3 / 51
第1部 恋ってなあに
第3話 不安
しおりを挟む
「あ、アリス、それ新しいやつ?」
「うん。疲れに効く薬草を組み合わせたやつなんだけど、あんまり甘くないよ?」
ミルクティの器を置いたユティアに、「食べてみる?」とさっきラグスにあげたものと同じ飴を渡せば、「もちろん!」とユティアは嬉しそうに頷く。
「綺麗な色ね」
棒についた飴の結晶を、ランプの光に当てながら、ユティアが呟く。
「それはあまり色の出るものを使っていないからね。見た目だけだと普通の氷砂糖だよね」
「普通の氷砂糖とは全然違う! アリスの作るものはいつもキラキラしてるもの」
「そうかなぁ。キラキラしてるのは……ユティアのほうじゃない?」
「わたし?」
自分を指さしながら言うユティアに、うん、と頷きながら答える。
「今朝だって、クートからのプレゼントを渡した時も」
「だ、だって、あれはっ」
クート、という名前が出ただけで、ユティアの頬がピンクに染まる。
「嬉しかったんでしょう?」
真っ赤な顔をする幼馴染みに、ふふ、と小さく笑いながら問いかければ、「……だって、クートから、だし」とユティアが言葉を途切れ途切れにしながら答える。
クートとユティア。
幼馴染みの二人が、お互いを大事に想っていることは、一目瞭然なのだけれど、以前に「本人以外がどうこう言うことじゃないよ」とマノンが言っていた。
きっと、二人は近い将来には想いを伝え合うのだろう。
そんな二人を見れる日がくるのは楽しみだし、二人の想いが重なるのはとても嬉しい。
けれど、同時に、どうしようもない不安があって。
「アリス?」
コト、とカップを置く音がする。
皆、大切な人が出来た時、恋すらしたことのない私は、どうなるのだろう。
独りぼっち、になるのだろうか。
時々、そんなどうしようもない不安が、襲ってくる。
そんな事を考えていても仕方のないことだと、理解している。
それでも、時折ふいに考えてしまう。
「食材、買いに行こっか!」
浮かんできた不安を振り払うように、勢いよく言えば、ユティアは驚いた顔をしたあと、何かを呟いたように見え、「ユティア?」と彼女の名を呼ぶ。
「ん?」
首を傾げて私を見たユティアに、気のせいだったかな……? とほんの少しだけ首を傾げる。
「あ、そういえば、さっきしたベレックス家の令嬢の話、覚えてる?」
パチン、と両手を軽く合わせながら言ったユティアに、「えっと……」とさっきまで話していたことを振り返る。
「えっと、お嬢様の身辺警護、だっけ?」
「そう!それなんだけどね。今日、珍しくラグスとマノンが正装しててね」
「あれ?でも今朝会った時はいつものバンダナを巻いたラフな格好だったけど……?」
朝一番で出くわした時は、普段、巡回の時に、身につけている簡易鎧と、いつもつけているバンダナといういつものラグスの格好だったし、マノンも軽装だった。
んん? と首を傾げた私に、「お昼すぎに見かけたの」とユティアが言う。
「あ、お昼すぎっていうと、私も一番隊の人たちが西側に向かってるの見かけたよ」
「一番って、え、あの一番隊?血気盛んで、よくうちの店で騒いでる?」
「水色のマントだったから間違いないよ。ってまたユティアのお店で騒いでたの?」
「そうなの。この前もね、ってそれは今はどうでもいいわ。そっか……あの一番隊が」
「?」
「ますます心配だわ……」
ふうん、と何かを考え込むように、頬に手をあて、ううん、と唸るユティアの次の言葉を首を傾げながら待つ。
「ユティア?」
うんうん、と唸るユティアに、彼女の名前を呼べば、「あ、ごめんね」とユティアが頬から手を離して口を開く。
「聞いた話によるとね。ベレックス卿の令嬢って、すっごい一目惚れしやすいんだって」
「へえぇ」
「でもさ、護衛を頼むだけなら、四番隊が一番護衛向きじゃない?」
「ラグスも言ってたね。それ。気を遣える、かつ、冷静な判断力が四番隊は抜群で、俺の隊には無いものも多いって」
