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act1・なりたて勇者の悲劇
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街に朝を知らせる鐘が鳴る。鐘のある建物内は、透き通っている音とは裏腹に厳かな空気が流れていた。教壇に立ち、床に膝まづいている少年――ジュリアンを見ている男が、手に持っている紙に目をやる。
「ジュリアン=ヴィンチェンティーノ。今から汝を勇者と認めよう」
男の言葉にジュリアンは恭しく、一礼をした。
「よっしゃーーーーーー!!!!」
建物を後にしたジュリアンは紙を握り締め、空に叫んだ。
「うっせぇよっ!!」
そこへ飛び蹴りを決めたのは、ジュリアンの幼馴染のフレデリックである。フレデリックから華麗な飛び蹴りを食らったジュリアンは、地面に倒れる。いつもなら、怒る所だが、今はこの飛び蹴りさえも祝福されているように思えてくる。
「ニヤニヤしてんじゃねぇよ、気色悪っ……」
そんなジュリアンを気味悪がるフレデリック。
「フレデリック、受かったんだよっ!勇者の試験!!」
ジュリアンは紙を両手で持つと、フレデリックに見せた。
「おぉ!ようやくかよ、よかったなっ!」
フレデリックがジュリアンの頭をわしゃわしゃと撫でる。乱暴な手つきだが、フレデリックが祝福してくれている事が伝わってきて、ジュリアンはとても嬉しくなった。
「それ、親父さん達に見せて来いよ。絶対喜ぶぞ!」
フレデリックの言葉にジュリアンは「うん!」と元気よく、頷くと家に向かって走り出した。
「ただいまっ!」
フレデリックと分かれた後、全力疾走で家に帰って来たジュリアンは勢いよく、ドアを開けた。
「………え」
目の前の光景にジュリアンは言葉を失い、持っていた紙は力なく、床へと落ちていく。
「では、これはすべて没収させていただきます」
スーツを着た男が呆然と突っ立ているジュリアンの横をすり抜け、家から出ていく。
――またか……。
先程までの幸せな気持ちが一気にぶち壊された事に不快感が募る。もう何度繰り返している事とはいえ、いつまでも学習してくれない現状にため息さえ出てこない。
「今度は何?」
聞きたくはないが、とりあえず状況を把握しなければならない。
「お金を借りてた友達が逃げちゃってね、それで………」
母親が困ったというように息を吐いた。困っているのはこっちだ。見れば、家の中の家具はほとんどなくなっていた。
「また借金の連帯保証人?もうしないって言ったよね?」
呆れたような口調でジュリアンが言うと、母親は「でも、困ってたし……」と悪びれる様子はない。
「父さんは金貸しの所で返済の事について話してるわ」
「………あっそ」
呆れて物も言えないジュリアンは、悩む母親を尻目に自室に戻る。幸いな事に自室の家具はなくなっていなかった。
――何で毎回こうなんだ。
ジュリアンの両親は人が呆れる程のお人好しだ。人はみな善として、決して疑わない。そんな性格の両親は親戚や友人達の格好の餌食だった。
ジュリアンが小さい頃から、両親はしょっちゅう借金の連帯保証人なら何やらにされていた。もう何人が返済をせずに逃げたか、考えるのも嫌になる。だが、その度に両親は身を粉にして、借金を返済していた。
――なんて馬鹿なんだ。
ジュリアンにとって、両親は悪い見本でしかなかった。
――僕には関係ない。
しかし、そうも言っていられなくなったのは、つい最近の事。借金を返済しようと頑張りすぎた父親が体を壊したのだ。
「せっかく勇者になれたのに……」
ジュリアンが勇者の職に就いたのも、その借金を返済するためであった。
「おーい、ジュリアン!」
不意に声がして、ジュリアンはベッドから起き上がる。ベッド際の窓を開けると、そこにはさっき分かれたばかりのフレデリックが窓枠に座っていた。
「フレデリック」
窓から部屋に入って来たフレデリックは、いつものように悪戯っぽく笑っている。
「何しけた面してんだよ」
フレデリックがジュリアンの顔を覗き込む。
「あ~……、またか」
その表情で全てを悟ったフレデリックは、困ったというように頭をかいた。幼馴染のフレデリックはジュリアンの家の事情をよく知っていた。
