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第12話 肝試し

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「ねぇ、美里みさとちょっと歩きづらいんだけど…」
「ごめん、でも無理ー想像以上なんだよーこの雰囲気ぃー」

そう言いながらさらに私の腕をつかむ力が強くなる。ちょっと痛い…

「確かに結構いい雰囲気だよなここ」
「実はここ売りにしてたりしてなーあの施設」
「そんなわけないだろ」

翔奏かなた悠利ゆうりが話す。翔奏と美里の言う通り結構いい雰囲気の道だった。少し季節は早い気がするが校長先生が肝試しを思いついたのも納得がいく。ただありがたいことによくお化け屋敷である驚かし役みたいな人はいないので私はそこまで怖くない。さすがに偽物でもおばけが出てきたら私も怖い…

「なんでみんなそんなに平気なわけ?」
「え、ただの暗い道じゃん。な!悠利!」
「あぁ、そんなに怖いなら目つぶってればいいんじゃね?俺がおんぶしてやっから」
「そうしよ、ね、美里」

疲れた私は悠利の提案に乗った。

「いやっ自分で歩く」
「いや、今すでにほぼ私が歩いてるんだけど…」
「いやいや自分で歩いてるよ!」
「あはは、、、」

しかし想像以上に頑固な美里は私の腕から離れようとしない。いつもは私が美里に引っ張ってもらってばかりなのでだんだんこの状況が楽しくなっている私もいる。まぁ腕が痛いのは変わんないけど…


~数分後~


「だいぶ歩いた感じするけどあとどんくらい歩けばいいんだろうな」
「そうだね」
「意外と先行った人とか後から来た人見えないし…まぁコースは道なりだって言ってたし大丈夫か」

私と翔奏が会話する。美里は今も私の腕にしがみついている。ちらっと美里の方を見るとほぼ目をつぶっている。

「おい、美里大丈夫かよ」
「いける、だいぶ慣れてきたし…」

悠利はずっと美里を心配して美里の方を見ている。何回か山道でつまずいて転びそうになっている。悠利にしては珍しい。

「あ、そういえばあおいどこいったんだろうな」
「何かすることがあるって言ってたよね」
「普通に考えてこの肝試しの運営だろ」
「碧のやつ、私が怖いの苦手なの知ってて運営に回るとか裏切者ー」
「その設定隠してるんじゃなかったのかよwまぁ知ってたけどな」
「はぁ!?別に隠してないし!」

美里以外の三人で話していると美里も会話に入ってきた。相変わらず私の腕にしがみついているが、悠利といつものケンカごしの会話ができるくらいには慣れてきたようだ。

「こういう夜道って普段あんまり歩かないからなんか特別なかんじするよな」
「確かに、いやでもバイト終わりとかこんな感じじゃね?」
「あー確かにてか、悠利バイトするくらいなら一緒にモデルの仕事とかしようぜー」
「その話まだ続いてたのかよ、興味がないわけじゃねーけど今はパスって言っただろ」

(俳優はモデルの仕事もあるのか…ん?一緒に?)

俳優は大変だなんて感心したのも束の間、悠利がそういう仕事をしていると聞いてなかったので驚いた。

「あぁ、咲槻さつきには話したことなかってっけ、、、」

驚いて「?」みたいな顔をしていたのに気づいて翔奏が説明してくれた。

「一回現場に悠利を連れてったことがあってさ、そのときたまたま来てたカメラマンが悠利のこと気にいちゃって…よくその人と現場で一緒になるんだけど、そのたびにあの子は?って聞いてくるんだよ」
「へぇー」

