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act10・嘘を吐ける生き物
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ある日の休日。珍しく、パーティが揃わないという事でジュリアンとクーフェイは街に遊びに来ていた。
「また出たのかよ、あいつ…」
ジュリアンから先日のベアートゥスの件を聞いたクーフェイは、ため息混じりに呟いた。
「通りでグレーテルのやつ、最近機嫌悪いのな…」
「アハハ……。明日にはよくなってると思うよ?ルアンナと隣街まで買い物に行ってるみたいだから」
ジュリアンは苦笑いを浮かべると、目の前にあるベアートゥスのパートナーカードに視線を落とす。
「……捨てたらどうだ?それ。パーティの輪、乱されちゃたまんねぇだろ。ただでさえ、まとまりがねぇのに」
「そりゃ、そうなんだけど……」
――捨てたら、後が怖い……。
「あ、俺ケーキセットで」
「女子か」
注文を取りに来たウェイトレスがジュリアンのツッコミにクスクスと笑う。
「…お前、カフェ来てケーキセット頼まない奴はいないだろ。別に俺が甘い物好きだから、選んでるって訳じゃねぇ…。という訳で、こいつもケーキセットで」
「1人で頼むの恥ずかしかっただけだろ。まぁ、いいけど」
「かしこまりました」
ウェイトレスは注文をメモをすると、笑顔でキッチンの方に向かって行った。
「…で、借金の方はどうなんだよ」
「ん?あぁ、おかげ様で順調に返せてるよ。今んとこ、追加の借金もないし」
――フレデリックの両親が目を光らせてくれてるおかげだ。
ジュリアンが心の中でフレデリックの両親に感謝していると、ウェイトレスがケーキセットを持って来た。それを見たクーフェイは、「美味そう……」っと呟く。
「……お前、前にも言ったが働きすぎだぞ」
「そう?」
口一杯にケーキを頬張るクーフェイに対し、ジュリアンはアールグレイのストレートティーにガムシロップを入れると、ゆっくりとかき混ぜた。
「…今日くらい、ちゃんと休め。1日休んだぐらいじゃ、罰当たりゃしねぇよ」
「クーフェイはもうちょっと働いた方がいいんじゃないか?」
「お前に力貸してやってんのに、なんちゅう言い草……」
不服だと言わんばかりにクーフェイがアイスカフェオレをストローでブクブクと泡立たせる。そんなクーフェイにジュリアンは「行儀悪い」とデコピンを食らわせた。
「俺にビビってた頃のお前はどこにいったんだ……」
「痛…」と涙目で額を擦るクーフェイからは、初対面の時に感じた殺伐さは一切ない。むしろ、その雰囲気は気まぐれな猫のようだ。
「あのかっこよかった、アンニュイなクーフェイもどこにいったんだろうな」
――アンニュイなのは今もだけど。
「……何、言ってんだよ。俺はずっとかっこいいだろ」
「見ろ、ケーキセットがここまで似合う、アンニュイな男は俺しかいないだろ?」っと自信満々のクーフェイに呆れながら、ジュリアンはケーキを口に運んだ。
_____________________________
カフェを出た2人は、特に目的もなく、街をブラブラとしていた。
「…あ、あそこのクレープ屋、気になるな」
「さっき、ケーキ食べただろ。つか、どんだけ甘い物好きなんだよ」
スイーツ系のお店を見つける度にジュリアンの背中で「止まれ」と暴れるクーフェイにジュリアンはすっかり困り果てていた。
「あ~……、歩くのダル……」
「人の背中にしがみついといて、よく言う……」
ジュリアンが言いかけた、その時――。
「おい!待てよ!!」
通りから聞き慣れた男の怒鳴り声が聞こえてきた。何事かとジュリアンとクーフェイがそちらに目をやると、そこにはひ弱そうな男の胸倉を掴む男の姿があった。
「あんた、いい加減にしろよ!!」
「……あいつ、フレデリックに似てんな」
「そりゃ、似てるよ。あの人、フレデリックの父さんだから」
「……マジか。って事は、あのひ弱な男は……」
クーフェイがそろりとこちらに視線を投げる。正直、認めたくはないが、無視する訳にもいかない。
「僕の父さんだよ」
――また何かやったのか……。
嫌な予感を覚えつつ、ジュリアンは2人に近付く。クーフェイは気を利かせてか、少し離れた場所から2人を眺めている。
「ちょっ……、苦しい……!!」
「うるせぇ!!」
「セーファスさん!」
体の弱い父親相手に手加減なしにすごむフレデリックの父親・セーファスの間に、ジュリアンが割って入る。
「なっ……!ジュリアン!!」
「ジュリアン、助かったよ……」
胸倉を掴まれていた父親はその場に座り込むと、咳き込んだ。そんな父親を見かねたジュリアンは、その背中を優しく撫でる。
「……何があったの?」
ジュリアンが恐る恐る、フレデリックの父親に尋ねると、セーファスは眉間に皺を寄せ、父親を睨み付けながら、言い放つ。
「借金だよ。しかも、今回の連帯保証人はお前だ、ジュリアン」
「……え」
セーファスの言葉に体からサァーっと血の気が引いていく。
「ごめんな、ジュリアン。俺の名義じゃ、ダメだって言われて……」
誰に何を謝っているのか、理解したくない。否、理解などしてやるものか。父親の言い訳など聞きたくもないジュリアンはぐっと拳に力を込めると、下唇を噛み締めた。
――いつになったら、この借金地獄から解放されるんだ…。
「ごめんな、じゃねぇよ!お前、人が困ってるからって息子に借金背負わせてんじゃねぇよ。自分で払えねぇなら、人の借金の肩代わりなんかすんな!」
セーファスが再び、ジュリアンの父親の胸倉を掴む。その様子を見ていた街の人々は、小声でヒソヒソ話し始める。「またヴィンチェンティーノさんかよ」、「お人よしにも程がある」――。
ジュリアン達の噂はこの街では結構有名なもので、このやり取りももはや日常茶飯事だ。"お人よし一家"などと呼ぶ人さえ、いるくらいだ。それがジュリアンにはたまらなく屈辱的だった。
「………払えばいいんだろ」
「ジュリアン!」
「ありがとう、ジュリアン……」
ジュリアンの父親は、よかったとばかりに笑みを浮かべている。先程の謝罪はやはり、自分へのモノではなかったのだと思うと、その顔に腹が立つ所か、むしろ哀れに思えてきたジュリアンは、冷たい眼差しで父親に目を向けた。
「僕は、父さん達の借金を返すための道具でしかないんだな……」
行き場のない気持ちがジュリアンの胸を締め付ける。周りからは「可哀想に」、「なんて親なんだ」などと声が聞こえてくる。見世物にされている事を改めて痛感したジュリアンは、気付けばその場から逃げるように走り去っていた。
「ハァ……ハァ……!」
走りながら、ジュリアンの頭はフル稼働していた。グルグルと色々な事が頭を過ぎっては、感情がこみ上げて来て、目からは大粒の涙が流れていた。
――僕が馬鹿だったんだ。
いくら頑張っても、いくら借金を返済しても、両親はジュリアンを褒めてはくれなかった。褒めてほしくて返済していた訳ではないが、それでも自分の頑張りは評価されるべきだ。それくらいで、バチは当たらないだろう。ジュリアンはそう思っていた。
――父さん達はいつでも僕より友達が大切だったじゃないか。
"友達のため"。幾度となく聞いてきた、その言葉に今は吐き気すら感じてしまう。
――僕は……何のために………。
「ジュリアン!!」
切羽詰まった声と共に、ガッと誰かに肩を力強く掴まれ、ジュリアンはその足を止めた。がむしゃらに全速力で走っていたせいで、息は乱れ、顔はとても人には見せられない有様だ。
「……本気で走るなよ。追いつけねぇかもって焦っただろ」
ジュリアンの肩を掴んだまま、クーフェイが言った。さすが忍と言うべきか、息は一切乱れていない。
「…とりあえず、落ち着ける場所に移動するぞ」
