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薄暗い自室に入った途端、カチ、カチといった時計の秒針の音がやけに耳に入った。

お気に入りの、鈍い金色に白銀の針が付いたアンティークな置時計の音。

けれども今は、それをゆっくり鑑賞する余裕がない。

おぼつかない足取りでよたよたとベッドに近づくと、少し高めの位置のマットレスに手をかけてよじ登る。

手に力が入らなくて何度か失敗したが、魔法を使う余裕が無いので成功するまで繰り返した。

これは私が軟弱である訳ではなく、この10歳程度の幼児のような低身長せいである。

やっとのことで登り切ると、ふかふかのベッドにうつ伏せにぼふっと倒れ込む。

枕に鼻と口が塞がれないように少し顔を壁側に傾けると、カーテンで締め切られた窓が目に入る。

カーテンから白い光がチラチラ漏れている。

まだ真っ昼間の最中だというのに体は泥のように重くて、今にもベッドに溶けてしまいそうだ。



「ああ?部屋に行ったのか?…おいおい、まだ寝るには早すぎだろ」

あっという間に眠りに落ちそうになっていたその時、呆れているような苛立っているような、そんな声が遠くから聞こえた。

廊下の遠くの方から図々しい足音と共に、慣れ親しんだガラの悪い声が近づいて来る。

ガチャッという音で顔を向けなくても部屋のドアが開かれたことがわかる。

そして同時に私のよく知る青年が部屋に入ってきた。

「おーい、起きろって。つーか、一人で動くなって言ったじゃねーか……何で返事しねぇの?」

無視を決め込んでドアの方に背を向けたまま目を瞑っていると、青年は寝そべったまま動かない私の肩を優しく揺すってきた。

「こらぁ、弟子の分際でこの偉大な大魔女様に触れないでちょうだい」

冗談めかした口調で返すと、返事をもらえたことが嬉しかったのか、青年が生き生きしだしたことが気配でわかった。

「大魔女様ぁ?こーんなにちっちゃいのに、大魔女とか言うんだー」

「ちょっと、人がめちゃくちゃ気にしていることを……身長くらい魔法でどうにかカバーできるしー」

「うーわ、何でもかんでも魔法に頼ろうとする癖が出ちゃってる。魔法に頼らず健気に生きてる人間様を見習ったら?」

そのくすくすという笑い声に、普段の意地悪い顔がすぐさま脳裏に浮かぶ。

仮にも恩人相手であるというのに、失礼な男である。

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