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第2部 誘拐事変
第27話 誘拐事変2
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「アリス、上っ!!」
「っ?!」
シンシアさんの声に、視線をあげれば、空から何かが降ってくるのが見て分かる。
反射的に、来た道を戻ろうと走り出した場所に、ドンッ、と何かの塊が降ってくる。
「逃げられちゃ困るんだけどォ?」
ジャッ、と地面に引きずられた剣が、音を立てる。
「連れてかなきゃいけないんだからァ」
シンシアさんの前に出て、飛び降りてきた人物と向き合う。
彼が巻きつけていたであろう布が、だらり、と下がっている。
「…………嫌だって、言ったら」
その人物と向き合い、心臓がバクバク、と大きな音をたてる。
かろうじて、絞り出した言葉に、彼の表情が変わる。
「は?」
そう言ったあと、彼の手に力がこもるのが、見て取れる。
「連れて来いって言われてんだから、お前が何言っても連れていくし」
そう言って、目の前の人物が、剣を握りしめる。
「ってゆーか、お前、邪魔」
足が動いた。
そう自覚した瞬間、
「っやぁあぁ!」
サッ、と後ろから何かが飛び出してきた、と思ったと同時に、「アリスっ!」と名前を呼ばれ、グンッ、と手を引かれ、身体が傾く。
「っ痛ええ!!」
聞こえる叫び声に、ばっ、と振り返れば、布を纏った彼が、顔をおさえ、怒りを顕にしている。
「アリス! 走って!」
「っ!!」
シンシアさんの声に、固まりかけた足が動き出す。
「逃がすかァ!!!」
雷のような怒鳴り声とともに、剣を握り締めた彼との距離が縮まっていく。
追いつかれる。そう認識した私は、シンシアさんの手を離し、片手に握りしめていた瓶の蓋へと手をかける。
彼の両腕が上へとあがる。
と同時に、キラッ、となにかが太陽の反射で光る。
剣が振り下ろされる。
そう自覚した瞬間、思わずバッ、と両手で頭を覆う。
痛みを覚悟したその時、空気が動いた。
「っぶねぇ」
金属がぶつかる音とともに、聞こえたのは、目を瞑っていても分かる声の主。
「っ! ラグス!!」
蒼色のバンダナと、茶色の髪が、揺れる。
「怪我は」
「な、い」
振り返ることなく、そう言ったラグスの言葉に、かろうじて答えれば、ラグスが小さく息を吐いたのが見て取れる。
そして、私をちらりと見たあと、剣を振り下ろしている相手を見て、ラグスの纏う空気が変わる。
「てめぇ、誰に剣向けてんだ」
「あ! 誰かと思ったらこの前の隊長さんじゃん!」
「お前、この前の布野郎か」
「あんたなら、愉しめる、なっ!!」
「あいにくだが、こちとら楽しむつもりはさらさら無いっ!」
ギィィン、と大きく振りかぶった相手とラグスの剣がぶつかる音が響く。
「アリスっ! 走れ!」
「アリスちゃんっ!」
「っ!」
一瞬、ラグスが圧されているようにも見えたけれど、ラグスの言葉に、マノンが視界に入った、と思うと同時に、マノンのもとへと走り出す。
その瞬間、「っらぁあ!」とラグスの声と、より一層、金属が激しくぶつかる音が響いた。
それからすぐ。
布を纏った男の剣が、ラグスによって弾き飛ばされ、彼自身もまた、地面へとねじ伏せられる。
そこに、辿り着いたタウェンさんたち一番隊が、暴れようとした布の青年の四肢を完全に抑え込んでいく。
その様子を、マノンの傍で見ていた私に、ラグスが眉間に皺を刻みながら近づいてくる。
「ラグス、あの」
「っのバカ!」
「わっ?!」
目の前に来た、と思った瞬間。
ラグスの口から出てきた声に驚き、声が溢れる。
と同時に、ラグスの腕の中に、閉じ込められる。
「本っ当に、頼むから無理すんな」
「……ごめん」
「……心臓止まるかと思った」
「……ごめんなさい」
はあああぁ、と私を閉じ込める腕の強さは変わらないまま、ラグスが耳元で大きなため息を吐く。
「ラグッ、くすぐったい」
「何が」
「ひゃっ」
耳に息が当たってくすぐったい。
耳を隠すように身体を撚るものの、ラグスは「ふうん?」と興味深そうな声をだしたあと、「なあ」とわざわざ耳元で話し始める。
「そんな声だされたら、キスしたくなるんだけど」
「へっ?!」
バッ、と腕に力をいれてラグスを押し返せば、すんなりとラグスの身体が離れていく。
「ん? してもいいのか?」
まるで熔けてしまうのではないか。
そんな表情をしながら私を見やるラグスに、「ち、違くて!!」と慌てて声を出せば、「違うのか?」とラグスは残念そうな表情を浮かべる。
「もう、そんなこと言ってる場合じゃなくて、シンシアさんが、シンシアさんのお父さんが!」
「べレックス卿がどうかしたか?」
「シンシアさんが、お父さんに伝えなくちゃって。何かとても大事なことなんだと思う。彼女、急いでるの」
「え、ああ」
腕の力をたいして緩めることなく、私を腕に閉じ込めまま、言葉を続けたラグスに、「?」と首を傾げる。
「それ、多分」
「お父様!!」
首を傾げた私に、ラグスが口を開いたとき、少し離れた場所から、シンシアさんの声が響く。
シンシアさんの声に、彼女の見ている方向へと振り返れば、そこに居たのはキッチリと着こなした服と表情から、厳格さが滲み出ている一人の男性。それから水色地に白の太い線の入ったマントをつけた人たちが、こちらに向かって歩いてくるのが見える。
その様子を見た彼女は、ダッ、と走り出し、そんな彼女を見たマントをつけていない男性が、シンシアさん同様に駆け出してくる。
「あの人……」
「あの人がべレックス卿だ」
そう言って、私を閉じ込めていた腕の力を、ラグスが緩める。
「五番隊が一緒にいるってことは、犯人確保も出来たんだろ」
「そうなの?」
「ああ。べレックス卿に危険が及ばないって判断するまでは五番隊と待機しててもらう予定だったからな」
「……なるほど」
「それに……ああ、ほら、来た」
「?」
「ほら、あそこ」
来た、と言ったラグスが何を指し示しているのか分からず首を傾げる。
そんな私に、ラグスは顔を近づけ、「あそこ」と少し離れた場所を指差す。
突然、また近づいた顔に心臓が大きな音をたてるものの、今はそれどころじゃない。
心臓の音が、伝わってしまわないように、何でもない顔をしながら、ラグスの指差す方向を見た。
「じゃ、三番隊は、このまま犯人たちを連れて先に隊舎に戻るわ」
「オレたち一番も、アレ、連れて帰るわ」
合流したのは三番隊と一番隊の面々で、一番隊に関しては、通常任務の市内巡回中に、犯人たちに出くわしたらしく、そのまま確保に至ったらしい。
「そうしてくれ。五番隊は、引き続き護衛を。一番隊の抜けた穴はニ番隊が引き受ける」
「悪いな」
「いや、力じゃ一番隊には勝てないからな」
「お、なんだ、ラグスお前も鍛えるか?」
「……遠慮しておく」
ワハハハハ! と大きな笑い声をあげたメレルさんに、ラグスは大きなため息をつく。
「まあ、とにかく先ずは行動を始めないといけないね」
「ああ」
優しい笑顔を浮かべながら言った五番隊隊長のオストさんの言葉に、ラグスを含め、メレルさん、イハツさんたちが頷く。
「じゃあ、あとで隊舎で」
その言葉とともに、握り締めた手のひらを、コツン、と合わせた四人が、それぞれの場所へと戻っていく。
その様子を少し離れた場所で見ていた私の元に、「アリス!」「アリスちゃん!」と私の名前を呼ぶ二つの声が聞こえた。
「っ?!」
シンシアさんの声に、視線をあげれば、空から何かが降ってくるのが見て分かる。
反射的に、来た道を戻ろうと走り出した場所に、ドンッ、と何かの塊が降ってくる。
「逃げられちゃ困るんだけどォ?」
ジャッ、と地面に引きずられた剣が、音を立てる。
「連れてかなきゃいけないんだからァ」
シンシアさんの前に出て、飛び降りてきた人物と向き合う。
彼が巻きつけていたであろう布が、だらり、と下がっている。
「…………嫌だって、言ったら」
その人物と向き合い、心臓がバクバク、と大きな音をたてる。
かろうじて、絞り出した言葉に、彼の表情が変わる。
「は?」
そう言ったあと、彼の手に力がこもるのが、見て取れる。
「連れて来いって言われてんだから、お前が何言っても連れていくし」
そう言って、目の前の人物が、剣を握りしめる。
「ってゆーか、お前、邪魔」
足が動いた。
そう自覚した瞬間、
「っやぁあぁ!」
サッ、と後ろから何かが飛び出してきた、と思ったと同時に、「アリスっ!」と名前を呼ばれ、グンッ、と手を引かれ、身体が傾く。
「っ痛ええ!!」
聞こえる叫び声に、ばっ、と振り返れば、布を纏った彼が、顔をおさえ、怒りを顕にしている。
「アリス! 走って!」
「っ!!」
シンシアさんの声に、固まりかけた足が動き出す。
「逃がすかァ!!!」
雷のような怒鳴り声とともに、剣を握り締めた彼との距離が縮まっていく。
追いつかれる。そう認識した私は、シンシアさんの手を離し、片手に握りしめていた瓶の蓋へと手をかける。
彼の両腕が上へとあがる。
と同時に、キラッ、となにかが太陽の反射で光る。
剣が振り下ろされる。
そう自覚した瞬間、思わずバッ、と両手で頭を覆う。
痛みを覚悟したその時、空気が動いた。
「っぶねぇ」
金属がぶつかる音とともに、聞こえたのは、目を瞑っていても分かる声の主。
「っ! ラグス!!」
蒼色のバンダナと、茶色の髪が、揺れる。
「怪我は」
「な、い」
振り返ることなく、そう言ったラグスの言葉に、かろうじて答えれば、ラグスが小さく息を吐いたのが見て取れる。
そして、私をちらりと見たあと、剣を振り下ろしている相手を見て、ラグスの纏う空気が変わる。
「てめぇ、誰に剣向けてんだ」
「あ! 誰かと思ったらこの前の隊長さんじゃん!」
「お前、この前の布野郎か」
「あんたなら、愉しめる、なっ!!」
「あいにくだが、こちとら楽しむつもりはさらさら無いっ!」
ギィィン、と大きく振りかぶった相手とラグスの剣がぶつかる音が響く。
「アリスっ! 走れ!」
「アリスちゃんっ!」
「っ!」
一瞬、ラグスが圧されているようにも見えたけれど、ラグスの言葉に、マノンが視界に入った、と思うと同時に、マノンのもとへと走り出す。
その瞬間、「っらぁあ!」とラグスの声と、より一層、金属が激しくぶつかる音が響いた。
それからすぐ。
布を纏った男の剣が、ラグスによって弾き飛ばされ、彼自身もまた、地面へとねじ伏せられる。
そこに、辿り着いたタウェンさんたち一番隊が、暴れようとした布の青年の四肢を完全に抑え込んでいく。
その様子を、マノンの傍で見ていた私に、ラグスが眉間に皺を刻みながら近づいてくる。
「ラグス、あの」
「っのバカ!」
「わっ?!」
目の前に来た、と思った瞬間。
ラグスの口から出てきた声に驚き、声が溢れる。
と同時に、ラグスの腕の中に、閉じ込められる。
「本っ当に、頼むから無理すんな」
「……ごめん」
「……心臓止まるかと思った」
「……ごめんなさい」
はあああぁ、と私を閉じ込める腕の強さは変わらないまま、ラグスが耳元で大きなため息を吐く。
「ラグッ、くすぐったい」
「何が」
「ひゃっ」
耳に息が当たってくすぐったい。
耳を隠すように身体を撚るものの、ラグスは「ふうん?」と興味深そうな声をだしたあと、「なあ」とわざわざ耳元で話し始める。
「そんな声だされたら、キスしたくなるんだけど」
「へっ?!」
バッ、と腕に力をいれてラグスを押し返せば、すんなりとラグスの身体が離れていく。
「ん? してもいいのか?」
まるで熔けてしまうのではないか。
そんな表情をしながら私を見やるラグスに、「ち、違くて!!」と慌てて声を出せば、「違うのか?」とラグスは残念そうな表情を浮かべる。
「もう、そんなこと言ってる場合じゃなくて、シンシアさんが、シンシアさんのお父さんが!」
「べレックス卿がどうかしたか?」
「シンシアさんが、お父さんに伝えなくちゃって。何かとても大事なことなんだと思う。彼女、急いでるの」
「え、ああ」
腕の力をたいして緩めることなく、私を腕に閉じ込めまま、言葉を続けたラグスに、「?」と首を傾げる。
「それ、多分」
「お父様!!」
首を傾げた私に、ラグスが口を開いたとき、少し離れた場所から、シンシアさんの声が響く。
シンシアさんの声に、彼女の見ている方向へと振り返れば、そこに居たのはキッチリと着こなした服と表情から、厳格さが滲み出ている一人の男性。それから水色地に白の太い線の入ったマントをつけた人たちが、こちらに向かって歩いてくるのが見える。
その様子を見た彼女は、ダッ、と走り出し、そんな彼女を見たマントをつけていない男性が、シンシアさん同様に駆け出してくる。
「あの人……」
「あの人がべレックス卿だ」
そう言って、私を閉じ込めていた腕の力を、ラグスが緩める。
「五番隊が一緒にいるってことは、犯人確保も出来たんだろ」
「そうなの?」
「ああ。べレックス卿に危険が及ばないって判断するまでは五番隊と待機しててもらう予定だったからな」
「……なるほど」
「それに……ああ、ほら、来た」
「?」
「ほら、あそこ」
来た、と言ったラグスが何を指し示しているのか分からず首を傾げる。
そんな私に、ラグスは顔を近づけ、「あそこ」と少し離れた場所を指差す。
突然、また近づいた顔に心臓が大きな音をたてるものの、今はそれどころじゃない。
心臓の音が、伝わってしまわないように、何でもない顔をしながら、ラグスの指差す方向を見た。
「じゃ、三番隊は、このまま犯人たちを連れて先に隊舎に戻るわ」
「オレたち一番も、アレ、連れて帰るわ」
合流したのは三番隊と一番隊の面々で、一番隊に関しては、通常任務の市内巡回中に、犯人たちに出くわしたらしく、そのまま確保に至ったらしい。
「そうしてくれ。五番隊は、引き続き護衛を。一番隊の抜けた穴はニ番隊が引き受ける」
「悪いな」
「いや、力じゃ一番隊には勝てないからな」
「お、なんだ、ラグスお前も鍛えるか?」
「……遠慮しておく」
ワハハハハ! と大きな笑い声をあげたメレルさんに、ラグスは大きなため息をつく。
「まあ、とにかく先ずは行動を始めないといけないね」
「ああ」
優しい笑顔を浮かべながら言った五番隊隊長のオストさんの言葉に、ラグスを含め、メレルさん、イハツさんたちが頷く。
「じゃあ、あとで隊舎で」
その言葉とともに、握り締めた手のひらを、コツン、と合わせた四人が、それぞれの場所へと戻っていく。
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