「ったく、タイミング悪すぎだろ」
フレデリックはガシガシと頭をかきながら、ベッドに腰かける。
「本当、何でだろうね…。でも、返済はしないと」
「んな事より、その逃げた奴、とっつかまえた方が早ぇんじゃねぇの?」
「金貸しが捕まえられないような人を僕が捕まえられる訳ないよ」
ジュリアンが苦笑を浮かべる。
「それに、期限内に返済し終えないと苦しむのは僕だからね」
どう抗おうが、借金の返済はしなければならない。それがどんなに理不尽であろうとも、書類に名前を書いた以上は逃げられないのだ。
「とりあえず、明日、依頼所に行って見るよ。僕でも出来る仕事があるかも知れないから」
「……そうか」
フレデリックがジュリアンを慰めるように優しく、頭を撫でた。その手の温もりにジュリアンは何だか安心する。
「お、そうだ。これ、お前にやるよ」
フレデリックがジュリアンに1枚のカードを手渡す。そのカードはパートナーカードといい、交換した相手とパーティを組む事が出来るカードだ。
「お前1人じゃ危なっかしいからな。ミッション行くなら、付き合ってやんよ」
「ありがとう、フレデリック!」
――フレデリックがいてくれて、よかった。
「よし、じゃあ何か食いに行こうぜ。お前の合格祝いに」
フレデリックはそう言うと、ジュリアンの手を掴み、自分がやって来た窓から外へ飛び出した。
「ぎゃあぁぁぁ!!」
「叫ぶな、ヘタレ勇者」
「今度は玄関からちゃんと出ようよ……」
「気が向いたらな」
フレデリックの言葉にまたジュリアンは苦笑する。
「ボサっとしてんなら置いてくぞ」
「え、待ってよっ!!」
スタスタと歩いていくフレデリックをジュリアンは慌てて、追いかけた。
_____________
翌日。フレデリックと朝まで大騒ぎしたジュリアンは眠い目を擦りながら、街の依頼所に来ていた。依頼所には様々な職業の人々がいて、皆壁に貼られている依頼書を眺めている。
「えっと……僕向けのミッションは……」
ジュリアンが依頼書に目をやる。
「……報酬が安い」
なりたて勇者のジュリアンに出来る仕事は雑用に近かった。子供が小遣い稼ぎに受けるようなミッションばかりで、ジュリアンは肩を落とした。
――勇者になった意味……。
「ん?」
トボトボとジュリアンが依頼所を歩いていると、1枚の依頼書が目に入った。それは依頼所の一番端に貼られていたものだった。
「高っ!!」
その報酬金額にジュリアンは目を丸くした。ミッション内容は魔物退治と書かれており、報酬の額は先程のモノより桁違いに高い。
「貴方、なりたて勇者さん?」
そこに依頼所のスタッフがやって来る。
「あ、はい」
「そのミッション、受けたいの?」
スタッフの言葉にジュリアンはこくんと頷いた。すると、スタッフはあからさまに困った顔になり、言いにくそうに口を開いた。
「残念だけど、そのミッションはパーティじゃないと受けられないの。それに……、貴方、まだレベル1でしょ?それじゃ、死にに行くようなものよ」
「うっ……」
スタッフの言葉にジュリアンは目を伏せる。
「もし、それでも行きたいと言うのなら、強い仲間をパーティに入れることね」
スタッフはそう言うと、誰かに呼ばれたらしく、その場を後にした。後に残されたジュリアンは依頼書をじぃっと見つめている。
「強い仲間をパーティに……」
ジュリアンはポケットに入っているフレデリックのパートナーカードを手に取った。
「よし……」
――やるしかないよな。
ジュリアンは意を決すると、パートナーカードをポケットに収め、依頼所を後にした。
「けど、仲間にするってどうやれば……」
ブツブツと呟きながら、ジュリアンは歩き出す。フレデリック以外で依頼を一緒にしてくれるような仲の人はおらず、レベルの低い自分に付き合ってくれるもの好きなどいるだろうかと思案を巡らせる。
「ねぇ」
「う~ん……」
「あれ、無視?ねぇってば」
「ん~~~~……」
「ちょっと、そこのなりたて勇者くん」
ジュリアンが考え事をしながら、唸っていると誰かが声をかけてきた。ハっと我に返り、ジュリアンが声のした方に振り返る。
「あ、やっと気付いた」
声の主は少し不機嫌そうにこちらを見ている。綺麗に整った顔をした、声の主はここらでは有名な人物だった。
