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クロウさんの胸の内

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「早く閉めて!早く!?」

私の悲痛の頼みにクロウさんはすぐ扉を閉め、鍵を掛けた。

その瞬間、ガチャガチャとノブをいじるアランさんがおり廊下からは部屋の中にいる私達に向け叫ぶ。

「開けろ!クロウ、早く開けろ!」


「おい、あやか、どういう事だ?説明しろ…」

床にへたり込んでガクガクと震える私は何も話せずにいた。
しかし、手には血がついたナイフが握られており少しだけだが状況を把握したみたいだった。

膝をつき、震える私の手に触れてきた。
その手にピクッと反応し、すぐに顔を上げた。
相手がアランさんではなくクロウさんであっても今の私は触れられる事に恐怖を感じていた。

「や、やめて…」

小刻みに震える手に、ナイフ。

このままでは危ないと思ったのか手ではなくナイフを握り、私の手から取ろうとした。

「いいか、動かすなよ?いつまでも持っているな…
いつか自分さえも傷つけるぞ」

取られたらいけない…と思い、私はナイフを握る手にギュッと力を入れた。

「あやか…頼む、離してくれ。まずは落ち着くんだ。
アランは入ってこないから…」

「入って…こない…」

「そうだ、この部屋は鍵がかかるから入ってはこれない。だから…ナイフはもう要らないだろ?」

入ってこないと知ると、私は握る手を少し緩めた。
それを確認するとスルッとナイフを上に上げ、私から取り上げた。

そして近くのテーブルの上に置き、また震える私の近くに来た。

でも、今回は膝をつくのではなく、向かい合う形で胡座をかき、座っていた。

「ふぅ…アランに何をされたんだ?」

「……」

「ナイフを使うなんて余程な事だろ?言ってくれ。
今はお前の身の安全が1番だから、手を出すなんて真似はしない。
信じて話してくれ」

「…迫ってきた」

「迫ってきた?…あ、あぁ。そうか、そう言う事か」

私は泣きながら叫んだ。

「あなたも私としたいだけ??だから優しくするんでしょ!
そして、少しでも優しくして…そうしたらすぐに…」

ダンッ!?っと床をグーで殴り反論してきた。
殴った手の指は薄らと赤くなっていた。

「俺はアランじゃない!
アイツは気に入ったものには必ず迫る、屑だ!?
俺は違う!
シャーロットみたいなお前が好きで堪らないんだ!
でも、手なんか出さない。
失いたくなんかないんだ…」

(シャーロット…?)

ピンッと来た…。
それがマリーさんが言ってたクロウさんの好きだった人ではないかと。
それをいま私に向けて発した。
しかも好きだから手を出す事はしない、と。

でも私は最初はそうやって安心させる戯言だと思っていた。

しかし…

「あやか…お前はシャーロットの代わりでもないのにな。でも、似ていて仕方ないんだ。
もう会えないと思っていた…」

シャーロットさんとの思い出を思い返しているのか、肩を震わせ始めている。
まさか…泣いている?

服で目元を押さえる様子を見ると、やはり泣いていたのかもしれない。
でも、弱さを見せたくないのかすぐに元に戻っていた。

「頼む、今は信じてくれ…手なんか出さないと」

額が床につくんじゃないかと思える程に下げ、わたしに信じるようにお願いしてきた。

激しく扉を叩いていたアランさんは開かないと諦めたのだろうか?
扉を叩く音は無くなりシーンとしていた。
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