「ね。だから、わたしはてっきり、ベレックス卿の令嬢も、四番隊がするものだとばかり思っていたんだけど。一番隊も西側に向かって行って、二番隊の隊長でもあるラグスと副隊長のマノンも正装をしてた。となると」
「となると?」
ユティアの言葉の続きを待たずに、飲み終わった二人分のカップを持って流し台へと向かう。
こうした行動はいつものことだし、ユティアもユティアで気になどしないから、とひょいとカップを持ち立ち上がる。
そのついでに、と、そろそろ市場に買い物に行かないと日が暮れてしまう。
そう思い、ユティアに質問をしつつ、買い物籠を手にとれば、「となるとね」といつの間にか近くに来ていたユティアが、籠の取っ手を掴む。
「騎士団の人たちって、格好良い人が多いじゃない? 特にラグスとマノンは、街の女の子たちにも人気だし」
確かに、騎士団の団員たちは格好良い人が本当に多い。
ラグスが憧れているという団長も、格好良さと大人の貫禄が相まってとても素敵だし、身近なところで言えば、ラグスもマノンも、街の女の子たちの話題によく出てきている気がする。
「マノンは優しいしね」
「あら、ラグスは?」
「ラグスも優しいけど」
「けど?」
玄関先にかけていた上着を手にとり、バサ、と肩へ巻く。
「最近は、なぜか怒られてばっかりだから、たまにちょっと怖い。いつも優しいは、優しいんだけど。あとよく分からないことが多い」
むう、と思わず口を尖らせながら言えば、「あらあら」とユティアが何だか嬉しそうな表情で笑う。
がちゃり、と玄関のドアを開ければ、上着を羽織ったユティアも、私に続いて家の外へと出る。
鍵をかけ、斜めにかけている鞄へとしまい、石畳みの道を二人で歩きだす。
「ラグスってあんなに怒りっぽかったっけ?」
「んー、昔とたいして変わっていないと思うけど……。あ、ねえ、最近怒られたことはなぁに?」
「一番最近なら、今日の朝一番」
「今朝?」
「うん」
私が住むこの地区は、街を抜けてしばらく歩き、この国の北側にある高原に続く地区だ。
家の前を通るこの石畳みの道は、緩やかな坂道になっている。
家から少し歩いた先に、道と道が交差する場所があり、そこの石畳みのいくつかは、荷物の行き来などが原因でほんの少し段差が出来ている箇所がある。
「ここで転びかけて、怒られた」
ぴょん、と躓いた箇所へと軽く飛べば、「怪我はしなかった?」とユティアが心配そうな表情を浮かべる。
「大丈夫だよ。ラグスが支えてくれたから」
「そう。アリスに怪我が無かったのなら何でもいいわ」
そう言って、私の横に並んだユティアが、「でも」と私の顔を見ながら口を開く。
「支えてくれたけど、ラグスは怒った、と」
「そう。いつも言ってるんだから気をつけろって。このへんは躓きやすいから、って」
あの時も、ラグスはひょい、と転んだ私をなんてことなく受け止めて立たせてくれたけれど。
「お礼を言った時に、目があったのに、すぐにそらされちゃった」
怒っているように見えて、なんで?どうして?と思っても聞けなかった。
私、何か怒らせるようなことをしたのだろうか。
でも。
「でもね」
「アリス?」
目が合った一瞬、優しい顔をしていた、気がするんだ。
すぐに、違う表情になってしまったけれど。
「……なんでもない」
どうしてだろう。前は、もっと、笑ってくれていたはずなのに。
答えが分からない疑問に、気持ちが沈みそうになった時、「アリス!ユティア!」と聞き慣れた声が少し離れたところから聞こえた。
「うん。疲れに効く薬草を組み合わせたやつなんだけど、あんまり甘くないよ?」
ミルクティの器を置いたユティアに、「食べてみる?」とさっきラグスにあげたものと同じ飴を渡せば、「もちろん!」とユティアは嬉しそうに頷く。
「綺麗な色ね」
棒についた飴の結晶を、ランプの光に当てながら、ユティアが呟く。
「それはあまり色の出るものを使っていないからね。見た目だけだと普通の氷砂糖だよね」
「普通の氷砂糖とは全然違う! アリスの作るものはいつもキラキラしてるもの」
