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「ちょっと待って。今の言葉……」
追いかけながら問うがアドルフの足は一向に止まる事なく部屋へと向かっていった。
「入れ」
あれ以降来なくなった部屋だが、テーブルにはやはり本が積み重なっていた。
アドルフは以前と同じ場所に座るが私は対面へと座った。
「それで?俺の何を知りたいんだ?」
「……なにって、さっき言ったでしょ」
「来た奴と言われても、それは他の貴族連中のことだろ」
「そう」
「フェリスはこのルーベルト家より先を知らないんだろ?……そこからか」
アドルフはこの家より向こう、森の先にある他の貴族の話をし始めた。
どうやらこのルーベルト家以外に五つ程あるらしく、武器製造、馬具、衣・食・住に別れ、それぞれが担当しているようだ。
「まだ両親が亡くなったときは小さかったからな。政に関しては『大人』達がやんや言っていたが、やはりルーベルト家が昔から権力があり、大きくなった俺に縁談を持ち込んできた」
「それはやっぱり政略結婚?」
「だろうな、でも『大人』の顔色を見てきたからなんとなく分かった。
俺を取り込んでやろうという感じをな」
(そういう事があったから反抗心を出した、って事?)
「送られてくる令嬢もやはり俺よりその後ろ、『ルーベルト家』を見ていたから誰も俺自身を見ようとしていなかったな」
話しつつ、アドルフは窓の方へと視線を向けた。
「そこからアドルフは冷酷な殺人者に?」
「まぁな、そんな奴らに好かれたいとも思わないから毛嫌いを出し、追い出して行ったらいつの間にかそんな異名が付けられた。それが出回った頃には誰も送ってこなくなったな」
「そっか。……ご両親はいつに?」
「あぁ。もう十五年になるか、共に流行り病でそのままだな。医者が来ても手遅れだった」
「……そう、寂しいとかないの?」
「……とうの昔に無くなったな、そういう感情は。どうだ?冷めた人間だろう、俺は」
私は首を横に振った。
「色々見てきたんだから仕方ないと思う。私もニコラスとは政略結婚だったから…」
「……後悔してるのか?」
アドルフの言葉に少しだけ黙った後、『今はこれで良かった』と答えた。
少し話が終わると静かになり、窓に風が当たる音だけになった。
だけど、椅子を引く音があり、その音の方へと向くとアドルフと目が合った。
「……フェリス」
「なに?」
「お前は他の連中とは違う。こんな俺を見てくれている、……だから感謝してる」
ゆっくりと頭をテーブルに近づけつつ下げてきた。
「アドルフ……」
そんな時、扉を激しく叩く人物がいた。
「……誰だ」
「あの、メリッサです。……あっ。やっぱりここだったんですね。お嬢様」
「どうしたの、そんな慌てて」
少し息を切らしつつ入ってきたメリッサの手には白い封筒が握られていた。
「これ」
渡された封筒の裏を見て私は顔色を変えた。
青と朱色の封印、これを差し出した人物……ニコラスだ。
私の顔色が変わった事はすぐにアドルフも分かり、『ニコラスか?』と尋ねてくる。
「……えぇ」
(いまさら、なにを……?)
封印を割り、中を改めてみると、リスティアとの婚姻の儀を開くと書かれていた。
(まだ婚約して日も浅いのに、そんなに早く??)
