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1件目 秘密のノート

焦りと羞恥心の来訪

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「パンイチくんが来る前に相談者から電話が来た」

藤代は落ちついたトーンで簡潔に説明をし始める。

宮中は藤代の話に耳を傾け、目をぱちぱちとする。

「これから来るって」

「え、これから!?」

「おい、俺も初耳だぞ」

座っていたパイプ椅子を大きく鳴かせ、突然のことに驚き思わず立ち上がってしまう。

「いや、その後にパンイチくんが来たからしょうがないじゃん」

「いつその電話が来てようが直前で言うくせに」

本当に白木も知らされていなかったようだ。毒舌と共に舌打ちも聞こえてきた。

図星であったのか、ばつが悪そうにしているのがなんだか新鮮である。

「まー、パンイチくんにとってはすぐ経験できてラッキーってことで」

苦笑いを交えて2人に背を向けるように立ち上がる。

すると藤代は、部屋の一番左奥にあるパイプ棚に歩き出してしまう。

「何やってんすか」

「お茶の準備。一応お客って扱いだし」

お前らも手伝えと、手招かれる。

しぶしぶと小さな歩幅で向かう。

「パンイチくんはお茶菓子、姫は冷蔵庫からお茶出して」

動きをピタッと止めた藤代が、紙コップを持ち振り返り、2人に指図する。

「こんな棚からお茶菓子なんて出てくるわけないでしょ!」

へんてこな壺や花瓶などが置かれ、埃がまだ残っている棚を見て驚愕とした。

「じゃあ、お菓子持ってるか?」

机の上に置きっぱなしの黒いリュックの中を漁る。

あまり記憶が定かではないため、期待せずにいると、ビニール袋がくしゃりとした音がする。

そのビニール製の袋を拾い上げると、3人は顔を見合わせた。

「…この際これでいこう」

「ないよりはあった方がいい」

「グミでお茶って…しかも、4つしか入ってない」

チャックを開け中をのぞくと、わずかにしか残っていないグミに落胆した。

藤代が紙コップとどこからか持ち出してきた紙皿を机に置く。

「やっぱおかしいですよ、わびしい」

宮中が各々が思っていたことを口に出すと、2人もうなずく。

大きな紙皿に見合わない、小さなグミ一粒がぽつんと鎮座していてシュールだ。

全員が黙ってその異様な光景を眺めていると、



「遅れてすみません!…ッはぁ、電話した、吹野風香ふきのふうかです」

何の前触れもなく、勢いよく部屋の扉が開けられ、驚きで目を大きく見開く。

宮中らは前方にある扉を凝視する。

そこには息を切らし、焦った表情を浮かべた女性が立っていた。

よほど急いでいたのか、肩からトートバックの持ち手がずれ落ちている。

「…こんにちは、どうぞこちらに」

突然の来訪者に藤代は落ち着いたトーンで、席へと案内する。

すると藤代の顔を見るなり、今度は女性が驚きで目を見開いた。

「え、あの」

女性の反応に何となく察しが付いた宮中が、そっと耳打ちする。

「…先輩がここで変な活動してるのってバレてもいいんですか?」

「よくない。でも、そこらへんはちゃんと手を打っている」



――やっぱりよくはないんだ。

小声でやり取りしていると女性は訝しそうに、こちらを見ながら案内された席に座る。

「早速で申し訳ないのですが、ご相談するにあたりこちらの書面に一通り目を通していただけますか。内容に同意いただけましたら、右下の所にサインをお願いいたします。押印も忘れずに」

――デジャブ感。

平坦な口調で終始落ち着いた表情で説明する。

1枚の紙とボールペンを丁寧に滑らせ、女性の目の前に置く。

藤代の説明にいまいちピンと来ていないようだ、こちらをうかがいながらボールペンを手に取る。

ピンと来ていないのは、宮中もであった。

女性が必死に読んでいる紙を確認したいが、どう考えても見えない。

女性が座っている反対側に3人は狭いながらも、横一列で座っている。

真ん中に座る藤代を宮中は訴えかけるかのように見つめてみる。

宮中の熱烈な視線に気づいたのか、藤代は持っていたファイルからまた1枚紙を取り出し、渡してきた。

「ども」

恐らく女性が読んでいる紙と全く同じものだろう。



1.相談者の相談内容について一切口外しない。

2.相談者も丸二のメンバーについて口外しない。

3.以上を守らなかった場合、双方どちらも相手の言い値で金銭を支払う。



「めちゃくちゃ壮大なことになってるじゃないですか!?」

「いや、うるさ」

「急に大きな声出すな」

とんでもない内容に驚きのあまり、思わず大声でツッコむ。

すかさず白木と藤代の冷静な反応が返ってくる。



こんなの受け入れられないだろうと、女性の方を見る。

が、予想に反して女性はハンコを押しているではないか。



「この際、四の五の言ってられません。それに私の相談内容も口外されない保証があって安心しました。よろしくお願いします」



女性は耳に掛けてあった長い髪が前に来るほど、深々と頭を下げ懇願する。

何が彼女をここまで焦燥感を与えているのか気になって仕方がない。



「改めまして、2年の吹野風香です。あるものを探してもらいたくて相談しに来ました」

「あるものとは?」

吹野という女性に書いてもらった紙をコピーしている藤代に代わり話を聞く白木。

”あるもの”と抽象的に表現し、お茶を濁す。

吹野は白木の問いかけに一瞬言いかけそうになるが、唇を噛んで押し黙ってしまう。

「探すと言っても具体的な特徴などを教えていただかないと、見つけられませんよ」

白木らしくない優しい口調に、宮中は面を食らった。



白木の説得に納得したのか、吹野は恥ずかしそうに下を向きながらではあるが、話し出してくれた。
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