クーフェイは泣きじゃくって、話すらままならないジュリアンを背負うと、街から離れた。
______________________
街から数キロ離れた頃、人気のない森の中の小屋にやって来たクーフェイは、中に入るとジュリアンを椅子に座らせた。
「…ちょっと待ってろ」
部屋の奥へと消えて行くクーフェイの背中をぼんやりと眺めていたジュリアンは、目に溜まっていた涙をおずおずと拭った。涙はここに来る途中でとうに枯れていた。
――情けないな……。
「……何が勇者だよ」
「勇者関係ねぇだろ、今は」
ジュリアンが呟いたと同時にタイミングよく、クーフェイが奥から戻って来た。手には、白い湯気の立っているマグカップが2つ見える。甘い匂いからして、それがココアであるとジュリアンは気付く。
「熱いから、気付けろ」
「………ありがとう」
クーフェイからマグカップを受け取ったジュリアンは、ココアにゆっくりと口をつける。体に染み渡る、優しい甘さにジュリアンは心底ホッとする。
「ここ、クーフェイの家?」
「……一応な。元はロロの奴の隠れ家だったんだがな」
「ロロって何個くらい隠れ家持ってるんだろう」
「さぁな。聞いてもはぐらかされんのがオチだろ……」
ココアに口をつけながら、クーフェイが興味なさげに返す。
「…で、今日、どうすんだよ」
「………そう、だな」
あんな事があった手前、家に帰る気にはなれない。気持ちの整理もついていない、今の状態であれば、きっと後悔してしまう。たとえ、あんな両親でも傷付けていい事にはならないと頭では分かっている。けれど、やり場のない気持ちはふつふつと沸き上がってくるばかりで、ジュリアンは下唇を噛み締めた。
「……仕方ねぇ。泊めてやるよ」
クーフェイの手が優しくジュリアンの頭を撫でる。
「…ただし、朝飯はお前が作れよ。めちゃくちゃ甘いホットケーキ希望」
「糖尿病になっても知らないよ」
「……なる訳ないだろ。これでも前よりは控えてる方なんだぞ」
「どうだか」
少し元気になったジュリアンは呆れたような笑みを浮かべ、クーフェイを見た。何気ない、普通の会話が今のジュリアンにはありがたかった。
「また出たのかよ、あいつ…」
ジュリアンから先日のベアートゥスの件を聞いたクーフェイは、ため息混じりに呟いた。
「通りでグレーテルのやつ、最近機嫌悪いのな…」
「アハハ……。明日にはよくなってると思うよ?ルアンナと隣街まで買い物に行ってるみたいだから」
ジュリアンは苦笑いを浮かべると、目の前にあるベアートゥスのパートナーカードに視線を落とす。
「……捨てたらどうだ?それ。パーティの輪、乱されちゃたまんねぇだろ。ただでさえ、まとまりがねぇのに」
「そりゃ、そうなんだけど……」
――捨てたら、後が怖い……。
「あ、俺ケーキセットで」
「女子か」
注文を取りに来たウェイトレスがジュリアンのツッコミにクスクスと笑う。
「…お前、カフェ来てケーキセット頼まない奴はいないだろ。別に俺が甘い物好きだから、選んでるって訳じゃねぇ…。という訳で、こいつもケーキセットで」
「1人で頼むの恥ずかしかっただけだろ。まぁ、いいけど」
「かしこまりました」
ウェイトレスは注文をメモをすると、笑顔でキッチンの方に向かって行った。
「…で、借金の方はどうなんだよ」
「ん?あぁ、おかげ様で順調に返せてるよ。今んとこ、追加の借金もないし」
――フレデリックの両親が目を光らせてくれてるおかげだ。
ジュリアンが心の中でフレデリックの両親に感謝していると、ウェイトレスがケーキセットを持って来た。それを見たクーフェイは、「美味そう……」っと呟く。
「……お前、前にも言ったが働きすぎだぞ」
「そう?」
口一杯にケーキを頬張るクーフェイに対し、ジュリアンはアールグレイのストレートティーにガムシロップを入れると、ゆっくりとかき混ぜた。
「…今日くらい、ちゃんと休め。1日休んだぐらいじゃ、罰当たりゃしねぇよ」
