なりたて勇者のパーティー

Chiot

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act8・R指定の男

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 ジュリアンがベアートゥスに攫われた後、ダルタニアンはロロとクーフェイを捜していた。
「2人とも、いるなら返事をしてくれ!」
 見通しのいい街道沿いだ。2人がいれば見落とすはずはないのだが、2人の姿はどこを捜しても、見当たらなかった。
「ロロ!クーフェイ!」
「……ここだよ、騎士くん」
 不意に声がして、ダルタニアンが振り返ると、そこにはクーフェイを肩に担いだロロが宙に浮かんでいた。
「怠惰くんは大丈夫だよ。ちょっと気を失ってるだけだから」
 トンっと地面に降り立ったロロがクーフェイを担ぎ直す。
「その様子じゃ、勇者くんは攫われちゃったみたいだね」
「すまない……」
「まぁ、騎士くんが抵抗してもあの守銭奴は勇者くんを攫って行ってただろうから、君のせいじゃないよ」
 ロロは不敵な笑みを浮べながら、淡々と言った。その笑みの意図が分からず、ダルタニアンは小首を傾げる。
「心配しなくても、勇者くんは大丈夫だよ。今から迎えに行くしな」
「目星、ついてるのか?」
「腐れ縁だから、ね。認めたくはないけど」
 ロロはそう言った後、「怠惰くん、起きてるんなら自分で歩きなよ」と肩に担いでいたクーフェイを地面に投げた。急に投げられたにも関わらず、ヒラリっと軽い身のこなしでクーフェイは地面に綺麗に着地する。
「……ッチ」
「黙って舌打ちしないでくれるかな?担いであげてたんだから、むしろ感謝して欲しいくらいだよ」
「……恩着せがましい奴だな」
 黒笑を浮かべるロロに対し、至極どうでもいいという表情のクーフェイ。そんな2人に挟まれた、ダルタニアンは「1回殴っていいだろうか」と拳を握り締めた。
「……今はそんな事より、ジュリアン助ける方が先だろ」
 ダルタニアンの拳に気付いたクーフェイが、さらりと話題を変える。
「出来れば、あいつとは関わりたくないんだけど………、勇者くん見捨てる訳にも行かないしね」
「珍しいな。お前が人を苦手だと言うのは」
「そう?俺、そういう好き嫌いははっきりしてる方だと思うけど」
 「第一、嫌いな奴とは関わらないから」とロロが付け足す。
「じゃあ、行こうか」
 ロロは、地面をブーツの爪先でトントンと蹴った。すると、3人の地面に大きな魔法陣が浮かび上がる。
「…最初からこれ、使っとけよ」
 クーフェイが呟いたのとほぼ同時に、魔法陣からまばゆい光が溢れた。
――――――――――――――
 街道沿いを突き進む事、数十分。隣街のとある建物の地下にジュリアンは連れて来られていた。
――こいつ、僕を担いで全力で走ってたくせに、全然疲れてない……。
「どうぞ」
 ベアートゥスは紅茶の入ったティーカップをテーブルに置く。特に拘束する訳でもない、ベアートゥスにジュリアンは不審感を募らせていく。
――逃げたとしても、捕まえられるって事か?
 ベアートゥスに出された紅茶をじっと見つめながら、ジュリアンは思案を巡らせる。
「安心してください。毒など入ってませんから」
 そんなジュリアンとは対照的に、ベアートゥスはとても冷静だ。
――とりあえず、逆らうのは止めよう。
 ジュリアンは恐る恐る、ティーカップを手に取ると、ゆっくりとティーカップに口をつけた。
「あ…、美味しい……」
「私が淹れたのですから、当然です」
 何故か、自信満々のベアートゥスにジュリアンは少し戸惑いながらも賛同した。
「お茶菓子もありますよ。食べますか?」
「え、あ……あの……」
――何なんだ、この和やかな午後のティータイムは……。
 ジュリアンはベアートゥスが出して来た、お茶菓子のシフォンケーキを食べつつ、頭にはてなマークを浮かべていた。
「美味しいですか?」
「は、はい……」
「それはよかったです」
 ベアートゥスの意図が分からず、ジュリアンはマジマジとベアートゥスを見つめる。一方のベアートゥスは、優雅にティータイムを満喫している。
「何ですか?」
「あ、あの……僕に何か用でも?」
 ジュリアンが尋ねると、ベアートゥスはティーカップをテーブルに静かに置いた。妙にゆっくりした動作に自然と緊張感は高まっていく。
「いえ、特には」
「え……」
 思わず声を上げるジュリアン。
「まぁ、強いて言うなら……貴方があの外道の……」
  一呼吸置いたベアートゥスは、ジュリアンの目を真っ直ぐに見据える。
「お気に入りだから、攫ってみたくなったってだけです」
    さらりと発せられた言葉に、ジュリアンの理解は追い付かない。お気に入りだから、攫ってみたくなった……。何度か、脳内で言葉を繰り返した後、ジュリアンは勢いよく立ち上がった。
「動機がおかしいだろ!?何、攫ってみたくなったって!!」
「いきなり元気になりましたね。水を得た魚みたいですよ」
「お前、そういう危ない趣味の奴なのか!?」
「危ない趣味、とは何ですか?貴方が口に出来るような趣味は持ち合わせていないはずですけど」
 ベアートゥスの言葉にジュリアンの顔からサァーと血の気が引いた。
「誰か、助けてください!!こいつ、本気でヤバイ奴だ!!!!」
「地下で騒いだって聞こえる訳ないでしょう」
 「少し落ち着きなさい」とベアートゥスは逃げ腰のジュリアンの襟首を掴むと、椅子に座らせた。
「危ない趣味と言うより、性癖と言った方が響きがいいですよ」
「何のアドバイスだ!変態!!」
「……1回黙れ」
 ドスの効いた声と共にベアートゥスの刀が蛍光灯の光を受けて、鈍く光る。
――こいつ、怒らせたら怖い奴だ……。
 ベアートゥスの態度に冷静さを取り戻した、ジュリアンは目の前にある紅茶を無心で飲み干した。
「あの外道が気に入っていると聞いたから、どんな人かと思えば……。前の人とはタイプが違いますね」
――つか、今更だけど、外道ってロロの事だよな……?
「前の人って……前にも誰かを攫ってたんですか……?」
「えぇ」
 悪びれる様子もなく、ベアートゥスが言った。
「私、外道の気に入っている人を攫うと萌えるんですよ」
――やっぱり、ただの変態じゃないか!!!!
 口から出そうになった言葉をジュリアンはぐっと呑み込む。また怒らせたりすれば、確実に斬られると思ったからだ。
「攫ってやましい事をしたいって訳じゃないんですよ。そりゃ、私も健全な男ですから、ヤリたいと思う時もありましたけど」
「は……はぁ」
――何言ってんだ、こいつ……。
「攫う事に意味があるんですよ、私の場合は」
 変なスイッチが入ってしまったのか、ベアートゥスはベラベラと自身の性癖を語り始める。最初は健全だった内容も、中々に濃くなっていき、とても活字には出来ないモノと化していく。
「貴方も健全な男なら、そう思いますよね?」
「いや……、僕、そう言うの分かんないんで……」
「何だ、ジュリアン。貴方、童……」
「わぁ~~!!!!」
 ベアートゥスの言葉をジュリアンがかき消す。男同士とはいえ、ベアートゥスの口からその単語を聞く勇気がジュリアンにはなかった。
――早く助けに来てくれ!!!
