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第7話 お仕事 2
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久々のabilityの収録の次の日。私は自宅の床で目覚めた。幸い今日のアニメ映画の収録には余裕で間に合う時間ではあった。
パチッ
部屋の電気つける。気付いたら寝てしまっていたため昨日何をしていたのか思い返すことにした。
「麻田さんに家まで送って貰って…」
~昨日の夜~
「ありがとうございました。わざわざ送っていただいて」
「いいのいいの、女子高生を夜に1人で帰らせる方がダメよ」
私が頭を下げると、麻田さんは笑顔でそう返す。
「明日も朝早いから早く寝てね。あ、朝迎えにこよーか?」
「いえ、大丈夫です。麻田さんも忙しいみたいですし、お気になさらず」
「そう?わかった。じゃ明日私もアフレコ現場行くから、よろしくね」
「はい、わかりました」
そう言って、麻田さんと別れた私は自分の家の中に入る。その後テレビの前の机に荷物を置き、床に座る。ぼーっとして、何となく寝転んでその後の記憶がない。
~現在~
「あぁぁ!私昨日お風呂入ってない…入らないと」
寝起きの目を擦りながら、テクテクとお風呂場へと向かう。向かう途中にコンセントの先を踏んでしまい、悶絶したが1人で叫ぶわけにもいかず顔が凄いことなっていたのは言うまでもない。
「んーーーーっ」
お風呂上がりに1つ伸びをし、時計を見ると朝7時を指していた。
「えっと、9時に出れば間に合うけど…学校って何時から電話していいんだろ」
少し考えてイマイチよく分からなかったので、朝ごはんを食べてから電話することにした。
朝ごはんを食べ終えて8時くらいに電話をかける。
プルルルル…
「はい、○○立○○高等学校です。」
「えーっと、1年B組の小湊 咲槻です。浜風先生いらっしゃいますか?」
「はい、浜風先生ですね。少し待って貰えますか?」
「あっ、はい。わかりました。」
電話に出たのは女の先生で、音楽の教科を担当している先生の声らしかった。その先生に言われるがまま数分待っていると、電話の遠くから浜風先生が音楽の先生にお礼を言う声が聞こえてきた。
その後、足音が少しずつ近づいてきて受話器を摂る音がした。
「お電話変わりました。1年B組担任の浜風です。」
「あ、浜風先生、今日学校休みたいんですけど…」
「小湊か、今日休むのか?お前にしては珍しいなぁ。どうした?」
私が滅多に休まないので、浜風先生が不思議に思って聞いてくる。その回答に私は少し困って、こう言うことにした。
「あー、詳しいことは言えないんですけど、ちょっとどーしても外せない用事で…」
と言うと、納得していないようだが、一応了承してくれた。
「そうか…ま、どーしても外せないなら仕方ないな。ん、わかった。明日は来いよ」
「はい!わかりました。ありがとうございます。失礼します。」
そう言って電話を切る。フゥーっと1つため息をして、心を落ち着かせる。
(学校に電話なんて初めてしたな…)
「緊張したぁー!!はは」
緊張した反動からか、1人の部屋で少しだけ笑った。でも我に返ったときちょっと恥ずかしかった。
「…と、そんな事はどーでも良くて…行く準備しないと」
準備をして、予定の時刻ぴったりに家を出る。途中でメガネをかけそうになって、慌てて外した。
~現場到着~
「おはようございまーす…」
「あら、湊音ちゃんおはよう。ちゃんと時間通り来れたね」
「当たり前じゃないですか、私だってやるときはやるんです。」
入り口で麻田さんが迎えてくれた。いつものからかいを混ぜて私の緊張をほぐしてくれる。それに答える私はいつも不機嫌な顔をするけど…
「さて、中に入りましょうか。」
「はい、あ、待ってください。収録までまだ時間ありすよね?」
