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日常への願望

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アランさんから逃れることができ、安心感に包まれていた。
もう話しかけられても無視しよう…それがどんなに悪い事と言われても構わない。
私の心が耐えられなくなるからだ。

マリーさんが持ってきてくれた食事の中から私は一つ摘んで食べた。
たった一つ…サラダに置かれていたトマトを。

「美味しい…」

国の王達が暮らす屋敷だからそれなりに豪勢な食事を持ってきてくれ食欲をそそるが、今の私にはだった一つのトマトでさえご馳走になった。

ふと横を見ると扉近くにある鏡に私の顔が映る。
先程泣いていた顔…やつれたような感じだ。

「こんな顔で私はマリーさんと話していたんだ…」

だらしない…そう思い、部屋に備え付けられているシャワー室に入った。
そこにはホテルのアメニティのように様々なコスメや道具が置かれている。

元々はカリファさんの部屋とは言え、住む人それぞれにこれだけ用意されているとはさすが、としか言えない。

濡れた服を脱ぎ、シャワーを浴びる。

「暖かい…」

頭の上から降り注ぐお湯が私の冷えた体と心をゆっくりと癒していく。
暖まりながらアランさんに押された肩を見た。

直接肌を触られた訳ではないのに無性に汚らわしいと思ってしまい、急いでその部分を念入りに洗う。

「消えて…消えて…」

汚れなんてないのにその部分だけ…。
そんなことをしていると、急に痛みが走り血が流れてくる。
洗い過ぎだ…。

「なに、やってるんだろう…」

私はシャワーを止め、壁に頭をつけ、しばしそのまま考え込んだ。
その間も流した血は腕を伝って手首、そして手にくる。

「休もう…今は、それがいい…」

流れてくる血を洗い流し、私はシャワー室を出る。


髪を乾かしベットに潜り込んだ。
せっかく持ってきてくれた食事もあれからほとんど口にしなかった。
あれだけ空腹だったのに。

ベットから部屋の窓を眺めていると、日本の事を思っていた。

「クロ…いま、どうしてるかな?ご飯、用意してないし、ずっと鳴いてるのかな?
仕事もずっと休んでるはず。怒られるよね…?」

色々考えてしまう。

パーティーの事やアランさん、セレスさんの事。
全部投げ出して今までみたいにクロと遊び、好きな仕事をしてテレビを見る生活。
そんな風に戻りたいと思う私がそこにはいた。


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