さすがイケメン、そう思いながらうなずく。一般人のイケメンと芸能人のイケメンはオーラが違うと聞くが、悠利は芸能人のオーラを何となくまとっている感じがする。

「興味あるのに何でやらないの?」
「それは…」

悠利がそう言いかけた時、横から奇妙な声が聞こえた。

「ばぁ~あ」

声の方を見ると明らかに作り物の顔すら書いていない、白い物体があった。

「うぇあ、びっくりした…」
「「うぉ、」」

私と悠利、翔奏が声に驚いて白い物体に気を取られていると次は近くから悲鳴が聞こえた。

「うわぁ!キャャャャャャーイヤぁーーーーーー!!!!!!」

最初に聞こえた悲鳴はだんだん離れていっている気がする。
見ると美里が運動神経抜群のその足を使ってものすごいスピードで走っていた。

「おい、待て!美里!」

悠利が声をかけても聞こえていないのか止まる気配がない。あまりの驚きように3人であっけにとられていると、いつの間にか美里がほとんど見えなくなっていた。

「くっそ、あのバカっ すまん!俺は美里追いかけるから、翔奏たちはゆっくり来てくれ!」
「お、おぅ…」

そう言った悠利は美里よりも速いスピードで見えなくなっていった。

「いちゃったな…」
「う、うん」
「行くか」
「そうだね」

数秒止まって、歩き出す。

「あんなにビビるとは思ってなかったんだけどなぁー」
「そう、なんだ。お化け屋敷とか行ったことなっかたの?」
「え?あー遊園地は昔一緒に行ったことあるけど…お化け屋敷はなかったなーいっつも美里が嫌がるから、あっても入ることはなかったし」
「そっかー」

しばらく沈黙が流れる。

(やっぱり二人きりだと会話が続かない…)

いつもの4人でいるときはだいたい美里が会話を回してくれるので、いざ二人きりで話そうとするとなかなか会話が続かない。そんな私の焦りを知ってか知らずか、翔奏は無言でただ私の隣を歩いている。

(何か話題、、、あっ!)

少し考えて私はずっと翔奏に聞いてみたかったことを聞いてみることにした。

「あのさ、聞きたいことがあるんだけど」
「なに?」

歩幅的に少し前を歩いていた翔奏が少し振り向く。一息置いて私は話し出す。

「ずっと聞きたかったこと何だけどね、どうして今の仕事始めたの?」

翔奏が役者をやっていると知ったときからいつか聞こうと思っていた質問。同じ年齢で同じ芝居をやっている者としてずっと気になっていたこと。どうしてこの世界に足を踏み入れたのか。

「え?テレビの仕事のこと?」
「う、うん、ほら、一般人からするとさ気になるじゃん」
「…」

どう答えようか迷っているのか、翔奏は手をあごに当てながら考える姿勢をとる。

「い、嫌だったら別に答えなくていいよ。ただの興味本位だし…」

沈黙に耐えかねて私がそう言うと翔奏が話し出した。

「いや、そういうわけじゃないけど…まさかそんな質問されると思わなくてさ、」
「?なんか、ごめん」
「なんで謝るのwまぁ歩きながら話そうか」

そう言って翔奏は私の隣まで戻ってきて一緒に歩き出す。

「そーだなーきっかけ、きっかけかー」

明確なきっかけがないのか歩き出してからも、なかなか話出さなかった。
数分また無言の時間が流れる。

「俺の母さんさ、昔から演劇が好きな人だったんだ、それでよく俺も一緒に舞台観に行って…というより行かされてたんだけど、、、」


~十数年前~

物心ついた頃にはすでに母親の付き添いでよく舞台を見に行っていた。その頃の俺は芝居になんて何の興味もなくただ母さんの趣味に付き合わされているに過ぎなかった。唯一の楽しみといえば舞台を見に行った日の夜は必ず、仕事終わりの父さんと合流して外食に行けることくらいだった。

「どうだった?今日の舞台は」
「うーん、よくわかんない」
「そっかーまた観に行こうね」
「えー、次は仮面戦隊のステージ見に行こうよー」

母さんはいつも舞台が終わると俺に感想を聞いてきた。俺は子供には難しすぎる内容ばかりの舞台を毎回見せられていたので、わからないとこたえる以外なかった。母さんがどういう考えで俺を舞台に連れて行っていたのかわからないが、今ではこの道を選択肢の中に入れてくれたことに感謝している。

