19 / 50
19
しおりを挟む
「ふぅ」
踏み外すことなく三階へと来た私に、腕を組み、ふぅ~と深く大きなため息を吐くアドルフがそこにいた。
(来いって言ったのはそっちでしょ……)
「お前、そんなにとろいから捨てられるんだ」
「私は捨てられてません」
「どうだか。……それにその体型」
私はついニコラスとリスティアの会話を思い出し、口をキュッと噛んだ。
「なんだ?お前にとってのコンプレックスだったか??」
気にする部分を言い当てたと思い、右頬を上げ『ふふふっ』と笑った。
「……別に」
「そうか?」
少し上機嫌でアドルフは左手に進みだすと、やはり私の事を見てきた。
「入れ」
黄土色をした扉を開くと、中はこじんまりとした部屋だが、その光景は異様だった。
小さな円卓木製テーブルと背もたれの無い二つの椅子、そして使い古され少し黄色味がかった白い毛布が乗るベット。
それに、壁には十字の形をした刃渡りの長い長剣がいくつも置かれ、側には腕や体に身につける銀色の甲冑が転がっていた。
「あの……ここ、アドルフ様の部屋ですか?」
質問よりも前に椅子を一つズラし座り出していた。
「だとしたらどうする?」
「いや、なんというか、殺伐としてるといいますか……」
部屋の入り口で周りを見渡す私に対し、急に笑い出してきた。
「なんですか……?」
「ここは部屋というより監視部屋だ」
「監視部屋?」
「お前、ここがルーベルト家の『本宅』だと思ってるだろ。違う、ここは軍事施設だ。とりあえず入ってこっちを見てみろ」
言われるがまま私は先を進むと、部屋の奥にある大きな窓からは私達が来る時に通った森が見えた。
「ここは周りに何もないから侵入者がきたらすぐに分かる」
「はぁ……」
「お前はニコラスと俺が争ってるのは知ってるな?」
「え、えぇ……」
「一つ教えておいてやる。ニコラスは自身が負けると思い休戦なんかを提案してきやがった。
その条件にお前を俺に送ってきた。いわば人質みたいな物だ」
「えっ」
「女を送れば一時黙ると思ってるんだろうな。……まぁ、簡単に勝ってもつまらんからな」
「じゃあ、私は……」
「俺の退屈しのぎだ」
手紙には『休戦』の事など一切書かれていなかった。
(ニコラス……あなたって人は……)
「だからお前になにかあったら休戦は終わりだ。せいぜい俺を怒らすなよ、フェリス=ハーベスト」
隣でフルネームを呼ぶアドルフなんかよりもニコラスに対する怒りが強かった。
窓の外に見える森、そしてその先にあるアーデルハイト家の方を私はジッと見ていた。
「さて、休戦とはいえ、たまにはこの施設に来ている」
「あの煙は?」
私は道中、メリッサと見かけた煙について尋ねた。
「煙?……あぁ、あれか」
森を抜けた辺りに見えたあの煙。
いまだに黒い煙を出し続けているが、来る際よりも幾分勢いは弱くなっているように見えた。
「あれはなんですか?」
「ここら辺に住む先住民たちだ。動物を狩っていると聞くからそれを焼いているんじゃないか?」
「そうですか。……あっ」
屋敷に入る際に見えた黒い雲から雨が降り出し、次第に窓からの景色も見えづらくなってきた。
「お前を楽しむならここより本宅だからな」
「……変な気起こさないでください」
「はっ!?よく言う、そんな体で」
だが横にいるアドルフは私の体の事を横目でジッと見ているようだった。
「や、やめてくださいっ」
すぐに私は一歩下がり両手を胸の前に構えガードした。
「しねぇよ」
その後、キサラさんが私達の元へ来て、メリッサのいる部屋へと案内され、ホッと一安心した。
踏み外すことなく三階へと来た私に、腕を組み、ふぅ~と深く大きなため息を吐くアドルフがそこにいた。
(来いって言ったのはそっちでしょ……)
「お前、そんなにとろいから捨てられるんだ」
「私は捨てられてません」
「どうだか。……それにその体型」
私はついニコラスとリスティアの会話を思い出し、口をキュッと噛んだ。
「なんだ?お前にとってのコンプレックスだったか??」
気にする部分を言い当てたと思い、右頬を上げ『ふふふっ』と笑った。
「……別に」
「そうか?」
少し上機嫌でアドルフは左手に進みだすと、やはり私の事を見てきた。
「入れ」
黄土色をした扉を開くと、中はこじんまりとした部屋だが、その光景は異様だった。
小さな円卓木製テーブルと背もたれの無い二つの椅子、そして使い古され少し黄色味がかった白い毛布が乗るベット。
それに、壁には十字の形をした刃渡りの長い長剣がいくつも置かれ、側には腕や体に身につける銀色の甲冑が転がっていた。
「あの……ここ、アドルフ様の部屋ですか?」
質問よりも前に椅子を一つズラし座り出していた。
「だとしたらどうする?」
「いや、なんというか、殺伐としてるといいますか……」
部屋の入り口で周りを見渡す私に対し、急に笑い出してきた。
「なんですか……?」
「ここは部屋というより監視部屋だ」
「監視部屋?」