「そうかなぁ。キラキラしてるのは……ユティアのほうじゃない?」
「わたし?」
自分を指さしながら言うユティアに、うん、と頷きながら答える。
「今朝だって、クートからのプレゼントを渡した時も」
「だ、だって、あれはっ」
クート、という名前が出ただけで、ユティアの頬がピンクに染まる。
「嬉しかったんでしょう?」
真っ赤な顔をする幼馴染みに、ふふ、と小さく笑いながら問いかければ、「……だって、クートから、だし」とユティアが言葉を途切れ途切れにしながら答える。
クートとユティア。
幼馴染みの二人が、お互いを大事に想っていることは、一目瞭然なのだけれど、以前に「本人以外がどうこう言うことじゃないよ」とマノンが言っていた。
きっと、二人は近い将来には想いを伝え合うのだろう。
そんな二人を見れる日がくるのは楽しみだし、二人の想いが重なるのはとても嬉しい。
けれど、同時に、どうしようもない不安があって。
「アリス?」
コト、とカップを置く音がする。
皆、大切な人が出来た時、恋すらしたことのない私は、どうなるのだろう。
独りぼっち、になるのだろうか。
時々、そんなどうしようもない不安が、襲ってくる。
そんな事を考えていても仕方のないことだと、理解している。
それでも、時折ふいに考えてしまう。
「食材、買いに行こっか!」
浮かんできた不安を振り払うように、勢いよく言えば、ユティアは驚いた顔をしたあと、何かを呟いたように見え、「ユティア?」と彼女の名を呼ぶ。
「ん?」
首を傾げて私を見たユティアに、気のせいだったかな……? とほんの少しだけ首を傾げる。
「あ、そういえば、さっきしたベレックス家の令嬢の話、覚えてる?」
パチン、と両手を軽く合わせながら言ったユティアに、「えっと……」とさっきまで話していたことを振り返る。
「えっと、お嬢様の身辺警護、だっけ?」
「そう!それなんだけどね。今日、珍しくラグスとマノンが正装しててね」
「あれ?でも今朝会った時はいつものバンダナを巻いたラフな格好だったけど……?」
朝一番で出くわした時は、普段、巡回の時に、身につけている簡易鎧と、いつもつけているバンダナといういつものラグスの格好だったし、マノンも軽装だった。
んん? と首を傾げた私に、「お昼すぎに見かけたの」とユティアが言う。
「あ、お昼すぎっていうと、私も一番隊の人たちが西側に向かってるの見かけたよ」
「一番って、え、あの一番隊?血気盛んで、よくうちの店で騒いでる?」
「水色のマントだったから間違いないよ。ってまたユティアのお店で騒いでたの?」
「そうなの。この前もね、ってそれは今はどうでもいいわ。そっか……あの一番隊が」
「?」
「ますます心配だわ……」
ふうん、と何かを考え込むように、頬に手をあて、ううん、と唸るユティアの次の言葉を首を傾げながら待つ。
「ユティア?」
うんうん、と唸るユティアに、彼女の名前を呼べば、「あ、ごめんね」とユティアが頬から手を離して口を開く。
「聞いた話によるとね。ベレックス卿の令嬢って、すっごい一目惚れしやすいんだって」
「へえぇ」
「でもさ、護衛を頼むだけなら、四番隊が一番護衛向きじゃない?」
「ラグスも言ってたね。それ。気を遣える、かつ、冷静な判断力が四番隊は抜群で、俺の隊には無いものも多いって」
「ね。だから、わたしはてっきり、ベレックス卿の令嬢も、四番隊がするものだとばかり思っていたんだけど。一番隊も西側に向かって行って、二番隊の隊長でもあるラグスと副隊長のマノンも正装をしてた。となると」
「となると?」
ユティアの言葉の続きを待たずに、飲み終わった二人分のカップを持って流し台へと向かう。
こうした行動はいつものことだし、ユティアもユティアで気になどしないから、とひょいとカップを持ち立ち上がる。
そのついでに、と、そろそろ市場に買い物に行かないと日が暮れてしまう。
そう思い、ユティアに質問をしつつ、買い物籠を手にとれば、「となるとね」といつの間にか近くに来ていたユティアが、籠の取っ手を掴む。
