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嫉妬の先には

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アランさんが怒る感じは初めてだった。
そんな風になるなんて思わず、私は少し後ろに体を仰け反り後ろ手をつき、アランさんから距離を取る。

「…すみません」

謝る私にアランさんは何も言わなかった。
むしろ私を見ない様に窓の外を見ていた。
気付くと外は雨が降り始め窓に激しく打ち付けていた。

私達はそのまま黙り込み、外の雨の音が部屋の中に響いていく。
そして時間だけが虚しく過ぎていった…。

5分、10分と時間が過ぎるがお互いに何も話せずにいた。

不意にアランさんの目線が部屋の窓から私に移りポツリと言う。

「…いいんです」

「えっ?」

小声すぎて全部は分からなかった。

「なんて言ったんですか?」

気になり私はすぐ聞き返したが、アランさんは言おうとせずベッドから立ち上がり私に頭を下げた。
そして、扉に向かい始める。

「ちょ、ちょっと待ってください!」

ベッドから出て、私はアランさんを引き止めようと服の後ろを引っ張った。

「さっきの言葉なんてい…」

私は言葉の途中で急に振り返ったアランさんに抱きしめられた…。
背が高いアランさんの胸辺りに私は顔を埋める形で。
そして、背中に回された手はゆっくりと、そして力強く抱きしめていく。

「アラン…さん…」

「あやかさんがいいんです。好きな人なんていません。…クロウだけには渡したくない」

多分、嫉妬だ…。クロウさんに。
でもなんで?
嫉妬されるような事をクロウさんはしているんだろうか?
私は全く気付かなかった。

「口調は悪いがあやかさんに好かれようと必死になってる。そんなクロウが…嫌いだ。
ローザがいるのに、卑怯過ぎる…」

「…」

前にセレスさんと話していた時に出た女性の名だ。
ローザ、と言う人がクロウさんにはいるらしいが、もしそうなら私は浮気相手になるんだろうか…。

「あやかさん、俺には決まった人なんていない。だから…」

更に強く私を抱きしめてくる。

「い、痛いです…」

「あやか…」

私の声が聞こえているはずだが、アランさんは無視した。

そして…

少し力を緩めたかと思えば、両肩を掴み少し背を屈ませて私を見てきた…。

(まさか…)

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