この恋は飴より甘し。 〜 飴よりも甘いツンデレ騎士に愛されてます。〜

渚乃雫

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第2部 誘拐事変

第24話 隊舎にて 前編 ラグス目線

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「…………なんでだ。なんで今なんだ」
「なんでだろうねぇ」

 ここは王立騎士団隊舎の一角。
 サイラス筆頭からの召集命令を受け、向かった部屋で団長と副団長は帰還早々に帰還報告とシャロン氏への報告を兼ねて、王宮と赴き、この部屋には来ないことは先程オストとスプシアから聞いた。
 最近忙しそうだった団長と副団長と久しぶりに話が出来るかもしれない、と少しの期待をしていた俺とマノンは若干、気落ちはしたものの、報告も大事な仕事だと入団した当初に先輩たちからも散々聞かされている。
 残念ではあるけど。
 今、俺が問題視しているのはそこじゃない。
 そこではないのだ。

「本当に何でいまなんだ」

 ゴンッ、とテーブルに頭突きをするかのように頭をつけた俺に、マノンは「壊れるよ、テーブルが」とだけ言う。

「待てよ、心配するなら俺だろ」
「大丈夫でしょ、ラグス石頭だもん」
「……マノン、お前、途中から俺の話ちゃんと聞いてないだろう?!」
「あのねぇ、オレ、朝からその話、何回聞かされてると思ってんの?! ねぇ?! ねえ?!」
「そんなの数えてるわけがないだろう?」
「もうすでに昨日の夜から起床してからまでの間だけでも20回目くらいなんですけど?!」
「数えてるのか? マノンって変なところが律儀だよな」
「そこじゃねえですよ?!! ねえ?!」

 バンバン、とマノンがテーブルを叩く音が室内に響く。

「どうしたのマノン。そんなに荒れて」

 その声とともに、複数人の気配が動く。

「反対にラグスは顔が緩みっぱなしだけど」
「ラグス、顔ヤバいね」
「……マノン、大丈夫かい?」

 先ほどとは別の呆れたような声とともに現れたのは、今回の護衛任務と並行して任務にあたっていた三番隊のイハツ、レット、レッソ。それから、水色地に白の太い線が入ったマントをつけた者が、二人。

「オスト!! 助けて!!」
「……やっぱり」

 だっ、と入り口に向かって走り出したマノンを受け入れながら、「オスト」とマノンに呼ばれたマントをつけた短髪の青年が苦笑いを浮かべる。

「ラグス、嬉しいのは分かるけど、ほどほどにしないと」
「どういうこと? オスト。何か知ってるの?」
「え、オレたちも知らないこと?」

 レット、レッソの双子からが俺を見たあと、マノンに視線を動かす。

「おや? レットとレッソはまだ知らなかったのかい?」
「むしろまだ皆しらない」

 そのオストの視線と言葉を受け、マノンが頷きながら苦笑いを浮かべる。

「え、何なに?!!」
「何なになになに!!」

 瞳を輝かせた双子を、「落ち着いて」と宥めながらオストが口を開く。

「あくまでもボクが聞いた話と、ボクの想像でしかないけれど、ラグス、君、やっと幼馴染みのあの子と想いが通じ合ったんだろう?」
「………あ、まあ」
「うっそ?! 本当に?!」
「なんでオレたちに言わないの?!」
「絶対こうなるからだよ!!」

 オストの言葉を受け、ガバッ、と立ち上がって俺に駆け寄ってきた双子から思わず逃げれば、双子は「にししし……」と不敵な笑い声を零しながらジリジリと近づいてくる。

「でも、それなら尚更どうしてマノンが荒れているの?」

 そうオストに問いかけたのは、イハツで、彼女は本当に不思議そうな顔をしながらオストとマノンを見やる。

「まぁ、簡単に言えば、昨晩からずっと惚気話をされているんじゃないかな? 違うかい?」
「めっちゃ合ってる! すごい合ってる! 流石オスト!!」
「……え、それだけの話?」

 何を言っているんだ、という顔をしながら、マノンの説明に首を傾げたイハツに、マノンが「イハツは知らないからそう言うんだ……」とはああ、とため息を吐きながら言う。

「まぁ、アレですね。やっとのことで想いが通じた愛しい人に少しでも多く会いに行きたい。けれど、今朝になってべレックス卿のお嬢様の誘拐計画が実行に移されるとの情報が入った。まぁ、もちろん未遂で終わらせますが。それでも、そんなことが起こらなければ愛しい彼女に少しの時間でも逢いにいけますしね。だからせめて、彼女の可愛さを誰かに聞いてほしい。なんていうか、ラグスは彼女の前だと素直になれないですしね、ああ、それは直ったんですか、ってなんです?  スプシア」
「オスト、もう止めてあげたら?」
「おや、何故です? ああ……ラグス、すみませ……ん?」
「……いや……もう……いい……ってか、何だ」

 オスト同様のマントを身に着けた一人の団員、スプシアが、オストに静止の声をかける。
 その声に気が付き、言葉をとめたオストが、俺へと謝罪の声をかけるものの、オストの語尾があがっている。

 じい、というオストの視線に彼を見やれば、オストが俺をじっと見てくる。

「……何だよ」
「……君、照れることもあるんですね」
「……うっせ」

 オストのその言葉に、熱かった顔はさらに温度があがったのは言うまでもない。


「それにしても羨ましい。わたしも団長達が剣を抜くところ見たかったなぁ」
「……副団長の太刀筋は踊ってるみたいに思える時すらあるよね」
「マノンの言いたいことすっごいわかる」
「やっぱり? イハツもそう思う? やっぱりそうだよね。ラグスに言ったら踊ってるか? とか言われてさ!」
「あれは踊りでしょ」
「だよね!」
「でさ、反対に団長のは迫力満点なの!」
「分かるー」

 オスト達からツァザ地区でも襲撃を受けたとの報告を受け、イハツがぼやいた声にマノンがほんの少しの身振りを加えながら答える。
 マノンの言動の途中、何やら俺の名前が出てくるきたものの、それはほんの一瞬の出来事で、二人ともすぐに、顔を見合わせて「いいなぁ、オストとスプシアは」とため息交じりに言葉をあわせる。
 そんな二人に、視線と言葉を向けられたオストとスプシアは、苦笑いを浮かべつつも、口を開く。

「まあ……ボク達は一応、年長者でもあるし」
「隊編成的にも、隊長の隊と行動をともにすることも多いですし」

 オストとスプシアがそれぞれに答えた言葉に、「まあねぇ」とイハツとマノンはほんの少しだけ唇を尖らせながら言う。

「でもさぁ、たまにはオレたちだって隊長たちと行動したいじゃん。なあ? ラグスだってそう思ってるだろ?」
「そりゃあな」

 そもそも、俺はパウロ隊長に憧れて騎士団に入団しているくらいだ。隊長とともに行動できるならしたいに決まっている。
 けれど。

「今回の任務が隊長の隊に同行じゃなかった時点で、今、俺に、俺たちにすべきことは別にあった、ってことだろ」

 それが、例え侯爵家令嬢の護衛という任務だったのだとしても。
 隊長たちが必要だと判断したことならば、引き受けるべきだと、俺は判断した。
 俺だけじゃない。マノンだってそのはずだ。

「だから、どんな結果であっても、最後に選んだのは、自分なんだよ」

 ぼそ、と呟いた言葉に、「ま、確かにそうだよね」とマノンが頷く。

「あのさーあ。しんみりした空気を替えるようで悪いんだけどさー」

 ほんの少しだけ落ち着いた空気になりかけた時、室内に明るい声が響く。

「どうしたの、うちの問題児双子兄」
「ちゃんとレットって呼んでほしいものだね!」

 明るい声に反応をしめしたイハツに、彼女に問題児双子兄、と呼ばれたレットが唇を尖らせながら声をあげる。

「いつもちゃんと呼んでるでしょう! それにあんた達、今回もまた隊長達に怒られてたでしょ!」
「今回は怒られてないよ、叱られてただけ、ね、レッソ」
「そうだよ、イハツ、あれ位じゃ怒られるの括りには入らないよ。そこが分からないなんてまだまだだね、イハツ」
「そうそう。隊長に怒られるってときはあれだよね、レッソ」
「ぼくらでも割と死ぬ気で逃げる時だよねレット!」
「そうそう!あれは割とホントに怖い!」

 顔を見合わせ、お互いに指を指し合いながら頷く双子に、マノンは「……君たち何してるのホント」と呆れた声を零した。









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