「えぇ、まだそーねー。30分くらいなら時間あるわよ、どーしたの?」
「今日の収録って声優さんだけじゃなくて、俳優の方も参加されるやつですよね?」
そう、事前に聞いていた話では今日収録する作品はよくある恋愛アニメーション作品で、出演するほとんどが普段は顔出しで俳優をやっている人たちなのだ。そして普段一緒に仕事することのない人たちと演技をするのだが、私が心配するのは何かというと…
「その…普段表舞台に立って演技したりする人たちですし、顔バレとか大丈夫でしょうか…これを気に無理やり表舞台に出そうとしてきたりしません?今回の監督さん結構強引な人だって聞きますし…」
「うーん、そうねぇ…でも、今回湊音ちゃんをキャスティングするにあたって事務所に直接連絡が来た時に社長が直々に湊音ちゃんは絶対に表に出さない!って約束したから大丈夫だと思うけど…」
「そう、ですか…」
そう言って麻田さんは私の不安を和らげようとした。それでもまだ私が不安そうな顔をしていたのだろう、少し経ってからこう言ってくれた。
「大丈夫!!もしもの時は私が何とかしたげるから!それに事務所も動いてくれるだろうしね!」
「はい…そーうですね…ちょっと不安ですけど私を使ってくれるのはありがたいことですし、心配事は何かあってから考えることにします!」
麻田さんの言葉に励まされて少し不安から解放された私はまずは目の前の仕事に集中することにした。
「よし!じゃあ中に入ろっか!」
「そうですね、行きましょう」
そう言いながらスタジオの扉を開け中に入る。中に入ると何人かのキャストがもう到着しており、その中にはテレビドラマなどでよく見かけるような人もいた。
「おはようございます。神楽湊音です。本日はよろしくお願いします。」
「あ、君が今話題の子かーよろしくお願いしますね!」
とりあえず近くの人から一通り挨拶を済ませ収録するブースの中に入る。そのタイミングで麻田さんとはお別れだ。
「じゃ、湊音ちゃん収録頑張ってね!いつも通りに!」
「はい、頑張ります!」
軽く会話をした後麻田さんは別件の仕事があるため駆け足で出ていった。
(私以外の仕事でも忙しいだろうに、わざわざ心配してここまで来てくれるなんて…よし!頑張ろ!)
麻田さんの優しさをかみ締めながら、気合いを入れ直す。部屋を見渡して椅子の相手いるところに腰を下ろす。
(やっぱりドラマで見たことある人ばっか…)
まぁこの仕事をやってる以上普段からテレビに出ている人とは顔を合わせているが、それでも表舞台に自ら立って演技する人達はやはりオーラが違う気がする。周りのオーラに圧倒されつつも台本を読んでいるとこのアニメーション映画の監督が部屋に入ってきた。
「あ、監督!おはようございます!」
最初に気づいた誰かが挨拶する。つられて周りも監督に挨拶していく。
「監督!おはようございます!」
「あーどーも、おはよう」
「おはようございます!」
「はい、おはよう」
など一人一人に挨拶を返しながら監督が部屋の中央まで歩いて立ち止まり、キャスト全員の顔を見ながら改めて全体に挨拶し始めた。
「あい!どーも皆さん 今日は私の事情で急な予定変更になったのにも関わらずお集まりいただきありがとうございます!まずは今後の日程とか諸々説明したいと思いま~すぅ~」
監督の「あい!」と言う言葉を合図に台本を見たりお喋りをしていた人達が一斉に監督を見る。
「今作品は今日と後日に行われる収録の二日間に分けて収録します。後日の収録の日程に関してはまた皆さんの日程を鑑みてこちらからご連絡しますんで、よろしくお願いします。」
(皆さんの予定を鑑みて…って私の予定は鑑みてくれなかったのに!ま、一緒にキャスト陣がこれじゃあ仕方ないか…)
心の中で文句を言いつつ周りのキャスト陣を見渡しながら自分の中で納得させる。だが途中である人物が目に留まりつい二度見する。
(ホント有名人ばっかり…え!?あ、あれは、あいつは…!)