「お前、ここがルーベルト家の『本宅』だと思ってるだろ。違う、ここは軍事施設だ。とりあえず入ってこっちを見てみろ」
言われるがまま私は先を進むと、部屋の奥にある大きな窓からは私達が来る時に通った森が見えた。
「ここは周りに何もないから侵入者がきたらすぐに分かる」
「はぁ……」
「お前はニコラスと俺が争ってるのは知ってるな?」
「え、えぇ……」
「一つ教えておいてやる。ニコラスは自身が負けると思い休戦なんかを提案してきやがった。
その条件にお前を俺に送ってきた。いわば人質みたいな物だ」
「えっ」
「女を送れば一時黙ると思ってるんだろうな。……まぁ、簡単に勝ってもつまらんからな」
「じゃあ、私は……」
「俺の退屈しのぎだ」
手紙には『休戦』の事など一切書かれていなかった。
(ニコラス……あなたって人は……)
「だからお前になにかあったら休戦は終わりだ。せいぜい俺を怒らすなよ、フェリス=ハーベスト」
隣でフルネームを呼ぶアドルフなんかよりもニコラスに対する怒りが強かった。
窓の外に見える森、そしてその先にあるアーデルハイト家の方を私はジッと見ていた。
「さて、休戦とはいえ、たまにはこの施設に来ている」
「あの煙は?」
私は道中、メリッサと見かけた煙について尋ねた。
「煙?……あぁ、あれか」
森を抜けた辺りに見えたあの煙。
いまだに黒い煙を出し続けているが、来る際よりも幾分勢いは弱くなっているように見えた。
「あれはなんですか?」
「ここら辺に住む先住民たちだ。動物を狩っていると聞くからそれを焼いているんじゃないか?」
「そうですか。……あっ」
屋敷に入る際に見えた黒い雲から雨が降り出し、次第に窓からの景色も見えづらくなってきた。
「お前を楽しむならここより本宅だからな」
「……変な気起こさないでください」
「はっ!?よく言う、そんな体で」
だが横にいるアドルフは私の体の事を横目でジッと見ているようだった。
「や、やめてくださいっ」
すぐに私は一歩下がり両手を胸の前に構えガードした。
「しねぇよ」
その後、キサラさんが私達の元へ来て、メリッサのいる部屋へと案内され、ホッと一安心した。
200
お気に入りに追加
666
あなたにおすすめの小説
【完結】もう…我慢しなくても良いですよね?
アノマロカリス
ファンタジー
マーテルリア・フローレンス公爵令嬢は、幼い頃から自国の第一王子との婚約が決まっていて幼少の頃から厳しい教育を施されていた。
泣き言は許されず、笑みを浮かべる事も許されず、お茶会にすら参加させて貰えずに常に完璧な淑女を求められて教育をされて来た。
16歳の成人の義を過ぎてから王子との婚約発表の場で、事あろうことか王子は聖女に選ばれたという男爵令嬢を連れて来て私との婚約を破棄して、男爵令嬢と婚約する事を選んだ。
マーテルリアの幼少からの血の滲むような努力は、一瞬で崩壊してしまった。
あぁ、今迄の苦労は一体なんの為に…
もう…我慢しなくても良いですよね?
この物語は、「虐げられる生活を曽祖母の秘術でざまぁして差し上げますわ!」の続編です。
前作の登場人物達も多数登場する予定です。
マーテルリアのイラストを変更致しました。
悪役令嬢は永眠しました
詩海猫
ファンタジー
「お前のような女との婚約は破棄だっ、ロザリンダ・ラクシエル!だがお前のような女でも使い道はある、ジルデ公との縁談を調えてやった!感謝して公との間に沢山の子を産むがいい!」
長年の婚約者であった王太子のこの言葉に気を失った公爵令嬢・ロザリンダ。
だが、次に目覚めた時のロザリンダの魂は別人だった。
ロザリンダとして目覚めた木の葉サツキは、ロザリンダの意識がショックのあまり永遠の眠りについてしまったことを知り、「なぜロザリンダはこんなに努力してるのに周りはクズばっかりなの?まかせてロザリンダ!きっちりお返ししてあげるからね!」
*思いつきでプロットなしで書き始めましたが結末は決めています。暗い展開の話を書いているとメンタルにもろに影響して生活に支障が出ることに気付きました。定期的に強気主人公を暴れさせないと(?)書き続けるのは不可能なようなのでメンタル状態に合わせて書けるものから書いていくことにします、ご了承下さいm(_ _)m
婚約破棄されましたが、帝国皇女なので元婚約者は投獄します
けんゆう
ファンタジー
「お前のような下級貴族の養女など、もう不要だ!」
五年間、婚約者として尽くしてきたフィリップに、冷たく告げられたソフィア。
他の貴族たちからも嘲笑と罵倒を浴び、社交界から追放されかける。
だが、彼らは知らなかった――。
ソフィアは、ただの下級貴族の養女ではない。
そんな彼女の元に届いたのは、隣国からお兄様が、貿易利権を手土産にやってくる知らせ。
「フィリップ様、あなたが何を捨てたのかーー思い知らせて差し上げますわ!」
逆襲を決意し、華麗に着飾ってパーティーに乗り込んだソフィア。
「妹を侮辱しただと? 極刑にすべきはお前たちだ!」
ブチギレるお兄様。
貴族たちは青ざめ、王国は崩壊寸前!?
