上 下
24 / 68

挨拶

しおりを挟む
私の部屋へと向かうニコルを私は追い、そして扉の前で足を止め、追ってくる私を見てくる。
追いつき、私も足を止めると首をクイっと右に向け合図を出す。
開けろ、と。

小さく頷き扉を開けると先に入り出迎え形を取るが、どうやら不満なのか舌打ちをしてくる。

「普通、物を持つ物が先に入らせるだろうが、そんな事も分からんのか?」

言い方をもう少し優しくしてくれたら頭に来ないのに、この言い草はやはりカチンと来てしまう。

「……ごめ、」
「まぁ、いい。置くからそのポットを退かせ」

言い終わるの待たず入って来ては命令し、すぐに移動させる事を要求してきた。
早くしろと左足をトントンとリズムよく打ち待っている。

「ま、まって」

私はポットを取り、ベット近くのテーブルに置くと、その間にニコルはお盆を下ろし『喰えよ』と言い出て行こうとした。

「あ、あの」
「なんだ?」
「……ありがと」

私のお礼を聞くなり、出て行こうとした足を振り返り私の方へと向かってきた。

「なに?」
「お前、両親をここに呼べるか?」
「両親、って親の事?」
「それ以外いるのか?」
「い、いないけど……」
「なら、呼べるなら呼べ。食べた頃にまた来る」

それだけを言い残すとまた振り返り、そのまま出ていこうとする。
『待ってよ、どういう事!?』と呼び止めるがニコルはその言葉に反応することなく扉をバンっと音を鳴らして出ていった。


「な、なんなの……」

両親?呼ぶ?
考えても栄養が回ってない頭では考えがつかず、とりあえず食べてから考える事にした。

だが、ニコルが持ってきたお盆の上は散々な物だった。
コーンスープが入った白いカップからは四方八方に汁が飛び散り、ロールパンにも鮭の切り身にもその跡があった。
自分勝手な性格を表しているかのようでもあり、その汚れた状態から『気にするな』とも聞こえてくる感じがした。

でも今の私には久しぶりのご飯なので口にした。
マナーの欠片もなく、駆け込むように食べ、あっという間に終えた。
はぁ……と一息つくと、今度は眠さが襲ってくる。
昨日の事で眠れなかった事、そして今のご飯。
条件が揃ってしまい、椅子に座ったまま私は頭をこっくりこっくりとし始め、とうとうテーブルに額をつけ目を閉じた。


***


「おい!?」

ニコルの怒号で私はハッと目を覚ました。

「食べた頃に来るといっただろうが、まさか寝るとは。……ははぁん、まさかお前、昨日の」

寝ぼけつつあった頭はその言葉を聞くなり、立ち上がり『違うっ!?』と否定したが、少し顔は赤かった。
だが、それは寝て起きたからであって、昨日の事ではないのに、ニコルにとってはそう捉えてしまっていた。

「そうか、お前も意外と『うぶ』だな。くくくっ」
「違うって言ってるでしょ!」
「ふっ、まぁお前の強がりとして受け取っておく。それより、迎えに行ってこい。外に馬車を用意させた」
「迎えってなに?なんで両親を呼ばないと?」
「……挨拶をするためだ」
「あい、さつ?」
「結婚するのに相手の親にもいるだろうが、それなりに。……ここで言い合うより行け」
「嫌だよ。なんでそんな急に。焦りすぎというかまだ会ったばかりでしょ」
「いいから行け!?」

嫌がる私の右手を掴むと無理矢理飛び出し、馬車が待
つ扉へと向かっていった。

しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

最愛の側妃だけを愛する旦那様、あなたの愛は要りません

abang
恋愛
私の旦那様は七人の側妃を持つ、巷でも噂の好色王。 後宮はいつでも女の戦いが絶えない。 安心して眠ることもできない後宮に、他の妃の所にばかり通う皇帝である夫。 「どうして、この人を愛していたのかしら?」 ずっと静観していた皇后の心は冷めてしまいう。 それなのに皇帝は急に皇后に興味を向けて……!? 「あの人に興味はありません。勝手になさい!」

仲の良かったはずの婚約者に一年無視され続け、婚約解消を決意しましたが

ゆらゆらぎ
恋愛
エルヴィラ・ランヴァルドは第二王子アランの幼い頃からの婚約者である。仲睦まじいと評判だったふたりは、今では社交界でも有名な冷えきった仲となっていた。 定例であるはずの茶会もなく、婚約者の義務であるはずのファーストダンスも踊らない そんな日々が一年と続いたエルヴィラは遂に解消を決意するが──

拝啓、私を追い出した皆様 いかがお過ごしですか?私はとても幸せです。

香木あかり
恋愛
拝啓、懐かしのお父様、お母様、妹のアニー 私を追い出してから、一年が経ちましたね。いかがお過ごしでしょうか。私は元気です。 治癒の能力を持つローザは、家業に全く役に立たないという理由で家族に疎まれていた。妹アニーの占いで、ローザを追い出せば家業が上手くいくという結果が出たため、家族に家から追い出されてしまう。 隣国で暮らし始めたローザは、実家の商売敵であるフランツの病気を治癒し、それがきっかけで結婚する。フランツに溺愛されながら幸せに暮らすローザは、実家にある手紙を送るのだった。 ※複数サイトにて掲載中です

やり直すなら、貴方とは結婚しません

わらびもち
恋愛
「君となんて結婚しなければよかったよ」 「は…………?」  夫からの辛辣な言葉に、私は一瞬息をするのも忘れてしまった。

帰らなければ良かった

jun
恋愛
ファルコン騎士団のシシリー・フォードが帰宅すると、婚約者で同じファルコン騎士団の副隊長のブライアン・ハワードが、ベッドで寝ていた…女と裸で。 傷付いたシシリーと傷付けたブライアン… 何故ブライアンは溺愛していたシシリーを裏切ったのか。 *性被害、レイプなどの言葉が出てきます。 気になる方はお避け下さい。 ・8/1 長編に変更しました。 ・8/16 本編完結しました。

浮気くらいで騒ぐなとおっしゃるなら、そのとおり従ってあげましょう。

Hibah
恋愛
私の夫エルキュールは、王位継承権がある王子ではないものの、その勇敢さと知性で知られた高貴な男性でした。貴族社会では珍しいことに、私たちは婚約の段階で互いに恋に落ち、幸せな結婚生活へと進みました。しかし、ある日を境に、夫は私以外の女性を部屋に連れ込むようになります。そして「男なら誰でもやっている」と、浮気を肯定し、開き直ってしまいます。私は夫のその態度に心から苦しみました。夫を愛していないわけではなく、愛し続けているからこそ、辛いのです。しかし、夫は変わってしまいました。もうどうしようもないので、私も変わることにします。

夫の不貞現場を目撃してしまいました

秋月乃衣
恋愛
伯爵夫人ミレーユは、夫との間に子供が授からないまま、閨を共にしなくなって一年。 何故か夫から閨を拒否されてしまっているが、理由が分からない。 そんな時に夜会中の庭園で、夫と未亡人のマデリーンが、情事に耽っている場面を目撃してしまう。 なろう様でも掲載しております。

冤罪から逃れるために全てを捨てた。

四折 柊
恋愛
王太子の婚約者だったオリビアは冤罪をかけられ捕縛されそうになり全てを捨てて家族と逃げた。そして以前留学していた国の恩師を頼り、新しい名前と身分を手に入れ幸せに過ごす。1年が過ぎ今が幸せだからこそ思い出してしまう。捨ててきた国や自分を陥れた人達が今どうしているのかを。(視点が何度も変わります)

処理中です...