上 下
61 / 81

経験

しおりを挟む
「それって……」
「なんだ、あんたでもちゃんとわかるんじゃない。分からないのかと思った」
「い、いいの?そんな事して……。アルバート様がいるのに」

私の言葉を聞いて、少しは動揺するかと思ったが、全くそんな気配はなく、ふふふっ…と笑い出す。

「確かに『いる』って事になるけど、それはそれよ。不安な目は紡いでおかないと後々厄介になっちゃうでしょ。いまじゃ私の味方だし、なんでも言うこと聞くわ。単純よ、男なんて」
「酷い……」
「酷い?……どこが?むしろ感謝して欲しいくらいよ。将来の王妃となんて出来るはずがないから」

まさか黙らす目的でそんな事をするなんて思ってもいなかった。
姉の人心掌握術がここまでとは…。
でもこの事を私にバラして怖くないのだろうか。

「……いまあんたが思ってることあててあげようか?」
「出来るわけない」
「いいえ、簡単すぎて困るわ」
「……言ってみたら?」
「こんな事私にバラしていいのかって事でしょ。それをいますぐにでも言いに行きたい。アルバート様の元へ、でしょ」
「……」
「ほら、黙った。あはははっ!?ほんと、あんたって分かりやす過ぎる。そんなのだから私に勝てないのよ」

私に勝ち誇り、高らかな笑いをしながらお腹を押さえる姉。
その目には笑いすぎたのだろうか、薄っすら涙が溜まっている。
でもそんな姉をほっとき、言われたアルバート様へと報告しようと扉へと近づいた。

「っと、まだ終わってない!」

すぐに姉は扉へと近づき、壁ドンをする形で私の行く手を遮ってきた。

「ちょっ、退いて」
「嫌よ、終わってないって言ったでしょ?」

遮る手を振り払おうとしたが、そんな私の手を掴むと扉へと押し付けて、さらにその反対の手も扉へと押し付けてきた。

「離して!?」
「……」
「な、なんで黙るの?」
「あんた、事ないでしょ?」
「な、なにを??」
「鈍いわねー、ずっと話していたじゃない、今まで」
「まさか……」
「そう、それよ」
「そ、それが、なに……?」
「いいの、そんなので。一生女としての喜びを知らずに終わるの?」
「べ、別に私はそんな事……」
「ふーん」

姉と向かい合うのが嫌で私はすぐに目を逸らした。
でもそんな私に姉は何故か自身の顔を近づけてきた。

「えっ」

「私がか?」
「はっ?」

驚く私の口元に姉はゆっくり寄せてきた。

「馬鹿なことは止めて!?」

首を真横に曲げ、姉からの迫りを避けていく。

「なによ、せっかく経験させてあげようとしてるのに」
「頭おかしいんじゃないの!?妹にするなんて馬鹿げてる!?」

避ける度に姉は何度も何度も寄せてくる。

「いい加減にして!?」

私は姉のお腹めがけて、右足の膝を上げた。
でも、それを予想してたのかお腹をへっこませ避けていく。

「……どうせそうだと思った。あんたの事なんて手に取るようにわかるって言ったでしょ。もう観念しなさい」

姉は地面についている左足の甲を右足で踏んづけていく。
その痛みに私は顔を歪め痛がるが、その右足をグリグリと地面へと押しつけた。

しおりを挟む
1 / 5

この作品を読んでいる人はこんな作品も読んでいます!

殿下の運命は私ではありません

恋愛 / 完結 24h.ポイント:2,030pt お気に入り:26

屑な夫と妹に殺された私は異世界転生して復讐する

恋愛 / 完結 24h.ポイント:1,890pt お気に入り:577

婚約者の義妹に結婚を大反対されています

恋愛 / 連載中 24h.ポイント:47,478pt お気に入り:4,956

悪役令嬢なのかヒロインなのか、まずはそこからが問題だ

恋愛 / 完結 24h.ポイント:234pt お気に入り:422

【完結】「離婚して欲しい」と言われましたので!

恋愛 / 完結 24h.ポイント:1,696pt お気に入り:4,625

聖女には拳がある

ファンタジー / 完結 24h.ポイント:873pt お気に入り:126

毒殺されそうになりました

恋愛 / 完結 24h.ポイント:2,694pt お気に入り:85

月が導く異世界道中

ファンタジー / 連載中 24h.ポイント:59,902pt お気に入り:53,999

アラサー令嬢の婚約者は、9つ下の王子様!?

恋愛 / 連載中 24h.ポイント:1,507pt お気に入り:1,166

処理中です...