上 下
50 / 68

再び

しおりを挟む
手を繋いだジャックさんは嬉しそうで陽気な態度で歩いている。
が、私は複雑だった。
隣にいるのは殺人者。いつ、その陽気さが変化し牙を向くか分からないからだ。
そんな気持ちを抱えつつ歩き続け…。

「こっちです」

連れてこられた場所は川だった。

「あそこであなたは引っ掛かっていたんですよ」

指を差す場所は大きな岩。
どうやらあの場所に私はおり、そこを拾ってもらったらしい。

「……ありがとうございます」

私のお礼の言葉にジャックさんは不意に手を離し、川へと近づいていった。

「あの、何をしに?」
「どうですか、川に入るのも良いものですよ」
「いや、行く場所があるって……」
「あぁ……」

問いかけに川の周囲を見渡すと大丈夫だと告げてくる。
行く場所が何処かさえわからないこっちの身も考えて欲しくなった。
だから私は川に近づかずそこで待った。

「ほら!良いものですよ、リースさん」
「私は、……結構です」

断る私を見てザブザブと音を立てながら川から上がり近づいてきた。

(しまった…)

怒らせてしまった、と感じ顔を見ると真顔でどんな感情を今持っているのか分からなかった。

「リースさん」
「はい……」
「いま、ここには私とあなただけです。……意味、分かりますか?」

なんだ、この質問は……。
殺される、もしくは犯される…。
どっちなんだと頭を巡らせ、それが体にも波及し、手足は震えていく。
黙りこみジャックさんの足元を見て考える私の耳元に近づけて言う。

「どっちだと思います?」
「はぁ……はぁ……」

荒く呼吸をし始めた私は過呼吸気味になり、胸が苦しくなってきて視界が狭まってきた。

「あなたにとって嫌な方ですよ」

どっちも嫌だ、絶対に。
頭をフラフラと前後に動かした後、私は膝から崩れ落ち意識を失った。




ーーーーーー



気づくと私はジャックさんの背中にいた。

「えっ」
「起きましたか」
「な、なんで!?」
「二つのうちの一つですよ」
「……意味が分かりません。ころ……」

言いかけた時、ジャックさんは笑い『そんな事はしない、約束もした』と言う。

「じゃあ何と何を?」
「無理矢理引っ張るか背負うか、どっちかです。あなたの態度を見るに距離を取りたいと思ってるはずだから背負われるのは嫌だと」

確かにこうやって背負われると逃げ場は無い。
私にとっては『嫌な方』だ。

「ただ行く場所は少し険しい部分もあるからこの方が安全でもあるので無理矢理です」
「あの……もう諦めましたから、教えてください。何処に?」
「もう一つの家です」
「もう、一つ?」
「えぇ、街に程近い場所に作った隠れ家です。今日はそこまで行き、明日街を行きます」
「街……」

背負われたまま歩き続け、ジャックさんの言う険しい部分という大きな崖をゆっくり登っていく。
下を見るとクラクラしてしまうくらいの高さだ。
それを背負いながら登るこの人は……。

登りきった所から左手に指差す方にその隠れ家があると教えてくる。

(……ここ、見覚えが)

そう、そこは私は落ちた川の近くでその向こうはあの二人組に追われた場所だった。

「さぁ、後少しです」

また私を背負おうとしゃがみ込むのを私は断った。

「もう、ここからは歩きます」
「なぜ?」
「だって、こんな崖を登った後なのに、またなんて」
「いいえ、気にしないで。……さぁ」

背中を見せ乗るように言うジャックさんを拒み続けた。
だって、もしかしたらまだあの二人組がおり、いざって時に逃げれなくなるかもしれないと考えたからだ。

「大丈夫です」

私の言葉と態度を感じ取り、諦めスッと立つとゆっくり歩き出した。

しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

【完結】いてもいなくてもいい妻のようですので 妻の座を返上いたします!

ユユ
恋愛
夫とは卒業と同時に婚姻、 1年以内に妊娠そして出産。 跡継ぎを産んで女主人以上の 役割を果たしていたし、 円満だと思っていた。 夫の本音を聞くまでは。 そして息子が他人に思えた。 いてもいなくてもいい存在?萎んだ花? 分かりました。どうぞ若い妻をお迎えください。 * 作り話です * 完結保証付き * 暇つぶしにどうぞ

〖完結〗その子は私の子ではありません。どうぞ、平民の愛人とお幸せに。

藍川みいな
恋愛
愛する人と結婚した…はずだった…… 結婚式を終えて帰る途中、見知らぬ男達に襲われた。 ジュラン様を庇い、顔に傷痕が残ってしまった私を、彼は醜いと言い放った。それだけではなく、彼の子を身篭った愛人を連れて来て、彼女が産む子を私達の子として育てると言い出した。 愛していた彼の本性を知った私は、復讐する決意をする。決してあなたの思い通りになんてさせない。 *設定ゆるゆるの、架空の世界のお話です。 *全16話で完結になります。 *番外編、追加しました。

【完結】婚約者の義妹と恋に落ちたので婚約破棄した処、「妃教育の修了」を条件に結婚が許されたが結果が芳しくない。何故だ?同じ高位貴族だろう?

つくも茄子
恋愛
国王唯一の王子エドワード。 彼は婚約者の公爵令嬢であるキャサリンを公の場所で婚約破棄を宣言した。 次の婚約者は恋人であるアリス。 アリスはキャサリンの義妹。 愛するアリスと結婚するには「妃教育を修了させること」だった。 同じ高位貴族。 少し頑張ればアリスは直ぐに妃教育を終了させると踏んでいたが散々な結果で終わる。 八番目の教育係も辞めていく。 王妃腹でないエドワードは立太子が遠のく事に困ってしまう。 だが、エドワードは知らなかった事がある。 彼が事実を知るのは何時になるのか……それは誰も知らない。 他サイトにも公開中。

お久しぶりです、元旦那様

mios
恋愛
「お久しぶりです。元旦那様。」

【完結】愛も信頼も壊れて消えた

miniko
恋愛
「悪女だって噂はどうやら本当だったようね」 王女殿下は私の婚約者の腕にベッタリと絡み付き、嘲笑を浮かべながら私を貶めた。 無表情で吊り目がちな私は、子供の頃から他人に誤解される事が多かった。 だからと言って、悪女呼ばわりされる筋合いなどないのだが・・・。 婚約者は私を庇う事も、王女殿下を振り払うこともせず、困った様な顔をしている。 私は彼の事が好きだった。 優しい人だと思っていた。 だけど───。 彼の態度を見ている内に、私の心の奥で何か大切な物が音を立てて壊れた気がした。 ※感想欄はネタバレ配慮しておりません。ご注意下さい。

完結 嫌われ夫人は愛想を尽かす

音爽(ネソウ)
恋愛
請われての結婚だった、でもそれは上辺だけ。

王子妃だった記憶はもう消えました。

cyaru
恋愛
記憶を失った第二王子妃シルヴェーヌ。シルヴェーヌに寄り添う騎士クロヴィス。 元々は王太子であるセレスタンの婚約者だったにも関わらず、嫁いだのは第二王子ディオンの元だった。 実家の公爵家にも疎まれ、夫となった第二王子ディオンには愛する人がいる。 記憶が戻っても自分に居場所はあるのだろうかと悩むシルヴェーヌだった。 記憶を取り戻そうと動き始めたシルヴェーヌを支えるものと、邪魔するものが居る。 記憶が戻った時、それは、それまでの日常が崩れる時だった。 ★1話目の文末に時間的流れの追記をしました(7月26日) ●ゆっくりめの更新です(ちょっと本業とダブルヘッダーなので) ●ルビ多め。鬱陶しく感じる方もいるかも知れませんがご了承ください。  敢えて常用漢字などの読み方を変えている部分もあります。 ●作中の通貨単位はケラ。1ケラ=1円くらいの感じです。 ♡注意事項~この話を読む前に~♡ ※異世界の創作話です。時代設定、史実に基づいた話ではありません。リアルな世界の常識と混同されないようお願いします。 ※心拍数や血圧の上昇、高血糖、アドレナリンの過剰分泌に責任はおえません。 ※外道な作者の妄想で作られたガチなフィクションの上、ご都合主義です。 ※架空のお話です。現実世界の話ではありません。登場人物、場所全て架空です。 ※価値観や言葉使いなど現実世界とは異なります(似てるモノ、同じものもあります) ※誤字脱字結構多い作者です(ごめんなさい)コメント欄より教えて頂けると非常に助かります。

公爵令嬢の立場を捨てたお姫様

羽衣 狐火
恋愛
公爵令嬢は暇なんてないわ 舞踏会 お茶会 正妃になるための勉強 …何もかもうんざりですわ!もう公爵令嬢の立場なんか捨ててやる! 王子なんか知りませんわ! 田舎でのんびり暮らします!

処理中です...