なりたて勇者のパーティー

Chiot

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act7・攫われた勇者

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「……お前、毎日毎日働いて、あきないのか?」
 いつものように依頼所に向かうジュリアンに、クーフェイが呆れたような口調で言った。
「前にも言っただろ。僕は借金返さなきゃいけないんだよ」
 フラフラと気だるそうに歩いているクーフェイとは対照的に、ジュリアンはキリキリと歩いていく。朝ということもあるのか、クーフェイの動きは普段よりも少し鈍い。
――低血圧なのか?
「そういや…、お前の親もお人好しだったな……」
 クーフェイの言葉にジュリアンの体がビクリと震える。思い出したような口調からして、悪気はないのだろうが、どうにも過剰反応してしまう。
「お前も苦労するなぁ……。まだ若いのに」
「苦労してると思うなら、1人で歩いてくれない?重いんだけど」
 歩くのが面倒になったのか、クーフェイは目の前にいたジュリアンに引っ付いていた。全体重がジュリアンにかかっているため、必死に足を踏ん張らなければ、倒れてしまいそうだ。
「…疲れた……、連れてけ」
「しっかりしろよ、20歳」
 そんな会話をかわしながら、クーフェイを引きずる形でジュリアンは依頼所へとやって来た。
「やぁ、仲良さそうだね。2人とも」
 さも当たり前と言った感じで現れたロロに今更、驚かないジュリアンは、「どこが」と呆れた様子で返す。
「…朝から胡散臭い笑顔、振りまいてんじゃねぇよ」
「怠惰くんには言われたくないかな」
「…誰が怠惰だ。こんなイケメンによく言えるな」
――イケメンの自覚あるんだ……。
「ごめん、ごめん。君があまりに怠惰だから、つい忍だって事を忘れてたよ。つか、誰がイケメンなの?俺のがイケてるから」
「……家に鏡ないのか?」
 バチバチと火花を散らし始めた2人を尻目に、ジュリアンは依頼書を眺めていた。パーティが増えたおかげで、ある程度難しいミッションにも行けるようになり、ジュリアンの借金返済生活は以前よりもよくなっていた。
「勇者くん、聞いてる?」
「ジュリアン、聞けよ」
  2人が同時にジュリアンを見る。
――仲いいんだか、悪いんだか……。
「2人とも、ジュリアンを困らせるな」
「あ、騎士くん。おかえり」
 ロロと先に来ていたらしい、ダルタニアンがこちらに駆けて来る。そんなダルタニアンにロロは爽やかに手を降るも、本人はそれをスルーし、ジュリアンに「遅くなってすまない」と言った。
「全く。あの2人も少しは仲良くしてくれれば、俺の気苦労も減るというのに……」
「ダルタニアンも大変だね」
「まぁ、慣れてしまえばどうって事はない。それより、今日はどんなミッションにする?」
 ダルタニアンはジュリアンの見ていた依頼書に目をやり、ジュリアンに尋ねた。
「…こっちは無視かよ」
 クーフェイはハァっと短くため息を吐くと、先程と同じく、ジュリアンの背中に体を預けた。
「構ってちゃんかよ!!」
 後ろに反り返りながら、ジュリアンは叫んだ。
――――――――――――
 ミッションを選んだ一行は、ミッション地へと向かうため、街道沿いを歩いていた。
「……まだかぁ~?」
 気だるそうな声でクーフェイが尋ねる。
「まだ」
 依頼書を見直しながら、ジュリアンが答えた。2人の前には地図を片手に先頭を歩いている、ロロとダルタニアンがいる。
「ロロの奴がいるんだから、魔法使って行けばいいだろ……」
 前にいる2人をボーっと見つめ、クーフェイが呟いた。先程からジュリアンの耳元でグチグチと愚痴を言っているクーフェイは、自分の足では歩いていない。依頼所からずっとジュリアンに引っ付いてるのだ。
 最初はクーフェイの足を引きずって歩いていたジュリアンだったが、いつの間にかクーフェイがジュリアンの腹周りに足を絡ませるようなスタイルになり、傍から見ているとジュリアンがクーフェイを背負っているような態勢だ。
「…お前、意外と力あるな」
 ガスマスクを外したクーフェイは、ジュリアンの肩に顎を置くと、しみじみと呟いた。
「だからって、頼って来るなよ。というか、戦闘になったら下りろよ」
「……気が向いたらな」
「あのなぁ……」
――お荷物じゃないか、強い癖に……。
 ジュリアンはじと~っとクーフェイを見た後、不服ながらも前へと視線を戻す。
「……!」
 ピクンっと背中越しにクーフェイの体が動く。何事かとジュリアンが足を止めると、クーフェイが素早く、地面に降り立った。手にはクナイと呼ばれる、忍の武器が握られている。
「ど、どうした……?」
「……上手い具合に気配消してんな……。あの馬鹿魔術師とダルタニアンでさえ、気付かねぇとは」
 クーフェイは片手をジュリアンの体の前に伸ばす。いつの間にか、口元にされているガスマスクの上からは獲物を狙う、猛獣のような目が辺りを警戒している。
「…ジュリアン、お前も得物構えろ」
「あ、あぁ!」
 クーフェイに言われ、剣を抜くジュリアン。その瞬間、肌に突き刺さるような殺気が体中を駆け巡った。
――な……何だ?
「流石は忍ですね。私の気配に気付くとは……」
 ガサッと草むらから音がして、そちらに目をやった瞬間、目の前で火花が散った。
「なっ…!」
 クーフェイに突き飛ばされたジュリアンが顔を上げると、そこにはクナイと刀が十字に交わっていた。
――早すぎて見えなかった……。
 ギチギチと武器同士が音を立てる。
「……誰だよ、お前」
「私はベアートゥス、ベアートゥス=ヒンデンブルク……。"神託の特攻 "と呼ばれている者だ」
 ベアートゥスと名乗った男は、長身で切れ長の目は、とても冷徹で感情を一切感じなかった。
「知らねぇよ、お前なんか…!」
 クーフェイのクナイがベアートゥスの刀を弾き返す。
「ジュリアン…、お前ダルタニアン達のとこへ走れ。全力で」
「クーフェイ?」
「こいつは俺が足止めしとく。だから…、行け!」
 クーフェイの言葉にジュリアンは剣を仕舞うと、ロロ達が歩いて行った方に走り出した。
「行かせる訳ないでしょう」
「右に同じく……だ!」
 後ろからは武器のぶつありあう、激しい音が響いている。
――あいつの狙いは何なんだ……。
 ジュリアンは走りながら、考える。ロロやダルタニアンでさえ、気配を気付けなかった程の相手だ。ただ者ではない事は確かだ。
「勇者くん」
「ロロ、ダルタニアン!」
 少しして、ジュリアンはロロ達に合流した。2人が後ろからついて来ない事を不審に思い、戻って来ていたようだ。
「何かあったのか?」
「それが…ベアートゥスとかいう奴がいきなり襲ってきて……」
「ベアートゥス……。またあいつか」
 ベアートゥスの名前を聞いた途端、ロロは眉を顰めた。
「知ってるのか?」
「腐れ縁ってやつだよ、認めたくはないけどね」
 ロロが鬱陶しいと言わんばかりの表情を浮かべる。察するに、いい思い出はなさそうだ。
「にしても、また気配に気付けなかったとはね……。俺もまだまだだな」
「クーフェイはそのベアートゥスという奴と戦っているのか」
 ダルタニアンの言葉にジュリアンはこくんと頷いた。
「さて、どうしてくれようかな……。あの守銭奴」
 ロロはダルタニアンに「勇者くんを頼んだよ」と言い残すと、地面を蹴り、魔法でクーフェイの元まで飛んで行った。
 後に残されたジュリアンとダルタニアンは、ロロの消えていった方向を見つめていた。
「クーフェイなら大丈夫だ。あいつは簡単にやられたりはしない」
「……だよな」
――何なんだ、この胸騒ぎは……。
 ジュリアンの手が自然と剣の柄に伸びた。その時、「ジュリアン!!」とダルタニアンの声が飛んできた。
「え……?」
 バッと顔を上げると、そこには先程現れたベアートゥスが無表情のまま、こちらを見下していた。
「捕まえました」
「ベアートゥス!?」
 すぐに距離を取ろうとするが、時すでに遅く、ジュリアンはベアートゥスに羽交い締めにされ、身動きが取れない状態だった。
「このっ……!!」
「無駄な抵抗は止めなさい。貴方の力じゃ私には勝てません」
「くっ……!」
――こいつの狙いは……僕?でも、何で?
「貴方も動かない方が身のためですよ。傷物にはしたくないので」
 ベアートゥスはそう言うと、ダルタニアンを見据えた。感覚的にベアートゥスには勝てないと思ったダルタニアンは、「くっ…!」と苦虫をかみつぶしたような表情を浮かべた。
「では、行きましょうか」
 抵抗しないダルタニアンにフッと不敵に笑うと、ベアートゥスはジュリアンを肩に軽々と担ぐ。
「待て!」
「そう言って、待つ奴がいるなら見てみたいものです」
「離せよ……!」
「嫌です」
 ベアートゥスは即答すると、ジュリアンを担いだまま、街道沿いを走り去って行った。
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