「あなた、情報屋の……」
「あ、俺の事知ってるんだ」
銀髪の情報屋――ロロ=ルシエンテスは満足げに笑みを浮かべた。"終末の邪眼"という称号を持つ、ロロは恵まれた容姿に派手な格好をした魔術師である。
「勇者くん、強い仲間を捜してるんだろ?」
――さっきのやり取り、聞かれてたんだ……。
「いや~、大変だよね。両親のお人好しのせいで君が働かないといけなくなるなんて」
「俺なら御免だよ」っとロロがおどけた調子で言った。が、その表情はどこか怪しげだ。
「あれ、もしかして警戒してる?」
ロロの言葉にジュリアンはビクリと肩を揺らす。心を覗き見られているような感覚に体は落ち着かなくなる。
「君は両親とは違うみたいだね」
愉快そうなロロの口ぶりにジュリアンは拳を握り締めた。ここで怒る訳にはいかない。相手は自分よりもはるかに強い魔術師だ。もし、戦闘になれば、負けるのは目に見えている。
「……それで、僕に何か……?」
「はい、これ」
ロロがジュリアンに何かを差し出す。何かとジュリアンがそれに目をやると、そこには、これでもかと決め顔をしたロロの顔写真の載ったパートナーカードがあった。それを見た途端、ジュリアンは目をパチクリさせた。
「…………はい?」
「だから、あげる」
「何で?」
「勇者くんに興味があるから」
にこやかにロロが答える。
――怪しい……。
何か企んでいるのではないかと、ジュリアンはパートナーカードをまじまじと見つめる。
「俺の考えてる事は勇者くんにはきっと分かんないよ」
「っ………!」
「けど、勇者くん」
ロロの声色が変わる。先程よりも低いロロの声にジュリアンの背中に嫌な汗が伝う。
「君には俺の力が必要なはずだ。だろ?」
「なら、受け取るべきだよね?」と言うと、ロロはジュリアンの手に自分のパートナーカードを置いた。
「大丈夫。君を悪いようにはしないし、助けて欲しい時は助けてあげるから」
ロロはにこっと爽やかな笑みを浮かべると、ジュリアンの肩をポンと叩き、「じゃ、俺はこれで」とその場から去ろうとする。
「ちょ……ちょっと!!」
ジュリアンが呼び止めようとするも、ロロはひらひらと手を振るばかりで足を止める気配はない。やがて、ロロの姿は雑踏の中へと消えて行った。
「ジュリアン=ヴィンチェンティーノ。今から汝を勇者と認めよう」
男の言葉にジュリアンは恭しく、一礼をした。
「よっしゃーーーーーー!!!!」
建物を後にしたジュリアンは紙を握り締め、空に叫んだ。
「うっせぇよっ!!」
そこへ飛び蹴りを決めたのは、ジュリアンの幼馴染のフレデリックである。フレデリックから華麗な飛び蹴りを食らったジュリアンは、地面に倒れる。いつもなら、怒る所だが、今はこの飛び蹴りさえも祝福されているように思えてくる。
「ニヤニヤしてんじゃねぇよ、気色悪っ……」
そんなジュリアンを気味悪がるフレデリック。
「フレデリック、受かったんだよっ!勇者の試験!!」
ジュリアンは紙を両手で持つと、フレデリックに見せた。
「おぉ!ようやくかよ、よかったなっ!」
フレデリックがジュリアンの頭をわしゃわしゃと撫でる。乱暴な手つきだが、フレデリックが祝福してくれている事が伝わってきて、ジュリアンはとても嬉しくなった。
「それ、親父さん達に見せて来いよ。絶対喜ぶぞ!」
フレデリックの言葉にジュリアンは「うん!」と元気よく、頷くと家に向かって走り出した。
「ただいまっ!」
フレデリックと分かれた後、全力疾走で家に帰って来たジュリアンは勢いよく、ドアを開けた。
「………え」
目の前の光景にジュリアンは言葉を失い、持っていた紙は力なく、床へと落ちていく。
「では、これはすべて没収させていただきます」
スーツを着た男が呆然と突っ立ているジュリアンの横をすり抜け、家から出ていく。
――またか……。
先程までの幸せな気持ちが一気にぶち壊された事に不快感が募る。もう何度繰り返している事とはいえ、いつまでも学習してくれない現状にため息さえ出てこない。
「今度は何?」
聞きたくはないが、とりあえず状況を把握しなければならない。
「お金を借りてた友達が逃げちゃってね、それで………」