「騎士団の人たちって、格好良い人が多いじゃない? 特にラグスとマノンは、街の女の子たちにも人気だし」
確かに、騎士団の団員たちは格好良い人が本当に多い。
ラグスが憧れているという団長も、格好良さと大人の貫禄が相まってとても素敵だし、身近なところで言えば、ラグスもマノンも、街の女の子たちの話題によく出てきている気がする。
「マノンは優しいしね」
「あら、ラグスは?」
「ラグスも優しいけど」
「けど?」
玄関先にかけていた上着を手にとり、バサ、と肩へ巻く。
「最近は、なぜか怒られてばっかりだから、たまにちょっと怖い。いつも優しいは、優しいんだけど。あとよく分からないことが多い」
むう、と思わず口を尖らせながら言えば、「あらあら」とユティアが何だか嬉しそうな表情で笑う。
がちゃり、と玄関のドアを開ければ、上着を羽織ったユティアも、私に続いて家の外へと出る。
鍵をかけ、斜めにかけている鞄へとしまい、石畳みの道を二人で歩きだす。
「ラグスってあんなに怒りっぽかったっけ?」
「んー、昔とたいして変わっていないと思うけど……。あ、ねえ、最近怒られたことはなぁに?」
「一番最近なら、今日の朝一番」
「今朝?」
「うん」
私が住むこの地区は、街を抜けてしばらく歩き、この国の北側にある高原に続く地区だ。
家の前を通るこの石畳みの道は、緩やかな坂道になっている。
家から少し歩いた先に、道と道が交差する場所があり、そこの石畳みのいくつかは、荷物の行き来などが原因でほんの少し段差が出来ている箇所がある。
「ここで転びかけて、怒られた」
ぴょん、と躓いた箇所へと軽く飛べば、「怪我はしなかった?」とユティアが心配そうな表情を浮かべる。
「大丈夫だよ。ラグスが支えてくれたから」
「そう。アリスに怪我が無かったのなら何でもいいわ」
そう言って、私の横に並んだユティアが、「でも」と私の顔を見ながら口を開く。
「支えてくれたけど、ラグスは怒った、と」
「そう。いつも言ってるんだから気をつけろって。このへんは躓きやすいから、って」
あの時も、ラグスはひょい、と転んだ私をなんてことなく受け止めて立たせてくれたけれど。
「お礼を言った時に、目があったのに、すぐにそらされちゃった」
怒っているように見えて、なんで?どうして?と思っても聞けなかった。
私、何か怒らせるようなことをしたのだろうか。
でも。
「でもね」
「アリス?」
目が合った一瞬、優しい顔をしていた、気がするんだ。
すぐに、違う表情になってしまったけれど。
「……なんでもない」
どうしてだろう。前は、もっと、笑ってくれていたはずなのに。
答えが分からない疑問に、気持ちが沈みそうになった時、「アリス!ユティア!」と聞き慣れた声が少し離れたところから聞こえた。
0
お気に入りに追加
137
あなたにおすすめの小説
極悪家庭教師の溺愛レッスン~悪魔な彼はお隣さん~
恵喜 どうこ
恋愛
「高校合格のお礼をくれない?」
そう言っておねだりしてきたのはお隣の家庭教師のお兄ちゃん。
私よりも10歳上のお兄ちゃんはずっと憧れの人だったんだけど、好きだという告白もないままに男女の関係に発展してしまった私は苦しくて、どうしようもなくて、彼の一挙手一投足にただ振り回されてしまっていた。
葵は私のことを本当はどう思ってるの?
私は葵のことをどう思ってるの?
意地悪なカテキョに翻弄されっぱなし。
こうなったら確かめなくちゃ!
葵の気持ちも、自分の気持ちも!
だけど甘い誘惑が多すぎて――
ちょっぴりスパイスをきかせた大人の男と女子高生のラブストーリーです。
エリート警察官の溺愛は甘く切ない
日下奈緒
恋愛
親が警察官の紗良は、30歳にもなって独身なんてと親に責められる。
両親の勧めで、警察官とお見合いする事になったのだが、それは跡継ぎを産んで欲しいという、政略結婚で⁉
甘過ぎるオフィスで塩過ぎる彼と・・・
希花 紀歩
恋愛
24時間二人きりで甘~い💕お仕事!?