「ざまぁ」どころか 国家存亡の危機 に!?
果たしてソフィアはお兄様の暴走を止め、自由な未来を手に入れられるか?
「私の未来は、私が決めます!」
皇女の誇りをかけた逆転劇、ここに開幕!
【完結】捨てられた双子のセカンドライフ
mazecco
ファンタジー
【第14回ファンタジー小説大賞 奨励賞受賞作】
王家の血を引きながらも、不吉の象徴とされる双子に生まれてしまったアーサーとモニカ。
父王から疎まれ、幼くして森に捨てられた二人だったが、身体能力が高いアーサーと魔法に適性のあるモニカは、力を合わせて厳しい環境を生き延びる。
やがて成長した二人は森を出て街で生活することを決意。
これはしあわせな第二の人生を送りたいと夢見た双子の物語。
冒険あり商売あり。
さまざまなことに挑戦しながら双子が日常生活?を楽しみます。
(話の流れは基本まったりしてますが、内容がハードな時もあります)
実家から絶縁されたので好きに生きたいと思います
榎夜
ファンタジー
婚約者が妹に奪われた挙句、家から絶縁されました。
なので、これからは自分自身の為に生きてもいいですよね?
【ご報告】
書籍化のお話を頂きまして、31日で非公開とさせていただきますm(_ _)m
発売日等は現在調整中です。
悪役令嬢になるのも面倒なので、冒険にでかけます
綾月百花
ファンタジー
リリーには幼い頃に決められた王子の婚約者がいたが、その婚約者の誕生日パーティーで婚約者はミーネと入場し挨拶して歩きファーストダンスまで踊る始末。国王と王妃に謝られ、贈り物も準備されていると宥められるが、その贈り物のドレスまでミーネが着ていた。リリーは怒ってワインボトルを持ち、美しいドレスをワイン色に染め上げるが、ミーネもリリーのドレスの裾を踏みつけ、ワインボトルからボトボトと頭から濡らされた。相手は子爵令嬢、リリーは伯爵令嬢、位の違いに国王も黙ってはいられない。婚約者はそれでも、リリーの肩を持たず、リリーは国王に婚約破棄をして欲しいと直訴する。それ受け入れられ、リリーは清々した。婚約破棄が完全に決まった後、リリーは深夜に家を飛び出し笛を吹く。会いたかったビエントに会えた。過ごすうちもっと好きになる。必死で練習した飛行魔法とささやかな攻撃魔法を身につけ、リリーは今度は自分からビエントに会いに行こうと家出をして旅を始めた。旅の途中の魔物の森で魔物に襲われ、リリーは自分の未熟さに気付き、国営の騎士団に入り、魔物狩りを始めた。最終目的はダンジョンの攻略。悪役令嬢と魔物退治、ダンジョン攻略等を混ぜてみました。メインはリリーが王妃になるまでのシンデレラストーリーです。
だから聖女はいなくなった
澤谷弥(さわたに わたる)
ファンタジー
「聖女ラティアーナよ。君との婚約を破棄することをここに宣言する」
レオンクル王国の王太子であるキンバリーが婚約破棄を告げた相手は聖女ラティアーナである。
彼女はその婚約破棄を黙って受け入れた。さらに彼女は、新たにキンバリーと婚約したアイニスに聖女の証である首飾りを手渡すと姿を消した。
だが、ラティアーナがいなくなってから彼女のありがたみに気づいたキンバリーだが、すでにその姿はどこにもない。
キンバリーの弟であるサディアスが、兄のためにもラティアーナを探し始める。だが、彼女を探していくうちに、なぜ彼女がキンバリーとの婚約破棄を受け入れ、聖女という地位を退いたのかの理由を知る――。
※7万字程度の中編です。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる