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第9話 勇者、ナンパされる。
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「じゃぁ、オレとハルトは外で待ってるから」
「俺も行く」
「ハルトは外で待機」
「何でだよ」
「いいか、賢者とか魔法使い達が魔導書を探す時はなー…」
不満の声をあげたままのハルトをズルズルと引き摺りながら、ジャンが店の外へと歩いていく。
「さ、探しますか」
「え、2人は?」
「大丈夫でしょう。お小遣いは渡してありますし、今は2人が居るほうが効率が悪くなります」
「…そうなの?」
「ええ」
ちら、と外に出て行ったジャンとハルトを見やるものの、いつもと違う雰囲気の二ヴェルが、きょろ、と店内を見回しながら答える。
「フィン、こっちです」
目当ての棚を見つけたらしい二ヴェルが、私の手を取って歩きだす。
「二ヴェル、私、別に迷子になら…」
「いや、多分、迷子になると思いますよ?」
迷子にならないと思う、と続けようとした私の瞳に写り込んできたのは、外観からは想像がつかないほど、奥にずっと続いていく膨大な本棚で、被せるように言った二ヴェルの言葉に「なりそうです」とぽかん、としながら答えた私に、彼は、くつくつと笑ったあと「だから、このまま進みます」と握った手を見えるように持ち上げながら、言った。
「うわぁ、何これ、あ、二ヴェル、あれは?」
「フィン、むやみに棚の本は触らないように。あれは、テンタイキュウ、ですね」
「テンタイキュー?」
沢山の見たことの無いものに、キョロキョロと辺りを見回す中、ゆらゆら、と天井にぶら下がる球体を見つけ、指をさしながら二ヴェルに問いかければ、二ヴェルの口から聞き慣れない言葉が聞こえ、首を傾げる。
「キュー、ではなく、キュウ、珠のことです。天体、空の星を読むために古くから使われているものですね」
「へえぇー…。二ヴェルって、凄いね」
「はい?」
分かりやすいように丁寧に答えてくれる二ヴェルに、思った通りの感想を伝えれば、二ヴェルがきょとんとした表情をしながら私を見る。
「本当に色んなことを知ってるのに、面倒がらずにちゃんと教えてくれるんだもの。それって凄いことだよ」
「凄い…って…どうなんでしょうね。ワタシはただ、自分が知りたいから調べているだけに過ぎないので」
私の言葉に、二ヴェルはほんの少し戸惑ったように笑いながら答える。
「私は、凄いことだと思う。あと、二ヴェルは実は優しい気がする」
そう言った私に「先に、進みますよ」とだけ言った二ヴェルは、ほんの少しだけ強引に手を引っ張って進んでいく。
ちら、と見えた頬が、ほんの少しだけ赤く染まっていて、初めて見る彼の表情に、ふふ、と小さく笑い声が溢れた。
「…ハルト、お前、モてるな?」
「…うぜぇ」
「えー、ひどぉい」
「えー、ツレナイとこも良いじゃん?」
「ねー、ねー、行こうよぉ」
フィンと二ヴェルの魔導書探しに、勇者のハルトと剣士のオレが付き合うわけにはいかず、不貞腐れるハルトを連れて、通りを歩いていれば、綺麗に着飾った女の子達に声をかけられ、進路を塞がれ、今に至る。
少しずつ時間を共にしてきて気がついたことは、どうやら、フィンは勿論のこと、ハルトも顔の作りが整っていて、いわゆるイケメン、と呼ばれる部類に入るらしい。
男の顔についてはよくわからないが、ハルトの顔は綺麗な方に入る、ということは理解出来る。
そして、綺麗に着飾り、化粧もした女の子達が、きゃぁきゃぁ言いながらハルトに声をかけたものの、如何せんハルトは今、フィンが傍に居ない上に、フィンがライバルの二ヴェルと2人きり、という状況に、ずっと眉間に皺を寄せたまま、いつも以上に口数が少ない。
ただ、どうやら、そんなハルトの様子は、彼女達の瞳には、「無口」が「クール」と写っているらしく、ふい、とそっぽを向いたハルトにまた、きゃぁきゃぁと声をあげている。