そこにいたのは柏尾翔奏だったのだ。驚きすぎて立ち上がりそうになるところを何とか抑えつつ監督の話に耳を傾ける。
「余裕をもってスケジュールを組んだつもりですが、今回はアフレコ初挑戦の方もたくさんいらっしゃるので割とタイトなスケジュールになると思いますので皆さん頑張ってください!」
(ヤバい全然話が入ってこない…どーしよ、バレるかな…いや、今はメガネ外してるしきっと大丈夫…たぶん…)
全く話は入って来ないが監督の話は進んでいく。
「えぇ~それでは日程の説明はこれくらいにして、作品について説明を少しと台本の修正をしていきたいと思います。えぇ~今作品は恋愛アニメ作品です。一応原作もありますが、原作者さんからはこちらの自由にしてもらっていいと言われてます。あ、一応台本渡してストーリーを確認、修正してもらってます。それであらすじですが…」
監督が話をしている間も柏尾翔奏が気になりすぎて周りの視線がいつもより気になる気がする。
(あーどうしよう気にしないでおこうって思うほど気になる…このままじゃ台本の修正聴き逃しちゃうよぉ~)
焦れば焦るほど監督が何を喋っているのか分からなくなるが、どうすることも出来ずとうとう完全に監督の声が入って来なくなったとき誰かが私を呼んだ。
「神楽さん、おーい神楽湊音さん?」
「ひゃ、ひゃい!あ…」
「「はははは」」
(やっちゃったぁ…)
その場にいる全員が笑う。普段はこういうとき名前を呼ばれることはないし普通はこのまま台本の修正にいくはずなのだが、急に名前を呼ばれて驚いて変な声が出てしまった。
「あ、えっと…な、なんでしょうか…」
どんどん赤くなる顔を少しうつむいて髪の毛で隠しながら、そう言うと監督が説明をしてくれた。
「聞いてなかったのかい?今回の主人公役とヒロイン役を紹介しようって話をしたじゃないか。それでまずヒロイン役の紹介からってことだよ。特に今回のキャスト陣は普段は声優やってない人多いんだから君の顔と名前覚えてもらわないとねぇ~」
「すみません、普段と違って慣れない現場で緊張しててついボーッとしてました。」
恥ずかしい気持ちをなんとか抑えつつ、前に出ながら謝罪する。
「まぁ、まだデビューして間もないから現場慣れしてないし、仕方ないかもね。さぁ!改めて自己紹介を」
そう言いながら自分の隣に私が来るように誘導する。私はそれに従って監督の横に立って改めてみんなの方に向き直り一礼してから自己紹介を始める。
「えーっと…ただいまご紹介に預かりました。ヒロイン役を努めさせていただきます、神楽湊音です。改めてよろしくお願いします。」
言い終えてからもう一度礼をする。すると私が礼をするのを見計らってから監督から順に拍手が起こる。
「はい、ありがとね~んじゃ、次は主演の柏尾翔奏くんよろしく~」
「はい!」
元気な声の後あいつが立ち上がる。そして少しずつ私の方に近づき、名前を呼んだ監督が誘導した位置へと移動する。その位置は監督と私の間だった。私は無意識に前に向き直した顔をもう一度少し下に向ける。
「はい!ただいまご紹介に預かりました。主人公のみつき役の柏尾翔奏です!よろしくお願いしまーすっ!」
と言いながらマジシャンの様な礼をする。今度は拍手ではなく、笑いが起こる。
「ははははっ」
「えへへへ~」
自分からやったのだが後から恥ずかしかったのか、照れ笑いを浮かべていた。
(自分からやっといて照れるか!?〔怒〕)
流石にこれだけで怒るのはひねくれてるな自分…と思いながら横目で今笑いをとった人を見つめる。
「はい、盛り上げてくれてありがとう柏尾くん、さ!そろそろ台本の修正いって収録始めようか!」
その合図とともに全員が真剣な顔に戻る。前に出ていたあいつと私は監督が言い終えた後監督からの手招きを見て席に戻る。
そこからさっきの空気とは打って変わり真面目な雰囲気で話が進んでいった。
「はい!修正はこんな感じで質問がある方はいませんかー?」
何人かが手をあげて監督に質問する。質問に答え終わると監督が全体に号令をかける。
