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プロローグ

選択の理由

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七瀬ななせはアシスタントに指示し、中央モニターに面接者の経歴等詳細データを表示させた。

「まずは【君津 奈津美きみつ なつみ】さん、よろしいでしょうか」
「はい」

2人の女性のうちの1人、華陽かようと同年代くらいの女性が手を挙げる。
長い黒髪で身長は女性にしては大きめか?かなりラフな服装で、IT系というより体育会系な感じに見える。

君津 奈津美きみつ なつみ 大学3年生 21歳 の場合

君津きみつさんは今年3月に行われた、晴海でのゲームショーに参加頂いてますね」
「はい、友達に誘われて参加しました」
「その時に当社の新作VR格闘ゲームを試験プレイされてますが・・・何か変わった事が無かったか、覚えてますか?」

モニターには君津きみつが試験プレイした時と思われる様々な映像・データが表示されている。
素人目にも異常と思われる動き、技が繰り出されている。それは華陽かようのようにプログラムに精通してる者であれば、一目瞭然である。

(嘘だろ・・・この動きにこのデータ?チート技どころの話じゃないぞ・・・)

「このゲームは当社が開発したデバイス<VCD-101バーチャルコネクトデバイス>を使用し、ゲーム世界の中に入ってプレイする新しいタイプのものです」

君津きみつは何か思い出したように

「あ、あの酸素カプセルようなものですね、説明は受けました」

モニターには<VCD-101バーチャルコネクトデバイス>の映像、説明が表示される。

「カプセルの中で考えた事、思った動きをVR世界で表現するデバイスです」
「目をつぶったら、ゲームの世界に自分がいるような感覚になりました」

ゲーム中の状況を説明する君津きみつ

「プレイヤーとゲーム内のキャラとをシンクロ出来る、最新式のデバイスです。プレイヤーの動き・思考が反映され、攻撃技とか決められた動作が出来る設定でした」

モニターに対戦状況が流されているが、突然とんでもない大技が繰り出される。しかもゲームキャラクターは<奥義爆砕華麗拳おうぎばくさいかれいけん>と叫んでいる。

「この攻撃とか、全くもって想定外で、仕様設定にありません。何か心当たりありませんか?」

七瀬ななせの顔がちょっとこわばっているように見える

「いえ、特に何も。このゲームは自分の思う通りに動けたので、試しに習ってる武道の必殺技を出せるかな?って。まさか出来るとは思いませんでしたが」

さらって言ってのける君津きみつ

「特に故意に何かしたという事では無いようですね、分かりました」

おおよそ回答を想定していたのか、七瀬ななせは小さく溜息をついた。

(奥義爆砕華麗拳おうぎばくさいかれいけん??って。見た目はすごい美人だけど、ネーミングセンスはちょっと)

華陽かようは別な意味でちょっと残念そうに思った。

「次に【間然 環乃かんぜん わの】さん」
「はーい」

高校生くらいに見える、小柄なショートカットの女性が手をあげる。
君津きみつに比べたら(比べるのも悪いが)、服装も雰囲気も今どきの普通の女子高生である。

間然 環乃かんぜん わの 高校3年生 18歳 の場合

間然かんぜんさんは今年5月に行われた、幕張でのゲームショーに参加頂いてますね」
「行ってます。興味あるゲームが試遊出来るとの事だったので」
「その時にVR-RPGを試験プレイされてますが、何か変わった事・・・しませんでしたか?」

モニターには、間然かんぜんが試験プレイした時の様々なデータが表示される。そこに表示されたプレイヤーのステータス、武器・防具などのレベルが最大値を表示している。

華陽かようはデータを見てつぶやく

(これって・・・ステータスの上書き、設定の再構築。かなり高度なチート行為?)

「フィールドの中にアクセス出来るプログラムの隙間があったので、そこから色々ゲームにアクセスしてみたのですが」

さらっと言ってのける間然かんぜん七瀬ななせは溜息まじりに話す。

「開発途中のものですし、開発陣の不備もあるので何とも言えないのですが・・・、元来<VCD-101バーチャルコネクトデバイス>にそのような機能はついていません」
「そうですか?ゲーム世界の中で色々試行錯誤しているうちに、出来るようになりましたけど」

モニターにはそのゲーム世界に存在しないようなアイテムデバイスが表示されていた。

「それってこれですね?どうやってこれをゲーム内に持ち込めたんですか?」


「色々なプログラムでカスタマイズしてある、私のモバイルデバイスです。これがあれば色々出来るかな?って思って考えてたら出てきたので」

華陽かようは椅子から滑り落ちそうになった

(どういうゲームなんだ・・・自分必要な設定に無いアイテムを出せるなんて。そもそも、この子は元からそっち系ハッカーの子か?)

君津きみつさんと同じく、理由は分からないとの事ですね、分かりました」


2人と七瀬のやり取りを聞いて、華陽かようは少し不安になっていた。
そもそもバイト面接との事で呼びだされているが、先の2人はゲームで不穏な行為をしていた事を確認されている。
しかし、自分には全くもって思い当たる節がない。今回ここに呼ばれたメンバーの判断基準は何なのか?

「最後に【華陽 相真かよう そうま】さん」
「はい」

華陽は立ち上がり、七瀬に問いかける

「自分には彼女たちのような事、思い当たる節が無いのですが」

華陽 相真かよう そうま 大学2年生 20歳 の場合

華陽かようさんの場合は、前の二人とはちょっと事情が違います」
「事情ですか?」

華陽かようは怪訝そうな顔をする

「あなたは7月に行われた、お台場でのゲームショウに参加されていますね」
「あっ・・・」

華陽かよう七瀬ななせに指摘されたゲームショウに参加していた事を思い出した。

「参加しました。好きなジャンルの新しいゲームが公開されると~友人に誘われたので」
「プレイしたゲームの内容を覚えていますか?」
「戦略シミュレーションゲームでした、未知の敵と戦うための兵器開発を行う」

モニターには華陽かようがプレイしたゲーム情報が表示される。

「テストプレイの時間は30分そこそこです。なのに、想定を上回る時間でクリアされてしまいました」

華陽かようはバツが悪そうに答える

「あの~テストプレイってクリアしちゃマズいんですか?」
「別にマズくは無いのですが。そもそもこのテストプレイ時間内でのクリアは、理論上不可能です」

モニタに表示されていたゲームクリアまでの想定時間は15時間となっている。

「特に不正行為等は無かったようですが、ゲーム内のデータ処理速度が異常でした・・・当人は認識無いようですが。とりあえず座って下さい」

「はあ・・・」

華陽かよう七瀬ななせに促され、椅子に座る。

七瀬ななせは別のデータをディスプレイに表示させる。表示させた内容は、バーチャルゲームに関しての様々なデータである。

「先ほど君津きみつさんの話の中で説明しましたが、今年発表したVRGバーチャルゲームは、<VCD-101バーチャルコネクトデバイス>を利用してゲーム世界とユーザをリンクさせるシステムを採用しています」

モニタ上の、<VCD-101バーチャルコネクトデバイス>がクローズアップされる。

「プレーヤーがこのポッド中に入り、頭で思い描いた動きがバーチャル世界のキャラクター上で体験できます」

七瀬ななせが指示すると、デバイス経由で仮想現実にアクセスできる仕組み、そのデータが表示される。

「このデバイス内はゲーム<プログラム中の世界>となり、内部・外部からの異常なアクセスはありえません」
「確かに。プレーヤーはプログラムの中の制限された、<開発者の意図した>範囲でしかプレー出来ないはずですね」

モニタのデータ部分を差して華陽が答える。

華陽かようさんの言う通りです。ですが、この3名は「開発者の意図」から外れた行動を起こしてるんです」

七瀬ななせが大きく手を広げる。

「あの~このゲームの結果とバイトの件、何か関係あるのでしょうか」

君津きみつ七瀬ななせに聞く。

「まさか、バイトと称しておびきだし、ゲーム改ざんで訴訟を起こすとか?」

間然かんぜんが恐る恐る話す

「訴訟とか苦情とかで集めた訳では無いわよ。3名の行為は想定外だったけど、興味が湧く事でもあるから」

アシスタントが立ち上がり、3人にスマホ型のデバイスを配る。

「そのデバイスは、この社屋に入館するためのIDカードを兼ねたものよ。様々な連絡や情報共有にも使えるわ。3人にはこの部署でアルバイトをして頂きます」

#華陽__かよう#がデバイス画面を触ると、顔写真・名前・配属部署等を記録したIDカードが表示される。
3名の所属部署は<災害処理部>となっている

「この災害処理部って、何の仕事するんでしょうか」

華陽かようがIDデバイスの所属部署をいぶかしげに眺めて話す。

「ウイルス対処から駆除、デバック等を含めたプログラムに関わるすべての事象に対して、対応する部署になります」

七瀬ななせ華陽かようの質問に答える。

「でも、私たちは専門な知識など持ち合わせていませんが」

君津きみつが不安そうに尋ねる

「ゲームのチートくらいしかできませんが」

間然かんぜんが興味深げにデバイスを調べている

「俺もシステム系の勉強はしてますが、そもそもバイトとして役にたつのでしょうか?」

華陽かようの質問は最もである。素人同然の学生に、障害対応やデバックなど出来るはずが無い。

「あっ、技術的な事は問題無いの。君たちにはプログラム世界の内側から対応してもらうんだから」
「はっ?それ真面目に言ってます?」

華陽かよう七瀬ななせの発言に驚く。
普通障害対応やウイルス駆除など、全てプログラムの外から行うものである。
それを内側から対応するなんて・・・。

「普通じゃ考えられないけどね。君たちは<VCD-101バーチャルコネクトデバイス>を通じて、VRGバーチャルゲームの中で有りえない色々な行動をしてるから、興味があるし試してみたいのよ」
「出来る保証なんて無いと思いますが」

華陽かようはこの提案に半信半疑である。

「まあ、ゲームしてアルバイトになるなら楽でいいけど」

君津きみつはさらっと答える。

「興味あるから良いですよ。開発者公認で色々いじれるし」

間然かんぜんはデバイスをあれこれ操作しながら答える。
とりあえず3人はアルバイトに参加する意思表示を示した。

「ダメならダメで仕方無いから。こちらもどこまで対応可能か、実証データを集めさせてもらいます」

七瀬ななせは立ち上がり、ドアの方に歩きだした。

「せっかく来てもらったので、面接のついでに試してみたいんだけど(笑)。ついてきてくれる?」

3人を手招きする七瀬ななせ。3人は誘われるまま、会議室を出て七瀬ななせについて歩きだした。

向かう先は【sandbox room】・・・
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