「クーフェイはもうちょっと働いた方がいいんじゃないか?」
「お前に力貸してやってんのに、なんちゅう言い草……」
不服だと言わんばかりにクーフェイがアイスカフェオレをストローでブクブクと泡立たせる。そんなクーフェイにジュリアンは「行儀悪い」とデコピンを食らわせた。
「俺にビビってた頃のお前はどこにいったんだ……」
「痛…」と涙目で額を擦るクーフェイからは、初対面の時に感じた殺伐さは一切ない。むしろ、その雰囲気は気まぐれな猫のようだ。
「あのかっこよかった、アンニュイなクーフェイもどこにいったんだろうな」
――アンニュイなのは今もだけど。
「……何、言ってんだよ。俺はずっとかっこいいだろ」
「見ろ、ケーキセットがここまで似合う、アンニュイな男は俺しかいないだろ?」っと自信満々のクーフェイに呆れながら、ジュリアンはケーキを口に運んだ。
_____________________________
カフェを出た2人は、特に目的もなく、街をブラブラとしていた。
「…あ、あそこのクレープ屋、気になるな」
「さっき、ケーキ食べただろ。つか、どんだけ甘い物好きなんだよ」
スイーツ系のお店を見つける度にジュリアンの背中で「止まれ」と暴れるクーフェイにジュリアンはすっかり困り果てていた。
「あ~……、歩くのダル……」
「人の背中にしがみついといて、よく言う……」
ジュリアンが言いかけた、その時――。
「おい!待てよ!!」
通りから聞き慣れた男の怒鳴り声が聞こえてきた。何事かとジュリアンとクーフェイがそちらに目をやると、そこにはひ弱そうな男の胸倉を掴む男の姿があった。
「あんた、いい加減にしろよ!!」
「……あいつ、フレデリックに似てんな」
「そりゃ、似てるよ。あの人、フレデリックの父さんだから」
「……マジか。って事は、あのひ弱な男は……」
クーフェイがそろりとこちらに視線を投げる。正直、認めたくはないが、無視する訳にもいかない。
「僕の父さんだよ」
――また何かやったのか……。
嫌な予感を覚えつつ、ジュリアンは2人に近付く。クーフェイは気を利かせてか、少し離れた場所から2人を眺めている。
「ちょっ……、苦しい……!!」
「うるせぇ!!」
「セーファスさん!」
体の弱い父親相手に手加減なしにすごむフレデリックの父親・セーファスの間に、ジュリアンが割って入る。
「なっ……!ジュリアン!!」
「ジュリアン、助かったよ……」
胸倉を掴まれていた父親はその場に座り込むと、咳き込んだ。そんな父親を見かねたジュリアンは、その背中を優しく撫でる。
「……何があったの?」
ジュリアンが恐る恐る、フレデリックの父親に尋ねると、セーファスは眉間に皺を寄せ、父親を睨み付けながら、言い放つ。
「借金だよ。しかも、今回の連帯保証人はお前だ、ジュリアン」
「……え」
セーファスの言葉に体からサァーっと血の気が引いていく。
「ごめんな、ジュリアン。俺の名義じゃ、ダメだって言われて……」
誰に何を謝っているのか、理解したくない。否、理解などしてやるものか。父親の言い訳など聞きたくもないジュリアンはぐっと拳に力を込めると、下唇を噛み締めた。
――いつになったら、この借金地獄から解放されるんだ…。
「ごめんな、じゃねぇよ!お前、人が困ってるからって息子に借金背負わせてんじゃねぇよ。自分で払えねぇなら、人の借金の肩代わりなんかすんな!」
セーファスが再び、ジュリアンの父親の胸倉を掴む。その様子を見ていた街の人々は、小声でヒソヒソ話し始める。「またヴィンチェンティーノさんかよ」、「お人よしにも程がある」――。
ジュリアン達の噂はこの街では結構有名なもので、このやり取りももはや日常茶飯事だ。"お人よし一家"などと呼ぶ人さえ、いるくらいだ。それがジュリアンにはたまらなく屈辱的だった。
「………払えばいいんだろ」
「ジュリアン!」
「ありがとう、ジュリアン……」