「じゃあ、次はもうちょっと子供向けの舞台も見に行ってみようかしらー」

俺の希望はガン無視で次に見る舞台の話をしている。
俺がどれだけ嫌がっても母さんは舞台を見に連れて行き続けた。そのおかげもあってか4、5歳になる頃には演技に興味を持つようになっていた。

「ねぇねぇ、母さんあの人、この前は怖い役やってたのに今日はすっごいいい人になってる!」
「そうねーあの人たちはね、舞台の上では何にでもなれるのよー」
「へぇーかっこいー」
「あら興味あるの?今度やってみる?」
「うん!やってみたい!」

そうして俺は昔母さんが所属していた劇団に入ることになった。今思えば母さんの策略に乗せられた気がするが、今の俺があるのはそのおかげなので感謝している。いろんな意味で…


~現在~

「そのあとはまぁーどんどんハマっていったよなー舞台とかカメラの前とか役者やってるときは正義のヒーローとか魔法使いとか、王子様とかホント何にでもなれるのが楽しすぎてさー」
「そっかーほんとに好きなんだね、お芝居が、んふふ」

翔奏が芝居について語るその様子が、熱く語ってるときの汐梛しなさんとか涼太りょうたさんに似ていてつい笑ってしまう。

「あ、ごめんなんか一方的に話しちゃって…」
「ううん、面白かったよ」
「そう?なんかこういうの恥ずいな、あんま人に話すことないし」
「ふふふ、こちらこそごめんね無理やり聞いちゃったね」
「いや全然、大丈夫」

翔奏は恥ずかしそうに頭の後ろをかく。それを見て少し申し訳なくなった私はほとんど気持ちのこもっていない謝罪をする。

「じゃあ、もうちょっとこの話続けてもいい?」
「まだ神社まで距離ありそうだしいいよ」

そう言って翔奏はまた昔話を始めた。次は役者を続ける決意をしたときのことを教えてくれるらしい。

「劇団入ってからさ、俺と同い年なのにめちゃくちゃ演技上手い子がいてさー」
「えーこの前美里に見せてもらった翔奏主演のドラマ見たとき演技すごく上手だなーって思ったのに、その上がいるの?その子すごいね」
「あ、あぁ、そうなんだよ劇団内のオーディションでもずっと負けてて、悔しかったなーあの頃は」

私もそこそこ演技ができる方だと自負しているが、その私が見ても翔奏の演技は才能を感じる。その翔奏が負け続けていたとなるとその子は相当才能があったんだと予想できた。

「じゃあ、ライバルだったんだねその子とは」
「ん、まーライバルだったけど親友だったよ。よく稽古の後、その日の稽古の話しながら遊んでたし…」
「へぇーいい関係だね」
「あぁ、今考えてもめちゃくちゃ仲は良かったと思う」

翔奏はその頃を懐かしむような顔をして話す。
その懐かしそうに話す翔奏の表情を見ていると何となくわかった。その人に憧れ以外の感情を持っていると。

「その人のこと好きなんだ?」
「へうぇ!?」

私がからかいながらそう言うと、翔奏は明らかに動揺して、顔を赤くしていた。

「あははは!冗談だよ、冗談、ほら置いていくよー」
「!…」

動揺しすぎて固まった翔奏に声をかけながら少し先を歩く。翔奏は赤くなった顔を少しの間しゃがんで隠し、落ち着いたのか立ち上がって歩き出した。

「はぁーまさか咲槻にからかわれる日が来るとはなー」
「私、意外と人からかうの結構好きなんだ!」

私がニヒッと笑うと翔奏がまたあの変な顔をしていて、また止まっていた。

「早く行くよー先で美里たち待ってるだろうし」
「あぁ、そうだな」

そう言って小走りで私の隣まで歩く。少し歩くと悠利がこちらに気づいて手を振っていた。脇に抱えられた美里はほぼ気絶しているように見えた。

「やっと来たか、遅かったな」
「いや、お前らが走って行ったからだろ、俺たちは普通だよ」

そう悠利と翔奏が話す。その間私は美里の様子を確認する。

「大丈夫、美里ー顔真っ青だけど…」
「う、ゔーん…」
「あちゃーこらぁダメだな、あの後どうなったんだ悠利」
「あー捕まえたら腰抜けて歩けなくなったからおんぶしてここまで、あそこ曲がったらお参りする神社があるんだよ」

