1 / 7
1
しおりを挟むいつまでこうしていればいいのだろう。
石レンガでできた壁を見上げながらそんなことばかり考えている。自らの両手脚に繋がれた鎖を握りしめて、ため息をついた。
いつからこうだっただろうか、と視界のところどころに映る虹色のキラキラを目にしながら少し前のことを思い出す。
25歳の若くて健康な男の身体は、俺が思っても見ないところで価値が存在していたらしい。それに気づいたのは、事が起きた後だった。
戦時中とはいえ、街の治安は比較的良いものだと思っていたのが運の尽きだった。
数ヶ月前、いつものようにカジノで遊びまくって、深夜に一人で帰路についた。夜遅くに家に帰ることは珍しいことじゃなかったし、夜道に揉め事に巻き込まれたとしても男の腕なら何とでもなると慢心していたのだ。
ところがその夜、俺はとある研究所に拉致されてしまった。一気に複数人に囲まれて、何かよくわからない薬を打ち込まれて気を失って、次に目を開けたときは研究室の中だった。
目が覚めたとき、体が嫌に重たくて俺は起き上がることができず部屋の天井を見上げるしかできなかった。
身体がだるくて身じろぎも難しい中、側にいた研究員に話しかけた。どうして俺はここにいるのか、俺は今、どうなっているのか。
その答えは直ぐに返された。
「お前さんは、実験体になるために様々な条件をクリアした、多くの市民の中でも貴重な人物だ。つまり、被検体に選ばれたんだよ」
愕然と、その研究員の話を聞いていた。ショックを受けたというよりは、あまりにも非現実的で実感が無かった。
「そしてお前さんは、数々の被検体の中でも特別な存在……実験薬の適合者だ」
呆然としていると、部屋の隅の鏡が目に入った。鏡を見た瞬間、俺は痛いほど現実を知ることになる。
「な、なんだ、これ」
俺の瞳はダイアモンドのように、虹色の輝きが散りばめられていた。
美しいダイアモンドに価値があるように、俺の瞳も高値が付けられているらしい。俺は実験の成功体として、ここで厳重に管理されることになった。
管理、といっても監禁みたいなものだが。実験はまだ途中段階で、今後も俺はこの研究所に拘束されるらしい。
視界に虹色の光がちらつく。これはダイアモンドの目になった副反応だろう、と研究者に説明された
俺は地上なのか地下なのかわからない牢で暮らすことになった。
手足には枷が繋がれていて、行動範囲は殆ど無い。たまに研究室に連れて行かれてよくわからない検査を受けたりしたが、一日の大半を自室で部屋の壁を見てぼうっと過ごしていた。たまに虹色のキラキラが鬱陶しくて、イライラしていた。
そんな暮らしが数ヶ月は続いて、そして現在に至るというのである。
0
お気に入りに追加
0
あなたにおすすめの小説
ママと中学生の僕
キムラエス
大衆娯楽
「ママと僕」は、中学生編、高校生編、大学生編の3部作で、本編は中学生編になります。ママは子供の時に両親を事故で亡くしており、結婚後に夫を病気で失い、身内として残された僕に精神的に依存をするようになる。幼少期の「僕」はそのママの依存が嬉しく、素敵なママに甘える閉鎖的な生活を当たり前のことと考える。成長し、性に目覚め始めた中学生の「僕」は自分の性もママとの日常の中で処理すべきものと疑わず、ママも戸惑いながらもママに甘える「僕」に満足する。ママも僕もそうした行為が少なからず社会規範に反していることは理解しているが、ママとの甘美な繋がりは解消できずに戸惑いながらも続く「ママと中学生の僕」の営みを描いてみました。
明日の希望
しらかわからし
キャラ文芸
製菓学校を卒業し、その学校に助手として務める石川真一には妻の夢香がいた。一方、非常勤講師の高梨礼子は、夫の高梨健一がオーナーを務める東京の有名洋菓子店でシェフパティシエールとして働いていた。真一と礼子は男女の関係にあった。
