事増やしてるだけで」
「イグナシオ、ひどい……」
ウエイトレス姿のミレイユが涙目でイグナシオを睨みつける。その有様から、どれ程のドジをやらかしたかが伺える。
「ほら、いくよ」
そんなミレイユとは裏腹に子供相手に生き生きとした表情を浮かべているオズワルド。案外、子供受けはいいらしい。
「楽しそうだね、オズワルド」
「子供に質問されるのが嬉しいんじゃねぇの?ここであいつに構う奴とかほぼいなかったし」
――僕より嫌われてるんだね、オズワルド……。
「オズ兄ちゃん、すげぇ!!」
「魔法使いみたい!!」
ワイワイとオズワルドの周りに集まっていく子供達。その様はさながら、ハールメンの笛吹き男のようだ。
「この後、子供達攫わないよな?あいつ」
「あいつも一応はNOAH隊員だ。流石にそんな事しないだろう……たぶん」
「そこは自信持ってよ、リヒト」
犯罪者扱いされているとも知らずにオズワルドは、愉快そうにこちらに手を振っている。もちろん、振り返しているのはラファエロだけだ。
「そういえば、ゾラはいないんだね」
ふと思い出したと言わんばかりにラファエロが言った。すると、ミレイユが「ゾラはルイと受付係してるよ」と答えた。
「と言っても、ゾラは無愛想だから、主にルイがしてるみたいだけど」
「……だよね」
「ゾラがいたら、グチグチ言われてるぞ」
イグナシオと話していたリヒトがラファエロに声をかける。
「行くぞ、ラファエロ」
「うん。ミレイユ、イグナシオ、またね」
「おう」
ヒラヒラと2人に手を振り、ラファエロはリヒトと共にラボを後にした。
――ルディ=アーデルベルト……か。
「……ねぇ」
「ん?」
一般人で賑わう廊下を歩きながら、ラファエロはリヒトを見る。
「イグナシオって、軍学校時代に何を研究してたの?」
思い切って、リヒトに尋ねてみたラファエロは、すぐ様聞いた事を後悔した。いつもはあまり動揺しないはずのリヒトがあからさまにそれを表に出していたからだ。
「……誰から聞いた」
「えっ………」
「ルディって奴から、何言われた?」
動揺から一変、声色の変わったリヒトにラファエロはビクリと肩を揺らす。触れてはいけない何かに触れてしまった事は明確だった。
「答えろ、ラファエロ!!」
「っ………!?」
突然の怒号に辺りにいた人達は、何事かとこちらに目をやる。普段のリヒトなら、決して出さないであろう迫力にラファエロは声を失ってしまう。
「ちょっ……、何やってるんですか!」
不意に聞き慣れた声がして、ラファエロがそちらに目をやると、焦った様子のゾラが走って来ていた。
「リヒトさん、落ち着いてください」
ゾラがリヒトとラファエロの間に割って入る。が、それでもリヒトの怒りは治まらないようで、刺さるような視線がラファエロを襲う。
「お前、リヒトさんに何言ったんだよ」
「僕は……」
「ッチ……、お前までそんなんかよ。おい、ルイ!ちょっとこっち来てくれ」
インカムでゾラがルイに応援を頼む。程なくして、現場に駆けつけたルイとゾラは何だ何だと群がり始めた野次馬から守るようにラファエロ達を移動させた。
――――――――――――――――――――
人の少ない庭園の一角、リヒトと離されたラファエロはベンチに座り、ガタガタと震えている肩を抱いていた。
「ったく………」
そんなラファエロの傍らには、どう対処していいか、分からないと言わんばかりのゾラがいた。
「……大丈夫だから」
恐る恐る、ラファエロの背中を優しく擦るゾラ。その手の体温が背中越しに伝わってきて、ラファエロの震えは徐々に治まっていく。
「……ごめん、ありがとう」
「らしくないな、2人して」
ゾラに言われ、ラファエロは苦笑いを浮かべる。
「何があった?」
「実は……」
ラファエロがゾラに先程の事を話すと、ゾラはあからさまに困ったというように眉を顰めた。どうやら、事情を知っているらしい。
「僕、聞いちゃいけない事、聞いちゃったかな……」
「だろうな。あの態度だと」
ゾラの言葉にラファエロは罪悪感で顔を伏せてしまう。好奇心は猫をも殺すとは、まさにこの事だ。
「俺も詳しくは知らないが、イグナシオさんはその研究で実技試験をパスして、合格したと聞いた事がある」
「それって、すごい研究なんじゃ………」
「けど、その内容は非公開にされてて、誰も知らないらしい」
ふとゾラが辺りをキョロキョロと見渡し始める。そして、意を決したと言った表情でラファエロを手招きした。
「噂なんだが、その研究、どうやら神威の人体実験及び軍事運用についての内容だったとか」
耳打ちされた話にラファエロは小さく声を漏らした。
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