なりたて勇者のパーティー

Chiot

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act2・気まぐれな魔術師

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「はぁっ!?あのロロ=ルシエンテスがお前にパートナーカードを渡したっ!?」
「声が大きいっ!!」
 ジュリアンはフレデリックの口を手で塞ぐと、口元に人差し指を立てる。
「ロロ=ルシエンテスの野郎、何考えてんだよ……」
「さぁ……?」
 訳が分からず、ジュリアンはロロのパートナーカードをじーっと見つめた。
「とりあえず、警戒はしとけよ」
「分かってる」
 パートナーカードをポケットにしまい、ジュリアンが返す。
「強い仲間を見つけるまでは、無難なミッションをやっていくしかないか……」
――全額返済は遠い……。
「お前の親父さん達が借金増やさねぇ事を願っとくわ」
「……どうにかなんないのかな、あの性格」
 助けるメリットさえ、分からない両親の行動にジュリアンは、重いため息を吐くのだった。
____________
 それから数週間後、ジュリアンはフレデリックと共に色々なミッションをこなしていた。そのおかげで何とか借金を返済してはいるが、全額返済まではまだまだ長い道のりだ。
――高額報酬ミッションをやりたい……。
 ジュリアンはそう思いつつ、依頼所で自分にあったミッションがないかと目を走らせていた。
「………で、……」
「ん?」
  不意に物陰から誰かの声が聞こえてきた。そっとそちらに目をやると、そこには怪しげな話をしている2人組の男がいた。
――あれは、ロロ……。
「あいつは止めといた方がいいんじゃない?下手したら、あんた、死んじゃうかもよ?」
 ロロの忠告に切羽詰まった様子の男は耳を貸す所か、更に表情を険しくするばかりだ。
「俺はあいつを殺さないといけないんだ……!」
「あのさ、こういうの、言うのも何だけど、身の程わきまえたら?」
 ゾワリと背筋に悪寒が走る。聞き耳を立てているジュリアンでこうならば、男はきっと生きた心地がしないだろう。
「大したレベルでもない癖に娘の仇討とか、死にに行くようなもんでしょ」
「貴様っ!」
 怒った男がロロの胸倉に手を伸ばす。
「俺にキレるのも見当違いだと思うんだけどね。俺はただ事実を言っただけなのに」
 そんな男を前にしても、ロロはいつものポーカーフェイスだ。何を考えているか、全く読めないロロに傍から見ているジュリアンは不安を募らせる。
「お前に何が分かるっ!!!」
「感情的になるなよ。面倒くさい」
 ロロははぁ~とため息をつくと、おもむろに男の足を踏み付けた。瞬間、骨の軋む嫌な音が辺りに鈍く響く。魔力の込められた、ロロのブーツが男の足の骨を砕いたのだ。
「ぐあぁぁっ……!!!」
  悲鳴を上げ、床をのたうち回る男。その様を眺めているロロの表情は冷たいもので、ジュリアンは当事者でもないのに恐怖を感じた。
「これでしばらくは仇討なんて、馬鹿な事は出来ないだろ?せいぜい、俺に感謝しなよ」
 ロロはそう言うと、苦しむ男を残し、こちらに歩き出した。マズいとジュリアンは慌てて、元いた場所に戻ると依頼書を見ているフリをする。
「あれ?勇者くんだ」
 ジュリアンを見つけたロロの声は先程とは違い、明るく、それがジュリアンには逆に不気味に思えた。
「こ…こんにちは」
「そんなにビビらないでよ」
 「パーティでしょ?俺達」とロロがジュリアンの肩に手を回す。
「でも、勇者くん。盗み聞きはよくないよ?」
 耳元に寄せられたロロの口から発せられた言葉に、ジュリアンはビクリと体を震わせる。
「まぁ、たまたま聞いちゃったみたいだから、許してあげる」
 言い訳を考えていたジュリアンを他所にロロは、なんて事ないとジュリアンから体を離す。
「ミッション受けるの?」
「は、はい」
  ジュリアンか近くにあった依頼書に手を伸ばすと、ロロがその手を掴む。何だと横目で見遣れば、「そんなのよりさ」とロロは違う依頼書を手に取った。
「こっちのミッション、行こうよ」
 ロロが手に持っているのは、ジュリアンの受けているミッションよりもはるかに難易度の高いミッションだった。
「え、でも僕、弱いですし……」
「大丈夫。俺がいるから」
 有無を言わさない雰囲気でロロが言い放つ。面白がっているのか知らないが、こちらは弱いのだ。それも冗談じゃないくらいに。