礼子が週に一度、この製菓学校で授業を行う日、二人はその夜に食事をした後にラブホテルで密会していた。さらに、礼子の紹介で真一の妻の夢香は、礼子の夫が経営する洋菓子店でパティシエールとして働き始めた。
やがて真一も礼子の誘いで、妻とともにその洋菓子店で働くことになる。しかし、礼子は意図的に二人の男女関係をコントロールしている一方で、真一はただ礼子の魅力に引き込まれ、不倫関係に溺れていく。
そんな中、妻の夢香は、夫と礼子の五年間にわたる不倫の証拠を発見する。実は、真一と夢香の結婚生活はわずか一年でセックスレスに陥り、その間夢香は欲求不満を抱えていた。
結果的に真一は、平凡な幸せよりも危険な欲望に流されていく。彼の堕落の行く末はどうなるのか……。
(登場人物)
助手 石川真一 二十六歳 パティシエ
妻 石川夢香 二十歳 パティシエール
オーナー 高梨賢治 有名洋菓子店のオーナー 製造は出来ない 五十六歳
非常勤講師 オーナー夫人でありオーナーパティシエール 高梨礼子 四十二歳
歯のないお爺さん
母親 芳江
小説版つみねこ きさらぎ駅編~不知火陽太の過去~
奈雲
キャラ文芸
【当たり前がなくなる日。】
不知火陽太少年は両親と弟に囲まれ幸せに過ごしてきた。しかしその当たり前の日常がある日突然音を立てて崩れ落ちていく。
強盗殺人犯によって両親を殺され、家に放火され弟を焼き殺された陽太は心に深い傷を負ってしまった。
日々他人からの心内言葉で心を閉ざしていた彼のもとに現れたのは【大悪魔 サタン】。
これはひょんなことから大悪魔サタンを呼び出してしまった陽太少年が体験する楽しくてちょっぴり怖くて不思議な物語。
小学生最後の夏休みに近所に住む2つ上のお姉さんとお風呂に入った話
矢木羽研
青春
「……もしよかったら先輩もご一緒に、どうですか?」
「あら、いいのかしら」
夕食を作りに来てくれた近所のお姉さんを冗談のつもりでお風呂に誘ったら……?
微笑ましくも甘酸っぱい、ひと夏の思い出。
※性的なシーンはありませんが裸体描写があるのでR15にしています。
※小説家になろうでも同内容で投稿しています。
※2022年8月の「第5回ほっこり・じんわり大賞」にエントリーしていました。
男性向けシチュエーションボイス フリー台本 ショタ 弟
しましまのしっぽ
キャラ文芸
男性向けシチュエーションボイスのフリー台本となります。
弟系やショタぽいものを投稿したいと考えております。
女性向け、性別、語尾などご自由に変更して使用してください。
ご自由にお使いください。
イラストはノーコピーライトガール様からお借りしました
女子高生は卒業間近の先輩に告白する。全裸で。
矢木羽研
恋愛
図書委員の女子高生(小柄ちっぱい眼鏡)が、卒業間近の先輩男子に告白します。全裸で。
女の子が裸になるだけの話。それ以上の行為はありません。
取って付けたようなバレンタインネタあり。
カクヨムでも同内容で公開しています。
蘇生魔法を授かった僕は戦闘不能の前衛(♀)を何度も復活させる
フルーツパフェ
大衆娯楽
転移した異世界で唯一、蘇生魔法を授かった僕。
一緒にパーティーを組めば絶対に死ぬ(死んだままになる)ことがない。
そんな口コミがいつの間にか広まって、同じく異世界転移した同業者(多くは女子)から引っ張りだこに!
寛容な僕は彼女達の申し出に快諾するが条件が一つだけ。
――実は僕、他の戦闘スキルは皆無なんです
そういうわけでパーティーメンバーが前衛に立って死ぬ気で僕を守ることになる。
大丈夫、一度死んでも蘇生魔法で復活させてあげるから。
相互利益はあるはずなのに、どこか鬼畜な匂いがするファンタジー、ここに開幕。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる