大学受注発注

古島コーヒー

文字の大きさ
上 下
5 / 16

第4話 また食堂で...

しおりを挟む
「今日はもう一つの方の食堂行ってみない?」

先ほど2限の基礎演習を終えたいつものメンツ4人。まだ完全にキャンパス内の位置を把握し切れていない宮中ら。中庭にあるキャンパスマップを見ていると、魚住うおずみが提案する。

「お、いいね。空いてるかもしれないし」

「なんでお前ちゃっかりいるんだよ」

なぜか当たり前のようにいる田中。宮中の高校からの友人である。偶然、学部は違うが同じ大学に受かっていたのだ。基礎演習は全学部1年次必修科目。クラスを学部関係なくランダムに振り分けている。そこで田中と同じクラスになったのである。

「いいじゃんか、田中めちゃくちゃ面白いし」

ザ・大学デビュー金髪の塩崎しおざきが楽しそうな口ぶりでそう言った。

「みんなも俺にいてほしいみたいだからいいよね。まんいちくん~」

宮中の右腕に田中は腕を絡ませる。

「その呼び方と腕絡ませるのやめろって」

「なになにその新しい呼び方」

高校の時からの茶番に田中と宮中はいつも通りという感じだが、今度はメンツのもう一人、青柳あおやなぎが目をキラキラさせて聞き返す。

「なにって」

「あだ名だよん。本当は万一かずひとっていうんだけど、それじゃ面白みがないからまんいちくん。どう?変態そうでいいあだ名だよね」

自分が生みの親であるかのようにニッコニコの田中。高校生の頃と変わらず常におちゃらけている姿にしょうがない奴だなとクスリと笑ってしまう。

「確かに変態そう」

「男はみんな変態だよ」

「風評被害なんだけど」

悪ノリし始めた塩崎と青柳の頭を軽くはたく。

「じゃあ、俺は逆に万一かずひとって呼ぼうかな」

魚住が真面目なトーンでキリっとした顔を作って言う。

「禁断の学園ラブロマンスが始まっちゃう始まっちゃう!」

そんな雰囲気に今度は田中が、手を口に当て声をわざと高くして茶化しだす。

「本当にお前と同じ学部じゃなくてよかった……」

「お疲れ」

田中、塩崎、青柳の3人はキャッキャッしたままでいる。そんな3人を横目に、宮中と魚住の2人は苦笑いし、呆れる。

∻∻∻∻∻∻∻∻∻∻∻∻∻∻∻∻∻∻∻∻∻∻∻∻∻∻∻∻∻∻∻∻∻∻∻∻∻∻∻∻∻∻∻∻∻∻∻

カツカレー、味噌ラーメン、日替わり定食、カルボナーラ、タコライス。

各々の好きなメニューがテーブルに並んでいる。

「そういえば、俺らの先輩が宮中達と同じ学部にいるんだよ」

「社会学部に?どんな先輩なん」

いち早くカレーを食べ終えた田中が思い出したように話題を変える。

「とにかくイケメン。文武両道、人当たりもよくて友達も多いって感じの完璧人間でみんなの憧れの存在だったよね」

「うん、そうだったかな。多分今でもモテモテだと思うよ」

急に藤代の話題になったためか、歯切れの悪い返しをしてしまう。

藤代、B棟――

「……202」

「え、なんか言った?」

いや、別にと言いかけるが騒がしい集団が横切ったせいで口をつぐんだ。

「宗は何でサークル入ってないんだよー」

「いやぁ、何かと忙しくてさ」

「うちの軽音サークルどう?藤代くんが来れば新しいバンドが組めるし!」

「確か1年にすごいかわいい子が入ったんだって。お前イケるよ!」

カースト上位詰め合わせといったところだろうか。男女混合の煌びやかなグループが楽しそうに歩いてきた。その中でも1人抜きん出ている人物がいた。藤代だ。

高校の時と変わらない少し薄いミルクティーの色が入っているような黒髪と目。日本人にしては薄い色素の肌。美少年という印象を抱くが背も高く、程よく筋肉もついているため“男らしい”ともいえる。誰もがかっこいいと思うような要素しかない、芸能人のようである。

――そうだ、この人だ。B棟202。

モヤモヤとしたものが一気にはっきりとし出す。

デジャヴだ、そう直観したが外れた。

今回は、こちらを一度も見なかった。気づいていないといってしまえばそうである。

「……あの人だよ」

田中がこそっと他のみんなに教える。

「マジで言ってる?俳優みたいにかっこよかったけど」

「俺、芸能人初めて見た!」

「ちーがうよ。藤代先輩は一般ピーポー!」

信じていないみんなに本当だと身を乗り出し、力説する。

「ね、本当なの?万一」

「……」

「おい、万一」

うわの空でいる宮中は魚住に肩をたたかれる。

「……うわー、見ちゃったよ最悪」

テーブルに肘をつき、頭を抱える。

――見ちゃったからには見ちゃったからには。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

【7】父の肖像【完結】

ホズミロザスケ
ライト文芸
大学進学のため、この春に一人暮らしを始めた娘が正月に帰って来ない。その上、いつの間にか彼氏まで出来たと知る。 人見知りの娘になにがあったのか、居ても立っても居られなくなった父・仁志(ひとし)は、妻に内緒で娘の元へ行く。 短編(全七話)。 「いずれ、キミに繋がる物語」シリーズ七作目(登場する人物が共通しています)。単品でも問題なく読んでいただけます。 ※当作品は「カクヨム」「小説家になろう」にも同時掲載しております。(過去に「エブリスタ」にも掲載)

