なりたて勇者のパーティー

Chiot

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act6・弱い奴は死に方も選べない

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「で、騎士くん。君が助けた暗殺者――クーフェイはどこに匿ってるんだい?」
 気絶している騎士達を縛り上げた後、ロロがダルタニアンに尋ねた。
「何だ、バレていたのか」
「俺は情報屋だからね」
 えっへんと胸を張るロロをダルタニアンは慣れた様子で「はいはい」と受け流す。
「クーフェイなら、街の方にいるはずだ。街を出ようとしたら、この騒ぎになってしまって、途中ではぐれてな……」
「そいつ、怪我してるんじゃ……」
「それなら心配いらない。もう怪我は完治している」
「騎士くんさ、そいつに殺されかけたんでしょ?何、面倒見てるの?」
 ロロが腕を組み、ダルタニアンを見下ろす。いつもとは違い、真剣みを帯びた声色のロロにジュリアンは心底驚くが、ダルタニアンは表情1つ変えない。ダルタニアンにとっては珍しい事ではないらしい。
「お人好しにも程があるんじゃない?」
「……俺はあいつに助けられたんだ。だから、その礼をしているだけだ」
「助けられた…?」
 ダルタニアンの言葉の意味が分からず、ジュリアンは首を傾げる。
「あいつは俺にそれを知らせに来たんだ。『俺は騎士団長にお前を殺せと命じられた』っと」
「え……」
「へぇ……」
 驚くジュリアンとは対照的にロロは至って冷静だ。心なしか、表情が怖い気もする。
「つまり、今回の騒ぎに乗じて、お前達2人を殺そうっていう算段だって事か」
「何で……こいつら、騎士なんだろ!?騎士がそんな事……」
「言っただろ、勇者くん。こいつらは騎士なんかじゃないって」
 鋭いロロの言葉にジュリアンはハッとロロを見る。
「ロロ……」
「って事は、街の方が危ないかもね。今頃、血眼になって暗殺者くんを捜してるだろうから」
「っ……!」
――フレデリックとルアンナ!
「戻るぞ、ロロ!」
 ジュリアンは地面を蹴ると、踵を返し、街へと走って行く。
「待て、ジュリアン!」
「無駄だよ、今の勇者くんには」
「……俺達も行こう」
「あぁ」
―――――――――――――
 街へと一足先に戻って来たジュリアンは、人気のなくなった通りを歩いていた。
――街の人の避難は終わってるな……。
 その事にとりあえず、ホッとするジュリアン。しかし、まだ安心は出来ない。全神経を集中させ、慎重に通りを進んでいく。
「無事でいてくれ……」
 ジュリアンが呟いた、その時だった。
「っ……!」
 誰かの気配がして、ジュリアンが振り向くと、首元に鈍く光る短刀が突きつけられていた。
――いつの間に……!
 ゆっくりと視線を動かせば、背後にはジュリアンを羽交い締めにし、短刀を突きつけている人物がチラリと見えた。黒いニット帽から覗くピンク色の短髪からは、ほのかに血の臭いがした。
――誰だ……?
 ガスマスクをしているせいで、顔はよく見えないが、ダルタニアン同様綺麗そうな顔立ちの男は、格好からして騎士には見えなかった。
「誰だ…、お前。死にたくなかったら、答えろ」
 どこか気だるそうな口調の男の声が、ガスマスクのせいで少しくぐもって聞こえてきた。
「ぼ……僕は、ジュリアン。ジュリアン=ヴィンチェンティーノ」
「名前を聞いてるんじゃねぇよ。ハァ……、めんどくせぇ……。……ん?」
「え?な、何か?」
 不意に男が声を上げた事に敏感に反応するジュリアン。ハラハラしながら、男の行動を考えていると、顔の傍からスンスンと何かを嗅いでいるような小さな音が聞えてきた。
――んん??
 恐る恐る、そちらに目をやるとそこにはジュリアンの肩に顔を埋め、スンスンと臭いを嗅いでいる男がいた。
「うぉっ……!?!?」
――何だ、このデジャブは!!!
「……あいつの臭いがする」
 呟いた途端、男がジュリアンからスッと離れた。首元に突きつけていた短刀がなくなり、ジュリアンはハァ~っと息を吐いた。
「お前……、あいつの知り合いかなんかか?」
「あいつ?……あ、もしかして、君、ダルタニアンさんの助けた暗殺者?」
 男もとい暗殺者――クーフェイはコクンと頷いた。
――ダルタニアンさんって、そんなにいい匂いがするの?それとも、こいつらの嗅覚が異常なの?
