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昔話

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ドレスを受け取った事で少し安心した顔を見せるクロウさんがおり、マリーさんもホッとした様子だ。
改めて私に礼を言い、クロウさんは部屋を出て行った。

「ありがとう、あやかさん。クロウ様も喜んでいるわ。今日はゆっくり休んでね。
あっ…すぐに食事を持ってくるので待ってて」

「分かりました、ありがとうございます」

マリーさんも部屋を出て、私は1人になった。

渡されたドレスをもう一度見て思う。

(私が初めて…)

私にそんな魅力があるとは思わない。
だって私は動物ばかりを相手にしてきた人だから…。

何故私なんかがクロウさんの心を奪ったのか分からない、今でも。
言い争うし、この前は切ろうとさえしていたのに…。

そう思っていると再びマリーさんがやって来て、食事を運んでくれた。

「おまたせ、ほとんど食べないみたいだったけど、今日は食べてね。食べる事も大切だから」

「すみません、残してばかりで…」

ドレスをギュッと抱きしめる私にマリーさんは少しだけ話してくれた。

「…クロウ様は昔好きだった人がいて、その人とあなたが似ているみたい。
もう今はこの世にはいないけど…」

「それって病気か何か?」

「そうみたいね。亡くなる前はずっと見舞いにも行っていたし、亡くなった日の落ち込みは酷く、だれも声を掛けられなかった。ほとんど食事も取らず、誰とも会わず…」

「そんなに想っていたなんて、想像つきません。
いつも怒るイメージしかないので…」

「不器用なのよ、クロウ様は。
素直に好きだ、と言うのが恥ずかしいみたいで、だから照れ隠しのためにあんな風にしているのよ」

不器用…と言われて納得した。
会った時から髪を嗅ぐとか表現の仕方が独特すぎるなと思ったけど、昔からだったとは…。

それよりマリーさんはずっと屋敷にいた訳じゃないのに何故そんな事を知っているんだろうか?
疑問をぶつけると笑いながら言う。

「忘れちゃった?私は王様の子を産んでいる。
だから王様から聞いた話よ」

「あっ…」

「でも今話した事はクロウ様には内緒よ」

軽く口止めされ、私にはちゃんと食べる様に言うとマリーさんはまた部屋を後にした。

似ている…私には分からないがクロウさんが好きだった人に、私が。

初めて聞いた話を胸にしまい、持ってきてくれた食事を私は口にした。
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