 と心の中で叫んだ、その時――。
「あのさ、純粋な勇者くんに何、吹き込んでんだよ」
 地下の扉が勢いよく開き、そこからロロ、ダルタニアン、クーフェイが現れる。先程の会話を聞いていたのか、ダルタニアンはしきりに咳払いをしている。
「……大丈夫だったか?」
 クーフェイがジュリアンの元に駆け付ける。
「い……一応……」
 心身共にある意味ダメージを受けたジュリアンは、テーブルに突っ伏したまま、答えた。
「お前にはまだ早かったな…」
 クーフェイが元気を出せと、ジュリアンの頭を優しく撫でる。
「……ダルタニアン、お前、外出てろよ。顔色悪ぃぞ」
「わ……悪い。そうさせてもらう」
 ダルタニアンは言うが早いか、一目散に外へと駆け出して行った。その速さにジュリアンは「悪い事したなぁ……」と呟いた。
「……お前のせいじゃないだろ」
「けどさ……」
 テーブルから顔を上げたジュリアンは、何か言いたげにクーフェイを見た。そんなジュリアンにクーフェイは「…みなまで言うな」とジュリアンを制した。
「大人の階段を上らせて上げただけですよ?」
「…階段つかジェットコースター並の威力あったぞ」
「勇者くん、汚すのやめてくれない?お前の偏見まみれの性癖を基準にしたら、勇者くん、とんでもない奴になっちゃうだろ」
「失礼な!私は健全です」
「……どこがだ」
 ベアートゥスの発言に流石のクーフェイも所々でツッコミをいれる。
「お前が登場するまでは健全でコミカルな物語だったのに、一気にR指定作品になっちゃったじゃないか」
「知りませんよ、そんな事」
「……この会話、聞く義理はないよな」
 クーフェイはジュリアンに肩を貸すと、「後任せた…」と言い、地下を後にした。
――――――――――――
 地上に出た2人は、近くのカフェに避難していたダルタニアンと合流する。ベアートゥスにダメージを与えられたジュリアンとダルタニアンは、いつもより顔色が悪く、空気も非常に重い。
「……ダルタニアン、ごめんな」
 沈黙を破り、ジュリアンが軽く頭を下げる。
「ジュリアンが謝る事じゃないだろ。その……俺が、そういう話が苦手なだけだ」
 ダルタニアンは動揺しているのか、ジュリアンと目を合わそうとしない。余程、嫌だったのだろうか。
「……得意な奴とかいないだろ。あいつが特殊なんだよ」
 クーフェイがストローを加えたまま、言った。ロロがいないせいか、いつもはやる気のないクーフェイがしっかりしているように感じる。
――ちゃんと年上だったんだ、クーフェイ……。
「…さらっと失礼な事、言ってんじゃねぇよ」
  クーフェイはジュリアンの頬を軽く抓る。ぐにぐにと 頬を弄る手を振り払う気力もない、ジュリアンはされるがままだ。
「…つか、お前は女だろうが。女が得意だったら、正直引くわ……。……あ」
「…………ん?クーフェイ、今何て…」
 クーフェイの言葉に引っかかりを覚え、ジュリアンは聞き直す。聞き間違いだろうか。聞き間違いであってほしい。
「正直、引くわ……」
「そこじゃなくて、お前はってとこ」
「……ッチ。聞き流せよな」
「クーフェイ!!」
 少し遅れて、ダルタニアンがクーフェイに詰め寄る。どうやら、今まで固まっていたらしい、ダルタニアンの動きは少しぎこちない。
「お前、元暗殺者のくせに口が軽すぎるぞ……!!」
「……暗殺者は関係ねぇだろ。つか、こいつらにいつまでも黙ってるお前も悪いだろ」
 「俺だけが悪い訳じゃない」と主張するクーフェイに胸倉を掴み上げているダルタニアンは、何も言い返せないとフルフル震えている。
「……えっと、つまり、ダルタニアンは女の人だった……って、事?」
 恐る恐る、ジュリアンが尋ねると、ダルタニアンはゆっくりと頷いた。
「す……すまない。騙す気はなかったんだ、本当に!」
 ジュリアンに向き直ったダルタニアンが勢いよく、頭を下げる。その迫力に周りにいた客の視線がジュリアンに注がれる。
「男装が趣味とかではないんだ!騎士は男の職業だと小さい頃から言われ、育ったせいで、つい男のような所作になるだけで!!」
「……必死すぎだろ、お前」
 パニック寸前のダルタニアンに「落ち着け…」とクーフェイが制す。
『貴方も動かない方が身のためですよ。傷物にはしたくないので』
――アレってそういう意味だったのか!!
 ベアートゥスは最初から、ダルタニアンを女の人だと見抜いていたのか。少しベアートゥスに感心していたジュリアンは、そこでふと先程のワンシーンを思い出す。
『何だ、ジュリアン。貴方、童……』
――……聞かれたな、確実に。
「……ジュリアン?どうかしたのか?」
「聞いてやるなよ……」
 クーフェイがハァっと短くため息を吐くと、不思議そうにジュリアンを見ているダルタニアンの肩に手を置いた。
「死にたい……」
 羞恥から顔を真っ赤に染めたジュリアンはテーブルに顔を隠す。
「……まぁ、何だ……。気にすんな、ジュリアン」
 クーフェイが声をかけるも、ジュリアンは一向に顔を上げてはくれなかった。
 結局、その日はジュリアンのダメージが酷いという理由からミッションは日を改めて、また再度チャレンジする事となった。
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