そんな中、ふと、グイ、とハルトの首に、強引に手をかけた女性が1人。
「ねぇ、あたしとなら、遊んでくれる?」
胸元が、ぐ、っと開いた官能的な服を着た、彼女達とはまた違う綺麗さを持った女性が、ハルトの首に手をかけて、ハルトに迫っている。
赤い唇と、目元のホクロがいかにも艶めかしい。
そんな彼女にわかりやすく迫られ、ちら、と彼女と視線を合わせたハルトが、ニコリ、と笑顔を浮かべる。
その様子に満足そうな笑みを浮かべた女性の腰に、ハルトは手を回しながら、ふっ、と小さく笑う。
「悪いけど。俺、惚れた女以外に、興味ないから」
「あら」
「おねーさん、十分魅力的なんだけどね」
にこり、と笑うハルトの表情は、今までに見たことの無いほどの良い笑顔で、それを間近で見た女性は、「あーあ」と溜め息をつきながら、ハルトから手を離す。
「全く、こんなイイ女がデートに誘ってるのに」
「はは」
「妬けちゃうわね。あんた達も諦めたほうがいいわよ」
「えー」
「悪いね」
悪びれもなく謝ったハルトに、強引だった女性は綺麗に笑って「じゃぁね」と振り返ることなく歩いていき、周りにいた女の子達も、女性の言葉に従うように、「つまんなーい」などと言いながら去っていく。
「ハルト…手慣れてるんだなぁ…」
あまりにも、自然に、するりとやってのけたハルトに、思わず感心しながら言えば、「アレがフィンだったら、俺は死ねる。いや、そのまま持ち帰る…!」と若干赤くなりながら答えるハルトに「ハルトは中々に重症だな!」とオレは笑いながら突っ込みを入れた。
「ただいまー」
「おかえり」
「うわっ?!」
先にとっておいた宿の部屋のドアを開けた瞬間、おかえり、という声と同時に、ぎゅう、と抱きつかれる。
それが誰かなんて、すぐに分かるけれども。
「おい、ハルト。何してんだ」
「あ?二ヴェル、お前こそ、フィンに何もしてないだろうな?」
「ちょ、その前に、離し」
「ははは、仲良いな!相変わらず!」
「ジャンーー!」
イラッとした声で私に抱きついたハルトに声をかけた二ヴェルに、ハルトはハルトでイラッとした声で言葉を返し、間に挟まれた私は私で、身動きがとれずに声をあげれば、空気を全く読んでいないジャンがのんびりとした声で私達3人を見て笑う。
「ハルト、いい加減離れて」
「離れたら俺は死ぬ」
「死なないでしょ」
「俺、そういう爆弾」
「そんなわけあるか」
買ってきた荷物を分けている最中にも後ろから抱きついたままのハルトに文句を言えば、ああ言えばこう言う、という状態になっていて、小さく溜め息をつく。
「ハル、いい加減離れて」
「本当に何もされてないか?」
じ、と私を見ながら言うハルトに「あのねぇ」と溜め息をつけば「おい」と二ヴェルが不機嫌そうな声でハルトに声をかける。
「抜け駆けしていいんだったら、してやろうか?今すぐにでも」
「てめぇ」
「ハルト、ニヴェルが『してやろうか?』って言ってるんだから、抜け駆けはしない、って事だろ?ニヴェルもわざわざ煽るなよ」
喧嘩を売るような口調で言うニヴェルに対して、今にも喧嘩を始めそうな声で答えたハルトに、ジャンが窘めるように2人に声をかける。
「ジャン、お前だって、フィンに惚れてるのに、何のんきな事言ってんだ。俺だったら2人きりなんて好都合この上ないのに」
「ハルトさん?何言ってんの?」
「フィンはちょっと黙って」
「んぐ!」
眉間に皺を寄せながらジャンに問いかけるハルトを見ながら声をかければ、ハルトの手が私の口を塞ぐ。
「そりゃ、フィンのこと好きだけどな。でも、それ以前に、オレ達、パーティメンバーだろ?無駄に喧嘩しなくてもいいじゃないか」
「…はっ、何だそれ」
「んー!」
ジャンの諭すような声に、ハルトは目を伏せて投げ槍に答え、その様子に声を出したい私がハルトの手を外そうと試みるも、全然外れない。
「俺は別に、世界なんてどうでもいい。パーティメンバーだって、別に頼んでもいないしっ?!」
「あ」
「入ったな、アレ」
ぼやくように、言ったハルトの言葉に、私はハルトのお腹に全力の肘打ちを食わせた。
「俺も行く」
「ハルトは外で待機」
「何でだよ」
「いいか、賢者とか魔法使い達が魔導書を探す時はなー…」
不満の声をあげたままのハルトをズルズルと引き摺りながら、ジャンが店の外へと歩いていく。
「さ、探しますか」
「え、2人は?」
「大丈夫でしょう。お小遣いは渡してありますし、今は2人が居るほうが効率が悪くなります」
「…そうなの?」
「ええ」
ちら、と外に出て行ったジャンとハルトを見やるものの、いつもと違う雰囲気の二ヴェルが、きょろ、と店内を見回しながら答える。
「フィン、こっちです」
目当ての棚を見つけたらしい二ヴェルが、私の手を取って歩きだす。
「二ヴェル、私、別に迷子になら…」
「いや、多分、迷子になると思いますよ?」
迷子にならないと思う、と続けようとした私の瞳に写り込んできたのは、外観からは想像がつかないほど、奥にずっと続いていく膨大な本棚で、被せるように言った二ヴェルの言葉に「なりそうです」とぽかん、としながら答えた私に、彼は、くつくつと笑ったあと「だから、このまま進みます」と握った手を見えるように持ち上げながら、言った。
「うわぁ、何これ、あ、二ヴェル、あれは?」
「フィン、むやみに棚の本は触らないように。あれは、テンタイキュウ、ですね」
「テンタイキュー?」
沢山の見たことの無いものに、キョロキョロと辺りを見回す中、ゆらゆら、と天井にぶら下がる球体を見つけ、指をさしながら二ヴェルに問いかければ、二ヴェルの口から聞き慣れない言葉が聞こえ、首を傾げる。
「キュー、ではなく、キュウ、珠のことです。天体、空の星を読むために古くから使われているものですね」
「へえぇー…。二ヴェルって、凄いね」
「はい?」
分かりやすいように丁寧に答えてくれる二ヴェルに、思った通りの感想を伝えれば、二ヴェルがきょとんとした表情をしながら私を見る。
「本当に色んなことを知ってるのに、面倒がらずにちゃんと教えてくれるんだもの。それって凄いことだよ」
「凄い…って…どうなんでしょうね。ワタシはただ、自分が知りたいから調べているだけに過ぎないので」
私の言葉に、二ヴェルはほんの少し戸惑ったように笑いながら答える。
「私は、凄いことだと思う。あと、二ヴェルは実は優しい気がする」
そう言った私に「先に、進みますよ」とだけ言った二ヴェルは、ほんの少しだけ強引に手を引っ張って進んでいく。
ちら、と見えた頬が、ほんの少しだけ赤く染まっていて、初めて見る彼の表情に、ふふ、と小さく笑い声が溢れた。
「…ハルト、お前、モてるな?」
「…うぜぇ」
「えー、ひどぉい」
「えー、ツレナイとこも良いじゃん?」
「ねー、ねー、行こうよぉ」
フィンと二ヴェルの魔導書探しに、勇者のハルトと剣士のオレが付き合うわけにはいかず、不貞腐れるハルトを連れて、通りを歩いていれば、綺麗に着飾った女の子達に声をかけられ、進路を塞がれ、今に至る。
少しずつ時間を共にしてきて気がついたことは、どうやら、フィンは勿論のこと、ハルトも顔の作りが整っていて、いわゆるイケメン、と呼ばれる部類に入るらしい。
男の顔についてはよくわからないが、ハルトの顔は綺麗な方に入る、ということは理解出来る。
そして、綺麗に着飾り、化粧もした女の子達が、きゃぁきゃぁ言いながらハルトに声をかけたものの、如何せんハルトは今、フィンが傍に居ない上に、フィンがライバルの二ヴェルと2人きり、という状況に、ずっと眉間に皺を寄せたまま、いつも以上に口数が少ない。
ただ、どうやら、そんなハルトの様子は、彼女達の瞳には、「無口」が「クール」と写っているらしく、ふい、とそっぽを向いたハルトにまた、きゃぁきゃぁと声をあげている。
そんな中、ふと、グイ、とハルトの首に、強引に手をかけた女性が1人。
「ねぇ、あたしとなら、遊んでくれる?」
胸元が、ぐ、っと開いた官能的な服を着た、彼女達とはまた違う綺麗さを持った女性が、ハルトの首に手をかけて、ハルトに迫っている。