悠利があの後どうなったのか説明してくれた。その間も美里はゔーんとうなっていた。

「これは…起きてるの?死んでるの?」
「間じゃね?」
「えー…」

悠利の返しを聞いて私が間の抜けた返事もする。続けて悠利はこう言った。

「ま、後ちょっとで終わりだし、美里は俺が担ぐからはよ行こーぜ」
「そうだなー」

(あ、起こさないのね)

2人はこの状況になれているのか、美里を起こさずに先に進もうとする。確かにここで起こして、またダッシュで逃げられたりしたら大変だ。

「やーっと着いたねー」
「短いようで長かった…」

歩いている時には感じなかった疲労感が一気に押し寄せる。普段の運動不足を呪う。

(さすがに、ちょっとは運動しないとなー)

大きく伸びをしながら私は思う。だが今はそう思っていても、きっと帰ったら忙しいし忘れてしまうだろう。

「思ったより驚かす仕掛けなくてなんか拍子抜けだったなー」
「だな、美里がビビり散らかしたとこだけだったな」

翔奏と悠利が肝試しの感想を言い合っている。美里は相変わらず悠利の背中で唸っていた。
少し歩いて神社に到着した私たちは説明にあった通り先生から渡された5円玉を使ってお参りをした。美里はというと、さすがにもう走り出さないだろうと悠利が起こしてお参りをさせた。

「みんなお疲れさまーどうだった?肝試し」
「「あっ!?」」

突然聞き慣れた声が聞こえて全員で驚く。声のする方を見ると碧が帰り道の案内板を持って立っていた。

「なっ!碧!何やってんだこんなとこで!」
「どこいったのかと思ってたらこんなとこ居たのかよー」

悠利と翔奏が続けて言う。碧はまぁまぁと2人をなだめながら私たちの疑問に答えてくれた。

「僕、この肝試しの実行委員なんだー林間学校前に先生に頼まれてさー面白そうだから引き受けちゃった!」

テヘッと言う声が聞こえてきそうな仕草でそう言う碧にみんなが呆れている中、ただ1人怒り出した人がいた。美里だ。

「あーおーいー!実行委員なんだったらあのおばけ無くしといてよ!怖かったじゃない!」
「えー企画自体はほとんどクラス担任の先生たちが決めちゃったから、僕もここに来てからあの仕掛け知ったんだもん」

美里が半泣きになりながら訴える。それを過去の状況を説明しながら碧がなだめる。

「ていうかそもそもそんなに怖いなら参加しなきゃよかったじゃーん」
「咲槻との思い出が減っちゃうじゃん!」
「じゃあ、それは普段忙しいって言い訳で遊んでくれない咲槻ちゃんのせいだね」
「え!?私?なんか理不尽…」

碧がサラッと私に責任転嫁する。ホントにこの人は掴みどころがない。

「さっ!4人とも文句は後でいくらでも聞くから、次の組来る前に行った行ったー」

そう言って碧は私たちの背中を押す。私たちは押されるがまま帰りの道を歩き始める。

「気をつけて帰ってこいよ!」
「心配ありがとーみんなも山道だから転けないようにねー」

翔奏が声をかけると全力で手を振って答えている。あの愛嬌を私も欲しいものだ。

「もう!戻ってきたら一発入れてやる…」
「美里怖いよ、碧くんのせいじゃないんだから…」
「殴るならあれを考えた先生にしろよ」
「じゃあ、誰が考えたか予想しようぜー」

それからの帰り道はあの装置を考えた先生の予想大会で盛り上がり、その話題だけで施設まで続いた。結局これを考えた人は浜風はまかぜ先生という結論になり、美里は明日浜風先生に一発入れる決意をしたらしい。

(先生、明日怪我しないといいな…)

そう願う私であった。
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