「質問は他にないかな?よし!それじゃあ時間もないし早速収録を始めようか!じゃ、みんなの準備終わったら始めるよー」
全員が一斉に動き始める。私も準備を始めた。全員が準備を終えると監督の声が収録ブースに響いた。
「はい!じゃあ、最初のヒロインとみつきとの出会いのシーンから始めまーす。」
そこからの収録は滞りなく行われた。私が気にしていたあいつだが、結局私に気づいていないようだった。今日の分の撮影が終わると再び収録ブースに監督の声が響いた。
「オッケー今日の収録はここまで!お疲れ様~」
「「お疲れ様でーす…」」
「おつかれ~」
「お疲れ様ですぅ~このあと飲みに行きません?」
「おっ、いいねえ~」
全体での挨拶が終わると各々帰りの準備をしながらこの後の飲みの約束や今日の収録の反省点について議論を始めたり、自由に過ごしていた。私はというと1人静かに帰りの準備をしていた。
(よし、帰ろうっと)
「ねぇねぇ、ちょっといい?」
準備を終えて早々に帰ろうとすると、後ろから誰かが声をかけてきた。
「はい、お疲れさ…」
振り向くとそこにいたのは柏尾翔奏だった。私は驚いて言葉に詰まる。だが、それに気づいてか無自覚か柏尾翔奏は話を続けた。
「今日はお疲れ様、今をときめく人気声優とご一緒できて光栄だった。ありがとう!これからもよろしく!」
「こ、こちらこそありがとうございました。短い間ですがよろしくお願いします。」
(ば、バレてはないっぽい?…)
軽くお辞儀をしながら返事をする。一瞬バレたのかと思ったがそうではないらしい。単純に共演者に挨拶をするという礼儀として1人でいた私に声をかけたらしい。
「えーっと、この作品だけとは言わずに君とは長い付き合いをしたいって思ってたんだけど…」
「どうしてですか?」
「え、だってほら俺たち今をときめく人気者じゃん?しかも同い年っぽいし…似たもの同士っていうかーなんというかー…」
どうやら、私と仲良くなりたいらしい。仲良くなることに気は進まないが、今日一日柏尾翔奏の演技を見ていて芝居に対しては本気で取り組んでいると感じた私は柏尾翔奏という人間に興味が湧いていた。
(せっかくだし、ちょっと付き合うか…)
収録が終わったのは夕方だったがこのあと特に用事もなかったので少しだけ話し相手になることにした。
「全然違うと思いますけど、私は全然ときめいてなんかいません。世間が勝手につけた評価ですから。ま、それで自分の関わった作品を見てもらえるなら必要経費かなとも思います。」
「そっか…必要経費…ね(笑)その発想はなかったわ(笑)でも君は自分を過小評価しすぎじゃない?」
意外に会話が続いている。意外と喋れたんだな私と思いながら会話を続ける。
「いやいや、過小評価なんてしてません。もし周りからそう思われたとしてもそれでいいんです。周りがどう思おうが関係ない自分がどう思うかそこが私にとっては一番重要なんです。」
「そっか…でもあんまり過小評価しすぎると精神的に辛くない?」
「んー、でも過大評価しすぎるよりはマシだと思うんです。あんまり調子に乗りすぎたら周りにも自分にも良くないじゃないですか。それに自分の中でこれ!ってものがあれば精神的な辛さってそれが補ってくれてると思うんです。」
「そのこれってやつが君にとっては声優って仕事なの?」
「うーんそれはまだわかんないです。」
そう言った私の顔を見た柏尾翔奏の顔が少し変な気がした。しかしそんなことよりも出会って間もない人にここまで自分の考えを話すのは初めてで、どんどん話している自分に恥ずかしくなった私はそろそろ話を切り上げることにした。
「あ、そろそろ帰りますね。明日も朝早いので」
朝が早いと言ってもただ学校があるだけでそれは柏尾翔奏も変わらないのだが適当に理由をつけてその場を去る。去り際柏尾翔奏が何か言おうとしていたのをやめて別れの挨拶をする。
「え、あの、えっと、そっか、じゃまた収録の時に…」
「はい、ではまた、今日はお疲れ様でした。」
そう言って私は会釈し、そのままエントランスに向かいつつ通り道にいる共演者に挨拶をしながら外で待っている麻田さんの元へ急いだ。
「お待たせしました。すみませんちょっと共演者の人と話し込んじゃって…」
「全然大丈夫よ、私も今来たとこだし…そんなことより湊音ちゃんが初めての共演者と話し込むなんて珍しいこともあるのねぇ~明日は嵐かしら(笑)」
「もう!からかうのはやめてください」
「ふふふ、冗談よ」
私がむくれた顔をすると麻田さんは優しく微笑む。その後はいつもの帰路に着く。そして家に着いたあといつも通りお風呂に入りその日は疲れていたのかベッドに寝転ぶといつの間にか寝てしまっていた。
パチッ
部屋の電気つける。気付いたら寝てしまっていたため昨日何をしていたのか思い返すことにした。
「麻田さんに家まで送って貰って…」
~昨日の夜~
「ありがとうございました。わざわざ送っていただいて」
「いいのいいの、女子高生を夜に1人で帰らせる方がダメよ」
私が頭を下げると、麻田さんは笑顔でそう返す。
「明日も朝早いから早く寝てね。あ、朝迎えにこよーか?」
「いえ、大丈夫です。麻田さんも忙しいみたいですし、お気になさらず」
「そう?わかった。じゃ明日私もアフレコ現場行くから、よろしくね」
「はい、わかりました」
そう言って、麻田さんと別れた私は自分の家の中に入る。その後テレビの前の机に荷物を置き、床に座る。ぼーっとして、何となく寝転んでその後の記憶がない。
~現在~
「あぁぁ!私昨日お風呂入ってない…入らないと」
寝起きの目を擦りながら、テクテクとお風呂場へと向かう。向かう途中にコンセントの先を踏んでしまい、悶絶したが1人で叫ぶわけにもいかず顔が凄いことなっていたのは言うまでもない。
「んーーーーっ」
お風呂上がりに1つ伸びをし、時計を見ると朝7時を指していた。
「えっと、9時に出れば間に合うけど…学校って何時から電話していいんだろ」
少し考えてイマイチよく分からなかったので、朝ごはんを食べてから電話することにした。
朝ごはんを食べ終えて8時くらいに電話をかける。
プルルルル…
「はい、○○立○○高等学校です。」
「えーっと、1年B組の小湊 咲槻です。浜風先生いらっしゃいますか?」
「はい、浜風先生ですね。少し待って貰えますか?」
「あっ、はい。わかりました。」
電話に出たのは女の先生で、音楽の教科を担当している先生の声らしかった。その先生に言われるがまま数分待っていると、電話の遠くから浜風先生が音楽の先生にお礼を言う声が聞こえてきた。
その後、足音が少しずつ近づいてきて受話器を摂る音がした。
「お電話変わりました。1年B組担任の浜風です。」
「あ、浜風先生、今日学校休みたいんですけど…」
「小湊か、今日休むのか?お前にしては珍しいなぁ。どうした?」
私が滅多に休まないので、浜風先生が不思議に思って聞いてくる。その回答に私は少し困って、こう言うことにした。
「あー、詳しいことは言えないんですけど、ちょっとどーしても外せない用事で…」
と言うと、納得していないようだが、一応了承してくれた。
「そうか…ま、どーしても外せないなら仕方ないな。ん、わかった。明日は来いよ」
「はい!わかりました。ありがとうございます。失礼します。」
そう言って電話を切る。フゥーっと1つため息をして、心を落ち着かせる。
(学校に電話なんて初めてしたな…)
「緊張したぁー!!はは」
緊張した反動からか、1人の部屋で少しだけ笑った。でも我に返ったときちょっと恥ずかしかった。
「…と、そんな事はどーでも良くて…行く準備しないと」
準備をして、予定の時刻ぴったりに家を出る。途中でメガネをかけそうになって、慌てて外した。
~現場到着~
「おはようございまーす…」
「あら、湊音ちゃんおはよう。ちゃんと時間通り来れたね」
「当たり前じゃないですか、私だってやるときはやるんです。」
入り口で麻田さんが迎えてくれた。いつものからかいを混ぜて私の緊張をほぐしてくれる。それに答える私はいつも不機嫌な顔をするけど…
「さて、中に入りましょうか。」