「勇者くんのレベルアップに貢献してあげるんだよ?こういう機会にでも上げておかないと、でしょ?」
  が、結局ロロの押しに負け、ジュリアンはそのミッションを受ける事になった。もちろん、ジュリアンとロロの2人だけで。
――大丈夫かなぁ……。
 ミッション地へと向かいながら、ジュリアンはチラリと前に目を向ける。鼻歌混じりに陽気に歩いているロロはジュリアンの視線に気付いたのか、「何?」と声をかけてくる。
「い、いや、何も!」
「そう?」
――この人は何で僕を……。
 ジュリアンが思案しかけた、その時、周りから突き刺さるような殺気を感じた。その視線にジュリアンの手は自然に腰の剣へと伸びる。
「勇者くん、無理は禁物だよ?」
「は、はいっ!」
 ガサガサと揺れる草むらから、飛び出して来た魔物にジュリアンは飾りではないとばかりに剣を振るう。
「っと!」
 魔物の腹にロロの素早い蹴りが入る。戦っているというよりは舞っているかのような、軽やかな動きにジュリアンは思わず、見とれてしまう。
「くっ……!」
 襲いかかってくる魔物の全力の攻撃を剣で何とか受け止める。が、慣れていないせいで、両手がビリビリと痺れて来る。
「勇者くん、大丈夫?」
「だ……大丈夫、です!」
 魔物を相手にしながら、涼しげに尋ねてくるロロにジュリアンは何とか返事をする。
「やっぱり、キツかったかな?」
 はぁはぁっと乱れた息を整えようとしているジュリアンの肩にロロが手を置いた。すると、息苦しさがすっと消え入り、ジュリアンは驚いて顔を上げる。
「お疲れ様」
 いつもの嘘くさい笑顔とは違う、心からのロロの笑顔にジュリアンは疲れが飛んでいくような気がした。
_____________
 その日から、ジュリアンはロロとミッションに行くようになった。ある時は依頼所で、またある時は玄関の前で、まるで会う約束でもしているかのようにロロはジュリアンを待っているのだ。
「お前、本当何やらかしたんだよ」
「何もしてないよっ!!」
 フレデリックはジュリアンの言葉を聞いて、「訳分かんねぇ」とジュリアンのベッドに背中からダイブした。
「じゃあ、何で目ぇ付けられてんだよ。おかしいだろ」
「こっちが聞きたいよ……」
 ジュリアンも自身のベッドに背中からダイブする。
「まぁ、聞いた所ですんなり教えちゃくれねぇだろうけど」
「だよね……」
――ロロの考えてる事なんか、僕には分かりっこないよ……。
 ロロは情報屋であるためか、謎が多い。年齢、出身地、経歴不詳で分かっている事は、ロロ=ルシエンテスという名前、"終末の邪眼"という称号、身長、職業だけだ。
「……っと!そろそろ行かねぇと」
 フレデリックが何かを思い出したのか、勢いよくベッドから立ち上がる。
「いってらっしゃい、気をつけてね」
「そっちもな。ロロ=ルシエンテスには気ぃつけろ」
 フレデリックはジュリアンに釘を刺すと、いつものように窓から外に出た。
「気をつけろ、か……」
 ベッドから上半身を起こすと、ジュリアンは1人呟いた。それから少しして、身支度を済ませたジュリアンが依頼所に向かおうと玄関のドアを開けると、見慣れた影が目に入ってくる。
「遅いよ」
 さも当然とばかりにそこにいるロロは、不機嫌そうにこちらを見ている。
「す…すいません」
 約束をしていた訳ではないが、とりあえず謝っておくジュリアン。
「ねぇ、勇者くん」
「な、何ですか」
「君、俺の事苦手なの?」
 突然の問いにジュリアンは目をパチクリとさせる。そんなジュリアンをロロは腕を組みながら、じぃっと見据えている。
「なんか話し方たどたどしいし、敬語だし」
「敬語なのは貴方が年上だからで……」
「俺、敬語って嫌いなんだよね」
 何だろう、この威圧感は。蛇に睨まれた蛙ってこんな気持ちなのだろうか。
「だから、敬語禁止」
「へ!?」
「あと、喋る時はハキハキと元気よく。名前は呼び捨てじゃないと話、聞かないから」
――何でこうなったのっ!?
 状況が理解出来ない。相槌すらまともに出来ないジュリアンを他所に、ロロは1人満足そうに口の端に笑みを浮かべている。
「じゃ、そういう訳で」
「えっ!?ちょっ……!」
「ほら、ハキハキと」
――ロロはやっぱり、よく分からないや……。
 愉快そうに笑うロロの後をジュリアンは戸惑いながらも追いかけるのだった。
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