エロ・ファンタジー

フルーツパフェ
大衆娯楽
 物事は上手くいかない。  それは異世界でも同じこと。  夢と好奇心に溢れる異世界の少女達は、恥辱に塗れた現実を味わうことになる。

アニーの休日

盛多狐
ライト文芸
真夏の昼下がり、俺は海浜公園で「アニー」と逢った…… ※過去に他サイトで掲載した作品を、加筆修正したものです。

たとえ失われたとしても、それは恋だった

ぽぽりんご
ライト文芸
「――夢だったら、よかったのに」 彼女は、そう呟いた。 本当に、夢だったら良かった。 夢のように。楽しく、いつまでも過ごして。 そして目が覚めれば、またいつもの日常が始まる。 そんな幸福を、願っていた。 これは、そんなお話。 三人の中学生が、ほんの少しだけ中学生をやり直します。

婚約破棄とか言って早々に私の荷物をまとめて実家に送りつけているけど、その中にあなたが明日国王に謁見する時に必要な書類も混じっているのですが

マリー
恋愛
寝食を忘れるほど研究にのめり込む婚約者に惹かれてかいがいしく食事の準備や仕事の手伝いをしていたのに、ある日帰ったら「母親みたいに世話を焼いてくるお前にはうんざりだ!荷物をまとめておいてやったから明日の朝一番で出て行け!」ですって? まあ、癇癪を起こすのはいいですけれど(よくはない)あなたがまとめてうちの実家に郵送したっていうその荷物の中、送っちゃいけないもの入ってましたよ? ※またも小説の練習で書いてみました。よろしくお願いします。 ※すみません、婚約破棄タグを使っていましたが、書いてるうちに内容にそぐわないことに気づいたのでちょっと変えました。果たして婚約破棄するのかしないのか?を楽しんでいただく話になりそうです。正当派の婚約破棄ものにはならないと思います。期待して読んでくださった方申し訳ございません。

【完結】サイレント、ナイト ~その夜のはじまり~

Fred
ライト文芸
【最終話。今ここに!】 この夜、会いたい人がいる。たったそれだけの事…。カジュアルファッション店のアルバイト店員のカズヤは「その夜」が近づくにもかかわらず、彼女であるルイコへのプレゼントを用意できていなかった。それは、その「モノ」との出会いが訪れていないだけではなく、相手に対しての「自信」の揺らぎに気づきだしていたからでもあった。その弱い変化に反発しようとすればするほど、感じたことのない深みに引き寄せられそうになる自分を救えるのはルイコ以外にない。一方、アパレルの製造部門で働くルイコは、大きなファッション・ショーに向けての仕事が佳境にあり、現場の指揮を執る上司の下、同僚とともに戦っていた。ただ一方で、彼氏であるカズヤに対する誠実な気持ちが彼女を追い詰めてもいた。そして、カズヤの下には美しい謎の女性ナナが現れ、ある目的を持って急接近する。「この夜」に翻弄される二人の試練とは?ナナの目的とは?予測困難なラストに向かい、想いはひた走る…。 ※プロローグは読み飛ばし可能です。  ついに最終話。 【完結】 序章1.フット・ステップス  ↓ページの下のほうに目次があります。

消極的な会社の辞め方

白水緑
ライト文芸
秋山さんはふと思いついた。仕事を辞めたい! けれども辞表を提出するほど辞めたい何かがあるわけではない……。 そうだ! クビにしてもらえばいいんだ! 相談相手に選ばれた私こと本谷と一緒に、クビにされるため頑張ります!

隣の席の美少女が何故か憐れむような目でこちらを見ているけど、僕には関係がないのでとりあえず寝る ひとりが好きなぼっちだっているんですよ?

プル・メープル
ライト文芸
『ひとりでいたい男子高校生と、どうしても構いたい女子高生の窓際ラブコメ!』 高校2年生の唯斗は今年も相変わらず、周囲の人間にに興味を持たないぼっち生活を送っていた。 しかし、席替えで隣になったのをきっかけに、落とした男も砕け散った男も数知れずと噂の美少女に話しかけられるようになる。 いつまでも興味を持たない唯斗と、何とかして心を開かせたいヒロインの、小さなバトル(ラブコメ)が今開幕する! この作品はカクヨムというサイトの方で、既に完結しているものを投稿しています。 先が早く読みたいという方は、そちらで読んで貰えるとありがたいです!

処理中です...