ジュリアンの父親は、よかったとばかりに笑みを浮かべている。先程の謝罪はやはり、自分へのモノではなかったのだと思うと、その顔に腹が立つ所か、むしろ哀れに思えてきたジュリアンは、冷たい眼差しで父親に目を向けた。
「僕は、父さん達の借金を返すための道具でしかないんだな……」
行き場のない気持ちがジュリアンの胸を締め付ける。周りからは「可哀想に」、「なんて親なんだ」などと声が聞こえてくる。見世物にされている事を改めて痛感したジュリアンは、気付けばその場から逃げるように走り去っていた。
「ハァ……ハァ……!」
走りながら、ジュリアンの頭はフル稼働していた。グルグルと色々な事が頭を過ぎっては、感情がこみ上げて来て、目からは大粒の涙が流れていた。
――僕が馬鹿だったんだ。
いくら頑張っても、いくら借金を返済しても、両親はジュリアンを褒めてはくれなかった。褒めてほしくて返済していた訳ではないが、それでも自分の頑張りは評価されるべきだ。それくらいで、バチは当たらないだろう。ジュリアンはそう思っていた。
――父さん達はいつでも僕より友達が大切だったじゃないか。
"友達のため"。幾度となく聞いてきた、その言葉に今は吐き気すら感じてしまう。
――僕は……何のために………。
「ジュリアン!!」
切羽詰まった声と共に、ガッと誰かに肩を力強く掴まれ、ジュリアンはその足を止めた。がむしゃらに全速力で走っていたせいで、息は乱れ、顔はとても人には見せられない有様だ。
「……本気で走るなよ。追いつけねぇかもって焦っただろ」
ジュリアンの肩を掴んだまま、クーフェイが言った。さすが忍と言うべきか、息は一切乱れていない。
「…とりあえず、落ち着ける場所に移動するぞ」
クーフェイは泣きじゃくって、話すらままならないジュリアンを背負うと、街から離れた。
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街から数キロ離れた頃、人気のない森の中の小屋にやって来たクーフェイは、中に入るとジュリアンを椅子に座らせた。
「…ちょっと待ってろ」
部屋の奥へと消えて行くクーフェイの背中をぼんやりと眺めていたジュリアンは、目に溜まっていた涙をおずおずと拭った。涙はここに来る途中でとうに枯れていた。
――情けないな……。
「……何が勇者だよ」
「勇者関係ねぇだろ、今は」
ジュリアンが呟いたと同時にタイミングよく、クーフェイが奥から戻って来た。手には、白い湯気の立っているマグカップが2つ見える。甘い匂いからして、それがココアであるとジュリアンは気付く。
「熱いから、気付けろ」
「………ありがとう」
クーフェイからマグカップを受け取ったジュリアンは、ココアにゆっくりと口をつける。体に染み渡る、優しい甘さにジュリアンは心底ホッとする。
「ここ、クーフェイの家?」
「……一応な。元はロロの奴の隠れ家だったんだがな」
「ロロって何個くらい隠れ家持ってるんだろう」
「さぁな。聞いてもはぐらかされんのがオチだろ……」
ココアに口をつけながら、クーフェイが興味なさげに返す。
「…で、今日、どうすんだよ」
「………そう、だな」
あんな事があった手前、家に帰る気にはなれない。気持ちの整理もついていない、今の状態であれば、きっと後悔してしまう。たとえ、あんな両親でも傷付けていい事にはならないと頭では分かっている。けれど、やり場のない気持ちはふつふつと沸き上がってくるばかりで、ジュリアンは下唇を噛み締めた。
「……仕方ねぇ。泊めてやるよ」
クーフェイの手が優しくジュリアンの頭を撫でる。
「…ただし、朝飯はお前が作れよ。めちゃくちゃ甘いホットケーキ希望」
「糖尿病になっても知らないよ」
「……なる訳ないだろ。これでも前よりは控えてる方なんだぞ」
「どうだか」
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