「はい、あ、待ってください。収録までまだ時間ありすよね?」
「えぇ、まだそーねー。30分くらいなら時間あるわよ、どーしたの?」
「今日の収録って声優さんだけじゃなくて、俳優の方も参加されるやつですよね?」
そう、事前に聞いていた話では今日収録する作品はよくある恋愛アニメーション作品で、出演するほとんどが普段は顔出しで俳優をやっている人たちなのだ。そして普段一緒に仕事することのない人たちと演技をするのだが、私が心配するのは何かというと…
「その…普段表舞台に立って演技したりする人たちですし、顔バレとか大丈夫でしょうか…これを気に無理やり表舞台に出そうとしてきたりしません?今回の監督さん結構強引な人だって聞きますし…」
「うーん、そうねぇ…でも、今回湊音ちゃんをキャスティングするにあたって事務所に直接連絡が来た時に社長が直々に湊音ちゃんは絶対に表に出さない!って約束したから大丈夫だと思うけど…」
「そう、ですか…」
そう言って麻田さんは私の不安を和らげようとした。それでもまだ私が不安そうな顔をしていたのだろう、少し経ってからこう言ってくれた。
「大丈夫!!もしもの時は私が何とかしたげるから!それに事務所も動いてくれるだろうしね!」
「はい…そーうですね…ちょっと不安ですけど私を使ってくれるのはありがたいことですし、心配事は何かあってから考えることにします!」
麻田さんの言葉に励まされて少し不安から解放された私はまずは目の前の仕事に集中することにした。
「よし!じゃあ中に入ろっか!」
「そうですね、行きましょう」
そう言いながらスタジオの扉を開け中に入る。中に入ると何人かのキャストがもう到着しており、その中にはテレビドラマなどでよく見かけるような人もいた。
「おはようございます。神楽湊音です。本日はよろしくお願いします。」
「あ、君が今話題の子かーよろしくお願いしますね!」
とりあえず近くの人から一通り挨拶を済ませ収録するブースの中に入る。そのタイミングで麻田さんとはお別れだ。
「じゃ、湊音ちゃん収録頑張ってね!いつも通りに!」
「はい、頑張ります!」
軽く会話をした後麻田さんは別件の仕事があるため駆け足で出ていった。
(私以外の仕事でも忙しいだろうに、わざわざ心配してここまで来てくれるなんて…よし!頑張ろ!)
麻田さんの優しさをかみ締めながら、気合いを入れ直す。部屋を見渡して椅子の相手いるところに腰を下ろす。
(やっぱりドラマで見たことある人ばっか…)
まぁこの仕事をやってる以上普段からテレビに出ている人とは顔を合わせているが、それでも表舞台に自ら立って演技する人達はやはりオーラが違う気がする。周りのオーラに圧倒されつつも台本を読んでいるとこのアニメーション映画の監督が部屋に入ってきた。
「あ、監督!おはようございます!」
最初に気づいた誰かが挨拶する。つられて周りも監督に挨拶していく。
「監督!おはようございます!」
「あーどーも、おはよう」
「おはようございます!」
「はい、おはよう」
など一人一人に挨拶を返しながら監督が部屋の中央まで歩いて立ち止まり、キャスト全員の顔を見ながら改めて全体に挨拶し始めた。
「あい!どーも皆さん 今日は私の事情で急な予定変更になったのにも関わらずお集まりいただきありがとうございます!まずは今後の日程とか諸々説明したいと思いま~すぅ~」
監督の「あい!」と言う言葉を合図に台本を見たりお喋りをしていた人達が一斉に監督を見る。
「今作品は今日と後日に行われる収録の二日間に分けて収録します。後日の収録の日程に関してはまた皆さんの日程を鑑みてこちらからご連絡しますんで、よろしくお願いします。」
(皆さんの予定を鑑みて…って私の予定は鑑みてくれなかったのに!ま、一緒にキャスト陣がこれじゃあ仕方ないか…)
心の中で文句を言いつつ周りのキャスト陣を見渡しながら自分の中で納得させる。だが途中である人物が目に留まりつい二度見する。
(ホント有名人ばっかり…え!?あ、あれは、あいつは…!)
そこにいたのは柏尾翔奏だったのだ。驚きすぎて立ち上がりそうになるところを何とか抑えつつ監督の話に耳を傾ける。
「余裕をもってスケジュールを組んだつもりですが、今回はアフレコ初挑戦の方もたくさんいらっしゃるので割とタイトなスケジュールになると思いますので皆さん頑張ってください!」
(ヤバい全然話が入ってこない…どーしよ、バレるかな…いや、今はメガネ外してるしきっと大丈夫…たぶん…)
全く話は入って来ないが監督の話は進んでいく。
「えぇ~それでは日程の説明はこれくらいにして、作品について説明を少しと台本の修正をしていきたいと思います。えぇ~今作品は恋愛アニメ作品です。一応原作もありますが、原作者さんからはこちらの自由にしてもらっていいと言われてます。あ、一応台本渡してストーリーを確認、修正してもらってます。それであらすじですが…」
監督が話をしている間も柏尾翔奏が気になりすぎて周りの視線がいつもより気になる気がする。
(あーどうしよう気にしないでおこうって思うほど気になる…このままじゃ台本の修正聴き逃しちゃうよぉ~)
焦れば焦るほど監督が何を喋っているのか分からなくなるが、どうすることも出来ずとうとう完全に監督の声が入って来なくなったとき誰かが私を呼んだ。
「神楽さん、おーい神楽湊音さん?」
「ひゃ、ひゃい!あ…」
「「はははは」」
(やっちゃったぁ…)
その場にいる全員が笑う。普段はこういうとき名前を呼ばれることはないし普通はこのまま台本の修正にいくはずなのだが、急に名前を呼ばれて驚いて変な声が出てしまった。
「あ、えっと…な、なんでしょうか…」
どんどん赤くなる顔を少しうつむいて髪の毛で隠しながら、そう言うと監督が説明をしてくれた。
「聞いてなかったのかい?今回の主人公役とヒロイン役を紹介しようって話をしたじゃないか。それでまずヒロイン役の紹介からってことだよ。特に今回のキャスト陣は普段は声優やってない人多いんだから君の顔と名前覚えてもらわないとねぇ~」
「すみません、普段と違って慣れない現場で緊張しててついボーッとしてました。」
恥ずかしい気持ちをなんとか抑えつつ、前に出ながら謝罪する。
「まぁ、まだデビューして間もないから現場慣れしてないし、仕方ないかもね。さぁ!改めて自己紹介を」
そう言いながら自分の隣に私が来るように誘導する。私はそれに従って監督の横に立って改めてみんなの方に向き直り一礼してから自己紹介を始める。
「えーっと…ただいまご紹介に預かりました。ヒロイン役を努めさせていただきます、神楽湊音です。改めてよろしくお願いします。」
言い終えてからもう一度礼をする。すると私が礼をするのを見計らってから監督から順に拍手が起こる。
「はい、ありがとね~んじゃ、次は主演の柏尾翔奏くんよろしく~」
「はい!」
元気な声の後あいつが立ち上がる。そして少しずつ私の方に近づき、名前を呼んだ監督が誘導した位置へと移動する。その位置は監督と私の間だった。私は無意識に前に向き直した顔をもう一度少し下に向ける。
「はい!ただいまご紹介に預かりました。主人公のみつき役の柏尾翔奏です!よろしくお願いしまーすっ!」
と言いながらマジシャンの様な礼をする。今度は拍手ではなく、笑いが起こる。
「ははははっ」
「えへへへ~」
自分からやったのだが後から恥ずかしかったのか、照れ笑いを浮かべていた。
(自分からやっといて照れるか!?〔怒〕)
流石にこれだけで怒るのはひねくれてるな自分…と思いながら横目で今笑いをとった人を見つめる。
「はい、盛り上げてくれてありがとう柏尾くん、さ!そろそろ台本の修正いって収録始めようか!」
その合図とともに全員が真剣な顔に戻る。前に出ていたあいつと私は監督が言い終えた後監督からの手招きを見て席に戻る。
そこからさっきの空気とは打って変わり真面目な雰囲気で話が進んでいった。
「はい!修正はこんな感じで質問がある方はいませんかー?」
何人かが手をあげて監督に質問する。質問に答え終わると監督が全体に号令をかける。
「質問は他にないかな?よし!それじゃあ時間もないし早速収録を始めようか!じゃ、みんなの準備終わったら始めるよー」
全員が一斉に動き始める。私も準備を始めた。全員が準備を終えると監督の声が収録ブースに響いた。
「はい!じゃあ、最初のヒロインとみつきとの出会いのシーンから始めまーす。」
そこからの収録は滞りなく行われた。私が気にしていたあいつだが、結局私に気づいていないようだった。今日の分の撮影が終わると再び収録ブースに監督の声が響いた。
「オッケー今日の収録はここまで!お疲れ様~」
「「お疲れ様でーす…」」
「おつかれ~」
「お疲れ様ですぅ~このあと飲みに行きません?」
「おっ、いいねえ~」
全体での挨拶が終わると各々帰りの準備をしながらこの後の飲みの約束や今日の収録の反省点について議論を始めたり、自由に過ごしていた。私はというと1人静かに帰りの準備をしていた。
(よし、帰ろうっと)
「ねぇねぇ、ちょっといい?」
準備を終えて早々に帰ろうとすると、後ろから誰かが声をかけてきた。
「はい、お疲れさ…」
振り向くとそこにいたのは柏尾翔奏だった。私は驚いて言葉に詰まる。だが、それに気づいてか無自覚か柏尾翔奏は話を続けた。
「今日はお疲れ様、今をときめく人気声優とご一緒できて光栄だった。ありがとう!これからもよろしく!」
「こ、こちらこそありがとうございました。短い間ですがよろしくお願いします。」
(ば、バレてはないっぽい?…)
軽くお辞儀をしながら返事をする。一瞬バレたのかと思ったがそうではないらしい。単純に共演者に挨拶をするという礼儀として1人でいた私に声をかけたらしい。
「えーっと、この作品だけとは言わずに君とは長い付き合いをしたいって思ってたんだけど…」
「どうしてですか?」
「え、だってほら俺たち今をときめく人気者じゃん?しかも同い年っぽいし…似たもの同士っていうかーなんというかー…」
どうやら、私と仲良くなりたいらしい。仲良くなることに気は進まないが、今日一日柏尾翔奏の演技を見ていて芝居に対しては本気で取り組んでいると感じた私は柏尾翔奏という人間に興味が湧いていた。
(せっかくだし、ちょっと付き合うか…)
収録が終わったのは夕方だったがこのあと特に用事もなかったので少しだけ話し相手になることにした。
「全然違うと思いますけど、私は全然ときめいてなんかいません。世間が勝手につけた評価ですから。ま、それで自分の関わった作品を見てもらえるなら必要経費かなとも思います。」
「そっか…必要経費…ね(笑)その発想はなかったわ(笑)でも君は自分を過小評価しすぎじゃない?」
意外に会話が続いている。意外と喋れたんだな私と思いながら会話を続ける。
「いやいや、過小評価なんてしてません。もし周りからそう思われたとしてもそれでいいんです。周りがどう思おうが関係ない自分がどう思うかそこが私にとっては一番重要なんです。」
「そっか…でもあんまり過小評価しすぎると精神的に辛くない?」
「んー、でも過大評価しすぎるよりはマシだと思うんです。あんまり調子に乗りすぎたら周りにも自分にも良くないじゃないですか。それに自分の中でこれ!ってものがあれば精神的な辛さってそれが補ってくれてると思うんです。」
「そのこれってやつが君にとっては声優って仕事なの?」
「うーんそれはまだわかんないです。」
そう言った私の顔を見た柏尾翔奏の顔が少し変な気がした。しかしそんなことよりも出会って間もない人にここまで自分の考えを話すのは初めてで、どんどん話している自分に恥ずかしくなった私はそろそろ話を切り上げることにした。
「あ、そろそろ帰りますね。明日も朝早いので」
朝が早いと言ってもただ学校があるだけでそれは柏尾翔奏も変わらないのだが適当に理由をつけてその場を去る。去り際柏尾翔奏が何か言おうとしていたのをやめて別れの挨拶をする。
「え、あの、えっと、そっか、じゃまた収録の時に…」
「はい、ではまた、今日はお疲れ様でした。」
そう言って私は会釈し、そのままエントランスに向かいつつ通り道にいる共演者に挨拶をしながら外で待っている麻田さんの元へ急いだ。
「お待たせしました。すみませんちょっと共演者の人と話し込んじゃって…」
「全然大丈夫よ、私も今来たとこだし…そんなことより湊音ちゃんが初めての共演者と話し込むなんて珍しいこともあるのねぇ~明日は嵐かしら(笑)」
「もう!からかうのはやめてください」
「ふふふ、冗談よ」
私がむくれた顔をすると麻田さんは優しく微笑む。その後はいつもの帰路に着く。そして家に着いたあといつも通りお風呂に入りその日は疲れていたのかベッドに寝転ぶといつの間にか寝てしまっていた。
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