『膝の上に座って。』『悪いけど仕事の為だから。』
小さな翻訳会社でアシスタント兼翻訳チェッカーとして働く風永 唯仁子(かざなが ゆにこ)(26)は頼まれると断れない性格。
ある日社長から、急ぎの翻訳案件の為に翻訳者と同じ家に缶詰になり作業を進めるように命令される。気が進まないものの、この案件を無事仕上げることが出来れば憧れていた翻訳コーディネーターになれると言われ、頑張ろうと心を決める。
しかし翻訳者・若泉 透葵(わかいずみ とき)(28)は美青年で優秀な翻訳者であるが何を考えているのかわからない。
彼のベッドが置かれた部屋で二人きりで甘い恋愛シミュレーションゲームの翻訳を進めるが、透葵は翻訳の参考にする為と言って、唯仁子にあれやこれやのスキンシップをしてきて・・・!?
過去の恋愛のトラウマから仕事関係の人と恋愛関係になりたくない唯仁子と、恋愛はくだらないものだと思っている透葵だったが・・・。
*導入部分は説明部分が多く退屈かもしれませんが、この物語に必要な部分なので、こらえて読み進めて頂けると有り難いです。
<表紙イラスト>
男女:わかめサロンパス様
背景:アート宇都宮様
先生
藤谷 郁
恋愛
薫は28歳の会社員。
町の絵画教室で、穏やかで優しい先生と出会い、恋をした。
ひとまわりも年上の島先生。独身で、恋人もいないと噂されている。
だけど薫は恋愛初心者。
どうすればいいのかわからなくて……
※他サイトに掲載した過去作品を転載(全年齢向けに改稿)
月の後宮~孤高の皇帝の寵姫~
真木
恋愛
新皇帝セルヴィウスが即位の日に閨に引きずり込んだのは、まだ十三歳の皇妹セシルだった。大好きだった兄皇帝の突然の行為に混乱し、心を閉ざすセシル。それから十年後、セシルの心が見えないまま、セルヴィウスはある決断をすることになるのだが……。
2月31日 ~少しずれている世界~
希花 紀歩
恋愛
プロポーズ予定日に彼氏と親友に裏切られた・・・はずだった
4年に一度やってくる2月29日の誕生日。
日付が変わる瞬間大好きな王子様系彼氏にプロポーズされるはずだった私。
でも彼に告げられたのは結婚の申し込みではなく、別れの言葉だった。
私の親友と結婚するという彼を泊まっていた高級ホテルに置いて自宅に帰り、お酒を浴びるように飲んだ最悪の誕生日。
翌朝。仕事に行こうと目を覚ました私の隣に寝ていたのは別れたはずの彼氏だった。

【完結】冷徹執事は、つれない侍女を溺愛し続ける。
たまこ
恋愛
公爵の専属執事ハロルドは、美しい容姿に関わらず氷のように冷徹であり、多くの女性に思いを寄せられる。しかし、公爵の娘の侍女ソフィアだけは、ハロルドに見向きもしない。
ある日、ハロルドはソフィアの真っ直ぐすぎる内面に気付き、恋に落ちる。それからハロルドは、毎日ソフィアを口説き続けるが、ソフィアは靡いてくれないまま、五年の月日が経っていた。
※『王子妃候補をクビになった公爵令嬢は、拗らせた初恋の思い出だけで生きていく。』のスピンオフ作品ですが、こちらだけでも楽しめるようになっております。
どうやら夫に疎まれているようなので、私はいなくなることにします
文野多咲
恋愛
秘めやかな空気が、寝台を囲う帳の内側に立ち込めていた。
夫であるゲルハルトがエレーヌを見下ろしている。
エレーヌの髪は乱れ、目はうるみ、体の奥は甘い熱で満ちている。エレーヌもまた、想いを込めて夫を見つめた。
「ゲルハルトさま、愛しています」
ゲルハルトはエレーヌをさも大切そうに撫でる。その手つきとは裏腹に、ぞっとするようなことを囁いてきた。
「エレーヌ、俺はあなたが憎い」
エレーヌは凍り付いた。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる