上 下
41 / 51
第3部 過去と現在編

第37話 過去ー薬学府編(終)

しおりを挟む
「それにあと少しで、宮廷薬師たちにも、騎士団たちにも花の成分についてのおおよその情報が渡せる。一石二鳥なんてものじゃないよね」

 あれから、時が過ぎて、クートはモノクルをつけ、髪も伸び、私も彼も成人を迎えた。
 ほんの少し、懐かしくて、ほんの少し、苦い思い出の、ひとつ。

「そうだね。それに、あと少しで分かりそうだしね!」
「そ。ふふふ。あいつ、悔しがるだろうな」
「……そうしたらまたお店で暴れそうじゃない?」
「別に構わないさ。アイツが悔しがるってことは、元気な証拠だろ」
「っふふっ」

 とある人物楽しそう笑いながら言った幼馴染の言葉に、思わず瞬きを繰り返したあと、彼につられるように私も笑い声を零す。

「何だなんだ君たち! やけに楽しそうにしているじゃないか!!」
「……うっわ」
「うっわとは何だ! うっわとは!」
「ちょうど君の噂話をしてたところだったんだけど。何、君、僕につきまとってるの?」

 ダスダスダスッ、と変わらない足音を鳴らしながらクートのお店に入ってきた彼に、クートは眉をひそめながら言い、そんなクートを見て、彼は「はあ?!」と大きく元気な声をあげる。

「あっり得ないだろ!! わたしは宮廷薬師だぞ?! だいぶ忙しいんだ!!」
「だいぶ、ねぇ。その割にはちょいちょい来てるよね」
「来たくて来てるわけじゃない!! 市場調査というものをだな!!」
「はいはい。で、今日は何の用? アリスの飴の買い占めするならさっさと帰ってよね」
「買うけど買い占めはしねえよ!! 他の人が困るだろ!!」
「あー、もー、本当エリーはうるさい」
「エリーじゃない! 俺はエルンストだ!! 何回言えば覚えるんだお前!」
「さあね、気が向いたら覚えようかな。ね、アリス」
「ふっ、ふふっ、ふっ」

 ああ言えばこう言う。
 そんな言葉を体現するエルンストとクートのやり取りに、思わず笑いが堪えられなくなって笑っていれば、「おいいぃぃ! クートお前ぇ!! アリスもいるんじゃないか!!」とエルンストが叫んだ。


「で、本当に何しに来たの?」

 やっと落ち着いたらしいエルンストに、クートがカウンターに肩肘をつき寄りかかりながら問いかける。

「お前、客にたいしてもそんな態度なのか? 大丈夫かこの店」
「何言ってんの、エリー以外にするわけないじゃないか」
「………貴様……っ」
「まあまあ」

 ふるふると震えながら言うエルンストに、クートは楽しそうに笑みを浮かべ答える。

「っ、ふん、この宮廷薬師エルンスト様は優しいからな! お前のその態度もアリスに免じて許容してやる!」
「私なんだ」
「はいはい。で、本当に何の用? まさか本当に市場調査? 君、いま本当に忙しい時期でしょ。大丈夫なの? 研究室抜けてきて」
「なんだ、そこまで把握してるのか。なら話は早いな。今日の用事はコレだ」

 そう言って、エルンストが手に持っていた筒をカウンターに置く。

「何これ?」
「依頼書だ」
「依頼書?」

 ツン、と筒を指で突いたクートに、エルンストは短く答える。

「お前も知っての通り、今までは、個人調査として、俺からお前に依頼していたが、今回からは宮廷薬師団として、依頼する」
「え、何、公務扱いになるってこと?」
「そうだ。だから騎士団への依頼費用も、公務で賄う」
「わーお。太っ腹ぁ」

 エルンストの言葉を受けて、筒の中から書類を取り出して眺めたクートが、「うん、ちゃんとアリスの名前もあるね」と言いながら、書類を私に向ける。

「二人の成果なんだから、二人の名前になるに決まっているだろう。何を当たり前なことを言っている」

 ふんす、と鼻から盛大に息を吐き出しながら言うエルンストに、クートは瞬きをしたあと笑う。

「エリーらしいね」
「何がだ? それからわたしはエルンストだ」
「はいはい」

 そんな彼らを見て、笑い声を零した私に、彼らは私を見たあと、顔を見合わせて笑う。

 そんな二人の関係性が、少し羨ましくもあり、誇らしく思った。そんな日。








 


しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

エリート警察官の溺愛は甘く切ない

日下奈緒
恋愛
親が警察官の紗良は、30歳にもなって独身なんてと親に責められる。 両親の勧めで、警察官とお見合いする事になったのだが、それは跡継ぎを産んで欲しいという、政略結婚で⁉

再会したスパダリ社長は強引なプロポーズで私を離す気はないようです

星空永遠
恋愛
6年前、ホームレスだった藤堂樹と出会い、一緒に暮らしていた。しかし、ある日突然、藤堂は桜井千夏の前から姿を消した。それから6年ぶりに再会した藤堂は藤堂ブランド化粧品の社長になっていた!?結婚を前提に交際した二人は45階建てのタマワン最上階で再び同棲を始める。千夏が知らない世界を藤堂は教え、藤堂のスパダリ加減に沼っていく千夏。藤堂は千夏が好きすぎる故に溺愛を超える執着愛で毎日のように愛を囁き続けた。 2024年4月21日 公開 2024年4月21日 完結 ☆ベリーズカフェ、魔法のiらんどにて同作品掲載中。

身代わりお見合い婚~溺愛社長と子作りミッション~

及川 桜
恋愛
親友に頼まれて身代わりでお見合いしたら…… なんと相手は自社の社長!? 末端平社員だったので社長にバレなかったけれど、 なぜか一夜を共に過ごすことに! いけないとは分かっているのに、どんどん社長に惹かれていって……

竜人のつがいへの執着は次元の壁を越える

たま
恋愛
次元を超えつがいに恋焦がれるストーカー竜人リュートさんと、うっかりリュートのいる異世界へ落っこちた女子高生結の絆されストーリー その後、ふとした喧嘩らか、自分達が壮大な計画の歯車の1つだったことを知る。 そして今、最後の歯車はまずは世界の幸せの為に動く!

セカンドラブ ー30歳目前に初めての彼が7年ぶりに現れてあの時よりちゃんと抱いてやるって⁉ 【完結】

remo
恋愛
橘 あおい、30歳目前。 干からびた生活が長すぎて、化石になりそう。このまま一生1人で生きていくのかな。 と思っていたら、 初めての相手に再会した。 柚木 紘弥。 忘れられない、初めての1度だけの彼。 【完結】ありがとうございました‼

ふたりは片想い 〜騎士団長と司書の恋のゆくえ〜

長岡更紗
恋愛
王立図書館の司書として働いているミシェルが好きになったのは、騎士団長のスタンリー。 幼い頃に助けてもらった時から、スタンリーはミシェルのヒーローだった。 そんなずっと憧れていた人と、18歳で再会し、恋心を募らせながらミシェルはスタンリーと仲良くなっていく。 けれどお互いにお互いの気持ちを勘違いしまくりで……?! 元気いっぱいミシェルと、大人な魅力のスタンリー。そんな二人の恋の行方は。 他サイトにも投稿しています。

自信家CEOは花嫁を略奪する

朝陽ゆりね
恋愛
「あなたとは、一夜限りの関係です」 そのはずだったのに、 そう言ったはずなのに―― 私には婚約者がいて、あなたと交際することはできない。 それにあなたは特定の女とはつきあわないのでしょ? だったら、なぜ? お願いだからもうかまわないで―― 松坂和眞は特定の相手とは交際しないと宣言し、言い寄る女と一時を愉しむ男だ。 だが、経営者としての手腕は世間に広く知られている。 璃桜はそんな和眞に憧れて入社したが、親からもらった自由な時間は3年だった。 そしてその期間が来てしまった。 半年後、親が決めた相手と結婚する。 退職する前日、和眞を誘惑する決意をし、成功するが――

公爵様、契約通り、跡継ぎを身籠りました!-もう契約は満了ですわよ・・・ね?ちょっと待って、どうして契約が終わらないんでしょうかぁぁ?!-

猫まんじゅう
恋愛
 そう、没落寸前の実家を助けて頂く代わりに、跡継ぎを産む事を条件にした契約結婚だったのです。  無事跡継ぎを妊娠したフィリス。夫であるバルモント公爵との契約達成は出産までの約9か月となった。  筈だったのです······が? ◆◇◆  「この結婚は契約結婚だ。貴女の実家の財の工面はする。代わりに、貴女には私の跡継ぎを産んでもらおう」  拝啓、公爵様。財政に悩んでいた私の家を助ける代わりに、跡継ぎを産むという一時的な契約結婚でございましたよね・・・?ええ、跡継ぎは産みました。なぜ、まだ契約が完了しないんでしょうか?  「ちょ、ちょ、ちょっと待ってくださいませええ!この契約!あと・・・、一体あと、何人子供を産めば契約が満了になるのですッ!!?」  溺愛と、悪阻(ツワリ)ルートは二人がお互いに想いを通じ合わせても終わらない? ◆◇◆ 安心保障のR15設定。 描写の直接的な表現はありませんが、”匂わせ”も気になる吐き悪阻体質の方はご注意ください。 ゆるゆる設定のコメディ要素あり。 つわりに付随する嘔吐表現などが多く含まれます。 ※妊娠に関する内容を含みます。 【2023/07/15/9:00〜07/17/15:00, HOTランキング1位ありがとうございます!】 こちらは小説家になろうでも完結掲載しております(詳細はあとがきにて、)

処理中です...