赤い唇と、目元のホクロがいかにも艶めかしい。
そんな彼女にわかりやすく迫られ、ちら、と彼女と視線を合わせたハルトが、ニコリ、と笑顔を浮かべる。
その様子に満足そうな笑みを浮かべた女性の腰に、ハルトは手を回しながら、ふっ、と小さく笑う。
「悪いけど。俺、惚れた女以外に、興味ないから」
「あら」
「おねーさん、十分魅力的なんだけどね」
にこり、と笑うハルトの表情は、今までに見たことの無いほどの良い笑顔で、それを間近で見た女性は、「あーあ」と溜め息をつきながら、ハルトから手を離す。
「全く、こんなイイ女がデートに誘ってるのに」
「はは」
「妬けちゃうわね。あんた達も諦めたほうがいいわよ」
「えー」
「悪いね」
悪びれもなく謝ったハルトに、強引だった女性は綺麗に笑って「じゃぁね」と振り返ることなく歩いていき、周りにいた女の子達も、女性の言葉に従うように、「つまんなーい」などと言いながら去っていく。
「ハルト…手慣れてるんだなぁ…」
あまりにも、自然に、するりとやってのけたハルトに、思わず感心しながら言えば、「アレがフィンだったら、俺は死ねる。いや、そのまま持ち帰る…!」と若干赤くなりながら答えるハルトに「ハルトは中々に重症だな!」とオレは笑いながら突っ込みを入れた。
「ただいまー」
「おかえり」
「うわっ?!」
先にとっておいた宿の部屋のドアを開けた瞬間、おかえり、という声と同時に、ぎゅう、と抱きつかれる。
それが誰かなんて、すぐに分かるけれども。
「おい、ハルト。何してんだ」
「あ?二ヴェル、お前こそ、フィンに何もしてないだろうな?」
「ちょ、その前に、離し」
「ははは、仲良いな!相変わらず!」
「ジャンーー!」
イラッとした声で私に抱きついたハルトに声をかけた二ヴェルに、ハルトはハルトでイラッとした声で言葉を返し、間に挟まれた私は私で、身動きがとれずに声をあげれば、空気を全く読んでいないジャンがのんびりとした声で私達3人を見て笑う。
「ハルト、いい加減離れて」
「離れたら俺は死ぬ」
「死なないでしょ」
「俺、そういう爆弾」
「そんなわけあるか」
買ってきた荷物を分けている最中にも後ろから抱きついたままのハルトに文句を言えば、ああ言えばこう言う、という状態になっていて、小さく溜め息をつく。
「ハル、いい加減離れて」
「本当に何もされてないか?」
じ、と私を見ながら言うハルトに「あのねぇ」と溜め息をつけば「おい」と二ヴェルが不機嫌そうな声でハルトに声をかける。
「抜け駆けしていいんだったら、してやろうか?今すぐにでも」
「てめぇ」
「ハルト、ニヴェルが『してやろうか?』って言ってるんだから、抜け駆けはしない、って事だろ?ニヴェルもわざわざ煽るなよ」
喧嘩を売るような口調で言うニヴェルに対して、今にも喧嘩を始めそうな声で答えたハルトに、ジャンが窘めるように2人に声をかける。
「ジャン、お前だって、フィンに惚れてるのに、何のんきな事言ってんだ。俺だったら2人きりなんて好都合この上ないのに」
「ハルトさん?何言ってんの?」
「フィンはちょっと黙って」
「んぐ!」
眉間に皺を寄せながらジャンに問いかけるハルトを見ながら声をかければ、ハルトの手が私の口を塞ぐ。
「そりゃ、フィンのこと好きだけどな。でも、それ以前に、オレ達、パーティメンバーだろ?無駄に喧嘩しなくてもいいじゃないか」
「…はっ、何だそれ」
「んー!」
ジャンの諭すような声に、ハルトは目を伏せて投げ槍に答え、その様子に声を出したい私がハルトの手を外そうと試みるも、全然外れない。
「俺は別に、世界なんてどうでもいい。パーティメンバーだって、別に頼んでもいないしっ?!」
「あ」
「入ったな、アレ」
ぼやくように、言ったハルトの言葉に、私はハルトのお腹に全力の肘打ちを食わせた。
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