母親が困ったというように息を吐いた。困っているのはこっちだ。見れば、家の中の家具はほとんどなくなっていた。
「また借金の連帯保証人?もうしないって言ったよね?」
呆れたような口調でジュリアンが言うと、母親は「でも、困ってたし……」と悪びれる様子はない。
「父さんは金貸しの所で返済の事について話してるわ」
「………あっそ」
呆れて物も言えないジュリアンは、悩む母親を尻目に自室に戻る。幸いな事に自室の家具はなくなっていなかった。
――何で毎回こうなんだ。
ジュリアンの両親は人が呆れる程のお人好しだ。人はみな善として、決して疑わない。そんな性格の両親は親戚や友人達の格好の餌食だった。
ジュリアンが小さい頃から、両親はしょっちゅう借金の連帯保証人なら何やらにされていた。もう何人が返済をせずに逃げたか、考えるのも嫌になる。だが、その度に両親は身を粉にして、借金を返済していた。
――なんて馬鹿なんだ。
ジュリアンにとって、両親は悪い見本でしかなかった。
――僕には関係ない。
しかし、そうも言っていられなくなったのは、つい最近の事。借金を返済しようと頑張りすぎた父親が体を壊したのだ。
「せっかく勇者になれたのに……」
ジュリアンが勇者の職に就いたのも、その借金を返済するためであった。
「おーい、ジュリアン!」
不意に声がして、ジュリアンはベッドから起き上がる。ベッド際の窓を開けると、そこにはさっき分かれたばかりのフレデリックが窓枠に座っていた。
「フレデリック」
窓から部屋に入って来たフレデリックは、いつものように悪戯っぽく笑っている。
「何しけた面してんだよ」
フレデリックがジュリアンの顔を覗き込む。
「あ~……、またか」
その表情で全てを悟ったフレデリックは、困ったというように頭をかいた。幼馴染のフレデリックはジュリアンの家の事情をよく知っていた。
「ったく、タイミング悪すぎだろ」
フレデリックはガシガシと頭をかきながら、ベッドに腰かける。
「本当、何でだろうね…。でも、返済はしないと」
「んな事より、その逃げた奴、とっつかまえた方が早ぇんじゃねぇの?」
「金貸しが捕まえられないような人を僕が捕まえられる訳ないよ」
ジュリアンが苦笑を浮かべる。
「それに、期限内に返済し終えないと苦しむのは僕だからね」
どう抗おうが、借金の返済はしなければならない。それがどんなに理不尽であろうとも、書類に名前を書いた以上は逃げられないのだ。
「とりあえず、明日、依頼所に行って見るよ。僕でも出来る仕事があるかも知れないから」
「……そうか」
フレデリックがジュリアンを慰めるように優しく、頭を撫でた。その手の温もりにジュリアンは何だか安心する。
「お、そうだ。これ、お前にやるよ」
フレデリックがジュリアンに1枚のカードを手渡す。そのカードはパートナーカードといい、交換した相手とパーティを組む事が出来るカードだ。
「お前1人じゃ危なっかしいからな。ミッション行くなら、付き合ってやんよ」
「ありがとう、フレデリック!」
――フレデリックがいてくれて、よかった。
「よし、じゃあ何か食いに行こうぜ。お前の合格祝いに」
フレデリックはそう言うと、ジュリアンの手を掴み、自分がやって来た窓から外へ飛び出した。
「ぎゃあぁぁぁ!!」
「叫ぶな、ヘタレ勇者」
「今度は玄関からちゃんと出ようよ……」
「気が向いたらな」
フレデリックの言葉にまたジュリアンは苦笑する。
「ボサっとしてんなら置いてくぞ」
「え、待ってよっ!!」
スタスタと歩いていくフレデリックをジュリアンは慌てて、追いかけた。
_____________
翌日。フレデリックと朝まで大騒ぎしたジュリアンは眠い目を擦りながら、街の依頼所に来ていた。依頼所には様々な職業の人々がいて、皆壁に貼られている依頼書を眺めている。
「えっと……僕向けのミッションは……」
ジュリアンが依頼書に目をやる。
「……報酬が安い」
なりたて勇者のジュリアンに出来る仕事は雑用に近かった。子供が小遣い稼ぎに受けるようなミッションばかりで、ジュリアンは肩を落とした。
――勇者になった意味……。
「ん?」
トボトボとジュリアンが依頼所を歩いていると、1枚の依頼書が目に入った。それは依頼所の一番端に貼られていたものだった。