「お前、心の声がだだ漏れだぞ…」
    クーフェイはガスマスクを首元に下ろすと、面倒くさそうに呟いた。やはり、予想通り、クーフェイの顔は整っていた。
「つーか、お前…、1人でこんなとこ、来てんじゃねぇよ。殺されるぞ」
「っ……!」
「…まだ死にたくはねぇだろ。命が惜しいんなら、帰れ」
 クーフェイは淡々と言葉を並べていく。その無表情な顔にジュリアンは恐怖を覚えた。ジュリアンよりもはるかに死に触れたクーフェイの言葉には、形容し難い程の説得力が感じられた。
「…弱い奴はな、すぐに殺られんだよ。だから、死に方さえも選べねぇ……。そんな死に方、したくねぇだろ?」
 ぐっと顔を近付け、真っ直ぐにジュリアンを見るクーフェイ。一方のジュリアンはあまりの恐怖に目を逸らせないでいた。
「止めろ、クーフェイ」
 そこへダルタニアンとロロが駆けつける。ダルタニアンはジュリアンとクーフェイを引き離すと、「脅しすぎだ」とクーフェイを軽く睨んだ。
「勇者くん、足速すぎだよ。……大丈夫かい?」
 固まったままのジュリアンにロロが声をかけるが、呼吸するのが精一杯な状態のジュリアンに答える術はない。
「ジュリアンは友達を助けに街に戻って来たんだ」
「……お前みたいなのがまだいたのか」
「クーフェイ」
「悪かったって……」
 反省していないクーフェイにダルタニアンはため息を吐いた。
「けど、事実だろ。そいつ…、ジュリアンだっけか?俺達に比べりゃ、レベル低いだろ…。つーか、強そうに見えねぇし」
「……確かに、僕はお前達に比べたら、まだまだ弱いよ。けど……!」
 意を決したように、ジュリアンがくいっと顔を上げる。先程とは違う、ジュリアンの表情にクーフェイは少し驚いたように目を丸くした。
「弱いってのが、友達を助けない理由にはならないだろ!!!」
 ジュリアンの怒号にも似た叫び声が、街に響いた。
「弱いから逃げてろとか、弱い奴が出しゃばんなとか、僕は……僕は嫌なんだよ!友達を助けたいって思う事に弱いって事は関係ない!そんな事より、目の前で友達が死ぬ事の方が僕は怖いんだよ…!!!」
 ジュリアンはそう言い終わると、ロロを押しのけ走り出した。背後からはダルタニアンやロロの声が聞こえてくるが、ジュリアンは聞こえないフリをした。
――……父さん達も、そんな風に友達をほっとけなかったのかな。
 走りながら、ジュリアンは今なら少しだけ、両親を理解出来るような気がした。
―――――――――――――――――――――
「くっ……!」
 フレデリックの最後の矢が放たれ、目の前の敵が倒れる。もうどれくらい、倒しただろうか。一向に減って行かない敵に疲労困憊の2人は息を荒い息を繰り返す。
「そこをどけ」
 騎士達が前進を始める。ロロの隠れ家の入口を守ろうにも、矢も弾丸も先程のモノで尽きてしまった。フレデリックとルアンナに騎士達を止める術は、もはやなくなっていた。
「クッソ!!!!」
 フレデリックが叫んだ瞬間、後方辺りから聞き慣れた声が飛んできた。
「フレデリック!ルアンナ!」
 群がる騎士達を薙ぎ倒し、フレデリック達の元に駆け寄るジュリアン。
「大丈夫か、2人とも」
「ジュリアンくん!」
「悪ぃな、ジュリアン……」
「気にすんなよ、フレデリックらしくない」
 ジュリアンは2人に微笑みかけると、騎士達と対峙する。正直、こんな大人数を倒せる自信などない。
――でも、やらなくちゃならないだろ…!
