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第10話 桃色脳内は仕方ない。

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「暫くソコで反省しなさい」
「……」

私に怒られたハルトは、部屋の隅に座って、一言も喋ろうとはしない。

けれど、先程の言葉は、私にとっては、容認出来ない言葉で。
ハルトがきちんと反省するまで、話しかけないことに、決めた。


「とりあえず、夕飯どうする?」
「…ジャン、君はこの状況でそれを言うのか」

ずん、と部屋の隅から浸透する重たい空気を、まるで無いもののように夕飯の話を始めたジャンに、ニヴェルが、思わず突っ込みを入れる。

「この状況…でもオレは腹が減ったし」
「でもの意味がわからん。でもの意味が」
「そうか?で、どうする?」

ぶれねぇなコイツ、と驚きながら呟くニヴェルに、はは、と小さく笑いながら頷くも、言われてみれば私もお腹は空いている気がする。

とは言え、こういう時のハルトはいじけたままで、ご飯を食べようとはしないし。まぁ、お腹が空けば夜中にでも食べるのだろうけれど。

「とりあえず…交代で何か買ってくる?」

屋台もたくさんあったことだし、各々で好きなものを買ってきて食べても十分に楽しめるであろう、と考えた私がそう伝えれば「フィン1人でなんて行かせられない」とジャンとニヴェルが即答をする。

「私、1人でも行けるってば」
「じゃんけんで一発勝負でどうです、ジャン」
「乗った!」
「私の話無視?!」

しかも、じゃんけん、と相変わらず全く私の話を聞かない2人に、はぁ、と大きく溜め息をついて、置いて行こうかと考えるも、ぐぬぬ、とか言いながら真剣勝負を始めそうな2人を置いていくと、それはそれで後で面倒な気がする、と思い直し、その場に留まる。

「じゃんけん」
「ぽん!」

「そんなに喜ぶこと?」
「そりゃぁ、好きな子とデート出来るなんて、喜ばない男は居ないだろう?」
「ちょ、ジャン!声大きい!」

いつもに増して大きな声に、周りの視線が痛い気がして、慌てて、「しー!」と人差し指を立てながらジャンに伝えれば「あ、すまん」とジャンがヘラ、と笑う。

「でも、嬉しいことには代わりはないし」

へへ、と楽しそうに、嬉しそうに笑うジャンに、焦っていた気持ちも、ほぐれていくような気になり、はぁ、と大きく息を吐く。

「買い物、行きますか!」
「おう!」

ふふ、と笑いながら言った私に、「あ、フィン」とジャンが片手を出しながら私の名前を呼ぶ。

「迷子になるから」
「ならないし」

きゅ、と繋がれた手に、胸がきゅ、となった気がして、ジャンを見上げれば、眩しいぐらいの笑顔を浮かべている。

「多分、オレが迷子になる」
「そっち?!」
「はははっ」
「もう!」

ほら、早く、と繋いだ手を軽く引っ張って歩き出すジャンの背を見ながら、「デートって、こういうのなのかな」などと、この時の私は甘く考えていた。


「で、何でこうなるのよ…」
「いや、だって」
「ジャン、怪我してるし」

賑やかな通りから少し外れた裏路地の一角。

溜め息をつく私の目の前には、ほんの少し怪我したジャンと、複数人の意識を失って地面に倒れる男性たちの姿。

ことの始まりは、数十分前のこと。

大通りで買い出しをし、そろそろ帰ろうとしていた時、ジャンが美味しそうな屋台を見つけて買いに走り、ぼんやりとジャンを待っていた時に、「あんた1人か?」と見知らぬ男の人に声をかけられた。

「いや、連れがそこに」
「じゃ、今は1人っつーことだな」
「え、いや、だから、連れが、って離してください」

アソコにいる、と指をさした手が、声をかけた男では無い別の人間に握られる。

「いいじゃん、彼氏帰ってくるまで、あっちで遊ぼうよ」

グッ、と掴まれた手が、振りほどけ無くて、ぞわり、としたものが背中に走り、「ジャンっ!」と仲間の声を呼ぶも、「行くぞ」と半ば無理やり路地裏へと連れて行かれる。

このままじゃ、マズイ、と思った瞬間。

私を掴んでいた手が、空を、舞った。

「フィン、すまん。大丈夫か」
「ジャンッ」

グッ、と抱き寄せられる腕は、見知った仲間のもので、ほっ、と息を吐く。

「てめぇ、何しやがるっ」

怒気を含んだ低い声で言うのは、ふっ飛ばされた男の仲間たちで「ボコボコにしてやるッ!」と頭に血が昇った彼らが、足元に落ちている廃材などを拾いながらジャンと私を取り囲んでいく。

対する私とジャンは、ほぼほぼ丸腰で、あるとすれば、私がハルトに持たされている護身用の短剣くらいしかなく、「ジャン、とりあえず逃げたほうが…」とジャンの腕の中で見上げながら言えば、「何でだ?」とジャンが不思議そうな顔をしながら首を傾げる。

「何で、って、だって、こんな大人数っ」
「フィンは、オレが負けると思うのか?」
「思わないけど、でも」

そう言い募った私に、ぽん、と頭に手を置いたジャンが、にこり、と笑う。

「オレは、負けない」

下がってて、と危険の無い場所に立たされ、「さてと」と言いながら、チンピラ達に向かっていくジャンの目が、妖しく光ったような気がしたと同時に、ヒヤリ、とした空気が、私の身体を通り抜けた。


一見すると、大ピンチだと思っていたジャンだったが、喧嘩が始まればもう、すぐにピンチになったのは、チンピラ達のほうで、最後のほうに至っては、「ごめんなさいっ、もうっ」とか「ぐあッ」とか、地獄絵図のような光景が広がっていて、私は必死に、ジャンの名前を呼び、やっとジャンの暴走が止まった。


「これくらいの怪我なんて、すぐに治る」
「治してる私の前でそれ言う普通?」
「あ、すまん」

はは、と笑うジャンは、いつもと同じに見えて、ほっ、と息をつけば「どこか痛かったのか?大丈夫か?」とジャンがいつもと同じ表情を浮かべながら私の顔を覗き込む。

「大丈夫。どこも痛くない。ただ」
「ただ?」
「…ただ、ジャンが、さっき…ちょっと」
「オレ?何かしたか?オレ」

焦ったように言うジャンの手が、私の片手をぎゅ、と掴む。

その手は、いつもと同じように、手加減もされているし、同じだと、思うのだけれど。

「さっき、ちょっと、怖かった、というか…あそこまで、しなくてもいいんじゃないかな…って」

ちら、と屍と化しているチンピラ達を見ながら言えば、「何でだ?」とジャンが不思議そうな表情で首を傾げる。

「フィンを傷つけようとしたんだ。コレぐらいして、当然だろう?むしろ足りないくらいだな」
「ジャ」
「フィン!やっと見つけた」
「何ですか?この屍の山は」

当然だろう、と言ったジャンは、いつもと同じか、もしくはいつも以上にイイ笑顔で、むしろ私が戸惑っていることに不思議に思っているように見えて、思わず彼の名前を呟きかけた時、聞き慣れた声が背中から聞こえて、言葉はそこで途切れた。


「野生の勘というか、何というか」

宿屋でイジケていた筈のハルトと、部屋で待機組だったニヴェルが、現れたことで、この場所に流れていた空気が一変する。

一変したのは、良いこと、なのだけど。

「この場所いいな。ここでフィンに迫るとか、あいつら中々やるな」
「あぁ。この仄暗い場所で、捲った裾から、フィンの太ももとか、胸元だけが白く」
「ニヴェル、お前、俺のフィンで何想像してやがる」
「おや、ハルト。では、君はこんな暗がりの中で、自分がフィンの良いトコロを刺激して、フィンが声を押し殺して顔を赤くしていても、君はなんとも思わないのか?」
「いや、それは襲う。無理」
「だろう?まぁ、ワタシも無理だな」
「オレは初めてはベッドがいいなぁ」
「バカ、ジャン。考えてみろよ。こんなところで、俺の手で、フィンが悶てるんだぞ。ベッドまで待てるか?俺は無理。考えるだけでヤバイ」
「奇遇だな、ハルト。ワタシもヤバイ」
「えー、そこはフィンがだなぁ」

変態の野郎どもが、3人も揃った上で、今回のシチュエーション、そして、服も何も乱れていないけど、宿屋にコートとかを置いてきていたから、まぁまぁ薄着な私。

チラチラと見てくるわけではなく、むしろ、堂々と、私の胸元や、太もも、腰の辺りを、三人の視線が行き交う。

桃色の、男3人の妄想が、だだ漏れ過ぎて、被害者である私が、一番、頬が赤くなるし、なんていうかもう。


「私でやらしいを、想像するなぁっ!!」

「あ、ちょっ、待」
「あっ」
「げっ!?」

バンッ、と手頃なサイズの火花を、妄想を膨らませる男子の中心へと、全力で放り投げた。



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