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第9話 すれ違い
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4限が終わって、さっきまで講義を一緒に受けていた魚住と中央棟にいる。
中央棟に来るのは何気に初めてだ。
「ごめんなー、俺の用事付き合わせて」
講義終わりに帰ろうと誘うと、魚住は住所変更の手続きをしに行かなければならないので、先に帰るよう宮中に促した。
「いや、俺がついていくって言ったんだし」
少し待てば、一緒に帰れるという宮中の提案通りに、今は中央棟の2階にいる。
「すぐ終わるから」
未だに申し訳なさそうに下がった眉を見つめる。
――何でそんなに申し訳なそうにするんだこいつ
そこまでか、と疑問に感じながらも閉まりかけの扉に向かって慌てて声をかける。
「うん、そこ座ってるわ」
中から魚住の返事と思われる口籠った声が聞こえた。
教務企画室の扉のすぐ隣にある自動発券機のさらに奥にある、長いベンチのようなところに腰を下ろす。
何となく、じっとしていられなくなって普段のクセでスマホを開く。
――そろそろ大学も落ち着いてきたし、バイトでも探すか
最寄り駅を中心に求人を見ていると、3人ほどの集団が向かい側の階段の方からぞろぞろとこちらへやってきた。
「あった。これで自動発券してくれるらしい」
「学割証明書?」
「これ出せば、新幹線の運賃が安くなるから」
「知らなかったわぁ」
自動発券機の前で男女グループは立ち止まって、1人が他の2人に操作を教えている。
「今年も入ってくれなかったよね、宗」
宗というワードに耳が反応した。食堂で藤代と一緒にいた軽音サークルの人だった。
「もし入ってくれたら、サークルの宣伝にも堂々と使えるのに」
「使えるって、お前」
笑い声が入り混じった会話に耳だけを傾ける。
「あいつといれば、合宿も無双できたかもしんないのに残念過ぎる」
「同じ枠だとおこぼれもらえるチャンスもあるし!」
「あんたたち、そんなことばっかね~」
おこぼれ、チャンス、合宿、無双。
はっきりとしない言葉を聞いていても何のことについて話しているのかがわからなかった。が、最後の‘そんなこと’という言葉で会話の主語が推測できた。
「それも全部ひっくるめて友情だろ」
「友達ならそれくらいしてくれてもいいじゃんか」
そんな2人を女子が手を叩きながら笑う。それに呼応するように男2人も笑い出す。
――この、よくわからん感情は何。あの人たちがうるさいから?
スマホをスクロールする手がいつの間にか止まっていた。
座っている両脚の間の床をじっと見つめる。
「終わったよ」
「おう!?」
「え、そんなにびっくりする?」
自分が思うよりも大きな声が出てしまった。顔を上げると、その様子に若干引いている魚住が目の前に立っていた。
「ハハ、ぼうっとしてた」
「今日珍しくすっきりした顔してたと思ったら、やっぱり眠かったんだ」
「1限からあったからな」
じゃ、行くかとベンチから立つ。横を見ると券売機にはもう誰もいなくなっていた。
いつもより重いリュックを背負い直し、階段を下りる。
「そういえば、俺の知り合いにさ」
「うん?」
隣でなぜか、恐る恐る話し出す魚住の眉あたりをまた見つめる。
中央棟に来るのは何気に初めてだ。
「ごめんなー、俺の用事付き合わせて」
講義終わりに帰ろうと誘うと、魚住は住所変更の手続きをしに行かなければならないので、先に帰るよう宮中に促した。
「いや、俺がついていくって言ったんだし」
少し待てば、一緒に帰れるという宮中の提案通りに、今は中央棟の2階にいる。
「すぐ終わるから」
未だに申し訳なさそうに下がった眉を見つめる。
――何でそんなに申し訳なそうにするんだこいつ
そこまでか、と疑問に感じながらも閉まりかけの扉に向かって慌てて声をかける。
「うん、そこ座ってるわ」
中から魚住の返事と思われる口籠った声が聞こえた。
教務企画室の扉のすぐ隣にある自動発券機のさらに奥にある、長いベンチのようなところに腰を下ろす。
何となく、じっとしていられなくなって普段のクセでスマホを開く。
――そろそろ大学も落ち着いてきたし、バイトでも探すか
最寄り駅を中心に求人を見ていると、3人ほどの集団が向かい側の階段の方からぞろぞろとこちらへやってきた。
「あった。これで自動発券してくれるらしい」
「学割証明書?」
「これ出せば、新幹線の運賃が安くなるから」
「知らなかったわぁ」
自動発券機の前で男女グループは立ち止まって、1人が他の2人に操作を教えている。
「今年も入ってくれなかったよね、宗」
宗というワードに耳が反応した。食堂で藤代と一緒にいた軽音サークルの人だった。
「もし入ってくれたら、サークルの宣伝にも堂々と使えるのに」
「使えるって、お前」
笑い声が入り混じった会話に耳だけを傾ける。
「あいつといれば、合宿も無双できたかもしんないのに残念過ぎる」
「同じ枠だとおこぼれもらえるチャンスもあるし!」
「あんたたち、そんなことばっかね~」
おこぼれ、チャンス、合宿、無双。
はっきりとしない言葉を聞いていても何のことについて話しているのかがわからなかった。が、最後の‘そんなこと’という言葉で会話の主語が推測できた。
「それも全部ひっくるめて友情だろ」
「友達ならそれくらいしてくれてもいいじゃんか」
そんな2人を女子が手を叩きながら笑う。それに呼応するように男2人も笑い出す。
――この、よくわからん感情は何。あの人たちがうるさいから?
スマホをスクロールする手がいつの間にか止まっていた。
座っている両脚の間の床をじっと見つめる。
「終わったよ」
「おう!?」
「え、そんなにびっくりする?」
自分が思うよりも大きな声が出てしまった。顔を上げると、その様子に若干引いている魚住が目の前に立っていた。
「ハハ、ぼうっとしてた」
「今日珍しくすっきりした顔してたと思ったら、やっぱり眠かったんだ」
「1限からあったからな」
じゃ、行くかとベンチから立つ。横を見ると券売機にはもう誰もいなくなっていた。
いつもより重いリュックを背負い直し、階段を下りる。
「そういえば、俺の知り合いにさ」
「うん?」
隣でなぜか、恐る恐る話し出す魚住の眉あたりをまた見つめる。
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