メリッサも読む私の後ろから覗き込んだようで声を上げてきた。
「行くんですか?お嬢様」
「……ここには両親も来るって書いてある」
「だからって、追い出したんですよ、お嬢様を。そんな人達にいまさら」
「いいえ、母は私の味方だと思う……」
「人が良すぎですよ!」
私達の会話を聞いていたアドルフが口を開いてきた。
「侍従、フェリスの好きにさせてやれ」
「えっ!?……いま、お嬢様の事、名前で??」
「そこか?いま驚くのは」
「……メリッサ、私、行こうと思う」
「えぇっ!?」
ニコラスとリスティアの婚姻はそれから十日後に開かれた。
追いかけながら問うがアドルフの足は一向に止まる事なく部屋へと向かっていった。
「入れ」
あれ以降来なくなった部屋だが、テーブルにはやはり本が積み重なっていた。
アドルフは以前と同じ場所に座るが私は対面へと座った。
「それで?俺の何を知りたいんだ?」
「……なにって、さっき言ったでしょ」
「来た奴と言われても、それは他の貴族連中のことだろ」
「そう」
「フェリスはこのルーベルト家より先を知らないんだろ?……そこからか」
アドルフはこの家より向こう、森の先にある他の貴族の話をし始めた。
どうやらこのルーベルト家以外に五つ程あるらしく、武器製造、馬具、衣・食・住に別れ、それぞれが担当しているようだ。
「まだ両親が亡くなったときは小さかったからな。政に関しては『大人』達がやんや言っていたが、やはりルーベルト家が昔から権力があり、大きくなった俺に縁談を持ち込んできた」
「それはやっぱり政略結婚?」
「だろうな、でも『大人』の顔色を見てきたからなんとなく分かった。
俺を取り込んでやろうという感じをな」
(そういう事があったから反抗心を出した、って事?)
「送られてくる令嬢もやはり俺よりその後ろ、『ルーベルト家』を見ていたから誰も俺自身を見ようとしていなかったな」
話しつつ、アドルフは窓の方へと視線を向けた。
「そこからアドルフは冷酷な殺人者に?」
「まぁな、そんな奴らに好かれたいとも思わないから毛嫌いを出し、追い出して行ったらいつの間にかそんな異名が付けられた。それが出回った頃には誰も送ってこなくなったな」
「そっか。……ご両親はいつに?」
「あぁ。もう十五年になるか、共に流行り病でそのままだな。医者が来ても手遅れだった」
「……そう、寂しいとかないの?」
「……とうの昔に無くなったな、そういう感情は。どうだ?冷めた人間だろう、俺は」
私は首を横に振った。
「色々見てきたんだから仕方ないと思う。私もニコラスとは政略結婚だったから…」
「……後悔してるのか?」
アドルフの言葉に少しだけ黙った後、『今はこれで良かった』と答えた。
少し話が終わると静かになり、窓に風が当たる音だけになった。
だけど、椅子を引く音があり、その音の方へと向くとアドルフと目が合った。
「……フェリス」
「なに?」
「お前は他の連中とは違う。こんな俺を見てくれている、……だから感謝してる」
ゆっくりと頭をテーブルに近づけつつ下げてきた。
「アドルフ……」
そんな時、扉を激しく叩く人物がいた。
「……誰だ」
「あの、メリッサです。……あっ。やっぱりここだったんですね。お嬢様」
「どうしたの、そんな慌てて」
少し息を切らしつつ入ってきたメリッサの手には白い封筒が握られていた。
「これ」
渡された封筒の裏を見て私は顔色を変えた。
青と朱色の封印、これを差し出した人物……ニコラスだ。
私の顔色が変わった事はすぐにアドルフも分かり、『ニコラスか?』と尋ねてくる。
「……えぇ」
(いまさら、なにを……?)
封印を割り、中を改めてみると、リスティアとの婚姻の儀を開くと書かれていた。
(まだ婚約して日も浅いのに、そんなに早く??)
メリッサも読む私の後ろから覗き込んだようで声を上げてきた。
「行くんですか?お嬢様」
「……ここには両親も来るって書いてある」
「だからって、追い出したんですよ、お嬢様を。そんな人達にいまさら」
「いいえ、母は私の味方だと思う……」
「人が良すぎですよ!」
私達の会話を聞いていたアドルフが口を開いてきた。
「侍従、フェリスの好きにさせてやれ」
「えっ!?……いま、お嬢様の事、名前で??」
「そこか?いま驚くのは」
「……メリッサ、私、行こうと思う」
「えぇっ!?」
ニコラスとリスティアの婚姻はそれから十日後に開かれた。
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