 ぐっと剣を強く握り締め、構えるジュリアン。
「行け」
 騎士達が一気にジュリアンに襲いかかる。
「ジュリアン!」
「ジュリアンくん!」
「うおぉぉぉ!!!!」
 勢い地面を蹴ると、ジュリアンは騎士達の群れに突っ込んだ。我ながら驚くくらいのスピードで騎士達に攻撃を仕掛けていく。が、硬い鎧を身に纏っている騎士達には大したダメージにはならない。
「この!!!」
 それでも、ジュリアンは剣を振るう。腕はとうに限界が来ていて、剣を握っているのもやっとの状態だ。
――僕がもっと強かったら……!!!
 悔やみながらも、ジュリアンは渾身の力を振り絞り、騎士達に抗う。
「ハァ……ハァ……」
「ふん……。弱いな」
 1人の騎士が鼻でジュリアンを笑うと、それが合図かのように、騎士達から笑い声が上がった。その笑い声にジュリアンはギリっと歯を食いしばった。
「笑ってんじゃねぇよ!!!!」
 フレデリックが壁を殴り付け、叫ぶ。
「フレデリック……」
「そうだよ。おかしくなんかないよ」
 ルアンナがキッと騎士達を睨んだ。
「貴方達なんかに……絶対に負けない!!」
「そうだな」
 ルアンナとフレデリックは隠れ家の入口を庇うように、立ち塞がった。
「ここから先は……何人たりとも通さねぇ」
「ほざけ、雑魚が!!」
  騎士達が一斉に3人に襲いかかる。
『…弱い奴はな、すぐに殺られんだよ。だから、死に方さえも選べねぇ……。そんな死に方、したくねぇだろ?』
 頭に過ぎったのは、クーフェイの言葉だった。
――だったら……、僕は最後まで自分を貫いて死にたい。
「それなら、本望だ」
 ジュリアンはそう呟くと、剣を構え直した。
「残念だけど、勇者くん。お前はまだ死なせないよ」
 騎士達の足元が光ったと思った刹那、地面から幾つもの火柱が上がった。不意の攻撃に騎士達は慌てて、服についた火を払う。
「ロロ…!」
「ごめんね、勇者くん。助けるのが遅れて」
 ロロはジュリアンの肩に手を置くと、空いている手でフレデリックに矢の入った矢筒、ルアンナに弾丸の入ったベルトを投げた。
――これなら、戦える!
「さぁ、反撃開始といこうか。狩人くん、ガンマンちゃん、サポートよろしくな」
「任せろ」
「ジュリアンくんを笑った分、きっちり返してあげるんだから!」
 フレデリックとルアンナが武器を構える。
「俺達も手助けするよ、ジュリアン」
「……めんどくせぇ」
 タンっと軽い音を立て、どこからかダルタニアンとクーフェイが現れる。
「騎士くん、早かったね」
「時期に王立騎士団がやって来る。それまでにこいつら全員を捕らえるぞ」
「……へーい」
 気だるそうに返事をするクーフェイ。その手には赤い紐が巻き付けられていて、先には金属の鋭い三角形の武器がついている。
――確か、双蛇縹って呼ばれる暗器……だっけ?
「1人残らず倒してやるぜ!!」
 フレデリックの声と共に騎士達とジュリアン達の大乱闘が始まった。
―――――――――――――――――――――
 数時間後、ダルタニアンの言った通り、街には王立騎士団がやって来た。ダルタニアンの所属していた騎士達を捕らえた王立騎士団は、彼らから騎士の職を剥奪し、牢獄に連行したという。
 街の被害は最小限であったため、復興にはそれ程時間はかからなかった。数日後には以前のような、賑やかさを取り戻していた。
「僕がいない間にそんな事が起きてたの」
 ヘンゼルと出掛けていたグレーテルは、ルアンナからその話を聞いていた。
「にしても、ジュリアン。頑張ったじゃない」
「いや……結局、ロロ達に助けてもらって勝てたようなもんだし」
「何、落ち込んでる訳?勇者なんだから、シャキッとしなさい、シャキッと」
 グレーテルはバシンっと力強く、ジュリアンの背中を叩いた。見た目の割に力の篭った一撃に背中がジンジンと痛む。
「グレーテル、痛い……」
「ほら、さっさとミッション行くぞ。今度は僕を守ってよ、勇者くん」
 パチンっとあざとくウインクをしたグレーテルに「グレーテル、充分強いじゃない」っルアンナが言った。
「ったく、行くぞ。ジュリアン」
「待ってくれよ、フレデリック!」
 ジュリアンはまだ痛みの残る背中を摩りながら、フレデリック達の後を追いかけた。
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