「高っ!!」
その報酬金額にジュリアンは目を丸くした。ミッション内容は魔物退治と書かれており、報酬の額は先程のモノより桁違いに高い。
「貴方、なりたて勇者さん?」
そこに依頼所のスタッフがやって来る。
「あ、はい」
「そのミッション、受けたいの?」
スタッフの言葉にジュリアンはこくんと頷いた。すると、スタッフはあからさまに困った顔になり、言いにくそうに口を開いた。
「残念だけど、そのミッションはパーティじゃないと受けられないの。それに……、貴方、まだレベル1でしょ?それじゃ、死にに行くようなものよ」
「うっ……」
スタッフの言葉にジュリアンは目を伏せる。
「もし、それでも行きたいと言うのなら、強い仲間をパーティに入れることね」
スタッフはそう言うと、誰かに呼ばれたらしく、その場を後にした。後に残されたジュリアンは依頼書をじぃっと見つめている。
「強い仲間をパーティに……」
ジュリアンはポケットに入っているフレデリックのパートナーカードを手に取った。
「よし……」
――やるしかないよな。
ジュリアンは意を決すると、パートナーカードをポケットに収め、依頼所を後にした。
「けど、仲間にするってどうやれば……」
ブツブツと呟きながら、ジュリアンは歩き出す。フレデリック以外で依頼を一緒にしてくれるような仲の人はおらず、レベルの低い自分に付き合ってくれるもの好きなどいるだろうかと思案を巡らせる。
「ねぇ」
「う~ん……」
「あれ、無視?ねぇってば」
「ん~~~~……」
「ちょっと、そこのなりたて勇者くん」
ジュリアンが考え事をしながら、唸っていると誰かが声をかけてきた。ハっと我に返り、ジュリアンが声のした方に振り返る。
「あ、やっと気付いた」
声の主は少し不機嫌そうにこちらを見ている。綺麗に整った顔をした、声の主はここらでは有名な人物だった。
「あなた、情報屋の……」
「あ、俺の事知ってるんだ」
銀髪の情報屋――ロロ=ルシエンテスは満足げに笑みを浮かべた。"終末の邪眼"という称号を持つ、ロロは恵まれた容姿に派手な格好をした魔術師である。
「勇者くん、強い仲間を捜してるんだろ?」
――さっきのやり取り、聞かれてたんだ……。
「いや~、大変だよね。両親のお人好しのせいで君が働かないといけなくなるなんて」
「俺なら御免だよ」っとロロがおどけた調子で言った。が、その表情はどこか怪しげだ。
「あれ、もしかして警戒してる?」
ロロの言葉にジュリアンはビクリと肩を揺らす。心を覗き見られているような感覚に体は落ち着かなくなる。
「君は両親とは違うみたいだね」
愉快そうなロロの口ぶりにジュリアンは拳を握り締めた。ここで怒る訳にはいかない。相手は自分よりもはるかに強い魔術師だ。もし、戦闘になれば、負けるのは目に見えている。
「……それで、僕に何か……?」
「はい、これ」
ロロがジュリアンに何かを差し出す。何かとジュリアンがそれに目をやると、そこには、これでもかと決め顔をしたロロの顔写真の載ったパートナーカードがあった。それを見た途端、ジュリアンは目をパチクリさせた。
「…………はい?」
「だから、あげる」
「何で?」
「勇者くんに興味があるから」
にこやかにロロが答える。
――怪しい……。
何か企んでいるのではないかと、ジュリアンはパートナーカードをまじまじと見つめる。
「俺の考えてる事は勇者くんにはきっと分かんないよ」
「っ………!」
「けど、勇者くん」
ロロの声色が変わる。先程よりも低いロロの声にジュリアンの背中に嫌な汗が伝う。
「君には俺の力が必要なはずだ。だろ?」
「なら、受け取るべきだよね?」と言うと、ロロはジュリアンの手に自分のパートナーカードを置いた。
「大丈夫。君を悪いようにはしないし、助けて欲しい時は助けてあげるから」
ロロはにこっと爽やかな笑みを浮かべると、ジュリアンの肩をポンと叩き、「じゃ、俺はこれで」とその場から去ろうとする。
「ちょ……ちょっと!!」
ジュリアンが呼び止めようとするも、ロロはひらひらと手を振るばかりで足を止める気配はない。やがて、ロロの姿は雑踏の中へと消えて行った。
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