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「シャーロット…」

パンッと乾いた音が部屋に響いた。
私はクロウさんの右頬をビンタして、話し出す。

「私は…シャーロットじゃない…。
あなたの瞳は私を通してシャーロットさんを見ているんですね。
ずっと心に思いが残っている。だから、そんな言葉が出てくるんですね」

「違う!そうじゃない。シャーロットはもう…」

私はクロウさんを両手で押し、距離を取り、俯くと軽く目を閉じた。

(男性はずっと思い出を残すものって聞いた事がある。今、それがハッキリと分かった。多分ずっとこのままだ…)

「あ…あやか?」

目をゆっくりと開け、小さな声で呟いた。

「気安く呼ばないで下さい。…代わりじゃないから」

少しは歩み寄ろうとしていた。
でも歩み寄った所で、クロウさんは私をシャーロットさんとして見ている。

報われる事が無い恋をするなんてするだけ辛いだけだ。

「…続き、やるぞ?」

「…」

正直続きをやるなんて気分はもうほとんど無かった。
早く時間が来て客人を迎える方が気楽だと思え、部屋にある大きな時計の時間を見た。
でも言われた2時間は過ぎておらず、まだ半分。
後1時間くらいはあるみたいだ。

「なぁ、あやか…少し話さないか?」

「何をです?話すよりする事あるのでは?
でも、私はもうダンスを今する気にはなれません」

クロウさんはまた私に少し近づいてきた。
俯き加減の私の視界にクロウさんの足が映り、目だけ上げ、「何か?」と訴えた。

「休憩、しないか?」

「そうですね…」

まだ話すよりそっちのが良いと思い、私は了承し、椅子に腰掛けた。

お互い無言のまま。
クロウさんは私の気持ちを少しでも良くしようとカップに紅茶を注ぎ始めた。
中身は…ダージリン。
私が気に入ってると思っているみたいだ。
立ち上る湯気、そしてダージリンから発してくる匂い。
でも、前回ほど私の気持ちが動く事はなかった。

「ダンス…俺がリードするからついて来てくれればいい」

「分かりました。お願いします」

話したのはそれだけだった。
後は時計から聞こえてくる秒針のカチコチ…と言う音だけが何秒も何分も聞こえてくる。

そして、呼びに来たのだろうか。
部屋をノックする音があり、クロウさんが返事をした。
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